に向かった。 : : : ? このほかにも、たれかくるんですか ? 」 「きたきた 尋ねてみるも、みな首を横に振る。たゆらさえも肩をすくめた。 どうぞー、なかに入って 1 」 ちするはスピーカーに向かって、そう答えた。 有無をいわさぬやりとりだったので、相手がだれかはわからなかった。 「さて、と : : : じゃ、わたし、準備しなくっちゃ」 「準備 ? ス ク ちずるは耕太たちに背を向け、歩きだす。行き先には部屋の扉があった。 フおいおい、ちょっと待てよ、とたゆらが止める 「いまから客、くるんだろ ? そいつほっほりだして、どこいくんだよ」 コ「そっちはたゆら、おまえにまかせた」 ン 「まかせるって、どうすりやいいのさ ? 」 シ 「なかで待っててもらえばいいじゃない」 ル「待っててって : : : そもそもだれなんだよ、客って」 オ「おまえもよく知ってる相手よ : : : じゃあねー」 ひらひらと手を振り、笑顔とともにちするはドアに向こうに消えた。 ばたん、と閉じたドア。
れこそ耕太さんがあなたのものだという証明になるじゃない 「そ、そっかー 「だから黙って文句をいわす、微笑みながら見てなさい。わかった ? 「う、、つん、わかった」 にこー、と玉藻は微笑み、耕太に向かって口を開けた。 「あーん」 夏 こんどはちずるはなにもいわなかった。 ろ かっちりと微笑み、黙って見つめている。その頬は、かすかにびくびくしていたが : : いいんですか ? ん し 「なにが ? 」 物ちずるは笑顔のまま首を傾げた。 む て しらしい。 なにがなんだかよくはわからなかったが、い、 れん な耕太はずっと押さえていた蓮の耳から手を外し、〈玉ノ屋〉特製海の幸ラーメンへと向 つかう。ラーメンはすっかりのびきっていた。麺がふくれあがり、スープが見えない。麺を て箸ですくうと、ぶつんと切れた。しかたなく、レンゲですくった。 五「あーん」 玉藻のつやつやな赤い唇に、レンゲを寄せる。 ほはえ めん ほお
正面には、プールの扉がある その金網の扉は、きちんと南京錠で閉じてあった。扉の上にはトゲトゲの有刺鉄線が張 ってあるし、普通ならば侵入することは無理なはすだ。 まあ、ちずるさんも望さんも、普通じゃあないんだけど : と、思っているうちに、耕太の足元の感覚はなくなっていた 跳んでいた。 耕太と両腕を組んだまま、ちずると望はタイミングをあわせて跳び、プールの扉を、そ してその上に張られた有刺鉄線を、軽々と越えていた。 向こう側の白いコンクリートの階段に、すたっと降りたつ。 いこっか ? 「じゃ、 プおよそ、三メートルは跳んだだろうか : と 女 いきなりの浮遊感にふらふらしている耕太を引きずるように、普通じゃない女性、ちず 彼 ると望は、奥にあるプールへと向かうのであった。 中 夜 真 ☆ 夏 真 胸元深く、すでにボタン四つぶんまで開けてあったちずるのプラウスが、さらに、ほっ、 ほっ、ほっと、残りのボタンすらも外されてゆく。
230 ゆきはな 眼を見張ったままのあかねに、雪花は落ちついた声で尋ねた。 「どうやら、オバケを見ての驚きとも違うようですが : : : まるで、これらのものを、かっ て実際にその眼で見たことがあるような : : : 」 はつ、とあかねは雪花を見た。 「ちするさんたちは、やつばり : と、 いいかけ、ロをつぐむ きゅ : : っと、強く唇を噛んだ。 血がでそうなくらい、強く、噛んだ。 そんなあかねを、雪花は黙って見守っている。ふたりのまわりでは、オバケ一同が、耕 太くーん、とか、耕太ー、とか、だいだらー、とか、思い思いの演技をしていた。 やがて、あかねが、ふー : っと長く長く、息を吐く。 しいえ、雪花さん : ・ 雪花に向かって、ゆっくりと首を横に振った。 「わたしはそんなもの、見たことなんかありません。たとえ、現実に妖怪なんてものが存 のぞむ 在したとしても : : : ちするさん、小山田くん、望に、そして、源 : : : みなが自分から明か してくれない以上、わたしは知りません。知らないんです」 しあげに眼鏡の位置をきゅきゅっと直して、あかねはそういいきった。口元には、笑み すら浮かべていた。 みなもと
182 「それはなに ? おれにやれっていってるわけ ? やだよ、男相手になんかー 「じゃあ、わたしが : 「ちょっと待てー 青年に向かって屈みこみかけたあかねを、たゆらが止めた。 「そんなんだったらね、おれだっておばれるぞー いますぐおばれちゃうぞー 「な、なにをわけのわからないことをいってるのよ、源。これは医療行為であって : : : っ て、ちょっと、やだ、泣かないでよー なんで泣くのー たゆらとあかねかいいあっているあいだに、 こっそりと近づく人影があった。 むちむちなティーシャツ姿の女性 : : : 玉藻だった。 「いただきまーす : ・ と、青年に向かって屈みこむ。眼をつぶり、そっと唇を突きだした。 「なにやってんの、母さん」 そこに冷たい声を浴びせたのはちするだ。 「あら ? なあに、ちするさん。これはね、医療行為であってね」 「いま、いただきますっていったでしようが : : : 本当、いくつになっても枯れないんだか うふふ、と玉藻は笑った。 「ずいぶんと : : : 元気になったようじゃない カカ みなもと
