問題 - みる会図書館


検索対象: 正義の偽装
82件見つかりました。

1. 正義の偽装

「肉体というごく自然な野蛮をたずさえて石原氏は「日本」へかかわろうとしたので す。結局、石原氏が初めて国会議員になったのは、三島由紀夫が自決する 2 年前 ( 昭和 年 ) のことでした。 こうなると、この石原氏の基本的な考えは、「暴走老人」の今日にいたるまで驚くほ ど変わっていないのではないでしようか。石原氏という一個の肉体の行動そのものがオ リジナリティをもってくるのであり、それはただ伝統墨守的で常に。ハッシプで他人任せ でいつもフォルムを気にする日本を変えることになる、といっている。それがまた、石 原氏のあの多分に私的な感情を包み隠さず吐きだす一一一口葉と結びついているのでしよう。 そして、このような態度は、本質的に作家石原慎太郎からでていると思うのです。 実は、こうなるとかなり大変な問題がここででてきます。そして、長々と橋下氏や石 原氏について述べてきたのも、本当は「作家的なもの」と「政治的なもの」の関係とい たど う主題を提示したかったからなのです。ようやく私は本題に辿りついたというわけです。 ここでは、橋下氏や石原氏という個人名Ⅱ個体 ( 肉体 ) にこだわる必要もありません。 今日の日本の政治は、「作家的なもの」すなわち「私的なもの」、「感覚的なもの」を 124

2. 正義の偽装

組織にどのような問題があるのか、そんなことは「普通」の人にはわかりません。統治 機構がどうおかしいかもわかりません。ただ多くの者が、政治に対して不信感をもって いる。政治がうまく機能していない、という感覚をもっている。何か「自分はうまくい っていない」という気分が濃厚なのです。 この情緒が、橋下的な感情の爆発に共鳴する。つまり、橋下現象の最大の意味は、今 日の政治がいかにも私的な情念や情緒によって動かされてしまう、という点にある。政 治の中枢へ、私的な事情が情緒を通して人り込み、かき回してしまっている。私には、 そのことは大きな問題だと思われるのです。 さて、問題は石原現象の方です。石原氏は、「たちあがれ日本」と深い関係にあり、 石原氏の年齢はこの時歳、「たちあがれ日本」の平均年齢は肥・ 2 歳。確かに時なら ぬ老人。ハワーです。間歳を超えた「たちあがれ日本」の人たちが、「いざとなれば間で もたっぞーといってくれるのは後進にも大いに希望を与えてくれるのですが、石原氏の 場合もまた、やはり、あの毒舌、いいたい放題ぶりが人気の源泉なのです。 これも、鳩山流に「私も年もとらせていただきましたが、もう一度、お国のために働 718

3. 正義の偽装

特に今日のように、資源や食糧という「国民の生命線」をめぐる国際紛争があちこちで 生じるという一種の「帝国主義。の様相を呈し始めた世界において、「カ」を決して無 視するわけにはいかないのです。この「カ」への認識がわれわれには決定的に欠けてい る。もしくは、あえて沈黙しているのです。 じっさい、 8 月以降、マスメディアも各種の論説も、ただ韓国・中国の非礼・無礼を 難じるばかりでもっとも肝心な点はまったく論議の俎上にものせなかったのです。 それは何か。いうまでもなく日本の防衛という課題にほかなりません。韓国も中国も 日本と全面対決するというほど事を荒らげたくはないでしようから、じっさいに戦争に こはならないとしても、「論理的」には戦闘状態へ突人することを想定しなければならな いいのです。向こうが不法であれ不正であれ実力行使に及ぶということは、これをカで排 る除するほかないからです。これを日本固有の領土だと宣一一一口する限り、不法な「カーに対 土しては、最終的に「カ」でこれを守るよりほかに方法はありません。とすれば、これは 領 日本の防衛のあり方そのものの問題となるのです。 四もちろん、日米同盟があるから大丈夫などという理屈は通用しません。竹島について いえば、アメリカは日本の同盟国ですが、同時に韓国の同盟国でもあります。領土問題

