資本ストック - みる会図書館


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1. 経済セミナー 2014年12月・2015年1月号

ないので、財市場の均衡条件式は = Ct 十ム になります。 ( 4 ) 式を ( 7 ) 式に代入すると、 St = ム ⑧ ( 7 ) るのか、順を追って計算してみましよう。 現在第 0 期、つまり、変数の添字は一 = 0 だと します。今年の所得の源は今年の生産活動です。 したがって、 ( 1 ) 式ならびに乙 = 石 = 1 より、第 を得ます。これは連載第 3 回目 ( 6 ) 式と同一です。 第 3 回では議論がここで終わっていましたが、今 回は、「投資によって来期以降の生産活動に利用 可能な資本ストックを増加させて経済を成長させ る」というメカニズムを明らかにしていきます。 「投資」はフロー概念ですが、投資には対応する ストック概念があります。それは、生産要素の 1 つである「資本」です。投資と資本の関係は次の 0 期の生産水準は 新 = AK{ ( 11 ) 式を見ると明確になります。 Kt+l = ム十 ( 1 ーö ) K ー ⑨ こで、öを資本減耗率 (depreciation rate) と呼び、öは 0<ö<1 を満たす定数です。⑨式は 資本蓄積 (capital accumulation) を表すと ても重要な式です。右辺は「今期利用した生産設 備んに新規の設備投資ムを行うことで来期の生 産設備が増えるが、摩耗や陳腐化による資本減耗 によってöKt の分は来期には利用できなくなっ ている」という意味です。 ⑨式を⑧式に代入すると、 St=It= ( ん + 1 ーん ) 十öK ー ( 10 ) になります。貯蓄は、来期の資本供給量を増加 ( ん + 1 ーん ) させるために利用される一方で、今期 減耗してしまう資本の穴埋め (öKt) にも使われて いることが読み取れます。 なお、フロー概念の貯蓄にも対応するストック 概念があり、それを「資産 (asset) 」または「富 1 .4 今期から来期へ うべきです。 使われますが、厳密には「資産を取り崩す」とい 指します。「貯蓄を取り崩す」という表現がよく 貯蓄とは「家計が資産を追加する活動」のことを (wealth) 」と呼びます。したがって、正確には、 今年の所得から出発して、来年の所得がどうな 目から前回までの集大成になっているのです。 ください。その意味で、今回の分析は連載第 1 回 て前回までに登場しているという事実に注目して 資本蓄積を表す⑨式のみで、それら以外はすべ した。新しい式は貯蓄の決まり方を示す ( 5 ) 式と 以上で経済成長理論の方程式はすべてそろいま となります。第 0 期に利用可能な資本ストックの 量 KO は正の定数であると仮定します。これを初 期資本と呼びます。初期資本がどのように経済に 出現するかについては分析の対象外です 3 ) 。 今年生産された財やサービスの総量は財市 場を通じてすべて売られます ( ( 7 ) 式 ) 。売れ残り がないように市場が調整するので、売上高を数量 単位でみると、当然産出量の新と等しくなりま す。これが要素市場を通じて家計の所得になりま す。家計は得た所得のうち s の割合を貯蓄に回し ますので、⑤式より貯蓄量は SO = s 必 0 = sAK{ です。貯蓄は金融市場を通じて投資になります ( ⑧式 ) ので、来年使用可能な資本ストックがそ の分増加しますが、他方で既存の資本のうちの 割合は減耗してしまいます。 したがって、⑨式より、第 1 期に利用可能な資 年 ( = 第 1 期 ) の産出量は になります。その結果、 (I) 式と石 = 1 より、来 KI = sAK{ 十 (I—ö)Ko 本ストックは ( 13 ) ( 12 ) しましたが、経済はその後も第 2 期、第 3 期と活 前節では第 0 期から第 1 期への経済成長を説明 2 グラフでモデルを動かす 加される。 ・投資によって来期利用可能な資本ストックが追 の生産量が大きくなる。 ・今期利用可能な資本ストックが大きいほど今期 ポイントは 2 つです。 ソローモデルに関しておさえておきたい重要な るかどうかは資本減耗率の大きさに依存します。 ているはずです。一般には、本当に資本が増加す ックが必ず増加しますので、産出量も必ず増加し sAK{ 十 KO > KO なので、投資によって資本スト となります。もしも資本減耗がなければ、 KI DECEMBER 2014/JANUARY 2015 THE KEIZAI SEMINAR 73

