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検索対象: イズミ幻戦記 4 烙都紅蓮編
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1. イズミ幻戦記 4 烙都紅蓮編

つかりしてる二人だけど、でもイズミちゃんは、士郎ちゃんの生ぎがいだもの : : : 」 「ああああ、生きがいねええ、そりゃあお幸せでけっこうだわねえ、このご時世にねえ」 「生きがいって、やつばり必要よね : ・ : ・ ? 」 げつそりとしている翠に気づかないのか、静はもしもじと自分の指を触って、ゴーグルのせ いではっきり表情は見えはしないが、なにやらうっとりしているらしい 「アタシも、大事なヒトのために、アタシなんかが役に立てるのがイチバンの幸せね : : : 。翠 ちゃんの生きがいは、どう ? 」 「銭よ、銭ー 「まあ。立派ね。自立した女なのね。それはそれで素敵よ、カッコイイわー 「あんたねえ : : : 」 翠が栗色の長い髪をぐっしやりとかきまわして唸った。 「あら : ・・ : イヤかしら・・・・ : ? どうして ? こ 「どうしてって、あんたの言い方だと、銭でもオトコでもなんでもいいみたいよ」 「なんでもよくは、ないわ。生きがいなんか、全然ないって人がたくさんいるわ。何をしても つまらなくて、やる気がない人たちょ。世界が壊れて、とても傷ついてしまっているのよ。お 金を信じているなら、翠ちゃんはうんと立派よ」 「ふうん ? 」

2. イズミ幻戦記 4 烙都紅蓮編

な『存在カ』。そういったものが たやすく普通に永続しうるはずがないのだ。 二の存在でなりたつものは、ふたたび元の二方向へと分割されるのが自然ななりゆきだ。 かえ 人が死ねば大地の素子に、還るように。 回帰する。 「おまえの考えなんか、あまあまの甘すぎだ」 あざけ ののし 嘲る語調で、その場こ、よ、日 冫しオし月士郎を罵りとばしておいて、加熱済みのコーンスープをと りだし、ソフアに沈みこんで。ハックの飲み口を舐めてから。 「ちつ」 熱いな、と。 編低く、聞く者はいないリビングスペースの片隅でかすかに、イズミが呟いた。 都 烙 イワマデンジ 岩間伝次は、隻眼である。 記 きしっと イワマグミ 戦 おもに〈京都〉全域および〈奈良〉周辺を縄張りにしている小規模戦闘組織、『岩間組』を ズ率いる男である。 きっすい イ 生粋の戦争屋といえる。 クライシス 二百九十九年、〈崩壊〉の直後にはすぐさま弟二人をひきつれて三人だけの岩間組を旗揚げ ひき せきがん なら

3. イズミ幻戦記 4 烙都紅蓮編

の手順が要ったと思うんだ、くそ」 「そうかしら。〈ジュリア〉のあるなしとは別の次元で、人が社会的に組織されるのは望まし いことじゃないかしら。少なくとも師隊長が、将来的に、・ハラバラになったこの地区の秩序の 『再構成』を望まない人だとは思えないわー 慎重に師のいらだちを受けとめた上で、悠香は正しい観察結果を口にする。暗示的に。 ぜんだ 「あなたは自分以外の人に、それをお膳立てされるのがいやなのよ」 不意に思考を絶たれた表情が、師の横顔を凍りつかせ、間の悪い沈黙をつくりだした。 かたわらに座す恋人のことを、やや遅い反応で眼鏡の奥の双眼が流し見た。 〉「とんでもない」 言い足りずに彼は眼鏡のつるを指先でぬきとり、テーブル上に投げだすしぐさとともに、く 烙りかえす。 「なんだって ? ・ : とんでもない」 記 三度、くりかえす。 「とんでもない。なんだって俺が」 ズ イ悠香は余分な言葉をはさまない。強迫観念にとらわれた、冷静さを欠いた否定をくりかえし てしまった時点で師も彼女に理があることは認めていた。

