「耕太さん、とおっしゃいましたよね。わたしは、あなたがうらやましいー 「え ? ほ、ばくがですか ? わたしにあなたほどの力があれば : : : 父を失望させることもないでしよう」 「はい。 ほお 耕太はほりほりと頬をかく 「あれはほくのカじゃあないんです。ちするさんのカで : 「違うよ、耕太くん。耕太くんとひとつにならなくちゃ、あれだけの力はわたし、だせな いもの」 「いや、でもやつばり」 し「そうなんだってば、耕太くん」 そ ちずるとゆすりあっているうち、ふいに耕太はまわりから視線を感じた。 ま 雪女たちだった。 「あーあ : : : いいなあ、ラブラブでー」 宴 ちするはいいでしょー、と耕太と腕を組み、まわりに見せつけた。 わ耕太はばく、いま顔が真っ赤だろうなあ : : : と思いながら、カイを見つめる。 「えーと、あれは、ばくとちするさん、ふたりの力ということで : 闘 いや、そうじゃない、と首を横に振った。 ばくたちのこと、信頼して、応援してくれたから : : : だか 「みんなのカです。みんなが、 らきっと、ど、つにかなったと思います・
「大海神と同等の力を持ったものに、力を借りる」 / ニーだった。 その言葉に反応したのは、ヾ 「バカな、大海神さまと同等のカの持ち主だと ? 大海神さまは、そこな狗神のごときま おおみかみ がいものの神とは違う、正真正銘、本物の大御神にあらせられるのだぞ ! その大海神さ きーっ ! きーっー まと同等などと : : : ふざけるなー 「 : ・・ : まさか、弦蔵さん ? 」 と、朔が低い声で尋ねた。 りゅう ビ「〈龍〉か ? ちずると耕太を、ここに呼ぶのか ? め べ龍 ? とカイは眼をかすかに細める ク 「たしか、あなたがたはその〈龍〉といっか対峙せねばならないと : : : そのために、我が 亠父、大海神とも闘ったのだとおっしやってました。いったいなんなのです、その〈龍〉と 監は ? いまのロぶりからしますと、〈龍〉は、父とおなじくらいの力を持っているという あやかし で ・ : そして耕太 ? ちする ? それは人の名ですか ? それとも妖の ? ィー マ 四 ごす、と弦蔵は朔の足を蹴っ飛ばした。 底 海 いたた、と朔は大げさに痛がる たた 四「わ、悪かったですよ。はいはい、無駄口を叩くな、ね。すみません、すみません - 朔は、ばん、とカイに向かって手をあわせ、頭をさげた。 おおわだつみ いぬがみ
「なーにをやる気だしてるんだか : : : 」 ちずるは醒めた顔つきで、たゆらを眺めていた。 すぐににこやかな顔になって、耕太を見つめてくる 「じゃ、耕太くん。わたしたちもがんばろっか」 「は、はい ! 」 耕太とちずるは、ふたりとも胸元近くまで海につかっていた。 夏 とりあえず耕太は、ちするに触れてさえいれば、なんとか水が平気になっていた。 ろ というわけで、つぎの段階、水面にそって、身体をまっすぐに伸ばす練習に入るところ だった。 い「それじゃあ : : : ゆっくりね、落ちついて」 物「はい てちずるに両手を引かれながら、耕太は足を浮かし、水中に身体を伸ばす。 なるべく、まっすぐになるよ、つにした。 っ か、と、つも、つまくい力ないん、なんだ、なにか悪い ? や て「耕太くん、力をぬいて」 愛すぐさま耕太は脱力した。だら 1 ん。 五「そうそう : ・・ : 上手だよ、耕太くん」 ちずるが、手を引く。
