影響 - みる会図書館


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1. 本当は怖いだけじゃない放射線の話

えるとされる。ところが、ヨウ素は体内に吸収されると甲状腺に集中する性質がある。そ のためだろう、事故から十年後の調査として、事故時に被曝した ( 細胞分裂がさかんな ) 幼 児や小児に甲状腺ガンが増えているとの報告があったのである。 では、その他の晩発障害、とくにガンの発生に対する影響はあるのだろうか。誰もが心 配した可能性であった。 しかし、事故から十四年後に発表された、国連科学委員会の二〇〇〇年報告は意外な内 容であった。「事故時の小児集団における甲状腺ガン以外のガンの増加は、確認されてい 場ない」。事故による放射性物質で汚染された隣国べラルーシ周辺の地域に住んでいる人で も、その地域の放射線のレベルは自然放射線のレベルと同じくらいか、せいぜい数倍にし と リかすぎなかったと報告書はいう。 イ プ さらに今後、放射性物質は減少するのであるから、将来にわたっても、事故による健康 ノ としたのであった。 への悪影響を恐れて生活する必要はない、 工 チ 二度とあってはならない事故であるのは間違いないが、放射線の影響に関する貴重なデ 章 ータを提供してくれたのも事実というわけである 第 合 169

2. 本当は怖いだけじゃない放射線の話

第 7 章原爆の放射線被害とは何か 「確定的影響」と「確率的影響」の違い 確定 ( 非確率 ) 的影響 : 脱毛、白内障など 0 影響の現れる確率 ーしきい線量 線量 影響なし 確率的影響 : ガン、白血病など 仮定つつつ つつ容認できる ー′ーーレベル 0 影響の現れる確率 ー自然発生率 線量 159

3. 本当は怖いだけじゃない放射線の話

したりといった反応に進む。 この化学反応によってさまざまな生成物ができるのだが、その代表的な存在が、まとめ だ。活性酸素の正体は、内にある酸素を取り て「活性酸素」と呼ばれる化合物グルー 込んだ化合物で、避僊山しどし一一」一激しい化学反応を示すのが特徴となる。 この活性酸素が、細胞にどのような影響を与えるのか。そして、影響を受けた細胞が、 どのように対処するのか。これを順を追って検証することで、放射線の人体に対する影響 を具体的に理解できるようになる。 活性酸素は遺伝子にどう影響するか 放射線によって生まれる活性酸素で、人間の身体が受けるおもな作用にはどのようなも のがあるか。これを理解するには、激しい化学反応の原因となる活性酸素が細胞に与える ている QZ< ( デオキシ・リボ核酸 ) への影響を中心に 影響、それもおもに遺伝子を 考える必要がある。 どのような形で Z < が傷つくのか

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ギーが与えられたのかを単位とする。 物が一キログラムもあると、エレクトロンボルトでは小さすきるので、一般的な仕事量 であるジュールを使って計算。これに「グレイ」という呼び名を付けている。 このグレイは、放射線が物に与えたエネルギーの量だけに着目しているが、放射線が人 体に与える影響は種類によって異なる。アルファ線、べータ線、ガンマ線といった放射線 の種類によって、人体への影響が違う。 放射線は種類によって、すぐに止まってしまうものや、長距離を飛ぶものなどがあり、 る 特質によって人体影響のようすが異なる。アルファ線のように、近距離で全エネルギーを れ 現 細胞に与えてしまうものでは、遺伝子に与える影響も大きくなる。 害 障 同じエネルギーをもった放射線でも、長い距離をはしるあいだにエネルギーを放出する き場合には、一カ所に与える影響が小さいことが考えられる。 さらに、人体のどの部分に当たったのか ( 手に当たったのか、生殖器に当たったのか、 ん ど など ) によっても大きく影響が違ってくる。これは放射線じたいの問題というより、臓器 章 側の性質の違いによるわけだ。 第 このように、さまざまな人への影響の度合いに配慮して決められたのが、「シーベルト」 125

5. 本当は怖いだけじゃない放射線の話

えると必ず現れるものだけではない。放射線を浴びることで影響が現れる確率が高くなる、 たとえばガンを発病する確率が上がるなどの「確率的影響ーがあるが、これについては後 述する。 こうしたことから、目に見える ( 具体的に観察される ) 影響が出る場合にかぎるという意 味で、ここでは「具体的な影響が発生する場合」と書いている。 また「大量の放射線を一度に」と断った理由も、放射線の人体影響を考えるうえでポイ ントとなる特徴に関係してくる。 る 放射線は瞬間的なエネルギーの流れであるから、その性質からいって「体内に溜まるー れ 現 ということ自体がありえない。そのため人体への影響度を決める第一の条件は、放射線の 障種類とその線がもっエネルギーの強さとなる。 き第二の条件としては、放射線が当たった人体の組織や臓器が、どのくらい放射線に対し て強い ( 弱い ) かという「放射線感度。の問題となる。 ど そして第三の条件は、ダメージを修復する余裕があれば、継続的な放射線の曝露にも耐 5 、んられるとい、つこと。 第 曝露された臓器によって影響の内容は異なるものの、決定的なダメージを受けなければ 115

