会長 - みる会図書館


検索対象: キケンじゃないだろ! 青桃院学園風紀録
92件見つかりました。

1. キケンじゃないだろ! 青桃院学園風紀録

かって、胸を撫で下ろしている」 きっちりと黒い礼服を着て、腰までの長い髪を背におろした姿である。御霊寺青桃会会長 は、まさに主催の行事を取り仕切るのにふさわしい、上品ないでたちだ。 みけんたてじわ 満足気なその顔から、今朝は眉間の縦皺が消えている。 清潔に整頓された部屋の隅のゴミ箱のわきには、円筒形の箱が置かれていた。 ゆが そちらを、ちら、と見やりつつ、蝶タイの歪みを正すついでのように御霊寺はひとりごち る。 「しかし : : : あの躑躅にしては、今回は手ぬるいたくらみだった。たかだか、わたしの礼服を たわい 持ち去り、ドレスを置いていくだけの、他愛もない悪戯を仕掛けてこようとは。この御霊寺 そな 密、もしものときの備えに、替えの礼服の一着や二着、持たずにいると思ったか ? 」 「会長、なにか ? 」 「さては : ・躑躅によってもたらされる最悪の星巡りもとうとう終わりを迎え、十五年の長き に渡るわたしの不運もついに : : : ついにつ」 「御霊寺会長 ? 」 「む。いや、なんでもない。それでは青桃館へ向かおうか」 礼服姿の執行部メン・ハーとともに御霊寺も九重寮を出て、会場である青桃館へと向かってい

2. キケンじゃないだろ! 青桃院学園風紀録

かって、胸を撫で下ろしている」 きっちりと黒い礼服を着て、腰までの長い髪を背におろした姿である。御霊寺青桃会会長 は、まさに主催の行事を取り仕切るのにふさわしい、上品ないでたちだ。 みけんたてじわ 満足気なその顔から、今朝は眉間の縦皺が消えている。 清潔に整頓された部屋の隅のゴミ箱のわきには、円筒形の箱が置かれていた。 ゆが そちらを、ちら、と見やりつつ、蝶タイの歪みを正すついでのように御霊寺はひとりごち る。 「しかし : : : あの躑躅にしては、今回は手ぬるいたくらみだった。たかだか、わたしの礼服を たわい 持ち去り、ドレスを置いていくだけの、他愛もない悪戯を仕掛けてこようとは。この御霊寺 そな 密、もしものときの備えに、替えの礼服の一着や二着、持たずにいると思ったか ? 」 「会長、なにか ? 」 「さては : ・躑躅によってもたらされる最悪の星巡りもとうとう終わりを迎え、十五年の長き に渡るわたしの不運もついに : : : ついにつ」 「御霊寺会長 ? 」 「む。いや、なんでもない。それでは青桃館へ向かおうか」 礼服姿の執行部メン・ハーとともに御霊寺も九重寮を出て、会場である青桃館へと向かってい

3. キケンじゃないだろ! 青桃院学園風紀録

御霊寺がひときわ大きな声を上げた、そのとき。 「あっ、鹿が」 「会長、危ない ! 鹿の頭がっ」 ・がたん、と音を立てて、突然壁に飾られていた鹿の彫刻が傾いた。 御霊寺の座るちょうど真上である。 落ちてきたら怪我をしかねないと、一同は慌てて走り寄りかけた。 が、しかし、 「し : : : 心配はいらない、諸君。落ち着いてくれたまえ。とにかく、ホールの花は薔薇でい わざわ い、薔薇でつ。断じて白百合はいけない。あれは災いを呼ぶ花なのだ。わたしはあれの匂いを どうき - 嗅ぐと、どうも頭痛や動悸や息切れが : : : いや、とにかく、なんとしても白百合ばかりは却下 してくれたまえつ」 髪を振り乱した御霊寺に迫力負けして、メンバーたちはそれぞれの席へと引き返す。 、 - ろ い「わかりました。ではさっそく注文します。しかし、おかしいなあ。その彫刻、つい、このあい や、だ留め金の修理をさせたばかりなんですが」 ン 「 : : : すまない。この御霊寺、つい気を乱したようだ」 . ケ 「そういえば、会長。伊集院副会長がみえませんでしたが、どこか具合でも ? 」 「なに、伊集院つ」 にお

