。「あとは成り行きですわ。弁護士もいまは景気がわるい 1 ( 承前 ) みたいやし、金になると思たんですやろな」 「民事訴訟にして、比嘉から賠償金をとることは考えんかったん ちねん 「出すぎたこというようやけど、知念さん、金銭的に困ってるよですか」 ひが うには見えません。比嘉とは古い知り合いみたいやし、なんで刑「それは警察が比嘉を逮捕してからの話でしょ 事告訴なんかしたんですか」 「失礼ですが、弁護士の着手金は」 煙草を吸いつけて、いった。知念はひとつうなずいて、 「六十万。成功報酬は聞いてません」 「そこはいわはるとおりかもしれません。 : けど、比嘉はかり どうやら、知念たちは高橋先生のロ車に乗せられてしまったよ ゅし会の子を裏切ったんです。同じ沖縄人として、それはあかん うだ。比嘉が逮捕されようとされまいと、得をするのは弁護士だ もと でしよ。仁義に悖りますわな ・ : みんなで相談したんです。こ け。こちらはつまらぬ捜査を押しつけられて迷惑だ。 ・つえさか しまぶくろ こは穏便に済ませられんかなと。ところが、比嘉は島袋会から 「比嘉の逃走先に心あたりはないですか , 上坂が訊いた。 も大金を騙しとったことが分かった。計画的やないですか 「そら、沖縄でしよ」 わしは弁護士の高橋先生を知ってたし、何人かで相談に行きまし 知念はいう。「比嘉は本島やのうて、石垣の出です。石垣に逃 たんや」 げたんとちがいますか」 高橋は刑事告訴をするべきだといい 、告訴状を作成するといっ 「石垣島ね : : : 」 比嘉の逃走先を訊かれた知念はいう・ : 「石垣に逃げたんとちがいますか」 ゆいまーる第 = 回黒川博行 画・高橋雅博 210
ものの、全ての人に「確実な活躍ーを望ま お金や愛、様々な恵みの れて、片時も社会的ベルソナを、外すこと 雨が降り注ぐ、リッチな一年にー ができませんでした。お疲れ様です。 リッチな人とはどんな人でしよう ? 収 2017 年前半はようやく、あなたの頑 入が多い人 ? しかし、収入が多いからと張りに対する報酬が還元されます。月々の いって、貯蓄額も多いとは限りませんよお給料がちょこっと上がり、プチボーナス ね。入ってくるお金は多いけど、支出も多的なご褒美もあるかもしれません。 5 月幻 いとなれば、ほとんど残らない可能性もあ日前後がクライマックスで、そのほか 2 月 ります。資産家でも何でもない、いわゆる初旬 54 月上旬、 4 月末 56 月上旬も、黄 「中流」な経済状態の人が、高級住宅地に金の雨が降り注ぎそうーーーお金ではなく ワ 0 生まれ引 0 越したとたん、家計が赤字に転落した「やけにご馳走される」「素敵なプレゼント りするのは、周囲に合わせた「見栄の出を次々にもらう」という形で恵みが降って 費」が増えるからだそうです。お金の使い くる場合もありますが 方には、その人の価値観が如実に表れます。 ただし、気をつけてください。この時 いきなりこんな話をしたのは、 2017 期、手にする「豊かさ , は、浪費によって ) 、 ) ) 地一」ル、」 ~ 完準年のあなたがとても「リッチにスル , と手をすり抜けてしまう可能性もあ 、、バッグを買い、ホテ なりそ、つだから。過去 152 年を振りるのです。服を買し 、一一一→竇返ると、魚座の人は本当によく頑張 0 てきルも 50 星の = グゼクテイプルームにしち ましたーーそうでない場合はいま、大変なやおうかな : ・ : と、毎度、毎度「高額なご 状況に見舞われているでしようーー。見込褒美ーが欲しくなったら、ちょっと待っ まれていたとはいえ、かなりの重圧だったて。あなたはどこか満たされない思いを、 と思います。特に仕事は重要な立場を担物やサービスで埋めようとしていません い、あっちこっちで頼られるのはうれしい 魚座 を P1xsces ッ