2. 経済セミナー 2014年12月・2015年1月号

図 4 ー十 1 s K} 十 ( 1 図 6 Kt ー十 1 KI ー十 1 Ko 図 5 s K} 十 ( 1 Ko 図 7 定常状態 s K} 十 ( 1 45 度線 45 度線 sAKa 十 ( 1 ー 5 ) KI す。すでに縦軸における KI の位置がわかってい るのでそれを利用しましよう。 図 6 では「 45 度線」をグラフに追加しています。 これは縦軸の変数を横軸に移動させたいときに便 利な補助線です。縦軸の KI の目盛から水平に右 に進み、 45 度線とぶつかったところで真下に向か って進むと、その場所は横軸上の KI になってい ます。横軸に KI があれば、 K2 の値はたちどころ にわかりますので、これを繰り返すと、初期資本 KO を任意に与えれば、その後は KI 、 K2 、 K3 と、 次々に将来時点における資本ストックの値が得ら れるのです。 実際にその様子を示したのが図 7 です。時間の 経過とともに資本ストックが増加していくことを 確認できます。資本ストックの増加の仕方に注目 KI KI してください。 KO から KI にかけては資本スト ックが大きく増加していますが、その増加幅と比 べると、 KI から K2 にかけての資本ストック増加 幅は小さくなっています。この性質は資本の限界 生産力逓減という性質によるものです ( 連載第 2 回の性質 2 ) 。この性質を具体的に表現したのが 生産関数の 0 < 住 < 1 という仮定です。 資本の増加幅が次第に縮小していきながらも資 本ストックは増加を続けます。その結果、経済は 徐々に減速しながら最終的にはほとんど動きのな い状態に「限りなく近づいて」いきます。その行 き先のことを定常状態 (steady state) または 長期均衡と呼びます。時間の概念を含むマクロ経 済モデルを分析する際には必ず登場する重要な概 念です。定常状態の定義は「その値を初期値にす ると永久にその場を離れないような状態」です。 DECEMBER 2014/JANLIARY 2015 THE KEIZAI SEMINAR 75

3. 経済セミナー 2014年12月・2015年1月号

図 2 sAxa ( 1 ー 5 )x 動を続けます。どの期から議論を開始してもその 内容は変わらないので、ある任意の第乙期から次 の第叶 1 期にかけての経済活動を描写してみま しよう。利用する式をまとめておくと、 ①生産関数 : = 員 K に夜 ②労働投入 : 乙 = 石 = 1 ③資本蓄積 : ん + 1 = 石 + ( 1 ーん ④貯蓄行動 : St = sYt ⑤金融市場均衡 : St = 石 資本蓄積方程式に他の式を次々と代入していく 図 3 と、 ん + 1 = s. 員 K 十 ( 1 ーö ) ん ( 14 ) を得ます。なお、この式に一 = 0 を代入すると ( 12 ) 式を得ます。 ( 14 ) 式をよく見ると、右辺は ん以外が定数なので、んの値を右辺に代入する と、たちどころにん + 1 の値がわかってしまうの です。このような構造の方程式を差分方程式 (difference equation) と呼びます。差分方 程式を使うと、資本ストックなどの経済変数が時 間を通じてどのように変化していくかを簡単に図 示できます。 早速 ( 14 ) 式を図にしてみましよう。右辺も左辺 も資本ストックに依存する形になっていますが、 右辺と左辺では時点が異なりますので、作図の際 には、異なる時点の変数は別の変数とみなすこと にします。 ( 14 ) 式の場合、ん + 1 を一時的に必ん を一時的に % とみなすと、 ( 14 ) 式は ( 15 ) のグラフを書けばよいことがわかります。 となるので、縦軸を必横軸を工として ) , = / 朝 関数 / 朝は 2 つの項の和になっています。第 1 項目だけを図にすると、原点を通る右上がりの グラフを得ます ( 図 2 ) 。このグラフは直線では なく、原点付近では傾きが急で、ェの値が大きく なるにつれてグラフの傾きがゆるやかになってい ます。これは住が 0 < 住 < 1 を満たす定数である ことが原因です。その背後にある仮定は「資本の ていげん 限界生産力逓減」です。第 2 項目は ( 1 ーö)x なの で、図示すると原点を通る右上がりの直線になり ます ( 図 3 ) 。資本減耗率öは 0 < ö< 1 を満たす ので、グラフの傾きは 1 未満です。 ( 15 ) 式右辺を作図するためには図 2 と図 3 の 「和」を作図する必要があります。作業のイメー ジは、図 3 のグラフ上に図 2 を「乗せる」です。 その結果得られる新しいグラフは図 2 のグラフの 傾きを全体的に少し急にしたものになりますので、 結局図 2 と見た目はほとんど変わりません。以上 の作業を踏まえて ( 14 ) 式を図にしたのが図 4 です。 図 4 のグラフの縦軸も横軸も、単位は「資本ス トックの量」で、横軸は任意の時点における資 本ストックの量を代入することができます。ただ し、縦軸は必ず「横軸の次の期」の資本ストック である必要があります。たとえば、第 0 期の資本 ストックを横軸に与えてみましよう。横軸に KO を ( どこか適当に ) 与えると、その点から真上に 進んでグラフとぶつかったとき、その高さが KI 、 すなわち第 1 期の資本ストックです ( 図 5 ) 。 では、第 2 期の資本ストックはどうすれば図示 できるでしようか ? K2 を知るためには横軸に おける KI の位置を「正確に」知る必要がありま 74 THE KEIZAI SEMINAR DECEMBER 20144AN し ARY 2075

