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検索対象: 本当は怖いだけじゃない放射線の話
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1. 本当は怖いだけじゃない放射線の話

放射線の影響にかぎったことではない。消化器粘膜の損傷や出血も、ぼがの病気などで観 察される。後でくわしく触れることになるが、放射線の晩発障害とされる発ガンにしても、 ほかのさまざまな要因で発病することはよく知られている このように、放射線障害という言葉は文字どおり放射線の影響としての障害なのだが、 その内容に躰線特有 0 壁害ど・ば、い・えない。放射線が細胞組織を壊すことによって、ほか の病気でも見られる症状が現れることになる。こうした点から、「放射線影響は非特異的 なものであるーというところが特徴となっている。 なんとなく放射線は布いものだと思い込んでいると、放射線の影響とは、他とまったく 異なる特別な障害に違いないと考えがちだ。特別な後遺症があるとか、放射線の毒が抜け なくなる、といった誤解をしていないだろうか。 実際には、被害がごく軽ければ自然に治るものがあり、少し回復に時間がかかっても完 全に回復するものもある。よくある病気やケガと大差ない経過をたどることも、決して珍 しくない。本来なら浴びるはすがないほどの放射線の量を、万が一の事故などで浴びない かぎり、日常のなかで回復不能な害を受けることはないのである。 念のため、どのくらいの放射線量を一瞬のうちに浴びたら、具体的な影響となって現れ 120

2. 本当は怖いだけじゃない放射線の話

放射性廃棄物というゴミ もし、燃料被覆管に目に見えないような小さな孔があいていたら、どうだろう。核分裂 生成物は原子炉の水のなかに大量に出てきて、復水器へと移動していく。そして、復水器 では非凝縮性ガスと一緒になって移動する。これを放っておいたら、排気と一緒になって 煙突から外部に出てしまうかもしれない。 る そういった事態を想定して、また不純物として存在するウランもあることから、復水器 出から抜かれたガスは活性炭をつかった濾過装置を通す。この仕組みによって放射性物質の 線放射能を大きく減らしてから、大気中へ放出することになっている。 放 これに加えて、監視システムも設けられている。つねに、復水器から抜かれたガスの放 ら 射線のレベルを、濾過装置の前後と排気筒の三カ所で測定している。また、定期的に原子 原 炉の水を少し抜き取っては分析している。もし、そこで燃料被覆管から放射性物質が漏れ 9 ている予兆があったら、その状態や量に応じて原子炉を停止するなど、適切な措置が取ら 9 れることになっている

3. 本当は怖いだけじゃない放射線の話

地球はなぜ温かいか この地球上に生命が誕生して、いまでも多様な生物が住んでいられるのは、水があるこ と、そして気候が温暖であること、などがおもな理由だ。太陽から適度の距離に適度のサ イズの地球があったため、「温暖な水惑星ーとしてヒトに代表される高等生物を育てた。 でよ、、 しま地球がもっている熱は太陽からもらった熱、つまり太陽から放射された熱な のだろうか。それにしては、不思議な現象が見られる。 かりに地表を垂直に掘り下げていくと、一千メードル深くなるごとに一〇℃ずつの割合 で地中の温度が上がる。そして平均して三十キロメ 1 トル ( 三万メートル ) ほどの深さで、 地表を覆っている固い地盤の地殻が終わって、高温の流動層であるマントルに出ムう。こ のマントルは上部でも一〇〇〇℃近い高い温度をもっている。さらに深部にいけば、下 ℃という高温だ。 このような、内部に熱源があるような構造から見ても、太陽熱だけで地球が「芯から」 し、刀ない 0 温まっていると考えるわけには、、

4. 本当は怖いだけじゃない放射線の話

こうした「メリット」と「デメリット」のバランスをもとに、私たちは社会にある現象や 技術の取捨選択をおこなっている。文明には一〇〇パーセント快適というものが存在しな い以上、最小のデメリットで最大のメリットが得られるものを受けいれてきた。 しかし、放射線に関してひとくちでいえば、過大なデメリット評価がメリットを押しつ ぶしてしまっているのではないか。前にも紹介したように「放射線を正しく怖がるーこと こそ大事なのだが、現実は「意味もなく怖がっているーケースが珍しくない 見えない放射線であっても、その素顔を正しく見つめてやる姿勢が、現代の技術社会に おいては欠かせないのである。

5. 本当は怖いだけじゃない放射線の話

ちだ。 自然放射線は身体に影響がなく、人工放射線が身体に悪いと思われるとしても、種類と ) 。違ういいかたをすれば、たと エネルギ 1 が同じならば人体への影響もまったく差がなし え人工的につくられた ( あるいは人為的に発生した ) 放射線でも、種類とエネルギ 1 によっ ては自然放射線より問題ないケースもある、というのが実態だ たまに、放射線を扱っている装置や機器からの「放射線漏れーがニュ 1 スなどで報じら れる。そしてその場合、ごく少量の漏れでも人間への影響という面で大問題、という扱い になるケ 1 スも多い もちろん、漏れてはいけない放射線が漏れるのは問題なのだが、そのできごとがいった いどの程度の影響を与えるものか。いたずらに怖がる前に、自然勢・いベル比較 で理解するのも可能だ。 ごく少量の人工放射線を「意図的にー人体 そして、たとえばレントゲン撮影のように、 に浴びせることで、健康に影響を与えることなく医療に役立てている技術もある。つまり 放射線の影響は、それが自然か人工かによって異なるというものではないことに気づく もっとも、量さえ気にしていればよいというわけにもいかない。しかも興味ぶかいのは、 110