馬琳が説明すると、楊敕はもったいぶつ 「ジラフアを献上できるよ、つ、とりはから 馬琳は覚悟を決めた。自分が非力である てうなずいた いましよう。私の進言であれば、スルタンことは知っている。だから、麒麟を連れ帰 るためなら、誰の力だって借りるつもりだ 「そうだな。私が支持すると伝えよう」 は受け入れます」 正確には「明朝が , である。そこは翻訳「感謝いたす。宰相殿の貢献は深く心に刻った。 を工夫するところだろう。 んでおこう」 楊敕はラージャ・ガネーシャ邸に着く ラージャ・ガネーシャは腹黒さを隠すよ と、尊大な態度で主人を呼んだ。召使いがうに、ロに手を当てて笑った。そして、ふ 仕草だけは恭しく迎える。 三日後に、ジラフアを皇帝に献上すると と真顔に戻って告げる。 ラージャ・ガネーシャは楊敕の訪問を予「しかし、我が国ができるのはジラフアをの意向がスルタンから示された。やはりラ 期していたようだった。まずは酒でもてな港で引き渡すまでですぞ。あれが来たとき ージャ・ガネーシャの影響力は甚大であ したあと、顔が赤くならないうちに切り出はまだ子供で、馬くらいの大きさでしたる。簒奪も遠い将来の話ではないのかもし す。 が、今はあのとおりです。運ぶ算段はできれない。 これで、残る問題はどうやって運ぶか、 「どうしてもジラフアを連れて帰りたいのておるのでしような」 ですかな」 そうかべンガルに来たときはまだ子供というものになる。馬琳は再び費信に助カ らくだ 交渉の余地があることを示唆する言い方だったのか。馬や駱駝のような大きさなを求めたが、すげなく断られた。 である。こちらも直接は答えない ら、船で運ぶのは容易だ。だが、ここまで「私は船にはくわしくありません。船大工 「我が国の支持が得られれば、宰相殿の未成長したとなるとどうか。甲板にはおけなに聞いたほうがよろしいでしよう」 来にとって大きな意味があろうな」 い。船倉にも入らない。費信に指摘された助言のつもりだったのであろうかと、馬亮 「双方の利害が一致しているとみなしてよ通りだ。 琳は首をかしげた。いや、費信の性格から ろしいので ? 」 馬琳がいささか不安になりながら訳すして、そのような遠回りな言い方はしない ふたりは相手の腹をさぐるように見つめと、楊敕はもちろんと胸を張った。そしだろう。ともかく、船を改造すれば麒麟を記 航 合った。楊敕の器量でラージャ・ガネーシて、会談が終わってから、馬琳にささやい運べるかもしれない。 ン 鄭和の船団では、どの船にも修理のため ヤに対抗できるとは思えないが、明朝を背たのである。 キ 負っていれば別である。やがて、両者はと「言い出したのはそなただ。やるべきことに船大工が乗りこんでいる。馬琳は船大工 、もに、つ学は亠 9 いた の長に訊ねた。 はわかっておろうな」
二課の捜査の鉄則だ 女を洗えッ 「そこは我々も同感ですわ。ご主人が出頭「番号は」 「ご主人の立ちまわり先 : : : 。行方に思い して、かりゆし会のメンバー ( こ集めた会費「 0 90 ・ 4 6 4 8 ・ 41 x x です メモ帳に書き、復唱した。たまみはうなあたるふしはないですか を返したら、告訴の取り下げも考えられま ずく。 「ありません」たまみはかぶりを振る 「石垣島に行ったというようなことは」 上坂はにこやかにいって、「ご主人、ど「立ち入ったこと訊きます。よろしいか」 上坂がいった。たまみは上坂を見る こにいてはるんですか 「知りません」 ひと 「ご主人につきおうてる女はいてません「ご主人は七百五十万円の現金を持ってる 「わたしも分からへんのですー か。 : : : 愛人とかやのうて、たまに会うたと考えられます。大金やし、嵩張ります。 「それは : 誰かに預けたということはないですかねー 「先々週の日曜日に出て行ったきり、家にり、食事をする相手も含めて」 「あのひとに友だちはいてません。他人を 「それって、浮気ですよね」 帰ってこないし、連絡もっきません。ひょ 信用することもないです」とりつく島がな っとして、と思って銀行の通帳を探した「そうともいいます , 「あんなひとに浮気するような甲斐性はあい ら、それもないんです」 比嘉がいつも通帳類を入れている寝室のりません。あったら、もっと大きな仕事し「石垣島に比嘉さんの親戚は」 ひきだし たんす 押入の簟笥と事務所のデスクの抽斗に銀行てます。お金もないのに、誰がっきあって「ちょっと待ってください。誰かに聞いた くれるんですか。あのひと、若いころからんですか。主人が石垣島の出やと」 通帳はなく、登録印も見つからなかった、 「すんません。ニュースソースはいえんの とたまみはいう。「たぶん、主人が持って女のひとには縁がないんです」 たまみのものしし。ー 、、こよ比嘉を下に見ていです , 出たんやと思います」 行 るふうがあった。夫婦の情も感じられな「知念さんでしよ。嫌なひとです」 「ご主人、携帯は」新垣が訊いた。 「あの、石垣島に親戚は」 い。この女は夫を嫌っている 「持ってるはずですー 「います。もちろん」 がしかし、比嘉に女がいないと決めつけ 「スマホですか」 る 「ご両親も ? ることはできない。特にクサンズイク 「そうです」ドコモだという スマートフォンには機能が設定さ汚職事件をいうーーはそうだ。公務員の贈「義父は亡くなりました。義母がいます」 れていることが多い。検索すれば比嘉の位収賄や会社員の背任、横領は、その大半が比嘉は分家の四男で、石垣市街から東へ 、、 0 み サンズイは十キロほど行った宮良に本家があるとい 女がらみと断言してもしし 置情報がとれるかもしれない。
「わたし、明石舞子。あなたは ? 」 しかった。子供はできなかったので養育費ちょっと短めのスカートから伸びた長い は発生しなかったが、そのぶんかなりの額脚。これでも少しは自分の容姿に自信を持「君香 : : : 安藤君香」 の慰謝料を貰って、わたしはそれを受け入っていたわたしが、同世代の女の子に見惚「じゃあ、行きましよう君香。学校に遅れ れてしまうなんてはじめてのことだった。 ちゃうわ」 れた。 形の上では、わたしは舞子に夫を奪われそんなわたしの視線に気付いてか、少女そう促されて、ようやく今が登校中だっ たことを思い出した。わたしは魅入られた たようなものなのだろう。いや誰が見たつが足を止めて言った。「綺麗ねーと ようにその手を取ると、肩を並べて歩き出 てそうか。けれどわたしは「またか , と思わたしは何のことかわからず、「えっ ? す。 っただけで、彼女に対して憤りなんてまると訊き返した。 で覚えなかった。ただ道彦のことを、馬鹿「桜よ。今年はちょっと開花が遅かったけ「同じクラスだといいわね。いい友達にな だなあと思っただけだ。彼女があなたに夢ど、ちょうどよかったわ。始業式の日までれそう」 わたしは「ええ、そうね」と頷く。その 中だったのは、あなたがわたしの夫だからこんな綺麗に咲いててくれるなんて、何だ 希望は現実になった。ふたりとも苗字が という理由だけだったのに、と。 かとっても得した気分。そうは思わない ? 舞子はいつだってわたしのものを欲しがそう問われて、わたしは頭上で咲き乱れ「あーだったので、出席番号も隣り合わせ り、そして奪ってゆく。それはずっと前かる桜を見上げた。でも目の中にはまだ、振だった。