酒場 - みる会図書館


検索対象: イズミ幻戦記 4 烙都紅蓮編
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1. イズミ幻戦記 4 烙都紅蓮編

Ⅷも特にうまくやっているほうの商売人が、主に集まる酒場だ。如月のように本格的な戦闘服を けいこ、つ 着こみ、肩に大型ライフルまで携行している手合いは、見当たらないわけではないがここでは 少数派である。 バルコニー沿いに歩を進めるなかばで、如月は奇妙な違和感の原因に気づく。 音楽がある。 ( 珍しいな ) ディスク これまでに訪れた他の酒場でも、慰みに、昔の音盤をまわして、古い曲を流していることは あったが。 見おろすと、フロアの一角にエレクトリック・ピアノが置かれ、着飾った若い女がひとり、 実際にそれを奏でている。けっして流暢なしらべではないのだが、本物の生演奏を聴かせる店 は如月の知るかぎり、ここが初めてだった。 「店主はどこにいる ? ・ すいているカウンターに如月はひじをつき、内側でジョッキを磨いている仏頂面の店員に問 いかける。 「ハ ? あからさまに面倒な顔をして、制服姿の店員は眉をしかめた。 りゅうちトでつ なぐさ ぶっちょっづらウェイター

2. イズミ幻戦記 4 烙都紅蓮編

198 カイドウ 「海堂どのが、この刻限であれば、ご党主も手のすくころだとお教えくださったので」 「気の利くことですわねー 朱色の唇によく光る爪を近づけ、鞘子が微笑した。 「鞘子どのが、そのようにお託けくださったのではあるまいかと、私などは期待もしたのです : しかがですか」 「まあ。なかなか、そうもいきませんのよ。私の立場もここまでになりますと、なにかと雑多 な責任に縛られるものですから」 あ・いまい 口にする一 = ロ葉とはうらはらに、フフ、とこ・ほした笑みが、真相を曖昧に・ほやけさせる。 「けれど、そう、。ヒアノがとてもお上手なのだとか。海堂がすっかり褒めちぎっておりました 「粗末な芸ですが : ・ そっと感服を示す意味あいで、風間は肩をすくめておく。酒場でのできごとはほんの二時間 きようと ほど前のことだ。案の定、この〈京都〉において、〈白十字〉党主への、情報の伝達速度はす さまじい。 ポイント ひまつぶしには良い場所があると、くだんの高級酒場の位置を教えたのが海堂老人である。 ぜんだ 監視しやすいお膳立てをしておいて、あとは目に見える動向を逐一、鞘子にったえたのだろ う。そのくらいのぶしつけな扱いは予測できなかったわけでもない。 わ」 そまっ ことづ サヤコ

3. イズミ幻戦記 4 烙都紅蓮編

128 問題は、それが障壁の内にのみ、差別的に、集約されることだ。 きょてん この〈京都〉を拠点にして、いっかその亠ハは、第十一地区の全土に発信される、普遍のカ となってゆけるのか。 ( わかりはしないか : : : ) ッカサェイスケ そういった思索は、はるか彼方の東の地にいる、師英介の領分にふさわしい。あの年下の親 友が抱く鋭角的な感想のなかみに興味はあったが、ここでそれを知るすべはなかった。 すで 東側の空に、既に黒一色になった壁のシルエットを眺めやってから、如月はザラッと靴底を 乾いた土に滑らせて々ョ觜度の斜面を下り、めざす『酒場』の入り口にたどりつく。 壁から約三キロほど西へ離れた位置に、その酒場への降下ロはある。 ーーある、はずなのだが、案内係の男がひとり立っている以外、その外観は周囲の地面とま るでかわりがない。 「いらっしえい」 きつね こずる 狐のように小狡い目つきをした案内係が、職業的な愛想笑いで迎えた。 「お客さんは初めてですかね」 「五年前は、こんなじゃなかったな」 はんじしっ 「えへへへえ、まあ、ご時世の流れで、ウチも繁盛さしてもらいまして。おひとりで席料、三 千リング、いただいとります。お申しつけくだされば別料金でお席に女の子もご用意します チェッカー チャージ

