聞いてくれたまえ、と言いながら、伊集院がナイトウェアの裾からごそごそとなにかを引っ 張りだした。 「決め手となるのは、これさつ。『青桃院学園御用達通信販売カタログ』 ! 」 「なあなあ、朱雀。あのカタログ、どーやって隠してあったんだ ? 」 「さあ。注目すべきはこの 3 6 5 。ヘージ、上段。商品番号への 6 6 6 の。″キミのコスチュ ームプレイ・ライフにさらなるステージをリこれで意中のあの人も一発ノックアウト学超 豪華レース仕立てウェディング・ドレスいまならキュートなプーケ付き〃 ! 」 「いつ、いまからでも遅くないから、逃げようぜ。朱雀 「 : : : で、それをどーすんですか、先輩」 「ふつふつふつ、簡単なことさ。青桃会がこれから注文する新委員のための礼服のオーダー を、この魅力的なドレスにすべて取り替えてしまうんだよ ! むろん、キミたちふたりは気が えんび のらないならホワイトタイ、すなわち燕尾服のままでもかまわない。さあ、想像してごらん。 ろ いすばらしい夜会の光景をつ」 や震える声で言い募る伊集院である。 まと 「上等の礼服を纏った理事、来賓、教員、そして選び抜かれた卒業生。加えて、青桃会執行部 キ メン・ハーと先輩委員たち。山ほどの花に飾り立てられた青桃館ダンス・ホールで : : : 真っ白な ドレス姿の新委員たちが : ・・彼らと仲睦じくワルツを踊るのさっ ! ああっ。これぞまさに、 つの らいひん なかむつま
184 竹千代は目を輝かせて、似合うよっ、と一言。 一拍おいて朱雀は、 「 : : : おもしれー」 ちっともおもしろくなさそうな口調での、褒めているのか貶しているのかわからないよう な、みじかい感想だ。 : わ 「えっ ? そお ? おもしろい ? 鏡、鏡。ええっと : : : 洗面所にあるつけ。う : うそ つ。なんっーか、不気味 ? これ似合うって、嘘だろ ? なあなあ、朱雀。オレやつばり制服 で行くことにするわ」 「 : : : だったら最初つからそうしろって」 着替えに戻ってくる剣をまえに、朱雀ははなんとはなしにホッとしたような声だ。 サイズびったりの赤いドレスは、実はたいそう剣に似合う。 シャレにならないという朱雀の文句は、傍目から見れば当たりである。 そもそも制服のズボンをスカートに取り替えれば、剣はそのまま女子校に転校できそうな見 かけだ。けれども赤いドレスはさすがに、当人にとってはしつくりこない姿であったとみえ て、 「あのさ、もしも制服じや人れないって言われたら、とちゅうでその燕尾服貸してな、朱雀。 代わりばんこで様子見にいこーぜ : : : あれつ ? 」 はため けな
184 竹千代は目を輝かせて、似合うよっ、と一言。 一拍おいて朱雀は、 「 : : : おもしれー」 ちっともおもしろくなさそうな口調での、褒めているのか貶しているのかわからないよう な、みじかい感想だ。 : わ 「えっ ? そお ? おもしろい ? 鏡、鏡。ええっと : : : 洗面所にあるつけ。う : うそ つ。なんっーか、不気味 ? これ似合うって、嘘だろ ? なあなあ、朱雀。オレやつばり制服 で行くことにするわ」 「 : : : だったら最初つからそうしろって」 着替えに戻ってくる剣をまえに、朱雀ははなんとはなしにホッとしたような声だ。 サイズびったりの赤いドレスは、実はたいそう剣に似合う。 シャレにならないという朱雀の文句は、傍目から見れば当たりである。 そもそも制服のズボンをスカートに取り替えれば、剣はそのまま女子校に転校できそうな見 かけだ。けれども赤いドレスはさすがに、当人にとってはしつくりこない姿であったとみえ て、 「あのさ、もしも制服じや人れないって言われたら、とちゅうでその燕尾服貸してな、朱雀。 代わりばんこで様子見にいこーぜ : : : あれつ ? 」 はため けな