それを知ったとき、わたしたちは らそうだった。 り向いた彼女の笑顔が焼き付いたように残また顔を見合わせて笑った。それが彼女、 っていた。 舞子との出会いだった。 人 「ええ : ・・ : そ、つね。とても綺麗ー 村 それは桜のことなのか、それとも彼女の 舞子はとにかく綺麗な子だったから、 わたしと舞子が出会ったのは、高校に進残像のことなのか。自分でもわからずにい つでもみなの注目を集めていた。男子たち 学したばかりの春のことだ。新しい学校へると はこぞって色めき立ち、先を争うように彼ら と続く坂道の途中、いよいよ散りはじめた「ありがとう。あなたも綺麗よ」 桜の花びらが降りしきる中、わたしは前をそう、彼女が言った。目を戻すと、口元女の前に現れては、思いを告白した。けれ 歩くひとりの少女の姿に目を奪われた。ゴ 皆に手を当てて悪戯つほく笑っていた。そうどそれも一年の夏くらいまでのことで、二 して空いたもう片方の手をこちらに伸ば学期に入るとばったりと止んだ。理由は舞 中まで届く真っすぐな黒髪。わたしよりい くぶん背の高い、すらりとしたスタイル。し、やはり綺麗な声でその名を名乗った。子がその誰のことも歯牙にかけす、男の子
げない。それでも外よりは、だいぶあたた鉄碗を、「いいよ、別に」と制した。 読んでないよ、と俺は繰り返す。 力し どうせ冬至の日に風呂に入れるぐらいし「ひと文字も読んでない」 田中絹江は廊下の奥の部屋で眠っているか最近は使いみちがなかったんだ、と俺は他人の手紙を勝手に読むのはいけないこ らしい。夜の九時に床に入って、朝までの言う。ゆすを盗られたことに怒っているのとだ。そう言うと、鉄腕が、本を盗むのは あいだに二度ほどトイレに起きる。そのは父だけだったし、それだってたぶん田中 いけないことじゃないのか、とまぜっかえ 際、枕元に置いたベルを鳴らして呼ぶのだ絹江が犯人だと思っていたからあんなに怒した。 そうだ。今もそれを聞き洩らさぬよう、妙っていたのだろうし、その田中絹江が寝た「もちろん、いけないことだ。倫理に反す な名を名乗る女は納戸の引き戸を半分ほどきりに近い状態になってしまっているとある」 開けている れば、いくら俺の父でも、もうそこまでし お前はたまに難しい言葉を使うんだよ 半分以上荷物を出したという納戸には、つこく責め立てたりはしない気がする な、ついていけねえよ、と鉄腕は溜息をつ それでもまだ本を詰めこんだ段ボールがい「それに、俺も盗んだから」 きながら傍らの段ボールに寄りかかり、突 くつもあった。いずれもかなり古い。背表コートのポケットから『初恋』を取り出然「ガトーショコラを食わせてくれよ」と 紙の文字は陽にやけて、ほとんど読み取れす。床の上を滑らせて、小柳レモンの前に 全然関係のないことを言った。 ない。田中絹江がそんなにも読書家だった置いた。 「明日持っていくって言っただろ」 とは知らなかった。考えてみれば、俺は隣「庭に出してたやつでしよ、これ」 俺は今食いたいんだよ、小腹が減ったん の家に住んでいる婆さんのことをほとんど うん、と頷きながら、俺はたぶん本を盗だよ、と鉄腕は駄々をこねる。声が大きく なにも知らない。わかっているのは、夫とむことで「おあいこ」にしたかったのだろなり出したので、俺は立ち上がった。 死別したこと。娘がいたが出ていってしまうな、と思った。それでもう、済ませてし「わかったよ。持ってくるから静かに待っ って現在はおそらく交流がないらしいとい まいたかったのだ。 てろよ」 うこと。俺の父と仲が悪いこと。 でも手紙みたいなのが入ってたから返自分の家に取って返し、足音を忍ばせて 「で、なんでゆずを盗んだんだ」 す、内容は読んでなし : ほんとうだ、と台所に入る。冷蔵庫で寝かせておいたガト 答えろ、と鉄腕は腕組みしたまま小柳レ言うと、小柳レモンは俺をまっすぐに見ーショコラを六等分した後、すこし考えて モンを見据える。小柳レモンは黙ったまた。 魔法瓶に紅茶をつめ、紙コップと紙皿とプ ま、顔を背けた。おい、と身を乗り出した「ほんと ? ラスチックのフォークを盆に乗せた。それ 106