6. 本当は怖いだけじゃない放射線の話

ンや翼の内部構造にヒビ割れなどの、外部からは観察できない損傷がないかといった検査 には欠かせない。 ほかにも、建物や橋などのコンクリート構造物に崩壊の前兆となるようなキズがないか、 といった検査を可能にしている。それまで調べようのなかった「内部」を、形を変えずに 観察できるようになったことで、製品の信頼性や危険の予防といった、安全面での技術も 格段に向上させた。 こうして放射線のもっ性質は、人びとが「もし、こうならば便利だ」「ここまでできた ら確実だ」と感じていた技術に次々と利用されていった。放射線を使う技術が幅広い分野 にまたがっているのも、新技術だけでなく、従来技術に「置き換え」が起きたものが多数 含まれているためなのである。 放射線・放射能の工業利用 しったいどれほどになる 産業などに使われている放射線 ( 放射能 ) の技術の広がりは、、 のか一般にはわかりにくい。ここで簡単に、その広がりを紹介しておきたい。放射線のも 210

7. 本当は怖いだけじゃない放射線の話

特徴は「放射線漏れ」 ところで、 *00 の事故が日本における大事故であり、一般の人たちが巻き込まれたこ ともあって、チェルノブイリ原発事故と同様の事件として扱われることも珍しくない。た しかに、原子力関係の重大事故であることは間違いない。 しかし、チェルノブイリ原発の事故とは明らかに異なる内容の事件であることも、また 合 場正しく認識しておく必要があると思われる。 その違いをひとくちにいえば、チェルノブイリ事故は周辺への「放射能漏れ」が大問題 リとなった事件であり、事故は周辺への「放射線漏れ」が問題となった事件である、 プとい、んる。 の事故現場でも、原子炉の内部で起きるような臨界状態が見られた。核分裂によ 工 チ ってつくられた大量の放射線が、現場にいた作業員などに当たったという点でも、 ( その規 8 模は別として ) よく似ている しかし、ここから先の展開、とくに事故現場の周囲にいた人たちに与える影響という面 175

8. 本当は怖いだけじゃない放射線の話

ちなみに、ここで「具体的な障害が発生する場合」とか、「大量の放射線を一度に浴びた とき」といったように、一見くどい書きかたをしているのにはわけがある まず、これまでの章で紹介してきたように、ふつうの地上環境での自然放射線のような、 つまり、放射線を浴びると必ず目に見える ごく少ない線量では具体的な障害が現れない。 障害が現れる、というわけではない。一定量を越える放射線が当たらないと、ここでいう 障害としては現れない : 変化が現れるのは「し 具体的には、線量がごく少ないときには何の変化も見られなし きい値」 ( 閾値 ) とされる量、すなわち、ある変化を生じうる最低限の量や強さを越えてか らのことで、量の増加にしたがって障害が現れる頻度が高くなる。そしてある線量以上に なると「障害が一〇〇パ 1 セント発生する」ようになる。 また線量が「しきい値ーを越えると、量の増加に比例して障害が重大になる、つまり障 害の程度が重くなるという現象が見られるようになる。このようなかたちで現れる障害を、 ある程度以上の放射線量を浴びると必ず起きるという意味から「確定的影響。と呼んでい る じつは、ひとくちに放射線による障害といっても、この確定的影響のように一定量を越 112

9. 本当は怖いだけじゃない放射線の話

第 5 章どんなときに障害が現れるか ひとくちに人体への影響といっても、身体組織や臓器の種類ごとに「放射線の感受性ーが 違うことである。 つまり、そのようなことはめったにないし、実際にあっては困るのだが、人間に障害が 出るほどの放射線を浴びるというケースを考えてみる。この場合でも、身体の一部に浴び るのか、全身に浴びるのかによって、事態は異なる。 毒物や薬品とは異なって、放射線が「全身に回る」とか「特別な臓器に蓄積される」とい ったことは起きない。また、全身に浴びたとしても、よほど強烈な放射線で全体的なダメ 1 ジを受けないかぎり、どの臓器から症状が現れるか、だいたい決まっている。 こうしたことから、放射線の人体への影響度を知るためには、それぞれの臓器がもって いる細胞レベルの特徴から見ていく必要があるのだ。 「しきい値」という境界値 大量の放射線を一度に浴びたとき、どのようなことが起きるのだろうか。具体的な障害 が発生する場合について、見ていくことにしたい。 111

10. 本当は怖いだけじゃない放射線の話

字宙線に関係する放射線だ。 地球の上空には、字宙空間から飛んでくる高速粒子や太陽から飛んでくる粒子など、さ まざまな宇宙線が降ってきている。宇宙線によっては、地球の大気を突き抜けて、放射線 として地表にまでやってくる。だがん半・の煢既に・ k 気の成分との衝突を繰り返して、新 たな放射線を生み出しながら消えていく。 このような現象によって、上空で生まれたさまざまな放射線が、地上めがけて飛んでき ている。その量は上空のほうが多く、地表に近くなるほど大気との衝突でエネルギーを失 うため少なくなる。 このため宇宙線の量は、高度が一千五百メートル上がるたびに約二倍になる。、高い山に おいても同じ現象が見られるのだが、ジェット旅客機の飛行高度は一万メートルから一万 数千メートルと、世界一高いエベレストより高度が高い。その分だけ、乗客は放射線を多 く浴びるわけだ。 といっても、被曝している時間といえる旅行時間は多くても十数時間だから、年間の被 曝量としては問題になるような量では、まったくない。 こうして私たちは、日常生活のなかでさまざまな放射線を浴びている。いや、さらに正