4. 経済セミナー 2014年12月・2015年1月号

したがって、図では、差分方程式を表現したグラ フと 45 度線の交点によって与えられます。 定常状態における資本ストックの量を計 算しなさい。 定常状態はグラフの交点で与えられるの 解答 で、交点における資本ストックの量を計 算すればよいということに気がつけば簡単なはす です。差分方程式は ( 14 ) 式で与えられています。 45 度線は「縦軸の長さ = 横軸の長さ」なので、式 にするとん + 1 = んですね。ん + 1 = んを言い換 えると「どの一においても資本ストックの量は不 変」なので、添字の一を取り払い、定常状態にお ける資本ストックを K で表すことにします。 ん + 1 = K とん = K を ( 14 ) 式に代入すると、 例題 1 K = s 員 KQ 十 ( 1 ーあ K ( 16 ) を得ます。これは K に関する方程式です。ます、 両辺に K があるので öK = sAI€a ( 17 ) と式を短くできます。図 7 より K > 0 なので、 ( 17 ) 式の両辺を K で割ると、 ö = sAI€a- ( 18 ) を得ます。さて、あともう少しです。どうすれば K = の形に ( 18 ) 式を変形できるでしようか。ま すは K に関する項とそれ以外を左辺と右辺に分 けます。具体的には、 ( 18 ) 式の両辺をöで割り、 さらにその両辺に K 1 ーを掛けます。すると ( 19 ) を得ます。最後は ( 19 ) 式の両辺を「 1 / ( 1 ーあ乗」 すれば の量です。 ( 20 ) を得ます。これが定常状態における資本ストック 例題 2 定常状態における産出量を計算しなさ 状態における資本ストックが ( 20 ) 式で与 解答 これは例題 1 の解答を利用します。定常 76 THE KEIZAI SEMINAR 入することで えられるので、この値と乙 = = 1 を (1) 式に代 (21) を記録するために残しておきます。最初に AI と 入力するために残しておき、 A の列は変数の時点 を新規作成してください。 1 の行は変数の名前を まずは工クセルを立ち上げて「空白のブック」 デルを動かしてみたいと思います。 こでは実際にェクセルを使ってモ が可能です。 ルなどの表計算ソフトによってシミュレーション モデルが動く様子を見たい」という場合、工クセ 覚的に私たちに伝えてくれていますが、「もっと 図 7 はマクロ経済モデルが動いている様子を視 3 工クセルでモデルを動かす 常状態は、通常は経済分析の対象外です。 を「不安定な定常状態」と呼びます。不安定な定 から遠ざかってしまう、そんな定常時状態のこと しても、時間の経過とともに経済がどんどんそこ に、どんなに定常状態の近くに初期値を与えたと づいていく」ことです。逆に、図 7 の原点のよう であっても、時間の経過とともに経済がそこに近 の定義は「初期値 ( たとえば初期資本 ) がどの値 安定 (stable) であるといいます。なお、「安定」 きが 45 度線よりも緩やかなとき、その定常状態は 式のグラフと 45 度線との交点におけるグラフの傾 という議論を通じて行います。一般に、差分方程 いけるかどうかという問いは「定常状態の安定性」 経済が時間の経過とともに定常状態に近づいて ないのです。 経過とともに経済がそこに近づいていくとは限ら です。しかし、定常状態だからといって、時間の 実は、定義上、原点もこのモデルの定常状態なの う条件を満たしていることに気がっくと思います。 矢印で示している点の他に、原点も「交点」とい 度線の交点が定常状態ならば、図 7 をよく見ると、 ここで少し細かい話をしましよう。グラフと 45 生産量が大きくなることがわかります。 小さいほど、定常状態すなわち長期均衡における 素生産性が高いほど、そして資本減耗率öが わち実質 GDP です。 ( 21 ) 式から、貯蓄率 s や全要 を得ます。これが定常状態における産出量、すな DECEMBER 2074 / 於Ⅳ LIARY 2 5