4. イズミ幻戦記 4 烙都紅蓮編

142 ー 0091 〈 = キ〉は、そのとき、間祥に随行する立場にあ 0 ては決してゆるされぬ こんわく ことだったがーー困惑した。 そくざ 即座に反応するべきであったが、周囲を一般の人間にかこまれたこの地下酒場の状況設定と こ、つりよ 、現在の風間とユキ自身の対外的な肩書きといい、考慮に入れねばならない特殊な事情が どんま いくえ 幾重にもつらなり、彼女のすぐれた判断力を鈍磨させてしまっていた。 ・ 4 1 0 ) 8 8 -8 ・・ ()o ナンバ その相手が如月士郎でさえなければ、とりうる態度の選択は、もっとたやすいものとなった ろう。 ( 風間はこだわっている ) まっし髪っ 抹消すべき対象である。 殺せる機会なら、以前にもあった男だ。 だが風間はそれを望まない。 ロケーション

5. イズミ幻戦記 4 烙都紅蓮編

132 しかし。 一瞬を境にして深甚な恐怖に、店員は震えあがった。理由はない。 あらわせんりつ 本能から、今、目の前にある底知れぬ破壊能力の顕れに戦慄したのだ。 その最悪の形での行使を。 , ーー辞さぬ、意識。 殺気、である。 「如月士郎がきた。逃げ隠れすればこの店がまるまるひとつ、台なしになるだけだ。そう伝え てくれー しんぎ カウンター越しにあっさり告げられた言葉の真偽を、疑う心すら生まれなかった。おそれお ののく指でインターフォンを鳴らし、馘首を覚悟で店主に救いをもとめた。 「し、ししし士郎ちゃんじゃないの」 オザワリュウジ この酒場のオーナーこと尾沢竜二は、たしかに逃げ隠れはせずに、必死の追従笑いで如月を オフィスに迎えいれた。 「い、生きてたんだねえ。よかったね」 しんじん ついしよう

6. イズミ幻戦記 4 烙都紅蓮編

「ちょっとっリ」 階段を駆けおりた来見川翠が、如月の耳元で怒鳴った。それさえもピアノが鳴る酒場の賑わ いのなかでは、衆目をひくものにはならなかった。 「あんなお客と密会のお約束だとは聞いてないわよ、どういうこと卩」 は きらりと、翠がこれまでには遭遇したことのない種類の光が、如月の冥い双眼をかすめ、剥 がれ落ちるように消え去った。その一瞬の奇妙な状態は、虚脱、と呼ぶにふさわしかったかも めしれない。 不可解なーーマイナスの力が、正常な意志の働きを拒んだ、空白の時間だった。 「しまった : ・ 呟きとともに如月の精神が中心軸をとりもどす。 タイムラグ 幻とりかえしのつかない悔恨を、ひどい時差をおいて不意に呑みこんだ。そんな認識があっ イ ( どうして見逃した ? D 風間祥が〈京都〉にいる。のみならず、まるで『キョコ』側の内幕にかかわりをもつよう 一 = ロ かいこん きょだっ くら

7. イズミ幻戦記 4 烙都紅蓮編

がノ一ん 愕然とした翠が新たな行動をおこすには、遅かった。 まわりにささやかな拍手のざわめきを起こし、演奏を終わらせてビアニストが椅子から立ち あがる。いや、彼は店に雇われた芸人ではなかった。この酒場を訪れた客のひとりが、座の余 興にピアノを借りうけただけだ。 そのとき オフィスルームの扉を背後に閉ざし、如月がざわっくフロアへ踏みだした。 かんげき 雑多な種類の男たちの間隙を、媚びる商売女の甘い声が埋めつくす、広く、地下に閉さされ た空間で。 何が彼らを呼んだかは、わからない。 ダークグリーン 紅深緑に反射する、メタリックな如月の両眼が、演奏台から離れゆく、その人物のことをま 僻っすぐにふりかえったのは。 そして健解より指をおろしたばかりの第間祥が、同色の瞳をも 0 て過たずそれを捉えたの 記 戦 寸分も違わぬ、一瞬。 かいこう イ 避けがたく、神の悪意によって到来した、邂逅の舞台だった。 こ

