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検索対象: イズミ幻戦記 4 烙都紅蓮編
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1. イズミ幻戦記 4 烙都紅蓮編

「まさか」 火も起こさない暗闇のなかに片方の膝をかかえて、イズミが座っている。地上へあがった如 月は星明かりとすぐれた視力をたよりに、その姿を荒野の窪みにみつけた。 ( 小さいな ) ぼつんと座る、ー背中をかがめた後ろ姿は、日中に強大な超能力をふるってみせた印象にそぐ わず細い。 「イズミ」 なぜ彼は〈分離〉しないのかと。 ここにいる、その存在をほどいて、元のあるべき状態に戻らないのかと人は尋ねる。 ( 現象 ) ひと、ではなく。 イズミという名の、特異な現象だと、把握する。 そうやって正常に理解する。 「外で夜明かしするつもりなのか ? 」 「僕の勝手だ」 はあく

2. イズミ幻戦記 4 烙都紅蓮編

病んだ反応だ。 トラウマ きいん 根深い心的外傷に起因する。 「 : : : なんだって俺がわざわざ、よりによって」 我が身のなかに。 文字どおり施政者への願望があるのなら、それほどグロテスクな話はないだろうと思ってし まうのだ。 セレクト ( 『施政者』への ) クライシス 選ばれしものの後継者ーーーなどと無邪気に自らを呼ぶには、〈崩壊〉当時にすら師英介は大 人になりすぎていた。 特権や優越と言い換えられるものすべてが現実には、単なる罪人の烙印にすぎぬのだとすで に見切ってしまっている。 かいき ( 回帰 ? •) とんでもない、と否定せずにはおけない。 ふさわしくないものは、とうの昔に玉座を追われたのだ。ソドムとゴモラへ、神のなげおろ した硫黄と火によって。 「なんだって俺が」 自分の呟きが堂々巡りになりはじめているのにやっと気づき、師はぬるくなった緑茶を一息 いおう らくいん

3. イズミ幻戦記 4 烙都紅蓮編

206 ( ありゃあマズイんじゃねえか : : : ) 伝次の勘は、そうした危うさに関しては、決して鈍くないのだ。 そくりと背中がそそけだっ、不気味な直感である。 ( 死ぬぜ ) 券きこまれている。 イスミこ。 なが そんな眼をしていたら永くない。 いちれんたくしトでつ 一蓮托生の運命だ。 「如月のやつは、ずいぶん変わっちまったんだな。俺の知ってたころとは、大違いだ」 「そうなのよ : : : 。やつばり昔の士郎ちゃんを知ってる人は、みんなそう思うのね : 支えが、よくやく、できたのよ。だからじゃないかしら : : : 」 「心の支えだ ? ・ : 冗談じゃねえだろうー 伝次は真顔で吐きだす。 「とり憑かれてんだ」 カガサワシズカ きぶね 香ケ沢静が〈貴船〉から運転してきたキャン。ヒング・ロー ーの通信設備が、役に立った。 の

4. イズミ幻戦記 4 烙都紅蓮編

わかるからカスミは問うのだ。 「ねェ」 じやき 邪気のない声で。 「あんた負けるよ。なんで来たの ? ばかじゃん」 「前の二人と同じ手合いだな」 いちべっ 回答は与えず、一暼してイズミが低く呟いた。 「うるさい女どもだ」 「アタシは別だよ。あんな考えなしじゃないし、悪いけどいろんなことができるよ。イズミは 困るよね、アタシが強いもんねリ」 編どこかあどけなさのある唇のはしをつりあげて、カスミは笑う。 紅「ごめんねリあんた殺しにきたよ " 】風間がやっていいって言うからさ " 僻なぜ来たのか ? ( それもそうだ ) 記 幻冷静な心の裏側でイズミはふと考える。 のろし ズ火の手があがった時点で、それが何かをおびきよせる狼煙であると悟っていた。だがそこに 岩間組の者たちを走らせるよりはと、この選択肢を自ら選んでしまったのだ。 ( 馬鹿だな ) せんたくし

5. イズミ幻戦記 4 烙都紅蓮編

爆圧でひしやげ潰れた黒いボディをさらして、機械仕掛けの疑似生命体が、まちがいなく十 よねっ 五体ぶん、まだ破壊の余熱をたちのぼらせていた。 肌寒い夜風になでられ、懐中電灯のあかりに照らしだされるその光景は、無残をとおりこし てシュールである。 「すンげえわ : : : 」 タッロウ 紅巽郎が何度もくりかえす。 僻「いやあ、こりやもう、たしかにこれ見たら、どこの土地のモンもみんな『凄い』としか言わ れへんな」 幻「凄すぎや」 イワマデンジ ズ 岩間伝次が率直な感想を口にした。 イ 「あんまりケタはずれやと、おそろしゅうなるわー 「べつに恐ろしいと思わんけどな。そりやちょっと気性の強い人やけど、卵とか貰うたし優し 一 = ロ アンドロイド もろ