4. イズミ幻戦記 4 烙都紅蓮編

そこにいるのが鹿野葉子であることをーー・・ただの移住者ではなく例の一一人が〈忍野〉に連れ こんでぎた人物だとーーやっと思いだしたようすで、遅ればせながら師が尋ねた。ぬけめのな い師英介にしては勘が悪すぎたといえる。 「ときどき、ですけど」 葉子も万人に愛想がいいほうではないので、ロ数すくなく答える。 「如月さんたちのおかげで、ここまで送信してもらえてます。あの、隊長との連絡に便乗させ てもらってて : : : ありがとうございますー 「いや、利用してもらえば何より」 ワタナベタクミ 本心から師は言う。なにしろ、渡辺拓己の私信というついででもなければ現状報告の必要性 は′、 ) レっ 〉などすぐに忘れ去ってくれる薄情な親友だ。 皿「隊長・ーー 烙迷ったあげくに葉子が口をひらいた。 「本当は最近、しばらく手紙、とぎれてるんです。・ : : ・あの二人、大丈夫なんですか」 「ああもちろん」 かんはっ 間髪をいれずに師が肯定した。 ズ イ 「私も別ルートで彼らの動向は掴んでるんでね、当人たちに問題がないのはたしかなんだが。 おそらく通信網の精度がよくない地域にいるんで、用心して文書データの送信を控えてるんだ 一 = ロ びんじよっ

5. イズミ幻戦記 4 烙都紅蓮編

116 後悔、に似ている。 「新しいのか。今日のうみたてか」 「今朝、とれました」 「そうか。なら、ひとっ貰う」 じっと仰ぎ見るだけで表情のかわらない幼女に、イズミは右手の指をのばし、籠のなかから 小ぶりな生卵をひとっ取りあげた。 もろ 、皀、、弱い感触を、右の掌に包みこむ。 力をこめれば容易に握りつぶせる膽し 「幾らだ ? 」 「おにいさん、おにいさんはイズミさまですか」 値段を告げずに幼女はそう尋ねる。 すぐには、イズミは答えない。否定もしなかった。 「僕を呼ぶからには・ : 思案の末に、ぼそりと応じた。 「とっても綺麗なお兄さんと呼べー 「はい。とってもきれいなおにいさんは、イズミさまですか」 「だったら何なんだ」 「おじいさんま、 をいいました。イズミさまは、強い人。キョコさまは、偉い人。みんなが、し

6. イズミ幻戦記 4 烙都紅蓮編

「それなりに愚痴をこぼしてみただけさ」 ぼ、つっ 如月は熱い紅茶を飲みくだし、再び茫洋とした調子に戻って呟いた。 「もちろん責任のがれに走るつもりはないんだが、俺がどの程度の範囲までイズミに絡んでい られるのか、うぬぼれたくはないと考える。俺がついていきたくてもイズミがそれを超えてい くなら、止めようがない」 「困るわねえ」 「翠ちゃん、あんまり士郎ちゃんをいじめないでいてあげて・ : で言えるようになっただけでも、それはそれは大きい進歩なのよ」 はらはらと手もみしながら静が言う。 「士郎ちゃんはとっても冷たい人だから、昔だったら、自分から、ついていきたいなんて、絶 編 対まともに言わない人だったもの : : : 」 烙「フォローされていない気もするな」 「ああもうまったく情けない、優しい仲間に見守られてよちょち歩きの子供じゃあるまいしー 記 戦あんた実際いくつよ ? 」 「いやにこだわるな。何かあるのか ? こ ズ ぜっぱう 翠の挑発めいた舌鋒には乗らず、ふと如月が問いたたした 半分まで減ったソフトラガーの容器を翠がすとんとサイドテーブルに手放した。 この士郎ちゃんが、ここま

7. イズミ幻戦記 4 烙都紅蓮編

こんなこと書いてる今も私のすぐ近くにいる、とても大切な人です。 しかーしリ私、 4 巻のメインが省吾になるだとか『砂上の旋律』のあとがきでぶちかまし ごめんなさいリ たが、あれは大嘘でしたあっリ省吾の話はこのあとでしたーっ " 省吾く んを書きたくなかったのではありましえーん、ちょっと『 4 巻』におさまるべージ数の計算を 間違えたの : : : すいません。 しつねんば やっと登場の拓己と省吾ですが、これからが彼らにとってもひとつの正念場です。 そのへんのネタばらしになっちゃーっまらないので、ふたりについての話は、次巻のあとが きに改めて。でもね : : : 激しいッスよ。いやほんとに。 とうとっ 唐突にアレな質問ですが、未来の地球はどうなってると思いますか ? やつばり減ぶのかな。 自分が何歳まで生きるかとか、足下の地面がいつまで無事かとか考えますか ? 私はときどき考えます。んでふっと「ダメかなあこれは : : : 」とかも思います。 とけど本当に本当に魂ゆさぶる凄い面白い絶対みのがせない物語が、世の中にはまだあるか あ ら、それのためだったら石にかじりついて生きるかも。 凄く凄く心から大好きな人のためと。