懐中電灯の明かりだけが頼りの暗い視界だというのに、ちするはまるで眼が見えている かのよ、つに、足早に進む あ、そうか。見えているのか よ、つ力し だってちずるは、妖怪の女の子だもんね : : : と耕太が気づいたときには、なにやら脇道 のなかに入りこんでいた。 「ここは : と。も 尋ねたとたん、炎が灯る ピンク色にほど近い火が、めらめらと空中で燃えていた。 きつねび これは、狐火 はっと振りむくと、ちずるの髪は金色と化していた。 きつね 頭には狐の耳が、腰からはしつほが。ちするは、化け狐の姿に、妖狐の姿に変化してい 太 : いつのまに ? 遊「ちずるさん : ・ 狐の姿になったちずるが、無言で空中の狐火に指先を向ける。 力指先を動かした。 走すると、その動きに従って、宙の狐火は移動しだした。すっ : : : と音もなく動き、床に おりる。 いきなり大きく燃えあがった。 215 ハ、 め わきみち
238 そこで雪女たちに助けられたこと、男っ気のない彼女たちに、いろいろされてしまったこ と : : などを涙まじりで語る わだつみ 「な、情けない話です。海神ともあろうものが、遭難するとは : 「まったくじゃの。海ではおほれるし、山では行き倒れるし、ここ、街のなかでも倒れお るし。ちょっとおぬし、弱っちすぎるぞ」 おかた 、いに、カイはうなだれるばかりだった。 あまりにハッキリした〈御方さま〉のものし 。むしろ海神として、充分な力を持っておる。が、い 「カがないわけでもないのにの : かんせん、精神が弱すぎるわ。まったく、昔のオヤジどのとそっくりだのー」 ぬ はつ、とカイは涙で濡れた顔をあげる 「ち、父も ? 」 「おうよ。おぬしの父親、彦はな、昔はじつにヘタレた、弱っちろいやつでのー。それを 克服するために、身体を鍛えに鍛えて : : : ちょっと鍛えすぎて、とんでもなく男臭いやっ になってしも、った。いまもそ、つか ? 」 すこし恥ずかしげにカイは答えた。〈御方さま〉は高笑いをあげる。 「ふふ : : : おぬし、そっくりなのはその弱っちろいところだけではないな。いまいち注意 力がない、、つつかりなところもそっくりよ」 「わたしが ? うつかり・・・・ : ですか ? 」
の野生児水着のままである。気に入ったのか、ずっとその格好だった。 「おまえ、黙ってすたすたといくな ! も、っちょっとゆっくり歩け ! 」 「えー ? なにー ? たゆらの声も、望の声も、やたら洞窟に響いた。エコーが効きまくる。 「ちっ : : : 」 おおまた たゆらは舌打ちして、大股で望の元へと向かった。 「動くなよ ! ししか、動くんじゃないぞ ! お、おれをひとりばっちにはするなよー せーったいに動いちやダメだからな ! 泣くぞ ! 大の男が泣くぞー 望は動かなかった。 ようやくたゆらは追いつく 「あのな、耕太と一緒になりたかったのに、おれなんかとおなじ組になっちまって、不機 あさひな 耕嫌なのはわかる ! わかるが、それは朝比奈と一緒じゃないおれもおなじだ ! だから、 遊ここはお互い、わだかまりをなくして、力を合わせてだな、目の前の困難に当たり : 望は動かなかった。 力「お、おい 走 望は動かないーーまばたきすらしない薄い色あいの唇をかすかに開けたまま、身じろ ぎひとっしなかった。 「じよ、冗談はやめろよ、なあ : ・
272 「ど、つにかしなくては : : : 」 やっか んじーっと、オールバックの八束、髪をポニーテール、口元を布で覆った雪花が、耕太 よ、つこ を見つめてくる。続けて、となりにいる、妖狐姿のちするを 「・ : : ・ば、ほくたち ? 「ちょっと待った。どうしてわたしたちが : : : 」 「神を説得しうるものは、ただ神だけだ。いまこの場において、まがりなりにもあのかた がたと近しい力を持つものは : : : 」 ひょ、つい 「憑依合体なされた、ちずるさま、小山田さまのほか、おりません」 耕太よりちずるより、オレンジ髪の青年、カイが驚きの声をあげた。 : そういえば、耕太と、ちずる このかたがたに、父とおなじほどの力が ? : ? たしかに : : : あのかたがたもそんなことをいっていた : 「おいおい、冗談じゃねーぞー そこに、文字どおりカイを押しのけて割って入ったのは、たゆらだ。押しのけられたカ イは、木の根っこがうねる地面につまずいて、ぎやふつ ! とこけていた。 いくらカがあるか 「なんだってちずると耕太がそんなことしなくちゃいけねーんだよ ! らって : : : 危険を冒さなきゃならない理由にはならねーだろ ! 」 八東に吠え、こんどは耕太とちずるに向き直った。 「なあ、さっさと逃げようぜ ! 今回の件に関しては、おれたちはなーんにも悪くねえし、 ゆきはな