5. 経済セミナー 2014年12月・2015年1月号

図 10 即日わ・ ci@ ホーム ! 物入 ページレイアウト数式データ校問表示 , 11 、Ä・ MS P ゴク ・ % , 彰テーカ 鮎り付け = = 住圉・も効冫 ケルプボード G32 : 田 2 第 032 * 田幻 D32 イ 1 ー田 2 ト田 2 8 ) 灯 ; ー E 気谷 - ー ファイル 8 0.1 1 1 .16 425351 1 .16 1 317457 0.1 簒 1 31 7457 1 .471262 0.1 1 .471 262 1 .62811 0.1 1 .62 ( 1 1 1 764933 0.1 1 764933 1 .93839 0.1 1 .93839 2.3784 0.1 2.037 ( 84 2.164534 0 町 2.164534 2286144 0 、 1 2286144 2 。 401934 0 、 1 2.401934 251 1979 0 、 1 2 、 511979 2.616395 0 、 1 2 、 616395 2715328 0.1 憂 2715328 2.8 946 O.IÉ 288946 2 B97436 0.1 2 、 897436 2.98C992 0 、 1 2 、 98892 3.89819 0 、 1 3 、 89819 3.134123 0 、 1 3.134123 = 3204111 0 、 1 328111 326999 0.1 326999 3331964 0.1 3 331964 339 31 0.1 3390231 3 444986 0.1 3.444986 3496416 0.1 3.496416 3.5447 ( 0.1 354478 359 2 0.1 359 な 2 3.632539 0.1 3.632539 3.672415 0 お 3.672415 378802 0.1 37 ( 8 ( 3744847 0.1 ぅ 3744847 3777687 6 よっ 4 、 0 4 ( 1 ・ 0 、 ~ 8 0 ・ 1 ・ 1 1 ー・ 1 1 1 、よ 1 っ 4 っ 4 0 1 2 3 4 5 6 フ 8 9 0 1 靆お 4 6 7 四 Kt - リ 1 っ← ( 0 4 新ジ“ 0 1 を 8 0 0 1 っ 4 3 4 5 “ 0 7 8 0 》 0 1- 2 4- 6 っ ~ 8 9 0 4 ー 1 ・ 1 1 、 1 、 1 、一 1 1 1- 1 ・つ 4 っ 4 つも 0 0 04 ク一 04 04 《 0 034 034 034 034 034 034 034 034 034 034 034 034 034 034 034 034 03 キ 034 034 034 034 034 034 034 034 034 034 034 034 034 034 026 026 026 026 026 026 026 026 026 026 026 026 026 026 026 026 026 026 026 026 026 026 026 026 026 026 026 026 026 026 026 この経済における産出量、貯蓄、投資、 に資本ストックの全時点における値がすでに判明 例題 5 消費、実質賃金、ならびに資本レンタル していると考えることができます。産出量が判明 価格の時間を通じた推移を計算し、工クセルでそ すれば、 ( 5 ) 式より れらの時系列データを作図しなさい。 ( 26 ) St = s = sAKta を得ます。金融市場の均衡条件式⑧より、投資 今までは資本ストックの時間を通じた推 も同じくム = sAKta になります。消費は⑦式よ 解答 移を見てきたのですが、資本以外のマク り ロ経済変数についても簡単に時系列を得ることが Ct = 務ーム = K ー s K = ( 1 ー s ) K できます。考え方は、すべての変数について最初 から作業を行うのではなく、 ( 14 ) 式ですでに資本 です。実質賃金ならびに資本レンタル料は、連載 ストックの時系列が得られているという事実を活 第 2 回目の ( 11 ) 式ならびに ( 12 ) 式 ( または公式 1 用し、それぞれの得たい変数と資本ストックとの 代表的企業の利潤最大化条件、ユ K = な 関係に着目することです。たとえば、産出量の場 MPL=wt) を使います。以下再掲すると、 合、 ( 1 ) 式ならびに乙 = = 1 より = 磁 4K 1 乙 1 伐 劭 = ( 1 ー住 )AK ん = 員 K です。したがって、乙 = = 1 より、 と書き換えれば完了です。 ( 25 ) 式だけを見ると、 産出量の時系列データが得られたように見えませ れ = 住 K んが、 ( 14 ) 式の存在を前提とすると、図 10 のよう 劭 = ( 1 ー住 ) K DECEMBER 2014/JANLIARY 2015 THE KEIZAI SEMINAR 79 ( 27 ) ( 28 ) ( 29 ) ( 25 ) ( 30 ) ( 31 )