私はイクメンである。毎朝、息子に何か食 べさせなくてはならない。保育園に通ってい たころ、二人で駅前のサンマルクカフェに寄 り、息子にフレンチトーストを食べさせてか ら園に送っていた時期がある。ワンクッショ ン寄り道を入れることで、父子共にご機嫌だ ったのだ。 ところがある日、担任の先生とばったり出 食わし「朝から外食ですか、やれやれ」みた。 いな顔をされた。育児とは、この手の敗北感 との闘いだろう。私は「いけね , と思った が、我が家は「息子のご機嫌ファースト」。 サンマルク通いは半年ほど続いただろうか やがて息子はフレンチト 1 ストを卒業し、 ンっくって、お母さんみた 「たまごチャーハ いな」と言い出した。 私は型人間である。会話は思いっき、企 画会議は出たとこ勝負、当然、料理は目分 量。そりや言われた通りの具材を調合すれ ば、料理の再現性は高まるだろう。しかし、 面白くないのである。「計量カップ」や「小 さじ一杯」に隷属するのが嫌なのだ。 毎朝、気のおもむくままにフライバンへ胡 麻油を回し、適当に調味料をふりかけた。息 子は一口食べ、「発表します。今日は星一 郎「チューポーですよ ! 」ごっこを仕込んだの 誠であるが、「頂きました、星三つです ! 」とは / なかなかいかなかった。「お父さん、今日は星 スゼロだよ」「美は乱調にありさ」「お母さんに ラ イ作り方教わって」「うん、教わる。ごめんね」。 妻は型人間である。計量カップの信奉者 こうべ といってもいい私が頭を垂れて教えを乞う と、ご丁寧にも「塩、小さじ一杯」みたいな レシピメモを作り、勝ち誇った顔で冷蔵庫に 貼りつけた。妻の軍門に下ったあの日の屈辱 は一生忘れまい。私は即興を禁じられたジャ ズマン、筆写を命じられたピカソになり果て ところが、である。連発なのだ。「頂きま した、星三つです ! 」が。息子はお替わりま 年 でするではないか。私は「再現性の高い料 理」の魅力に目覚めた。たまごチャーハンだ れ ある日「息子に毎朝、具だくさん味噌汁も 作るべきではないか会議」が開かれた。私は る品月 しいんじゃない ? 」と主 残一日讐 : 7 オ短「 ( 面倒くさいから ) 7 プ、ご」カ 張したが、妻は「絶対、毎朝食べさせるべ 日ん リにの陽 1 含田 き」と譲らない。険悪な雰囲気になりかけた め 8 を 9 男出り 第ところ、息子が「一日おきでいいよ」と提案 力さにおした。おお、なんたるバランス感覚。息子は お田 ら松書ア型人間なのである。 ~ ・平 ノ 22 ど こ 0
彩子の気持ちを知ってか知らずか、シュケに挑んだせいで、何度かすっころび、彩で、食いもんに触るなよ」 ンスケは、少し離れたところからサッカー子の体は砂まみれ、汗まみれになってい 彩子の家は、母は比較的大らかな性格な ポールを蹴ってよこした。複雑な模様のボた。 のに対して、父親はやや神経質な性格だっ ールが転がってくる。 「暑いし、そろそろ帰ろうぜー た。少し、潔癖の気があったのかもしれな 「一年半ぶりだから、上手くなってるだろ見ると、シュンスケのユニフォームも、 い。彩子は、小さい時から、うかい、手洗 、つな ! 」 びっしよりと濡れていた。顔からは滝のよ いについては、かなり厳しくしつけられ シュンスケは、これ見よがしに高校の頃うに汗が噴き出していて、肩で息をしていた。