のぞむ うーん ? と望は人さし指をくわえた。狼の獣耳が、びくびく動く 「そーいえば耕太、プールのすみつこで、制服のまま、ずーっと座っていたよーな : : : あ かねといっしょに」 「あなたねえ、それがわかっていて : : : って、なぬ ? あかね ? ちずるの声音が変わった。耕太を胸元に抱きしめる腕の力も、ぎゅむりと強くなる 「うん。耕太、あかねといつもいっしょだった」 「いつもいっしょ : ちずるの声はぞっとするほど冷たい。 どうじに、耕太を抱く腕の力は強さを増した。ぎりぎりぎりぎり。 「い、いた、痛い、ちするさん、痛いですっー するりとちするの腕はゆるんだ。 耕太はほっと息をつきつつ、水の怖しさにちするにしがみついたままでいた。プラごし に頬を寄せたちするのふくらみが、水面の揺らぎにしたがって、ふよ : : : ふや : : : と揺れ : などと思いながら。 るのを感じ、そうか、 ばいばいぶーって水に浮くんだ : つぶや ちずるは、耕太をその胸元にしがみつかせまま、なにごとか呟いている 「油断してた : : : 考えてみれば、あの子は耕太くんとおなじクラスで、席も近くて、おま てごわ : 、つ、つ なんだから、このバカオオカミなんかより、よっほど手強いじゃないか : 授業中、いつもいっしょだと ? わたしの耕太くんと、いつもいっしょだと ? ううう」 ほお おそろ おおかみ
「 : : : 準備 ? 」 カイさま、カイさま、とバニーかうつぶせになったままの青年にしきりに声をかける カイは顔をあげた。 ほお その頬は、涙で濡れていた 髪には雑草の切れはしがくつつき、鼻には土がこびりついている。そんな顔で、カイは 泣いていた。さめざめ泣いていた。 「わたしには、わたしには : : : やはりわたしには、まだ海神など早かったのか : : : 」 ずすっとをすする。上を向いてぎゅっと目元をしかめたとたん、まぶたから押しださ れた涙が、ほろほろとこばれ落ちた。 地面で、きらんと弾けた。 その瞬間 力アアアアアアアイイイイイイイー 地の底から、いや、海の底から、声がとどろく。 その声はいま朔たちがいる崖を揺らした。いや、声が揺らしたのか、それともその声を げんぞ、つ 発した存在が揺らしたのか、よくはわからない。とにかく、崖は揺れ、朔と弦蔵の後ろに ある林から、いっせいに鳥や虫たちを飛びたたせた。 ぬ わだつみ
210 「仕事柄、ホンモノに接してましたので」 その答えに、オバケたちはうなすきあった。 よ、つ力し くずは 「そういえばこの子たち、〈葛の葉〉で妖怪退治なんかしてたんだっけ」 ななお 「それも七々尾家よ。武門の家よ。イケイケよ」 ひそひそ、と話しあった。 れんあい 蓮と藍はなおも語る。 「春ごろ、耕太パパがちするママと合体して大暴れしたときは」 おそろ 「それはそれは怖しい姿でした」 りゆ、つ 「しつほが燃えて、龍みたいになって」 「どわーって、ぐわーって」 オバケたちはさらに話しあう はちりゆ、つ 「どうする ? 〈八龍〉よりおっかないものになんか化けられないわよ ? きゅうび 「〈九尾〉じやどうかしら」 たまも 「玉藻さまを呼びにいくの ? でも : どうしょ ? と蓮と藍を見た。 ひとみ 蓮と藍は、つぶらな瞳で見あげるのだった。 で、けつきよく。 「えー、なにが怖いって、まんじゅうが怖いねえ : 0