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を得ます。連載第 1 回目において、成長率はグロ ス成長率から 1 を引いたものに等しくなることを 示しましたので、 こでもその結果を利用します。 = ⅵ K 1 + ( 1 ー つまり、任意の第一期における実質 GDP 成長率は ー十 1 ( 34 ) を得るので、これを ( 33 ) 式に代入します。その結 果、 = ( ⅵ K 1 + ( 1 ー ) 广 ー十 1 ( 35 ) + 1 ー + 1 ー 1 = ( ⅵ皹ー 1 + ( 1 ーö ) 广ー 1 ( 36 ) 4.2 人口成長 こではソローモデルに人口成長を導入します。 分析をいたすらに複雑化させないために、 は以下の仮定を設けます。 仮定 3 ) 労働供給量は生産年齢人口に等しい 本来、マクロ経済全体の労働供給量は「 1 人当た り労働時間 x 就業者数」ですが、 1 人当たり労働 時間を 1 に基準化し、失業の存在を無視すると、 生産年齢人口 (working-age p 叩 ulation) を労働供 給量であるとみなすことができます 4 ) 。 より具体的には、 ( 6 ) 式を以下の式と差し替え と書き表すことができます。最後は ( 36 ) 式の右辺 をんで微分します。連載第 1 回目に登場したチ ェイン・ルールを活用すると、計算結果は = 気ⅵ K 1 + ( 1 ーö ) ) 。ー 1 x ー 1 ) ⅵ K 2 DKt ( 37 ) であることがわかります。住が 0 < 住 < 1 を満たす ので、を D ん < 0 であることが確認できます。 時間の経過とともにんの値は増えていきますが、 DgtY/DKt < 0 の結果、資本の増加に伴って実質 GDP 成長率は減少してしまいます。つまり、時間 の経過とともに、実質 GDP 成長率は減少すること を証明できました。さらに、資本ストックが徐々 に定常状態の水準に近づいていくので、 ( 18 ) 式よ り sAI€a- = が満たされるような状態に徐々に 近づくことがわかります。これを ( 36 ) 式に代入す ると、右辺がゼロになることが確認できます。つ まり、経済がどんどん定常状態に近づいていくと、 実質 GDP 成長率がどんどんゼロに近づいていく のです。 定理 1 はとても重要な結果です。確かにどんど ん投資を行うことで資本が蓄積し、産出量ひいて は生活水準が上昇するので、高度成長を生み出す ことは期待できるのですが、経済成長率はどんど んゼロに向かって減少してしまうので、私たちは 「設備投資による資本蓄積を通じた経済成長」と いう成長戦略に永続的に頼ることはできないので す。 ます。 乙 = Nt ( 38 ) こで、は第乙期における人口です。 ( 38 ) 式は 「労働需要量 = 労働供給量 ( = 人口 ) 」となってい ます。第 2 節の②を ( 38 ) 式に変更するので、その 結果、 ( 14 ) 式は ん + 1 = s K 伐十 ( 1 ーö ) ん ( 39 ) へと変更されます。さらに、人口成長を表現する ために、以下の差分方程式を追加します。 川 + 1 = ( 1 + 9 Ⅳ ) ( 40 ) こで、 g Ⅳは人口成長率を表す定数です。この 数学的構造は連載第 1 回目の⑦式 ( = ( 1 + の助ー 1 ) と同じです。 このままでは 2 本の差分方程式を分析する必要 がありますが、生産関数が「規模に関する収穫一 定」という性質を持つおかげで、分析を再び 1 変 数の差分方程式体系に戻すことができます。その ために、 ( 39 ) 式の両辺を ( 40 ) 式の両辺でそれぞれ 4K Ⅳに夜十 ( 1 ーö ) ん 割ってみましよう。すると ー十 1 ( 1 + ) ( 1 ーö ) ん sA ( 1 十 gN ) ー 1 十 十 となります ( 1 + g Ⅳ ) ( 42 ) ( 41 ) 1 十 g Ⅳ Nt 1 ーöん と定義します。んは経済全体の資本ストックの量 を労働者数で割っていますから、その意味で資本 労働比率または資本装備率と呼ばれています。 資本労働比率を使って ( 41 ) 式を書き換えると、 1 十 gN 1 十 0 s 員十 ( 1 ーん 1 十 g ル DECEMBER 2014/JANLIARY 2015 THE KEIZAI SEMINAR 81

