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検索対象: 本当は怖いだけじゃない放射線の話
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1. 本当は怖いだけじゃない放射線の話

こうした「メリット」と「デメリット」のバランスをもとに、私たちは社会にある現象や 技術の取捨選択をおこなっている。文明には一〇〇パーセント快適というものが存在しな い以上、最小のデメリットで最大のメリットが得られるものを受けいれてきた。 しかし、放射線に関してひとくちでいえば、過大なデメリット評価がメリットを押しつ ぶしてしまっているのではないか。前にも紹介したように「放射線を正しく怖がるーこと こそ大事なのだが、現実は「意味もなく怖がっているーケースが珍しくない 見えない放射線であっても、その素顔を正しく見つめてやる姿勢が、現代の技術社会に おいては欠かせないのである。

2. 本当は怖いだけじゃない放射線の話

こなう。この免疫システムにとって変形した ガン化細胞は異物だから、監視から ( にいたる対象となる。大半のガン化細胞はこのシ ステムにキャッチされ、体内 - で - 増・殖・す・み・間もなぐ・排除されてしまう。 つまり、自然放射線を浴びて細胞がガン化する可能性がないことはないのだが、身体に とっては「放射線で起きる特別な事件ーではなく、「日常的に発生する小さな事件ーにすぎ ぜない。健康な身体にとっては、つまり健康な免疫システムにとっては、日常的な仕事とし て解決できる範囲の現象というわけである の 気 平 アボトーシス ( 細胞死 ) が発動されるとき て び 浴 を 線ガン化はしなくても、細胞としての機能をはたさなくなることで、身体機能が異常にな 放 月さな部品や配線 るという心配はないのだろうか。精密機械にもたとえられる人体では、、 然 自 の一部でも不良化したら、健康を損ねてしまうのではないかとの心配もあるだろう。 章 ここで登場する細胞の機能が、「アポトーシス」っまり日本語で「細胞死ーともいわれる 第 細胞の自殺現象の発動だ

3. 本当は怖いだけじゃない放射線の話

それがウラン燃料の加工過程で起きたのは、前述のようにウラン 2 3 5 の配合制限を考 えずに、容器に規定量の何倍もの量が高密度で入ってしまったことによる。それによって 起きたのが、新聞などが「青い光が走ったーと書いた臨界現象で、同時に大量の中性子と ガンマ線が放出された。 臨界は一度だけでなく繰り返し起きたため、最初から現場にいた作業者と、事故の処理 に向かった人たちが、放射線を浴びることになった。 また、現場となった建物の周辺で作業をしていた h00 関係者などに、放射線を浴びた 人びとがいた。さらに、現場が市街地だったことから、周辺住民のなかにも被曝の可能性 がみとめられる人たちがいた 事故が発生した現場で作業していた三名のほか、関係者に百六十九名、防災関係 者に二百六十名、住民に二百三十五名、というのが被曝した人の数である。 このうち、現場で作業していた三人はとくに大量の放射線を浴びる結果となり、緊急入 院したものの二人が亡くなったことはすでに報道されている。この二人は、、 しわゆる大線 量被曝のなかでも致死量と見られる、七シーベルト ( 七千ミリシ 1 ベルト ) を越える線量を 浴びている。 172

4. 本当は怖いだけじゃない放射線の話

の成果を激しく競っていた。このなかには、原子構造の模型を発案したことで有名なアー ネスト・ラザフォード、 量子力学の分野でアインシュタインと双璧をなすニ 1 ルス・ポー ーン、さらには世界初の原子炉をつくったエンリ ア、核分裂の発見者となるオット 1 コ・フェルミなどかいた 彼らの努力と競争によって理論や実験結果が次々と発表され、現代物理学の基礎が一気 にできあがったわけである ラザフォードが築いた現代物理学の基礎 いまでは基本的な放射線の種類として、アルファ線、べータ線、ガンマ線をあげること ができる。これらは、ラザフォードがカナダ・モントリオールにあるマクレギ大学の教授 をしていた一九〇〇年前後に命名したものである。 当時ラザフォードは、エックス線によって気体がイオン化して電気を導く現象、つまり 電離作用に関する研究をしていた。 ラジウムの入った容器に写真乾板を近接させると、放射線の走った跡が像として記録さ リ 0