182 しんく 内気な僕も今夜は踊るカルメン ! 深紅のセ、クシー・ドレスいまならラブリーな新色ルージ ュつき仁 「つつーか : : 消化不良起こしそ、だぜ」 ドレスをぶらさげたままの剣が胃痛の予感に顔をしかめるところへ、おもてのドアからノッ クが聞こえてきた。 あらわれたのが朱雀で、 「遅せえぞ、如月。いつまで飯食ってるつもりだよ。面倒だから迎えに来たぜ。早くしねー と、お披露目会・ : ・ : 」 ( 「なあなあ、朱雀。赤と白だったら、まだ白のほうがマシだったと思わねー ? 」 「 : : : なんだ、それ ? 」 あ ~ つけにとられる顔の朱雀は、きちんと燕尾服に着替え終えた格好だ。 そちらに向かって剣は、伊集院のプレゼント・カードを見せつけて、 「トカゲ先輩ってば、オレの箱、内緒ですり替えてくれたらしいんだよね。くそ つ、ヤラレたぜ ! あ、あ。しょーがないから、とりあえず試しに着てみつかー 「・二・ : よせって、如月。おまえの場合、シャレになんねー」 「そーかな。どう思う ? 竹中」 ・、「う、うん : : : そうだね。僕も、その赤は篁くんのほうが似合うと思うよ」
「はあ ? 」 「ああ、嘆かわしいことだ。せつかく記念すべき夜会の燃える前夜を楽しもうと思って忍んで きたのに、なんという悲しい結末だろう。けつきよく、僕のこの変装もすっかり無駄になって しまったよ。哀れな薔薇たち、すまなかったね。しかし考えてみれば、僕は黙って立っている むな だけで薔薇と見違えられるほどの美しさなのだから、はじめから虚しい変装と言えなくもなか ったよ」 「ああっ、伊集院先輩 ! そのとおりですつ。僕 : : : 僕っ : : : 薔薇の花を見たとたんに、すぐ に先輩だってわかりましたからっ」 ぼうぜん 茫然とする剣たちをよそに、伊集院にしがみついたままで感涙にむせび、そう訴えるドレス 姿の鹿ヶ谷。 「ほ : : : 本気か、鹿ヶ谷ー 「それはそうと、キミ、ずいぶんと素敵な格好をしているね」 い「あっ、いけないつ、見ないでください、先輩 ! 僕、恥ずかしいつ。だって : : : だって : や 髪は乱れているし、ドレスだって制服の上から着ているし、これ以上先輩に見つめられたら、 きっと恥ずかしさのあまりに死んでしまうつ ! 」 キ 「おやおや、死なれては困るよ、モンプチ。どうしても死ぬというのなら、死ぬまえにちょっ と僕のお手伝いをしてくれないかい ? 」 かんるい
「 : : : 落ち着けよ、如月」 「つつーか、朱雀つ、なにアレっ ? うわっ、鹿ヶ谷。寄っていかねーほうが、身のためだっ て ! ケツから食われたらどーすんのつ」 、「ああっ。い : : い : : : 伊集院先輩つ」 「は ? 伊集院 ? なに言ってんだ ? 」 「伊集院先輩つ。そこにいらっしやるのは、躑躅先輩ですねっ ! 」 「あ ? トカゲ先輩がどこに : : : いる : : : って ? 」 瞬間、剣は凍りつく。 すっくと立ち上がった鹿ヶ谷が、ドレスの裾を持ち上げてまっすぐに駆けだした。 まるで運命の王子に出会った姫のような勢いで走った鹿ヶ谷が、ホールの真ん中で薔薇の山 めがけて飛びついていく。 ろ ドレス姿の彼を抱きとめたのは、制服の上から全身に薔薇の花を飾りつけ、おまけに薔薇の だ いただ 冠を頭上に戴いた、伊集院躑躅その人だった。 や : トカゲ : : : 先輩 : : : ? 」 ケ うっとりと瞳を潤ませた鹿ヶ谷を優雅に片手で抱きとめつつ、異様な姿の伊集院が花に囲ま キ れた美貌にいつもながらの笑みを浮かべている。 「ふふ、ふふふふふつ。愛らしい後輩をここまで思い詰めさせてしまうとは : : : ほんとうに罪 びぼう うる
182 しんく 内気な僕も今夜は踊るカルメン ! 深紅のセ、クシー・ドレスいまならラブリーな新色ルージ ュつき仁 「つつーか : ・消化不良起こしそ、だぜ ドレスをぶらさげたままの剣が胃痛の予感に顔をしかめるところへ、おもてのドアからノッ クが聞こえてきた。 あらわれたのが朱雀で、 「遅せえぞ、如月。いつまで飯食 . ってるつもりだよ。面倒だから迎えに来たぜ。早くしねー と、お披露目会 : : : 」 なあなあ、朱雀。赤と白だったら、まだ白のほうがマシだったと思わねー ? 」 「 : : : なんだ、それ ? 」 あ、つけにとられる顔の朱雀は、きちんと燕尾服に着替え終えた格好だ。 そちらに向かって剣は、伊集院のプレゼント・カードを見せつけて、 「トカゲ先輩ってば、オレの箱、内緒ですり替えてくれたらしいんだよね。くそ つ、ヤラレたぜ ! あ、あ。しょーがないから、とりあえず試しに着てみつか」 「・二・ : よせって ) 如月。おまえの場合、シャレになんねー 「そーかな。どう思う ? 竹中」 ・・「う、うん : : : そうだね。僕も、その赤は篁くんのほうが似合うと思うよ」