もちろん、一人娘が病気になっては困 のユニフォームを着ている。背番号は川 る。実は、相当本気でやっていたらしい。 る、という父親なりの愛情ではあったのだ 番。元は、サッカー部の不動のエースであ公園から歩いて数分、親戚が集まる母のろうが、外から帰ってきて手を洗わずに何 ったらしい。彩子がポ 1 ルを蹴り返すと、実家に帰ると、ちょうど、居間で酔っぱらかしようものなら、こっぴどく怒られた。 軽やかな足さばきでびたりとポールを止めっていた父親と目が合った。昼間つから、 手は、バイキンの住処なんだ。だか る。つま先でひょいっとポールを掬い上ビール瓶をゴロゴロと並べて、みんなご機ら、汚いんだ。 げ、二、三度リフティングをして、また蹴嫌だ。 頭のどこかには、いつも父親の言葉があ り返してくる 「おい、アヤ、どこいってたんだ」 った。親戚のおじさん、おばさんたちの前 「俺を抜いたら、なんか好きなもん買って ノノ声が大きいやめてほで、面と向かって「汚いーと言われた瞬 やるよ。何がいい 間、彩子は、自分の手が、バイキンだらけ 「バッグ。サマンサのや ? 「ちょっと、シュンちゃんとサッカーしての汚物であるように思えて、堪えられなく よかろ、つ ! と、シュンスケが笑った。 なった。不快感に突き動かされるように洗 結局、小一時間ほど一対一で勝負をした「サッカー ? 何だお前、砂だらけじゃな面所に急ぎ、徹底的に手を洗った。何度 ものの、彩子はシュンスケをドリプルで抜いか汚えなあ , も、何度も くことはできなかった。体格も年齢も上の汚い、と、言われた瞬間、彩子は、親戚 サッカー経験者に、ろくにサッカーなどやの目が一斉に自分に向いたような気がし「そんなことがあったんだ」 ったことのない彩子が勝てるわけがないのた。悔しさと恥ずかしさが一緒になって、 菜々美が、カバンからハンカチを取り出 だ。本気でバッグを買ってもらおうと思っ体が震えだすほど、いやだ、と思った。 して、彩子に差し出した。が、使えない たわけではないが、 ムキになってシュンス「手を洗ってこい バイキンだらけの手か、と引きつった笑いを浮かべる。いつの
試合は初回に四点を入れられたものの、 ットで検索したが、惑星は別に直列してい ないようであった。 二回と三回にそれぞれ一点を返し、四回で 一気に逆転、五回にだめ押しがあり、最後 は指名打者の大谷くんがマウンドに上がっ 十月十五日 ス母が「猫になる夢、を見たと言う。お腹て最速一六五キロを叩き出すという、お祭 が空いたら誰か人間の傍に行って、にやごりのような展開で目が離せなかった。と同 にやご鳴かなければならす、不便だったそ時に、近くに座る青年の、最前列の眺めの カ うだ。浮かない顔をしているので理由を尋よさに友人と驚嘆の声を上げ、それが落ち 1 ガーを食べ、ビールを飲 コ・ねると、「ずっと四つん這いだったから肩着くとハンバ が凝った」と答え、「気楽そうに見えるけみ、どこかへ消えたと思ったらラーメンを ど、猫も楽じゃないのがわかった。今度か買い込んできて黙々と食し、食べ終わると らはそのつもりで猫に対応するように」と暑くなったのかセーターを脱ぎ、再びビー の指示を出した。 ルを買い、体温調節がうまくいったところ でうたた寝をするという、自由過ぎる振る 舞いからも目が離せなかった。青年は逆転 かんにえっのニュース。にゆきのやっ、十月十六日 いよいよ市内に到達してしまった。 所用で行けなくなった知人からチケットシーン ( ラーメンを買いに行っていた ) 夜は、友人たち七人で飲み会。すぐにむを譲ってもらい、日ハムとソフトバンクのも、大谷くんが登場して勝ちを決めた瞬間 せる、握力が弱くなったなどの老化報告をクライマックスシリーズ第五戦を観に行 ( 居眠りしていた ) も目にしていない。