5. 本当は怖いだけじゃない放射線の話

出した人がいるかもしれない。胎児は、それこそ全身が細胞分裂の真っ最中だから、放射 線に対して敏感にならざるをえないというわけだ。 ただし、念のために記しておけば、レントゲン検査程度の放射線では胎児への影響は心 というのが現在の常識となっている。 酉オし それにしても、なぜ細胞分裂がさかんな臓器ほど、放射線の影響を受けやすいのか。放 射線感受性が高いのだろうか。 放射線が細胞に与える作用を、簡単にまとめると次のようになる。ます、・、放 - 躰ぞし・ ' のが細胞中にある Z < を切ることがある。引 " - 躰・・・・に・お・・ ? 一 ) 、・・・水分子など・・・ が活性化してを切断したり、文字である。基・を破壊しだア欠損しグー ージを与える。 ここまでは前述したように、細胞にダメージを修復する力があるかぎり、決定的な損傷 にはならない。どうしても修復できない重傷の場合だけ、細胞がアポトーシス ( 細胞の自殺 ) などを起こして欠落するが、この場合でも新たな細胞が交替できれば臓器としては問題な 、 0 こうした現象とは別に、細胞が分裂をする過程にはいくつかのステップがあり、そのな 118

6. 本当は怖いだけじゃない放射線の話

医療に使う器具の消毒殺菌は、ずっと昔からの大テーマであった。現在でも医療の場所 が汚染されていたことによる事故が頻発するように、完全な消毒や滅菌、殺菌には大変な 努力を必要とする。 医療器具で昔からおこなわれていたのが煮沸消毒という手法だが、決して便利な方法と はいえない。煮沸直後は熱くて使えないし、冷やすあいだに再び汚染されるかもしれない。 それに、品物によっては熱で変質してしまうもの、水に濡れてはならないものなど、煮沸 そのものが不可のものも珍しくない。 そこに登場した放射線による滅菌・殺菌方法は、じつに素晴らしいものであった。加熱 つまり消毒すべきものの形 されない、水など他の物質に触れない、物質を変性させない。 や性質をまったく変えないまま、ほば完全な滅菌消毒ができる。しかも、容器やカバーか ら出さすにできるのである。 まさに放射線でしか実現できない技術であり、医療現場は大変に助かっている。それだ けでなく、衛生状態を保つ技術が高度になったことから、患者や検査を受ける人の健康を 現代の技術として放射線を使 守りやすくなった、というわけである。このエピソードに、 うことの意味が、多数含まれているのがわかるだろうか

7. 本当は怖いだけじゃない放射線の話

【コラム】「崩壊」と「核分裂」 放射性物質が「崩壊」するときに放たれるのが放射線だが、「核分裂」によっても放射 線が生まれる。 「崩壊」という文字からは、もとの原子がバラバラになってしまうような印象をうける。 しかし実際のところ、原子核の基本的な構造は、ほとんど形を変えないまま残る。大工ネ ルギーの放出であるアルファ線の場合でも、大きな原子核から一一個の中性子と一一個の陽子 が出るにすきない。 と これに対して「核分裂」は、文字どおり原子核が引き裂かれて分裂する現象である。ウ 被 ランなどの核分裂の引き金になるのは中性子。原子核にとって余分な中性子が外から入り 線 射込んでしまうと、原子核のなかに余分なエネルギーがため込まれてしまう。そのエネルギー のを外に出そうとして、自らをほぼ半分に引き裂いてしまうのが核分裂だ。 原 そしてこの分裂によって、中性子線やガンマ線が生まれるとともに、さまざまな種類の 章 核分裂物質もっくられる。核分裂物質の多くはエネルギー的に不安定のため、放射能をも 第 っことが珍しくない。そして、そこからは放射線が出されることになる。 161