「はあ ? 」 「ああ、嘆かわしいことだ。せつかく記念すべき夜会の燃える前夜を楽しもうと思って忍んで きたのに、なんという悲しい結末だろう。けつきよく、僕のこの変装もすっかり無駄になって しまったよ。哀れな薔薇たち、すまなかったね。しかし考えてみれば、僕は黙って立っている むな だけで薔薇と見違えられるほどの美しさなのだから、はじめから虚しい変装と言えなくもなか ったよ」 「ああっ、伊集院先輩 ! そのとおりですつ。僕 : ・・僕っ : : : 薔薇の花を見たとたんに、すぐ に先輩だってわかりましたからっ」 かんるい ぼうぜん 茫然とする剣たちをよそに、伊集院にしがみついたままで感涙にむせび、そう訴えるドレス 姿の鹿ヶ谷。 「ほ : : : 本気か、鹿ヶ谷」 「それはそうと、キミ、ずいぶんと素敵な格好をしているね」 い「あっ、いけないつ、見ないでください、先輩 ! 僕、恥ずかしいつ。だって : : : だって : い髪は乱れているし、ドレスだって制服の上から着ているし、これ以上先輩に見つめられたら、 外きっと恥ずかしさのあまりに死んでしまうつ ! 」 キ 「おやおや、死なれては困るよ、モンプチ。どうしても死ぬというのなら、死ぬまえにちょっ と僕のお手伝いをしてくれないかい ? 」
「 : : ・落ち着けよ、如月」 「つつーか、朱雀つ、なにアレっ ? うわっ、鹿ヶ谷。寄っていかねーほうが、身のためだっ て ! ケツから食われたらどーすんのつ」 、「ああっ。い : : い : : : 伊集院先輩つ」 「は ? 伊集院 ? なに言ってんだ ? 」 「伊集院先輩つ。そこにいらっしやるのは、躑躅先輩ですねっ ! 」 : って ? 」 「あ ? トカゲ先輩がどこに : : : いる : 瞬間、剣は凍りつく。 すっくと立ち上がった鹿ヶ谷が、ドレスの裾を持ち上げてまっすぐに駆けだした。 まるで運命の王子に出会った姫のような勢いで走った鹿ヶ谷が、ホールの真ん中で薔薇の山 めがけて飛びついていく。 ろ ドレス姿の彼を抱きとめたのは、制服の上から全身に薔薇の花を飾りつけ、まけに薔薇の だ いただ ~ 冠を頭上に戴いた、伊集院躑躅その人だった。 や 「ト : ケ うっとりと瞳を潤ませた鹿ヶ谷を優雅に片手で抱きとめつつ、異様な姿の伊集院が花に囲ま びぼう キ れた美貌にいつもながらの笑みを浮かべている。 「ふふ、ふふふふふつ。愛らしい後輩をここまで思い詰めさせてしまうとは : : : ほんとうに罪 うる
196 「う : : うわ、もしかして、鹿ヶ谷っ ? 」 ドレス姿の、 それもただの白ではなく、スカートのあちらこちらに薔薇の生花をつけた、 しかも頭にまでミニ薔薇をあしらった、 とびきり派手な格好の鹿ヶ谷が、腰に手で自慢気に胸を張っていた。 かたちのいい鼻をつんと天に向け、さくらんぼのようなくちびるで自信たつぶりの笑みをつ みは にら くっている。きらきらと輝く大きな瞳を挑戦的に瞠って、剣のほうをまっすぐ睨みつけ、 「待っていたよ、如月剣 ! といっても、キミは案外に地味な服装なんだね。やつばり思った とおり、しよせんは編人生のキミ。中等部上がりで筋金人りの青桃院生である僕の敵じゃない のさ ! 」 「じ : : : 地味か ? オレ」 「うふふつ。見てよ、これ ! 昨夜はあれから青桃館ホールで躑躅先輩のお手伝い : : : それか らキミのところまで夜明けのお使い : : : そのあと朝まで寝ずにこれを仕上げたんだ。一針一 針、先輩のことを思いながら、ピンクの絹糸で薔薇の花をドレスじゅうに縫いつけてね : : : 」 「ど・ : ど、りで、派手だと」 「それから、この巻き毛 ! いつにもまして、ラブリーだと思わないかい ? まるで目覚めた ばかりの天使みたいだろう ? このエアリーな感じを出すのに苦労したんだよ。それに比べ