8. イズミ幻戦記 4 烙都紅蓮編

リケード あおむらさき 石造りの巨大な障壁が、たそがれる蒼紫の空へむかい、その威風を誇示するように重々し そび く、暗灰色の影となって聳えたっている。 きレっと じゅうじじしっ たけ 京都都市ーー〈十字城〉城下をほ・ほ正方形のかたちに囲む、丈高く堅固な、ぶあつい石垣で ある。 キサラギシロウ め正方形の一辺につき、石垣の横幅は五キロメートルを超える。目測で六・五キロと如月士郎 がんかい 紅は見当をつける。積みあがった岩塊の表面は何層にも強化コーティングされ、外部から激しい 砲撃をうけたとしてもたやすく崩れはしない。いかにしてこれだけの外壁を築きうるかと問う だけで、城内の権力者が有するものは自動的に算出される。 ちしまっく 戦 人の力と、技術の貯蓄。 ズそこに内包される力強さ自体は、望ましいものだろうと如月も考える。 イ 理不尽な境遇に対抗するーー〈ジュリア〉の脅威には甘んじない、そこまでの人の意志とい 盟うものならば、貴重である。 テクノロジー いふう

9. イズミ幻戦記 4 烙都紅蓮編

ぐってゆき、椀をかかえてまたイズミのところに走り戻ってくる。つったっているイズミの足 下に遠慮なく座りこみ、がつがっと粥を喉に流しこみはじめた。 「あっ、おかわりもありますよオ」 こがねいろ 頭上の空は侵蝕する暗闇のなかに溶けてゆき、ほころびだらけのテントから黄金色のランプ の灯りがにじむように洩れてくる。 兄弟三人に、加わった仲間が五人、総勢八名の数少ない組員は、それそれに食事を摂った きまま 弾薬の準備をととのえたりと、みな気儘にしている。規律や階級があるわけでもなく、強 制力はなく、ゆるやかな繋がりで成りたっている空気が感じとれた。 イズミが声をかけた。 「はア」 二十歳の岩間巽郎のほうが、実際の年齢的にも、背丈もイズミよりは上なのだが、自然にヘ りくだる態度が巽郎にはある。ひとなっこい顔つきで、先割れスプーンをもつ手を止め、傍に 立っ美貌の少年のことを仰ぎ見た。 「ただで食事はもらえないな」 「やあ、 いいんですよオ、ひとりやふたりのメシなんかは増えたうちに入んないス。うちの兄 あか しんしルノ、

10. イズミ幻戦記 4 烙都紅蓮編

けんお 嫌悪の気分もあらわに師が呟いた。 「どういうこと ? こ とうかっ 「政府さ。白十字のやつらがだ、いずれ機を見て、この十一地区全体を統轄する『新政府』を ぶちあげようというつもりでいるのさ。売り物のキョコをかつぎだせば商売敵には一歩ぬきん でられるという考えさ。組合にそろそろ参加する連中が狙ってんのは、新政府樹立後の役職と 特権ってことさ ! 早いもの勝ちなら尾でも何でも振って仲間に入れてもらうのさ 「それは実現可能なの ? 「冗談じゃない、そんな馬鹿な企みを本気でおこされてたまるか ! いくらなんだって早すぎ る。できるならやってみろ、絶対に内戦になるそ。余計な戦争で人がまた死ぬ、せつかく残っ たものカた、。 ; ミとうするんだ」 まるで目前にその首謀者がいるかのごとく、師は声を荒立てている。おちついたまなざしで 悠香はそれを観察した。 「いったい連中にどの程度の、確固たる政策システムがあるっていうんだ ? 誓ってもいいが デモクラシ しんせい 純粋民主制は不可能だ、現状じや人の心性のほうに準備がなさすぎる、なら古典的に中央集権 支配か、いまさら絶対王権か ? ここにいる我々にどうやってそれを押しつけてみせるつもり もちもの なんだ ? 実際、いまどきの土地なんざ、走っていって真っ先に旗を立てた奴の所有物じゃな たいこう ムラ いか ! そのレベルまで我々は退行してるんだぜ、集落ひとっ満足に維持させるのにどれほど