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図 9 ) 掲入ページレイ乃ト数式データ校関表示 MS P ゴうク ヂ , % , 彰たプル り何け ・住重・彰効ス ケルプード宿 灯ー Ex ( 谷 1 2 3 4 5 5 7 8 今加ー 1 1 1 1 れ 2 026 026 026 026 026 026 026 026 026 026 026 026 026 026 026 026 026 026 026 026 026 026 026 026 026 026 026 026 026 026 010-0 ) 4 ・ 0 、 0 1 ・ 8 - リ 1 の ( 0 -4 》・ 0 7 8 9 、 1 2 3 4 6 7 30 … ~ - 026 0 0 0 0.0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 , 0 0 034 034 034 034 034 034 034 034 034 034 034 034 034 034 034 034 034 034 034 034 034 034 034 034 034 034 034 034 034 034 034 こまで来れば、残りのセルは工クセルのオー Enter キーを押せば完了です。しかし、この記述 トフィル機能で入力してしまいます。最初に F3 方法の場合、計算が終わった後でモデルの定数の のセルにカーソルを合わせて右下の小さな四角を 値を変更したくなったときに不便なので、より一 下に F32 のセルまでドラッグします。この段階で 般的に はすべてのセルに「 0 」が表示されているはずで = B2 * C2 * F2 ^ D2 十 ( 1 ー E2 ) * F2 ( 24 ) とします。 Enter キーを押すと、 1 . 16 という計算 す。それはまだ参照したい隣の列が完成していな いからです。 G2 のセルにカーソルを合わせ、右下 結果が G2 のセルに表示されたはすです。 の四角を下に G32 のセルまでドラッグしてくださ い。これでシミュレーションが完了しました。正 この段階で、 KO と KI まで進みました。 K2 は しく作業ができていれば図 10 のようになるはずで どう計算すればよいのでしようか。図 6 において 45 度線を使って縦軸の値を横軸に下ろす作業を行 す。 図 10 には第 0 期から第 30 期までの資本ストック ったことを思い出してください。同じような作業 の量がリストとして記述されていますが、正確な を工クセルでも行います。それが F3 のセルです。 数字はわかるものの、なかなか視覚に訴えてきま F3 のセルは第 1 期におけるんの値に対応してい せん。そこで、計算結果を時系列データとみなし ます。つまり KI ですね。すでにこの値は G2 で計 て図にしたのが図 11 です。資本ストックが定常状 算済みですから、これをそのまま使いましよう。 態の値に次第に近づいていく様子がはっきりとわ F3 のセルに かりますね。 = G2 と入力して Enter キーを押せば、 1 . 16 と表示され るはずです。 78 THE KEIZAI SEMINAR DECEMBER 2014/JANLIARY 2015