8. 本当は怖いだけじゃない放射線の話

かるだろう。このことから、二重鎖が架橋さてしまうという現象は、 QZ< にと って大きなダメージというわけだ。 塩基が破壊されるとどうなるか 三番目の「 Z < の塩基を傷つけるーとは、 Z < がもっている「遺伝文字ーをダイレク トに傷つけてしまう現象をさす。 遺伝情報を語る文章が QZ< だとすれば、塩基は文章を構成している文字にあたる。文 字といっても、 < ・・・ O と略記される四種類 ( アデニン、チミン、グアニン、シトシン ) しかないのだが、 このそれぞれも塩基と総称される化学物質だ。そのため、この塩基を活 性酸素が直撃して傷つける、といった現象も起こる。 本物の文章でも文字が変形したりップレたりすれば、そのセンテンスが読みくくなった り、ときには意味がっかめなくなることも珍しくない。 まして、 4 のように「 QZ< の塩基を破壊する」までの現象が起きた場合、破壊される 数や文字の重要度によっては、文章全体の内容にかかわってくる。読み間違えて他の意味

9. 本当は怖いだけじゃない放射線の話

アポトーシスの特徴は、 Z < が「みずからの意志で」死を選ぶこと。ふつう細胞が死 ぬといえば、熱やカあるいは毒などによって破壊される、という受け身的なイメージがあ る。ところがアポト 1 シスでは、遺伝子にプログラミングされている判断基準に・し・たがら て、自発的に細胞が消えていく。 よく知られている例は、オタマジャクシがカエルになるとき第厖は一をぐ・ず一現象だ。わ ざわざ身体組織としてつくりあげたものを、特定の段階で消し去るのだから、遺伝子の命 令によって細胞を死なせていることになる。 よく似た現象は人間でも起こる。胎児の時代、ほんの一時だけ指のあいだにヒレのよう な組織ができるのだが、発生が進むにしたがってアポトーシス現象によって消えてしまう。 それくらい細胞死は普遍的な現象といえる。 そしてこのアポト 1 シスは、不要となった細胞や機能を失った細胞でも起きる。そして 同時に、必要に応じて親しい・組織・や紐胞を発生させるため、細胞再生や増殖の命令をだす 機能リき継ぐ。 つまり、放射線の影響にかぎらず、何らかの原因によって不良細胞が発生した場合、す みやかに対処するメカニズムが身体に備わっている。

10. 本当は怖いだけじゃない放射線の話

一九〇〇年代前後、この夜光塗料を時計に塗布する作業を専門におこなう、ダイヤル・ ペインタ 1 と呼ばれる職業があった。女性の専門職業とされ、小さな筆で夜光塗料を文字 盤に塗るという内容だった。 この仕事に就いていた人たちが、辞めたかなり後になってから、顎の骨の骨髄炎で悩ま されることが一九二四年に報告され、初めて知られる事実として注目された。つづいて、 これらの人たちのあいだに顕著に骨のガンなどが見られる、という現象も認められるよう になった。 ん この原因をつくったのは、文字盤に夜光塗料をきれいに塗布する目的で、乱れた筆先を 進 究舌でなめて整える作業だった。これを繰り返したことで、塗料に含まれるラジウムが体内 線に入って蓄積し、そこから放たれるアルファ線による体内被曝がつづいた。こうした長年 放の被曝によって骨の細胞がガン化したと考えられるのである。 し 現在は夜光塗料としても、ラジウムの使用が他の物質に置き換えられている。また、放 射能を用いた夜光塗料そのものの使用頻度も少ないため、以前のような事態が起こる可能 性はない。こうした苦い事件から、ロから入った放射性物質での体内被曝による人体影響 第 がより注目されるようになり、研究を促進することになった。 とふ リ 7