8. イズミ幻戦記 4 烙都紅蓮編

おみせ 「あら。西の酒場にいらしていたんじゃ、ありませんの ? 」 城内に第祐の姿をみいだした白十字鞘子の、優雅な第一声に、そのぬけめのなさがうかが い知れた。 じゅ、つじじしっ 夜もまだ更けぬ〈十字城〉の中枢、会見室と称される一室を風間祥がおとずれるのは、彼が めこの京の地にたどりついて以来、今宵ですでに四度めを数える。 紅あるときはひととおりこちらの話を聞いておき、次のときは半ばで切りあげるかたちで、急 せんやく な用事や先約を理由にわざと中座するのが鞘子のやりかたであるのは、これまでの経過でよく 諏わかっていた。 幻そうして白十字としての回答をひきのばしておき、並行して、風間祥という危険な人物の立 こんたん ズち回りようを観察する魂胆がある。 イ 「ええ」 女丘めと胸中につぶやきながら風間はしずかに首肯する。 きしキっ

9. イズミ幻戦記 4 烙都紅蓮編

140 地下一階の、あまり客のいないカウンターの内側に翠は身をのりだして、店員に話しかけ る。なにやら顔色の悪い、不幸せそうなウェイターだった。 「オーナーに客があったはずなんだけど、まだいるかしら ? 」 おび うえつ、と怯えた声をあげて、ウェイターは地下一一階のフロアの片隅を、大きな身振りでさ やくびよっがみ ししめした。まるで厄病神を追い払わんばかりのしぐさである。 「下の、オフィスですう」 「・ : : ・あ、そう」 どういう印象与えてんのよと如月に対して呆れながら、翠はバルコニーの端に歩みより、赤 色照明にぼやける下階フロアの賑わいを眺めやった。 物好きなことに模造品ではない、本物のエレクトリック・。ヒアノが鳴っている。 「へーえ ? 」 翠も感心した。 しっとりとした情緒的な曲調がフロアを包み、ほどよく客を酔わせて、声高にめだちすぎも せずにこの場に溶けこんでいた。一流の高級酒場ならではの、第澱なひとときと思われた。 演奏者の姿を、来見川翠が現実に、視野におさめることさえなかったならばーー。 ( リャパイっ :

10. イズミ幻戦記 4 烙都紅蓮編

る意味はない。 クライシス 伏せねばならぬのは、〈崩壊〉以後に選んだ身のふりかただけであった。 大の要点ともいえたが。 「こんな噂を耳にした」 ひとりごとのように、ユキを見返りもせず、風間祥がさらに口をひらいた。 「最近は、どこの酒場でも、専ら評判となるのは『西のキョコ、東のイズミ』なのだそうだ。 こと 殊に、いずれイズミが〈ジュリア〉さえ倒すと信じる見方が人々のうちで、日々、たかまって きしゅ いる。新たな希望の旗手だ」 ユキは無言で彼の横顔をうかがい、あらためてこの人物の怖さを感じとる。 編 さりげない物言いでありながら、盗聴者の心情をーー挑発している。 烙「東のイズミが関西へ攻めこむとなれば、西のキョコも穏やかではないだろう。ここまで築い かせん 4 た寡占状態を、にわかに現れた新興勢力にゆるがされては困るはずだ。しかも実際には、イズ 戦ミのカの程など立証されてはいないのだから」 「ですが、キョコ様とイズミの、ふたつの力が結託すれば、まさしく『救い主』の寡占状態に ズ イなるのではありませんか ? 」 用心深く、風間の狙いをさまたげないように配慮しつつ、ユキはそう反問してみる。 = ロ もつば ・ : それこそが最 かせん