人間 - みる会図書館


検索対象: 無頼のススメ
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1. 無頼のススメ

かのマキャベリは『君主論』の中でこんなことを言っています。 「そもそも人間は、恩知らずで、むら気で、猫かぶりの偽善者で、身の危険をふりはら おうとし、欲得には目がないものだ」 「なにごとにつけても、善い行いをすると広一言する人間は、よからぬ多数の人々のなか にあって、破滅せざるをえないー ( 池田廉訳、中公文庫 ) 私は、「どうしようもない人、と周囲に言われるほど、その人が無用だと思うことは 生あまりない。むしろ、世間から善人と呼ばれる人を見ているほうが怖いところがある。 実際、「いい人、と呼ばれる人たちのほうが、よっほど大きな害をなすことがあるの 耡が世の中です。 人間の抱える悪を見つめる 昔、私の田舎にたいへんな荒くれ者揃いの漁村があって、ヤクザでさえもその町の連 、と一言うぐらいでした。あるとき、その村の漁師の一人が、 中は相手にしないほうかいし 707

2. 無頼のススメ

分かりやすい枠で理解しようとしていました。 しかし、人は理由もなしに平然と誰かを殺すことがあるのです。あらゆる殺人に理由 づけできると考えるのは、人間に対する考え方として表面的で浅すぎます。 近頃の世の中は、昔みたいにものすごく悪い人間も、徹底的に善い人間というのも少 なくなっているようです。みな平均的で行儀はいいかもしれませんが、そのぶん振幅が もなくて狭い中にいて、安心や安全を求めて生きている感じがします。 生小説の世界にもピカレスク ( 悪漢小説 ) と呼ばれるジャンルがある。それだって人間 学はゞ カ生来的に抱える悪というものへの理解、そういう部分って自分にもあるよな、と納得 ら できる部分がないと成立しないものです。 る 一般論として、ほとんどの女性や子どもが人間の悪を理解できないか、したがらない す を のは、生きものとしての性質がちがう以上、やむを得ないことだと思います。 何 邯でも、大人の男として独り立ちして生きて行こう、自分の人生に決着をつけようと考 人 : 殺人、戦争、 えるなら、世間の道徳とは違う、「人間の悪」を見つめなくてはならなしメ ノ 09

3. 無頼のススメ

まずい、歩かせようかと相手が考えそ、つなところ、べンチもキャッチャーも、チーム を引っ張ってきたエースに賭けて松井との勝負に出た。そして二階席に飛び込む特大の ホームラン、シリーズ制覇ーーーあらゆる流れと状況、選択と結果がかみ合わないとあの ときのはなかった。人間のカでは測ることのできない大きな力、才能と努力を超 えた運というものが作用しているとしか思えない場面でした。 の 野球に限らず、スポーツでは、何でこうなったのか、すごいな、としか一一 = ロえないよ、つ すなドラマが起こりうる。だから人々はスポーツを見るのだろう。 およそ人間のすることには、単なる偶発の繰り返しだけではとても説明のつかないよ 0 うな流れ、あえて言うなら神の介在とでもいうべきものがあるのではないかな。 し そ 能作家にも運がある 文学の世界でも、シェイクスピアの全集などを読むと、よくもまあ短期間にこれだけ 努 のテーマと密度で作品を書けるものだとっくづく思います。彼は本当に人間だったのだ 7

4. 無頼のススメ

程度の差こそあるでしようが、平然と他人をいじめることができるのが子どもの怖さ で、それは本来人間が持っている怖さでもある。その意味では、現実の人間というのは こうあるべきだと教えられる基準からしばしば外れるものだ、という事実を最初に知ら しめるものです。 近年の中学や高校でのいじめというのは、ネットを使った中傷とか、昔とは比べもの にならないぐらい陰湿で狡猾になったという話がしばしば報じられます。 しかし、いじめの根そのものを誰もが持っている以上、世の中に出てもなくなりはし ない。だから、要は怒れるかどうか。怒れれば、乗り切れるはずです。 る て 育弱くていじめられている子でも、プチ切れてやみくもに相手に突っかかっていくと、 を 人結果はどうあれ、ほんとうの怒りを前にしてみんなたじろぎます。 そ 先ほど教育で一番大事なのは「相手の痛みを知って泣けるか、思いやる感情を持てる 不かどうかーだと言ったのは、他人事にして逃げない気持ちを持てるか、という意味もあ 理 ります。私はいじめに遭っている子には、「怒れ、相手を許すな」と言った。そいつが

5. 無頼のススメ

「そんなの無理だ、やられちゃう」と言っても、「向かっていってやられたっていいんだ。 後のことは後で考えればいいじゃないか」。 そう言ったものでした。最近は、いじめを目にしたり、知っていたりしても、ほとん ど他人事として避けたまま学校を出てくるようです。いじめた側の人たちも、その後グ レてヤクザになるわけでもなく、意外と成績もよくて、けっこう名の知れた会社で真面 目なサラリー マン生活を送っていたりすることが多いという。 いずれにしても、いじめのような「基準からの逸脱は人間につきもので、現実の世 の中では、人は人を殺したりもする。そういうことがありうるのだと想像し、予測して 対応することを身につけなければいけないのです。 建前は裏切られる 学校的な教えというのは、数学的なものの考え方の初期みたいなものです。つまり、 いくらの買い物をすればお釣りがいくらかという当たり前のことからはじまって、ウサ

