放射能という言葉は「放射線を出す能力ーをさすから、「原爆の放射能による被害」とは 原爆が爆発 ( 核分裂 ) を起こしたときの放射線、分裂によって生まれた放射性物質から出 た放射線、これらの放射線によって受けた被害と読みなおしてもよいだろう。このような 原爆にかかわる放射線が人びとを襲って殺したのは事実だとしても、放射線によって広島 では十万人以上の人が死んだというのは、正しい認識ではないことがわかったのだ。 ヒロシマ原爆の被害の実態とは 何 と ヒロシマ原爆の核爆発によって生じたエネルギーが、どのような姿をもって人びとを襲 被ったか。前代未聞のできごとだけに、その実態をつかむまでには時間が必要だった。 射 さまざまな調査やシミュレーション研究などの結果、原爆の爆発によって放出されたエ 放 の ネルギーの五〇パーセント、つまり半分は猛烈な爆風となり、三五パーセントは熱エネル 爆 原 ギーとなったのがわかった。 章 爆発によって数十万気圧という超高圧がつくられ、周囲の空気が瞬間的に大膨張するこ 5 第 とで爆風が生まれた。その風速は、爆心地付近で秒速二百八十メートル、三・二キロ離れ
ことになる 第 1 章で、カリウムから出る放射線によって肥満度の見当をつける話を紹介した。こ のとき、カリウムとい、つ元素にはカリウム、カリウム、カリウムとい、つ、三種類の 原子が存在すると述べた。 このグループがカリ 一口位元素であり数字の違いが意味しているのは、原子核に る陽子と中性子の総数である。陽子町ルど決まっている ( 陽子が十九個の原子をカ リウムと呼ぶ ) から、中性子の数が二十個、二十一個、二十二個の原子に分かれる。この うち、二十一個のものが陽子十九個との合計で四十個となるためカリウムとよばれ、放 射線を出す能力をもっている放射性カリウムというわけだ。 放射性元素であるかどうかは、原子として安定かどうかが決め手となる。カリウムの場 合、とれは安定でいつまでもその構造を保っていられるのだが、はエネルギ 1 的に不 安定という特徴がある。このため、 ' 翁分、ををル・レ・を放出し・て安定に・た・みデしず・を町、 があり、「放射性崩壊」と呼ばれる現象につながる。 原子核から電子を一個放出すると同時に、ガンマ線と呼ばれる電磁波を放つのが、カリ ウムに見られる具体的な放射線崩壊。この場合、電の放出は「 ( べータ ) 崩壊ーと呼
発生する熱が多くなると水の体積が増加する ( 密度が減る ) ことで反応が抑えられる。っ まり、出力が上昇しても自分自身で出力を抑える「自己制御性ーが備わっている。チェル % ノブイリと根本的に設計が違うといわれる根拠のひとつがこれである。 特徴は「放射能漏れ」 このチェルノブイリ原子力発電所事故における大きな特徴は、「放射能漏れ事故」である とい、つ点だ。 放射能とは「放射線を発する能力」であり、ここではほば放射性物質と同じ意味と考え てさしつかえない。 つまり、放射線が漏れただけでなく、放射線を出しつづける物質が原 子炉の外部に漏れてしまったのが、チェルノブイリ原発事故の最大の特徴だ 具体的にいえば、原子炉の燃料だったウラン 235 が、核分裂によって約半分の質量に なることによって生まれたさまざまな放射性物質が、外部の空気中に放出されてしまって いる。セシウム 13 7 やヨウ素 131 などがその代表的な物質だ また、ウランの原子核に陽子が二つ増えてつくられるプルトニウムにも、何種類かの放
射性物質があって、アルファ線を放出することが知られている。 「放射線漏れーならば、放射性物質は外部に出ていないのだから、その物質をすみやかに 隔離すれば、それ以上の放射線漏れは起こらない。 ところが「放射能漏れ」が起きると、 つまり放射性物質が外部に拡散してしまうと、その物質からの放射線の放出が長いあいだ つつくことになる。 ヨーロッパ各国で食物の流通や摂取を制限したのは、食物についた放射能が体内に入る と「体内被曝ーを起こすためである。放射性物質が体外に排出されるか放射能をなくすま 合 場で、食べた人が過度の放射線にさらされる可能性がある。 もちろん、土壌中などに留まった放射性物質からも放射線は出され、体外被曝の原因と リなる。だが、 その場を離れれば被曝せずにすむ、という性質のものでもある。ところが体 イ プ内に入った放射性物質は、どこまでもついてくる体内被曝をよぶため問題となる。 チェルノブイリ原子力発電所の事故現場で働いていた人びと、そして消火のためにかけ 工 チ つけた消防士の人びと、彼らは大量の ( 放射能ではなく ) 放射線を浴びた。そのため急性で 章 8 強度の放射線障害を発生させることになって、死亡したり重傷を負った。それは痛ましい 事実なのだが、これに加えて事故を大きくしたのが放射性物質が漏れて、大気中に広まっ 167