6. イズミ幻戦記 4 烙都紅蓮編

襯は、休んだほうが」 イズミのうしろでおろおろと気遣わしげにしていた静が、そこでさすがに反対意見を口にし 「無理しすぎちゃ、いけないわ。士郎ちゃんもきっと心配するし」 「逆だ」 イズミはにべもない。 「無理なんかまだぜんぜん足りてないんだ、もっと徹底的に、僕がぶつ壊れるくらいにやらな いと駄目なんだ」 掘立小屋のまわりはこちんまりとした菜園と、養鶏場になっている。 まだ十歳にもならないだろう幼い子供たちが数人、騒ぐこともなく、おとなしく黙々と鶏の 世話をしていた。 「あれは何なんだ ? 」 こうじってき 双眼にふりかかる長い前髪をはらいのける手間も惜しみ、恒常的な疲労をおもてに出したイ ズミが、それでも幼すぎる子供たちのありさまには疑念を消さずに呟いた。 「あれア、孤児だ。身寄りがないんだ。『天狗』のじいさんは、そういうガキどもを育てて、 きづか シロウ ようけいじしっ

7. イズミ幻戦記 4 烙都紅蓮編

190 「う、あ、あああツ、うおあああああああツリ」 「イズミ、つかまれ " こ けいれん 背をのけそらせる痙攣を、如月の腕が地面から抱きあげた。 「僕に近づくなっ : ふりし・ほった声をイズミがくりかえした。 「蝕虫が、おまえに移動るつ・ 「リそんなことはいし しった 本気で如月が叱咤した。イズミとは体組織が違うのだ。どんな生身の人間とも。 「く、そっ : 如月の腕のなかに上体をおこされ、呪わしくイズミが呟いた。 「あの、女っ : : ・・人の、苦手なものを、まんまと : ・ だがそこでイズミの爪が如月の戦闘服の表面を、裂くほどのカで滑り落ちた。 最悪な経路をたどって脊椎にまで到達した異物が、狂気する激烈を、その身の中心に突き刺 したのだ。 叫ぶことすら拒む。 生命を停止することでしか免れない。 凡人であれば誰もがショック症状によって死亡しただろう。イズミを生かしたのは幸運と、 せきつい まぬが いぶつ なまみ

8. イズミ幻戦記 4 烙都紅蓮編

152 「凄えっちゅうて、どう凄い」 がたがたと振動に跳ねる荷台で佐治元太が尋ねる。純然と、興味があるのである。 よこはま すずか 「だから〈横浜〉とかア、〈豊橋〉とか〈飛騨〉やとか、こないだやと〈鈴鹿〉とか、これま で〈ジリア〉の基地えろういつばい、ぶつつぶしてきてん。ほんま有名なお人やって、言う てるやんか」 イワマタッロウ 岩間巽郎が口をとがらせて答える。壮年の佐治とは、息子と父親ほどに年齢が違う。巷で流 れる情報に対する感度が、みごとにズレている。 「ほっほオー、そんな凄えこと、どないやったらできる ? 」 「さア あっけらかんと、正直に巽郎が首を横に振った。 「なんじゃあタッ」 デンジ 後ろで聴いていた岩間伝次が、その臆面のなさに呆れた。 「立派そうに言いよって、結局はそれか」 「知ったかぶりよりア、マシじゃ」 巽郎は悪びれない。 そもそも本人が同乗している車上でこういう話題を普通に、組員たちが言いあってしまうの 0 サジガンタ おくめん そうねん ひだ ちまた

9. イズミ幻戦記 4 烙都紅蓮編

136 「 : : : ヤ、ヤバイなあ、士郎ちゃん」 ダブル ただの改造拳銃ではない。 この男が扱うのは、破壊力を規格外の限界まで上げた切替式オー トマティック・マグナムだと竜一一も知っていた。 頭をとばされるだけでは済まない。 かけている椅子ごと、原形をとどめぬものとなっても文句はいえない。 「お、おかしいよ士郎ちゃん。ど、どうかしてるよ。まずちょっと落ち着こうよ、アタマ冷や してさー 「そうだな」 ひきつった顎を動かして抗議する竜二に、さめた声音で如月が応じた。 「最近、よく言われる」 これはだめだと尾沢竜二は観念する。 五年前の、なにごとにも一定以上かかわらず、執着の一一文字をもたない、無意味にお人好し なサイボーグは既にこの世から存在を失ったらしかった。 脅しでは終わらず、これは殺る。 しかし、ちゃちな商売人といえども、海千山千の意地というものがある。 「 : : : ネタの出所は、いえねえ」 紙のように白く固まった顔つきで、どうにでもなりやがれと投げやりに竜二は歯をくいしば しゅうちゃく

10. イズミ幻戦記 4 烙都紅蓮編

Ⅷも特にうまくやっているほうの商売人が、主に集まる酒場だ。如月のように本格的な戦闘服を けいこ、つ 着こみ、肩に大型ライフルまで携行している手合いは、見当たらないわけではないがここでは 少数派である。 バルコニー沿いに歩を進めるなかばで、如月は奇妙な違和感の原因に気づく。 音楽がある。 ( 珍しいな ) ディスク これまでに訪れた他の酒場でも、慰みに、昔の音盤をまわして、古い曲を流していることは あったが。 見おろすと、フロアの一角にエレクトリック・ピアノが置かれ、着飾った若い女がひとり、 実際にそれを奏でている。けっして流暢なしらべではないのだが、本物の生演奏を聴かせる店 は如月の知るかぎり、ここが初めてだった。 「店主はどこにいる ? ・ すいているカウンターに如月はひじをつき、内側でジョッキを磨いている仏頂面の店員に問 いかける。 「ハ ? あからさまに面倒な顔をして、制服姿の店員は眉をしかめた。 りゅうちトでつ なぐさ ぶっちょっづらウェイター