4. 正義の偽装

は二国間で解決すべしというのがアメリカの基本方針です。尖閣についていえば、確か にこれは日米安保条約の対象範囲になるとアメリカはいいますが、具体的にどのように 発動するかまでは論じられていません。じっさい、アーミテージは、アメリカが協力す るためには、まずは日本が自力で尖閣を守ることが必要だと述べていますが、しごく当 然のことでしよう。へたをすれば中国と全面対決になるような選択を、日本の尖閣を守 るためにアメリカが簡単にするとは思えません。 こうなると、竹島・尖閣、それに北方領土の問題は、いわゆる「戦後レジーム」の問 題となってくるのです。平和主義と日米安保という戦後の日本の防衛体制の是非へとっ ながっているのです。もちろんこれは大きな問題です。一夜に解決をはかれる問題では ありません。しかし、そこまで射程を広げなければ、この問題を「われわれーのものと して捉える意味はないのです。 しかし、考えてみれば、実はそれは今に始まったことではない。なぜなら、竹島をめ ぐって国境が韓国との間で確定しておらず、中国との間に尖閣問題があり、ロシアとの 間に北方領土問題があり、北朝鮮との間に国交が回復していない、ということは、実は、 「あの戦争ーが完全には終わっていない、ということになる。少なくとも、戦争処理は

5. 正義の偽装

権力をもつのは王で、支配されるのは民衆です。話は簡単なのです。 しかし、「国民主権」の民主主義では、支配する者と支配される者の関係が明瞭では ありません。支配する者も支配される者も同一の国民になる。まさに支配者がいない占 にこそ民主主義の意義があるとされたのでした。だけれども、「主権」とは絶対的な権 力なのです。これは支配権を示す一一一一口葉です。ですから、国民主権はまた、すべての人が 支配者であるような政治体制でもある。 これだけでも「国民主権」とは、そんな気楽にわかるような概念ではないことは想像 にかたくないでしよう。 改めていい直すと問題はこういうことなのです。 先に「君主主権」はわかりやすい、といいました。君主が絶対的権力をもっていると いうものです。しかしもう少し突っ込んでいえば、これも実は決してわかりやすくはな いのです。というのも、ではどうして君主が絶対的権力を持ちうるのかと問うと話はか なりやっかいになるからです。絶対権力の正当性はどうして保証されるのか、という疑 問がでてしまう。「主権」という概念は、どうしても、権力の正当性を要求するのです。 そこで西欧では中世に「王権神授説」なるものが発明されました。「神」が、より具 156

6. 正義の偽装

民の意見を聞かなければ」といったようなことになって、「民意」や「国民」が臨在し てしまうのです。 これでは、かっての「天皇」が、戦後民主主義のなかで「国民ーや「民意」に代わり、 さらには「状況」や「世界」に置き換えられただけでしよう。問題は、天皇制や戦前の 封建制にあるのではなく、「空気形成」にあるのです。かっては効果的に「天皇」をか つぎだす者が「空気形成」の主役でした。戦後には「国民」や「民意」や「世界」を効 果的に唱える者が「空気」を注人しているのです。戦前の「天皇制ファシズム」を生み だしたものは、実は天皇ではなく「空気」だったというわけです。そしてその「空気フ アシズム」は戦後の民主主義をもファシズムにしかねないのです。 いずれにしても、これでは「決断」とも「責任」とも無縁です。主体などというもの 配はどこにもありません。かっては「天皇」を語って自らの権威を確保しようとした者が、 今日では、「国民」や「世界」などを語って自己権威化しているだけのことです。 空 こうなると、戦前の方がまだ責任を問いやすいともいえるのではないでしようか。天 二皇はまだしも現実に存在し、その意思も明瞭にもっておられたからです。それに比すれ ば「国民」や「世界」など不透明で不明瞭きわまりありません。言葉は浮遊すれど実体

7. 正義の偽装

して、領土紛争が生じているということは、すでに「非常事態」を意味している。つま 、主権が絶対的権力を行使しうる、ということなのです。 このような思想は、それ自体がかなり危険なものを最初から孕んでいる。それはそも そもの「主権」という絶対権力という思想そのものが危険なものを孕んでいるからです。 そして、領土問題や国民の生命・財産の安全保持という問題は、この危険思想と深く結 びあっている。そこにこの問題の深刻さがあるのです。 果たしてわれわれは、このような自覚をもっているのでしようか。私にはとてもそう だとは思えません。「領土問題は存在しない」とか、また逆に「毅然とした態度で」と かいう一一一口葉がこの自覚もなく口をついてでた時、それはいかにむなしく響くか。 われわれのこの能天気さをもたらしたものは二つあると思います。ひとつは、戦後日 本は、憲法と防衛という近代国家の二つの柱をともどもアメリカに委ねてしまっている、 つまり憲法制定をみずから行っていないからであり、またみずからがみずからの生命 財産を守ろうとはしていないからです。日本は、ここでいう「主権国家ーではない、と いうことになる。 そしてもうひとつは、われわれは、「主権」といい、「国民主権ーといい、「民主主義」