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いうセルにたとえば「 t 」と入力します。これが A の列の変数名です。次に A2 というセルに「 0 」 を入力してください。 A3 のセルに「 = A2 十 1 」と 入力後に Enter キーを押すと、 A3 のセルには「 1 」 と表示されます。こまで終わったら、 A3 のセ ルにカーソルを合わせてください。よく見ると、 カーソルの右下に小さな四角があるはずです。 の四角にマウスポインタの先端を合わせて、そこ から真下に A32 までドラッグして指を離してくだ さい。 A の列に 0 から 30 まで入力されたはすです A の列が完成したら、次は変数名を 1 行目に入 力します。 BI から順に「 s 」「 A 」「住」「ö」「 Kt 」 「 Kt + 1 」「 K 」と入力してください。ギリシャ文 字は「挿入」タブの中から「記号と特殊文字」を 選んで「 symbol 」のリストから見つけてください。 面倒な場合は変数名を「 alpha 」や「 delta 」とすれ ば十分です。 次にモデルの定数にその値を代入します。本格 的にシミュレーションする場合には、日本経済に 合うように真面目に定数の値を選ぶ必要がありま すが、この段階ではあまり難しく考えず、とにか くモデルを動かして楽しみましよう。ここて使っ 定数の値は以下の通りです。 モデルの定数に加えて、もう 1 つ、私たちモデ ル分析者が決めなければならない定数があります。 s = 0.26 , = 1 , 住 = 0.34 , ö = 0.1 では、これらの値を工クセルで入力しましよう。 それは初期資本 KO の値です。この値は基本的に は任意に与えてよいのですが、図 7 のように、資 B2 のセルから順に「 0.26 」「 1 」「 0.34 」「 0.1 」と 入力してください。 E2 のセルまで埋まったはず 本ストックが増加していってほしいので、 です。最後に、 B2 から E2 までのセルをすべて領 KO < K = 4.25 の範囲内で選びたいと思います。 域指定して、カーソル右下の四角をドラッグして こでは KO = 1 としておきます。したがって、 F2 のセルに「 1 」を入れてください。以上の作業 32 のセルまで自動入力します。 が終わると図 9 の状態になっているはずです。 ( 22 ) 式で与えられた定数を用いて、定常 以上で準備が完了しました。 こからは実際に 差分方程式をェクセルで解いていきましよう。 状態における資本ストックの量を計算し G2 のセルに入力すべき式を書きなさい。 例題 4 図 8 MS P ゴ : ク・ 11 イル 文字文字 ←ここをドラッグ ( 図 8 ) 。 7 ( 22 ) 例題 3 なさい。 ( 22 ) 式で与えられた定数の値を ( 20 ) 式に 代入します。すると 0.26 x 1 ト 0.34 ( 23 ) = 4.25 を得ます。この計算は一見難しそうですが、 工ク セルを使えば簡単にできます。 H2 のセルに = ( B2 * C2 / E2 ) ^ ( 1 / ( 1 ー D2 ) ) と入力して Enter キーを押せば終わりです。 解答 G2 のセルは第 0 期におけるん + 1 なので、 KI を計算するセルであることがわかり ます。したがって、 ( 12 ) 式または ( 14 ) 式を工クセ ルの計算式に変換すればよいことになります。初 期資本のセルは F2 なので、 G2 のセルには 「 = 0.26 * 1 * F2 ^ 0.34 十 ( 1 ー 0.1 ) * F2 」と入力してから DECEMBER 2014/JANLIARY 2015 THE KEIZAI SEMINAR 77 解答

9. 経済セミナー 2014年12月・2015年1月号

仮定 1 ) 政府と外国の存在を無視 仮定 2 ) 家計の貯蓄率が一定 すでに解説した内容については、こでは詳細 を省略しますので、読者の皆さんはぜひ連載第 1 ~ 3 回 ( 2014 年 6 ・ 7 月号 ~ 2014 年 10 ・ 11 月号 ) を参照しながら読み進めてください。連載第 2 回 目と第 3 回目同様、以下では、すべての変数は数 量単位になっています。 1 . 1 代表的企業の活動 代表的企業による生産活動や要素市場における 所得分配は連載第 2 回目の内容と完全に一致して いますので、詳しくはそちらを参照してください。 復習を兼ねて、こでその概略をまとめておきま す。日本全体の生産量、すなわち実質 GDP を務 として、日本経済の生産技術を以下のコプ = ダグ Ct 十 St= 務 ( 4 ) となります。代表的家計は国内の産出量 ( = 実質 GDP) 全体を所得として受け取り、それを消費し、 残りを貯蓄するのです。したがって、貯蓄の定義 は「ある期の所得のうち消費しなかった分」であ るといえます。右辺は実質 GDP であり、年間など 期間を区切って計測した値なので、「フロー変数」 です。フローで発生した所得の使い道が消費と貯 蓄だといっているので、「貯蓄」はフロー概念で あることがわかります。 家計はどのように所得を消費と貯蓄に分配する のでしようか。最初におさえておきたい事実は、 ④より、「消費量を決めれば貯蓄量が決まり、貯 蓄量が決まれば消費量が決まる」ということです。 したがって、分析ではどちらか一方に着目すれば 十分なので、以下では貯蓄を見ます。仮定 2 は、 家計は所得の一定割合を貯蓄することを意味する ラス型生産関数によって記述します。 = K 「乙 1 ( 1 ) ので、これを式で表すと、 St = sYt 連載第 2 回目の ( 3 ) 式と④式を参照してください。 員は TFP ( 全要素生産性 ) 、んは資本ストック、 乙は労働投入量です。 今期の産出量は財市場を通じてすべて販売 されますので、代表的企業が得る収入は数量単位 でになります。連載第 2 回目の公式 2 : 完全 分配より、代表的企業の収入は資本所得と労働所 得という形で家計に分配されます。すなわち、 ( 5 ) = れ K ー十 2 乙 ( 2 ) となります。れんは実質資本レンタル価格 x 資本 なので資本所得、肥ムは実質賃金 x 労働時間なの で労働所得です。仮定 1 より、資本はすべて国内 の家計が保有します。 財市場や金融市場を通じて家計がどのように活 動しているのかについては連載第 3 回目で詳しく 解説していますので、詳細はそちらを参照してく ださい。以下、概略をまとめます。代表的家計は、 財市場において消費者、すなわち「買い手」とい う役割を果たしています。家計が今期行う貯蓄を 1 .2 代表的家計の行動 St とすると、家計の予算制約式は Ct 十 St = 2 仇乙十れ K ー ( 3 ) と書くことができます。仮定 1 より、家計は外国 資本を保有していません。 ( 2 ) 式を使って ( 3 ) 式を書き換えると、 となります。 s は貯蓄率で、 0 <s < 1 を満たす定 数だと仮定します ( 貯蓄率が 0 だと家計はまった く貯蓄をしません。また、貯蓄率が 1 だと家計は まったく消費をしなくなります ) 。 貯蓄率が一定なので、所得の大小などの経済状 況にまったく関わりなく、家計は所得のうち s の 割合を貯蓄します。このような機械的な意思決定 ルールは現実的な仮定ではありませんが、分析の 難易度を劇的に引き下げてくれるとても便利な仮 定です。 家計は労働市場を通じて企業に労働力を提供し ています。労働供給行動を集約したものを労働供 給関数と呼び、それをグラフにしたものを労働供 給曲線と呼びます。こでは、連載第 2 回目と同 様に、労働供給量は一定であると仮定します。す を仮定します。は正の定数です。これは連載 乙 = ん なわち、 ( 6 ) 仮定 1 より、この経済には政府も外国も存在し 1 .3 投資と資本蓄積 に単純化します。 く影響を及ばさないので、以下では石 = 1 とさら 水準で一定なのかという点は以後の議論にまった 第 2 回目の ( 22 ) 式と同一です。労働投入量がどの 72 THE KEIZAI SEMINAR DECEMBER 2()14/JANLIARY 2015

