168 キサラギ 「おまえが如月と合わないのはいかにもだな」 ひざあご 抱えた膝を顎の近くにひきよせ、イズミがはねつけるように言った。 「一生、特攻やってろ」 「 : : : それで怒ったんか」 「僕は怒っていないそ。みじめなものを見てると僕まで憂鬱になる。エネルギーが落ちる。も のすごく迷惑だ。それだけだ」 「うむ。簡単に死んでいいと、俺も思うわけではない。ちゃんと勝てりゃあそれが一番だ。だ がな、実際、もう八年も兵隊やっとりゃあ俺んとこの仲間で死んだやつもある。死なねえのが 大事なのは本当よ。けどいざとなりゃあ、どうにも右も左もせつばつまったときゃあ、爆弾か かえてつつこむことも、あっちゃあならねえことだが、ほんとに誰かがそうせにゃあならんこ ともあった。そいつも本当だ」 じゅうししっ 地面にライフルの銃床をついて、伝次はとっとっと、そう答えた。 さわ 「気に障ったんなら、すまんかったな。ただ俺らも、勢いでぶちあげとるんではない。覚悟っ ちゅうもんの話をしたんだ」 「 : : : 全然だめだ」 ふたたびイズミがまなざしを上げたとき、たしかに彼が怒りを煮立たせてはいないことが伝 次にも見てとれた。 ゅ、 2 つつ
166 し人やし、めちやカッコイイやないか」 あほう 「阿呆。俺が怖がっておるのとは違う。ああいうのは長生きせん。見とるだけで背骨がゾクゾ クしよるわ。突然変異よ。普通とズレとる。キョコとおんなじじゃ」 ふっとんだアンドロイドの残骸をじっくりと懐中電灯で検分し、無事な武器弾薬がころがっ ていないかと捜したが、。 とれも誘爆をおこしており使えそうなものはなかった。 「長生きしたらいかん人種や」 「そうやろか」 巽郎はしょんぼりと淋しいような表情になるが、大きく反論はしなかった。 くずてつ 「どれも屑鉄ばっかりゃな。フチ、どうする」 「だめみたいですよ」 フチミカズオ 組員のなかではもっとも機械関係につよい渕見一生が、お手上げのポーズをとる。 「じゃあ戻るか」 ライフルを背負いなおし、伝次はふたりをひきつれてその場を離れた。崩れた筒状コンクリ トの裂け目をすりぬけ、さくさくと歩いてトラックの停車位置にひきかえす。 神妙な顔で伝次がトラックの前に戻ると、先刻よりは回復したようすでイズミが片膝をかか クマタダイゴ え、地面に座りこんでいた。熊田大伍のさしだした水筒をうけとり飲みほそうとしていたとこ ろだったが、じろりとそこから視線を斜めに傾け、宝玉のような鋭い双眸で伝次のことを睨み ざんがい そうぼう
「 : : : 目が醒めてるくせして、黙ってべたべたしてる男って」 狭いべッドの上で・ほそりと、勘のするどい こちらもやはり職業柄なのかーー来見川翠が 気づいて文句をつける。 「いやあねえ。助平じじいったらしくて」 「大目に見ておいてくれ」 しゅ、っちしん じじいなのは事実だろうと言い加えるのは、やめにした。もはや老いさらばえて羞恥心どこ ろではないのだと開き直るにしては、如月のなかにもまだ自分の生きる時間軸への違和感が消 せずに残っている。 ( 修行が足りないんだ修行が ) め如月よりもはるかに年若いあの独善的な少年からは、一言でそう決めつけられるだろう。 れいめい 黎明の薄青い光がごく少なく漏れこんでくる簡易組立小屋の建材のすきまを眺めやり、だい そまっ 烙たいの時刻の見当をつけて如月は粗末なべッドから音をたてず降りたつ。人生これすなわち永 ぎさっ とうせ同じ量の時 遠の行か。なにもかも万事うまくいく生き方などわざわざ望みはしないが、。 を費やすのなら、なるべく自分にとって貴重といえる相手の近くで過ごしたいものだと思う。 もしかしたら、それが実は最もな望みなのかもしれなか 0 た。 ズ きゅ、つくっ イ「何よ ? 窮屈だった ? 」 「一度起きると眠れないんだ」 クルミガワミドリ