【コラム】「放射線」という単語の意味 放射線という文字を見ると「線が突き刺さってくる」ようなイメージをもっかもしれな い。しかし、この単語そのものは決して激しい現象を説明しているものではない。 「放射」を辞書で引いてみると、たとえば「中央の一点から四方八方へ放出すること。光・ 熱などを外に放出すること」 ( 広辞苑 ) とある。 赤外線ストーブや赤外線ヒーターが暖房器具として愛用されるようになったが、これら からは「赤外線が放射」されることで身体が温められる。赤外「線」というように、ストー ブやヒーターから放出 ( 放射 ) されているのも、広い意味での「放射線」なのである。 放射線は英語で「「 ad 一 at 一 0 コ」 ( ラジェーション ) と書く。しかし実際は逆で、ラジェーショ ンを和訳するにあたって放射線としたのだ。 語源となっている「 ad 一 0 は、そのまま放送を聞く受信機であるラジオ、つまり「放射」 された電波を受ける装置の名前となっている。エンジンやコンプレッサーなどに付属して いるラジェターは、熱を放出する装置 ( つまり放熱器 ) というわけ。また、「「 ad 一 9 」と単 語の頭につけると「放射性の何々」という意味になる。
違ういいかたをすれば、核分裂によってつくられた放射能 ( 放射性物質 ) によって、放 射線が生み出されるという順序になる。 なお、原子爆弾の核爆発では、最初に発生した放射線が地上の建造物などにあたって、 その物質に放射能をもたせるという現象が起こる。この放射能 ( 放射性物質 ) から、さら に放射線が出されることになるわけだ。 162
放射性廃棄物というゴミ もし、燃料被覆管に目に見えないような小さな孔があいていたら、どうだろう。核分裂 生成物は原子炉の水のなかに大量に出てきて、復水器へと移動していく。そして、復水器 では非凝縮性ガスと一緒になって移動する。これを放っておいたら、排気と一緒になって 煙突から外部に出てしまうかもしれない。 る そういった事態を想定して、また不純物として存在するウランもあることから、復水器 出から抜かれたガスは活性炭をつかった濾過装置を通す。この仕組みによって放射性物質の 線放射能を大きく減らしてから、大気中へ放出することになっている。 放 これに加えて、監視システムも設けられている。つねに、復水器から抜かれたガスの放 ら 射線のレベルを、濾過装置の前後と排気筒の三カ所で測定している。また、定期的に原子 原 炉の水を少し抜き取っては分析している。もし、そこで燃料被覆管から放射性物質が漏れ 9 ている予兆があったら、その状態や量に応じて原子炉を停止するなど、適切な措置が取ら 9 れることになっている
たかたちに変わろうとして、エネルギーを放射線のかたちで放出するのだ。 このような性質が原子にある場合に、その原子は放射能をもっているという。したがっ て、自然界にもともとある放射能も、これまでの核実験などで地球上にばらまかれた放射 能も、どちらも同じ放射能といえる。 違う点といえば、核実験などでつくられた放射性物質のなかには、割然界に存在し召い ないものもあること。だからといって、無条件に自然界に存在しないものは怖いというも のではない。 どれくらいの放射能をもっているかという点が、その放射能の怖さを知るうえで、最も 大切なことなのである。
地球が放射線を放っ理由 そもそも放射性物質とは何か 太陽の恵みには放射線もある オーロラは何を示しているか 【コラム】放射線と放射能 第 3 章自然放射線を浴びて平気なのはなぜか 放射線の基本的な作用とは 電離作用とはど、つい、つことか 活性酸素は遺伝子にどう影響するか 塩基が破壊されるとどうなるか 人体には予防・修復機能がある 損傷した細胞の修復システム 修復不可能だとガン化するか アポトーシス ( 細胞死 ) が発動されるとき 【コラム】放射線の種類と特徴
【コラム】「崩壊」と「核分裂」 放射性物質が「崩壊」するときに放たれるのが放射線だが、「核分裂」によっても放射 線が生まれる。 「崩壊」という文字からは、もとの原子がバラバラになってしまうような印象をうける。 しかし実際のところ、原子核の基本的な構造は、ほとんど形を変えないまま残る。大工ネ ルギーの放出であるアルファ線の場合でも、大きな原子核から一一個の中性子と一一個の陽子 が出るにすきない。 と これに対して「核分裂」は、文字どおり原子核が引き裂かれて分裂する現象である。ウ 被 ランなどの核分裂の引き金になるのは中性子。原子核にとって余分な中性子が外から入り 線 射込んでしまうと、原子核のなかに余分なエネルギーがため込まれてしまう。そのエネルギー のを外に出そうとして、自らをほぼ半分に引き裂いてしまうのが核分裂だ。 原 そしてこの分裂によって、中性子線やガンマ線が生まれるとともに、さまざまな種類の 章 核分裂物質もっくられる。核分裂物質の多くはエネルギー的に不安定のため、放射能をも 第 っことが珍しくない。そして、そこからは放射線が出されることになる。 161