10. 経済セミナー 2014年12月・2015年1月号

第 4 回 テーマ別で じっくり攻める , 連載 こではソローモデルと呼ばれる経済成長理論 1 資本蓄積と経済成長 ロ経済の時間を通じた動きをモデル化します。 た分析を 1 つの理論体系にまとめたうえで、マク るために、連載第 4 回目の今回は、今まで登場し でしようか。経済成長のメカニズムを明らかにす 済はいったいどのようなメカニズムで成長するの に伴う生活水準の上昇を経済成長と呼びます。経 。このような長期的な産出量の増加とそれ から 2010 年にかけて産出量が 27 倍にまで拡大しま GDP の推移を示しています 1) 。日本経済は 1950 年 図 1 は 1950 年から 2010 年までの日本の実質 経済成長 入門マクロ経済学、 : 権的取引の経済学』 ( 共著、東京大学出版会 ) ほか。 学院経済学研究科准教授。著書 : 「サーチ理論ー一分 大学院経済学研究科助教授、 2007 年より北海道大学大 講師、関西大学経済学部講師、同助教授、北海道大学 博士 (Ph. D. , 経済学 ) 。一橋大学大学院経済学研究科 ク州立大学バッファロー校経済学研究科博士課程修了、 1973 年生まれ。立命館大学経済学部卒業、ニューヨー ん / イ N / 4 走 4 初級 M A C RO E C 0 N 0 M I C S 工藤教孝 4.5 4 3.5 3 2.5 1 0.5 0 図 1 日本の実質 GDP の長期的推移 1950 1960 1970 1980 1990 2000 2010 ( 年 ) を解説します。ロバート・ソローによって開発さ れたソローモデルは経済学の歴史上最初に成功を 収めた経済成長モデルとして知られており、現在 でも、マクロ経済分析の基礎理論として活用され ています。基本的な世界観はこれまでに連載で解 説してきたものとまったく同じなのですが、これ まで時間を通じて変化のなかった資本ストックが、 今回は投資によって拡大していくという新しい要 素が加わります。その結果、実質 GDP ひいては生 活水準が時間を通じて向上していく様子をモデル で表現できるようになるのです。 なお、ソローモデルでは、分析の難易度を引き 下げるために、以下の 2 つの仮定を追加します。 DECEMBER 2014/JANLIARY 2015 THE KEIZAI SEMINAR 71