6. 無頼のススメ

しようとする姿勢が感じられない。それが空海を苛立たせ、ついには決裂してしまって いる。要するに、虚しく往きて、ということができなかったのだと思います。 世間からエリートと呼ばれるような人には、自分はもともと「持っている」という大 きな錯覚があって、東大なんか出ていると、社会に出ても自分は他人より優れているん だ、と頭から信じて疑わないところがあります。 裏を返せば、どこまで行っても他人の評価が基準になっていて、自分の基準で、「個 として考えることができない る 前にも言ったように、世の中で学校を引きずるのは幼稚なことです。その上もし学閥 ちみたいなものにすがって要領よく出世したいなんて考えるようだったら、二十年三十年 実 先に取り返しのつかないことになるのではないかな。 「そんなやつはほっとけ、ほんとうは屁の突っ張りにもならないことで最初から錯覚し 往 している人間に何もできっこないから 虚 そう言いたくなることもあります。でも逆に = 一一口えば、いま自分に「虚しく往きて」と 7 引

7. 無頼のススメ

「ここぞ」で頑張れるか かって私の父は朝鮮半島から海を越えて日本にやってくる人々のプロ 1 カーというか、 世話役みたいなことをしていました。朝鮮戦争もあり、かなりにしい時期もあったよう ですが、「山口の趙さんのところに行けば、滞在先から行きたい先まで切符もくれて、 何から何まで全部面倒を見てくれる」というので評判だったらしい そのせいか、前に父の世話になったという人がお金を持ってよく訪ねてきたものです。 けれど、父はまったくと言っていいほど、相手を覚えていませんでした。 る 「いいか、金で揺さぶられるな、金がないからといって誰かに揺さぶられるような人間 え 与 を にもなるな」 苦 それが父の口癖でした。一度たりとも小遣いをくれたことがなく、お祭りや何かの記 北念日があっても、五円や十円だってもらえない。だから、弟と一緒に落ちている釘を拾 わい集めてスクラップ屋に売って駄菓子屋に行っていたし、チビてすっかり短くなったエ ンピッでも、キャップを付けて書けなくなるまで使い切るようにしていた。

8. 無頼のススメ

もと鬼畜のような、自分たちとは違う特殊な人間だったから人を殺したのだと袋叩きに ししというものではない。人間はそれぐらいのことをやりかねな して、ただ遠ざければ、 どこかでそう考えられないとまずいと思うのです。 テレビに出てしたり顔でコメントしているような文化人は、社会正義をタテに話をし たがります。たしかに、「そういうところもあるのが人間です」なんて言ったら、抗議 るが殺到するにちがいない。しかし、殺人や戦争という行為に対して善悪と正義を持ち出 てすのは、何も言っていないにひとしいではないか、そう考えるのです。 生人間も社会も、それほど単純に割り切れるものではない。 抱城山三郎さんの『指揮官たちの特攻』の中に、特攻に出撃する前の晩に料亭に集まっ かもい 」た兵隊たちが、床の間から鴨居まで、部屋中いたるところに軍刀で斬りつける場面が出 てきます。上から命じられるままに従順そのものだった若者たちが、明日は必す死ぬと でいう現実を前にして、異様な精神状態に入っていった。明日の死を命じる側も命じられ 誰 る側も、人間とは哀しい生きものだとっくづく思います。 月 7

9. 無頼のススメ

するに、これまでいかにも技術を尊んできたのは小理屈であって、人間が作る技術とい うのは実はそれほど確かなものではない、 屋しいものだというのです。 私も、これまで人類が発明してきた画期的な新薬、文明を一歩も一一歩も進めてきた技 術を全否定するつもりはありません。でも一番大事なのは、果たしてそれが人類にとっ て本当に必要で有用なのか、ということだと思います。 ミクロン単位でべアリングを作るよ、つな技術も、人類がここまでは来ました、とい、つ 成果の一つぐらいに考えたほうがいい 。原子力技術も、人間のカで制御できなくなった り、廃棄物が手に負えなくなったりするなら、経済的な面だけを見て有用だとは言えな いだろう。同じように結論の見えないのは原子力だけでなく、他の様々な先端技術にも ついて回ります。 技術とは、人間が信じるほどのものではなくて、実は曖昧で無責任なものではないか。 技術革新と進歩には夢があるように聞こえるけれど、技術を盲信するのは人間として 堕落しているということではないか。私は、人類みんなが横並びで進んでいくような技 174

10. 無頼のススメ

安心・安全なんてあるものか マキャベリの言葉ではありませんが、人間というのは得手勝手で危険な生き物だと察 知しておかなくてはいけない。そうでないと、何か思わぬことが起こると驚いて慌てふ ためいてしまうし、それは自然にも通じることです。 いや、それが人間だろうよ。 それが、自然というものだろうよ その覚悟を持っておくことです。