私 試合開始の二時間前にコパ氏と待ち合もあれくらい解き放たれたいものだ。 おもに行う。スマホを遠くに離して「ポケく。 なにはともあれ、これで日本シリーズ進 モン 0 」のモンスター図鑑を見せ合ったわせ、札幌ドームへ。「ちょっと早すぎた 時は、「二十一世紀の老い」という言葉がかな」などと呑気なことを言い合っていた出が決定。興奮さめやらぬまま沖縄料理店 ら、最寄り駅の段階で既にすごい人出であへ行き、そこで「寒いところの人は頭が悪 胸に浮かんで感慨無量であった。宴会後、 ! 」と力説する酔客の主張を聞きながら 友人が送ってくれた写真の自分の顔が驚異る。おのれの気合の足りなさを反省。「ド ームに珍しいポケモンいるかなあーと夢見祝杯を上げた。 的に丸くて一体何が起きたのかと不安にな る。惑星直列かなにかの影響かと思い、ネている場合ではなかった。 国と埖上 ノラ ダ 1 350
はじめまして。このたび鮎川哲也賞という ミステリの新人賞を頂戴した者です。駆け出 しの兼業作家の一日を僭越ながらご紹介 : ・ しよ、つと思いましたが、 書き起こしてみたら 「起床↓出勤↓帰宅↓ちょっと執筆↓就寝」 と一行で終わってしまったので、代わりに先 日行われた鮎川賞の贈呈式の模様を、当人が 朝起きて朝ご飯を食べて歯を磨くところから ダイジェストで記してみたいと思います。 〔】 8 〕起床。朝食は白米に味噌汁に生卵 その他。口をすすいで納豆の粘り気をよく落 としてから歯磨き 〔 8 〕〕会場までのお供に本を : : : と思い 図書館へ行ったら整理休館中。「本は書店で 買え」との天の声を聞く。 〔Ⅱ 8 〕早めの昼食、そして昼寝。起きた 後の髪のセットに四苦八苦。 〔【〕出発。雨が降っている。受賞者の 日頃の行いが目に見えるようである 〔〕 8 〕電車の中で fTHE IDOLM@STER THE@TER ACTIVITIES 02 』を聴きなが ら精神統一。のり子の狂気が五臓六腑に染み 渡る。 〔【開〕なぜか秋葉原にいる。 〔〕開〕ホテルに到着後、別件の写真撮 からだ 影。「身体をあっちに向けて、顔はこっちへ、 12 : OO ・ Day ⅲ My Life case.167 ~ わたしの一日 ~ 市川憂人 いちかわ・ゆうと 76 年神奈川県生まれ。東京大 学卒。在学時は文学サークル・東京大学新月お茶 の会に所属。当 6 年「ジェリーフィッシュは凍らない」 で鮎川哲也賞を受賞し、デビュー。 リへ、待 の 24 : OO との指一小に「もっとジョジョ 手は腰に : つほく決めた方がいいですか ? , と返しかけ て危、つく思いとどまる 〔片〕開〕親族が会場入り。控室でお待ちの 選考委員の先生方そっちのけで写真撮影が始 まり、後で担当様に怒られる 〔絽】開〕いよいよ贈呈式本番。ほっんと一 つだけ置かれた受賞者席がまるで被告人席の ようである。緊張のあまり「壇上にお上がり ください」のアナウンスの前に席を立ってし ま、つミスをやらかす。 そして受賞者挨拶。百人単位の出席者を前 に緊張は頂点に。「落ち着け : : : 俺はアイド ルなんだ、ステージ上のアイドルなんだ ! 」 と意味不明な自己暗示をかけながらほば勢い だけでスピーチを乗り切る。 〔絽【〕乾杯のグラスを置き、ほっと一息 : つく暇もなく怒濤の挨拶対応。途中、本 格ミステリ界の大御所・綾辻行人先生からお 祝いの電話をいただくサプライズ。 〔【〕選考委員の先生方との二次会。読 書量の少なさを「恥ずかしがってください」 と叱られる 〔 8 〕ホテルへ帰還。へろへろ状態でシ ャワ 1 を浴び、泥のように就寝。 以上、新米もの書きの特別な一日でした。