弦蔵はサングラスごしに、カイを見た。 りゆ、つ はちりゆ、つ 「八体の〈龍〉・ 「八体の : カイの声を打ち消すように、朔は吠えた。 おおかみ 狼の叫びをあげて、宙に浮かぶ大海神目がけて、跳んだ。 みまたもり 大海神は、ただ黙って、三つ叉の銛を高く掲げる。 ジ 空に向かって : : : 黒々とした雷雲に向かって。 ャ オ 「ち、父上 ! お、おやめくださいっ ! 」 ナ カ と オロカモノめ。 年 せんこう と 狼閃光が、走った。 雷だった。 雷光に、一瞬遅れての、雷鳴。雷ーーカミナリ 海 とごろごろびしゃーん、と朔は、そして弦蔵は受けた。 老 力、つーん ぬわーっに 崖の砕ける音に混じって、一匹の獣の声と、一人の老人の声が、あがった。 神鳴り。文字どおりの神の怒りを、
その後、海の家〈玉ノ屋〉からきもだめしの現場である洞窟へと向かう途中ー、ーー。 ねら さっそく耕太と腕を組もうと狙うちずるを、玉藻が呼び止めた。 耕おいで、おいでと手招きする。 遊すでに望がしがみついた耕太をちらちらと見やりながら、ちずるは砂を蹴散らしつつ玉 藻の元へと向かった。 カ : なによ、母さん。耕太くんとのラブラブタイム、邪魔しないでよね ! 」 「、も、つ : る 走「あのね、ちずる : ・ ちずるの耳元で、玉藻がなにごとかささやく。 205 ハ、 お母さまって呼ぶべきじゃあなくって ? そりゃあ、こんなに若い女を、お母さまって呼 ぶのは抵抗があるでしよう。それは痛いほどわかります。すべての罪は、こんなにも若く、 美しく、キュートでプリティーでセクシ 1 なわたくし、玉藻にあると : : : 」 「えーっと : : : た、玉藻さん ? 」 たゆらはひたすら困っていた そのまま、けつきよくクジの件はうやむやになるのであった。 ☆ ど、つくっ
あ、ばくのパンツ 「じよ、冗談の割りには、すつごくカ入ってたと思うんですけど : ・ : 破れてる ! 破れちゃってるー 「まー、まー、耕太くん。あとでセクシーなパンツ、買ってあげるから。紐のやっ」 し、いらない ! 」 ぐすっ、と耕太は鼻をすすった。 「さーて、それじゃ、耕太くんも準備ができたことだし : ・ 「ぶーる、ぶーる」 いや、だからあのそのえっとほく プールの扉を跳びこえたときのように、耕太は両腕をがっちりと組まれた。 ちすると望は、楽しげな声をあげながら、プールサイドを駆ける。プールに向かって駆 プける。月明かりや校舎からの明かりをてかてかと跳ね返しつつ揺らぐ黒い水面に向かって、 と 女駆けてゆく 彼 跳んだ。 中 夜びよーんと跳んで : : : 一気に、プールの中央へと。 どっほーん。 夏 真水しぶきをあげ、耕太は落ちた。 落ちて、もかいた 、ば ! げば ! ちすると耕太が組んでいた腕を強引にほどいて、真 いこっか」 ひも
蓮と藍は、びし、と互いの腕を斜め十字に重ねあわせた。 すぐに外し、恥じたようにうつむく 0 、 0 、 「ご、ごめんですノ よ、つ力い 「いい妖怪がいること、知ってるのに。ママも : : なのに」 耕太は黙って、ふたりの頭を撫でた。うにゆーっと猫のように眼をつぶるふたりからは、 ミルクのよ、つな匂いかした・ その後、ワゴンは Z 県市町にたどりつく。 太平洋に面した町で、おだやかな海と、そこそこの広さの浜辺があるらしいが : : : ちず るが運転する車は、そのビーチを華麗にスルー。そのまま、町の外れへと向かった。 大変なのは、ここからだった。 県外へと向かう国道ぞいにある、深い木々で包まれた、小高い山なみ なぜか耕太たちは、その山のなかへと入っていった。 海にいくのに ? 海水浴するはずなのに ? なぜ : : : 山 ? 山なの ? 耕太たちの問いかけはちずるの笑みに阻まれ、ともかく、山のなかを進むことになった。 ワゴンは国道から山道へと入り、いきどまりで止まる。あとはひたすら、木々がならびた ち、セミの音がぎよわぎゅわとうるさい林のなかを、歩き続けるのみ。 れんあい
背丈の低い男だ。 その体格は、およそ、耕太とおなじほど : : : 男の髪は見事なまでに白く、その白髪はオ ールバックにまとめてある。サングラスをかけているために目元はわからないが、鼻は高 ひけあご く、その鼻の下には髭。顎にも白い髭をたくわえていた。 男の顔には、年齢によってのみ刻まれる、深い皺があった。 老人といってもいい顔つきだ。だが、服装は黒革のライダースジャケットに、朔とおな じ革のパンツ、ライダースプーツと、とても年寄りの格好ではない。 げんぞう 「だれも弱音なんか吐いちゃいませんよ、弦蔵さん。これはただの状況確認ってやつだ」 「あいかわらすロの減らん男よ。で、状況を確認したならば、つぎはどうする」 ふつ : : : と朔は鼻で笑った。 「食べます、これ ? 」 背後の男、弦蔵に向かって、うねうね動くタコの足を放る 「いらん」 宙にあるタコの足に向かって、弦蔵は腕を縦に振りあげた。 とたんに足は爆ぜた。 このとき、弦蔵はなにも投げてはいない。爆発物も、武器も使ってはいない 当てたのは、気 凝縮した気が、タコの足を粉々にしていた。あたりの草むらに散らして落としていた。 しわ