8. 正義の偽装

法とは何か」ということを問題にしているからなのです。 これも多少、憲法を知っている者なら、たちどころに次のような優等生の答えが返っ てくるでしよう。事実としての憲法とは、その国の統治機構 ( 政府や議会の形や政治・ 行政の手続きなど ) を定めたもので、規範としての憲法とは、国民がまもるべき規範の 最上位のものである。通常、多くの国の憲法はその両者を含んでいる、というのです。 もっともな答えです。しかし、今、問題にしたいことはこの秀才君的解答とはまった く違うことです。では私はいったい何を問題にしたいのか。 合 にそれはこういうことなのです。 の統治機構の形を定めるにせよ、国民の規範を定めるにせよ、憲法は、その国の最高の 本規範です。規範とは、われわれがそれに服し、それに従って行動するルールです。つま はりわれわれを縛り付けるものです。では、どうしてわれわれ自らがわれわれを縛りつけ 憲 るような規範を作り出し、それに対して絶対的な価値を与えることができるのでしよう 文 成 か。その根拠はどこからでてくるのでしようか。 五簡単にいえば、憲法というものをみんなが頭の上にいただいて、それに服従するとい う、その究極の正当性はいったいどこからでているのでしようか。 101

9. 正義の偽装

「カ」がでてくるのです。ところが日本はその「カ」を行使できないのです。 繰り返しますが、竹島、尖閣、それに北方領土も明らかに日本の領土です。しかし、 北方領土はロシアが支配しており、竹島は韓国が不法支配しており、尖閣は中国が領有 権を主張している。日本政府は特に尖閣について「領土問題は存在しない」という。こ れは正論なのですが、そういって問題を直視しないで済ますというなら、これはまった く誤りです。問題は現実に存在してしまっているのです。 領土を決定するものは何か。それは歴史的にある領土を支配するという事実だけでは なく、その事実を国際社会が承認する、ということです。当事国の承認は難しいとして も、国際社会がそれを承認、もしくは黙認しなければ真の意味で領土が確定したとはい えません。だからかっての日本の満州建国も、日本からすればいくら実効支配を確立し たといっても国際社会の承認がえられなかったのはやはり外交上の失敗ということにな その意味では、韓国は竹島について国際社会の承認が得られるという自信がないので しよう。だから国際司法裁判所への提訴にも応じないのでしよう。したがって、日本が それを国際社会へ訴えてゆくのは当然のことです。

10. 正義の偽装

み合わせが日本の政治を停滞させ、さらには日本社会から変革の志を奪いとってしま った、というわけです。 この政治の先送りや停滞を欧米では「ジャ。ハナイゼーション」といっているようです が、これはどうやら日本だけのことではなく、当の欧米も「日本化」が進行しているよ うで、こうなると、民主政治がどこの国でも何か機能不全に陥りつつある、ということ でしよう。とりわけ進行がはげしいのが日本だということです。 とすればこうなるでしよう。「民主主義というものにそもそも問題があるのか。そ れとも「日本社会」に問題があるのか。あるいは、「日本」と「民主主義」の組み合わ せに問題があるのか。 わたしは「民主主義ーという政治体制はたいへんに難しいもので大きな欠陥を孕んで いると思っています。「民主主義」がすばらしいものであるなどとまったく思いません。 しかし同時にまた、「民主主義」以外の政治体制を現状で採りえるとも思えません。 とすれば、なんとか民主主義を使いこなしてゆくほかないのですが、どうも「日本」 と「民主主義」の食い合わせはなかなか難しいものを孕んでいるように思えるのです。 へたをすればいつのまにか修復不可能な慢性疾患に陥りかねません。 こころざし はら