6. 本当は怖いだけじゃない放射線の話

ちだ。 自然放射線は身体に影響がなく、人工放射線が身体に悪いと思われるとしても、種類と ) 。違ういいかたをすれば、たと エネルギ 1 が同じならば人体への影響もまったく差がなし え人工的につくられた ( あるいは人為的に発生した ) 放射線でも、種類とエネルギ 1 によっ ては自然放射線より問題ないケースもある、というのが実態だ たまに、放射線を扱っている装置や機器からの「放射線漏れーがニュ 1 スなどで報じら れる。そしてその場合、ごく少量の漏れでも人間への影響という面で大問題、という扱い になるケ 1 スも多い もちろん、漏れてはいけない放射線が漏れるのは問題なのだが、そのできごとがいった いどの程度の影響を与えるものか。いたずらに怖がる前に、自然勢・いベル比較 で理解するのも可能だ。 ごく少量の人工放射線を「意図的にー人体 そして、たとえばレントゲン撮影のように、 に浴びせることで、健康に影響を与えることなく医療に役立てている技術もある。つまり 放射線の影響は、それが自然か人工かによって異なるというものではないことに気づく もっとも、量さえ気にしていればよいというわけにもいかない。しかも興味ぶかいのは、 110

7. 本当は怖いだけじゃない放射線の話

から、進行中の字宙ステ 1 ション計画でもこの点の防御策を研究している。 ちなみに、ここに出てくる「シ 1 ベルト ( ミリシーベルトは一千分の一シーベルト ) と ) う単位は、放射線が人間に当たったときの影響を数値化したもの。同じ放射線でも、人間 が浴びたときの影響は身体の部分によって異なる。たとえば脳は放射線の影響を受けにく く、腸は影響を受けやすいといったように、臓器の種類によって異なる。これを考慮に入 象れて、生体に及ばす影響の程度を数値化したのがシーベルトというわけだ。 ス これであらためて考えてみると、地上で暮らしている私たちが一生涯に受ける放射線は、 シ 寿命が八十年とすると多い人で百九十二ミリシーベルト。宇宙ステーションに滞在すると 「なると、四十週ほどでこの数字に達する計算だ。それにもかかわらす、 Z < < ( 米航空 め字宙局 ) では往復二年かかる火星旅行まで計画されている。 高 を 自然放射線というものは、どこまで私たちに影響を与えているのかわかりにくい、まっ 能 機たく不思議な存在であるともいえるだろう。 生 章 第

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こうした環境のなかでの、ガン死亡率が低いとの報告であった。放射線が人体に及ばす この調査研究は大きな反響を 作用は「多いほど悪い影響がある」と思われていただけに、 呼んだ。 あらためて他の研究者グループによる研究が始められ、日本の研究グル 1 プも現地調査 をおこなった。その結果を見ると、ガン死亡率が低くなるかどうかに関しては慎重な結論 、自然放射線量が多い地域でガンの死亡率が高いことを示すような証拠は、やはり何 の も も見つからなかったという。 訊「放射線はほんの少しでも怖い存在 , というのは、単なる思い込みということが明らかに 常なったわけである。 異 ラドン温泉は保養地で有名 放 章 外国にある放射線量の多い地域を探すまでもなく、日本にも放射線量の多さが特徴の人 第 るしはラジウム汜泉と呼ばれる温泉地だ。 気スポットが各地にある。ブド ' ン ' 温泉・あ。、・・。・、、・ ' ー・・・・ ' ーーー叫ーー る。

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放射線の影響にかぎったことではない。消化器粘膜の損傷や出血も、ぼがの病気などで観 察される。後でくわしく触れることになるが、放射線の晩発障害とされる発ガンにしても、 ほかのさまざまな要因で発病することはよく知られている このように、放射線障害という言葉は文字どおり放射線の影響としての障害なのだが、 その内容に躰線特有 0 壁害ど・ば、い・えない。放射線が細胞組織を壊すことによって、ほか の病気でも見られる症状が現れることになる。こうした点から、「放射線影響は非特異的 なものであるーというところが特徴となっている。 なんとなく放射線は布いものだと思い込んでいると、放射線の影響とは、他とまったく 異なる特別な障害に違いないと考えがちだ。特別な後遺症があるとか、放射線の毒が抜け なくなる、といった誤解をしていないだろうか。 実際には、被害がごく軽ければ自然に治るものがあり、少し回復に時間がかかっても完 全に回復するものもある。よくある病気やケガと大差ない経過をたどることも、決して珍 しくない。本来なら浴びるはすがないほどの放射線の量を、万が一の事故などで浴びない かぎり、日常のなかで回復不能な害を受けることはないのである。 念のため、どのくらいの放射線量を一瞬のうちに浴びたら、具体的な影響となって現れ 120

10. 本当は怖いだけじゃない放射線の話

他の原因 しかし同時に、放射線の影響は「非特異的ーであることを思い出してほしい。 によってもガンは発生するし、個人の遺伝的な特性によって発ガンしやすかったり発病に いたらなかったりする。つまり、ある量以上の放射線を浴びた場合、ガンが確率的に発生 しやすくなる。しかし、この量を越えたらガンになるという「しきい値。は存在せず、放 射線量が増えるほど「ガンの可能性は高くなる」としかいえない。 もちろん、多量の放射線を浴びたら必すガンになるというものでもない。その点で、脱 毛などのような「確定的影響」とは異なる性質をもっている。そして、障害の発生確率の 問題であることから、ガンは「確率的影響 . と呼ばれている。 繰り返しになるが、放射線を浴びるとガンになるという表現は正しくない。放射線を浴 びるとガンになる確率が高くなるというのが、確率的影響を語るときの正しい表現なので ある。 ところで、原爆の晩発影響として心配される障害のひとっとして「遺伝性の障害」があ る。ひとくちにいえば、原爆被爆者の子供には先天的な異常や染色体の異常が出やすくな る、といわれてきたのであった。 その理由は、放射線によって遺伝子の突然変異が起きるのだから、生殖細胞の遺伝子に 158