4. キケンじゃないだろ! 青桃院学園風紀録

御霊寺がひときわ大きな声を上げた、そのとき。 「あっ、鹿が」 「会長、危ない ! 鹿の頭がっ」 ・がたん、と音を立てて、突然壁に飾られていた鹿の彫刻が傾いた。 御霊寺の座るちょうど真上である。 落ちてきたら怪我をしかねないと、一同は慌てて走り寄りかけた。 が、しかし、 「し : : : 心配はいらない、諸君。落ち着いてくれたまえ。とにかく、ホールの花は薔薇でい わざわ い、薔薇でつ。断じて白百合はいけない。あれは災いを呼ぶ花なのだ。わたしはあれの匂いを どうき 嗅ぐと、どうも頭痛や動悸や息切れが : : : いや、とにかく、なんとしても白百合ばかりは却下 してくれたまえつ」 髪を振り乱した御霊寺に迫力負けして、メン・ハーたちはそれぞれの席へと引き返す。 、 - ろ い「わかりました。ではさっそく注文します。しかし、おかしいなあ。その彫刻、つい . このあい や、だ留め金の修理をきせたばかりんですが」 「 : : : すまない。この御霊寺、つい気を乱したようだ」 ケ キ 「そういえば、会長。伊集院副会長がみえませんでしたが、どこか具合でも ? 」 「なに、伊集院つ」・ けが にお

5. キケンじゃないだろ! 青桃院学園風紀録

「つてゆーか、それって、なに ? 」 なにはともあれ逃げたほうがよさそうだと腰かけていたピアノから降りるところへ、伊集院 がナイトウェアの裾をつまんで、くるり、とターンを決めた。 「困るね。キミたち、理解力が不足しているよ。要するにこういうことさ。青桃会会長がつつ がなく執り行おうとしているお披露目の夜会 : : : それを、僕たちの手でさらに楽しいものに仕 上げてあげようという、これは素晴らしい作戦なんだよ」 さいすん : っていっても、伊集院先輩、採寸のことさえ知らされてなかったんじゃないんですかー 「ふふふ、だからこそさ、篁。あの密は、青桃会副会長である僕を愛するあまりに、楽しい行 事にまつわるアレコレをぜんぶ横取りしてくれるんだよ。きっと、僕のまなざしが余所を向く のが嫌なのさ。かわいそうな、密 : : : そして、なんて罪つくりな僕の美貌 ! だけど僕は、そ んな密がたまらなく愛しくてね。愛しいからには、いろいろ邪魔してあげたい。なんというか : そう、愛の裏返し ! 初恋の相手のスカートは当然めくりたいという、アレだよ」 ごりようじ すさま 「ご、御霊寺会長のスカートって、なんだか妻じ、な」 「・ : ・ : そーゅー意味か ? 「そのとおり、そういう意味さ ! そして、その密のスカートをめくるためには、来たるべき はな 夜会をこれまでになく華やかなものにしてみせる必要がある。だから、僕はとびきりの作戦を 考えた。よくよく聞いてくれたまえ、ふたりともっ」 ひろめ せいとうかい じゃま よそ

6. キケンじゃないだろ! 青桃院学園風紀録

「うわあ、また鹿が ! 」 「危ない ! 会長。伏せてくださいっ ぐらぐらと揺れたあげくに壁から落ちかける彫刻を、御霊寺の腕がまるで予期したかのよう なすばやさで押しとどめた。 「い、伊集院副会長は、おそらく腹痛でも起こしたんだろう。さもなくば、腰痛。さもなく つうふう ば、痛風。さもなくば : : : もしかすると単なる寝坊かも知れない。それよりも諸君、すみやか におのおのの仕事を行ってくれたまえ」 「は、はいつ」 「知ってのとおり、新委員に選ばれたもののなかには、外部からの人学生、編人生が含まれて いる。中等部在籍中から委員となることを熱望していた生徒のうちには、当然、彼らに嫉妬を 抱くものもあるだろう。しかし、いかに感心しかねる指名であったとしても、決まったものを 軽々しく取り消すわけにはいかないのだ」 由緒正しき青桃院の秩序をもって、来たるべき夜会を無事に執り行うことが肝心、と。 青桃会会長の厳しい言葉に、執行部メンバーたちが、はい、とそろって返事をよこす。 それぞれ残りの打ち合わせを終えて、彼らはつぎつぎと青桃会室から去っていく。 やがて、部屋のなかには、大きな鹿の頭を片手で支えたままの御霊寺がひとり。 おかん 「むむ、嫌な予感だ。わかる : : : わかるぞ。十五年の経験からして、こういう悪寒を覚えると しっと

7. キケンじゃないだろ! 青桃院学園風紀録

「つてゆーか、それって、なに ? 」 なにはともあれ逃げたほうがよさそうだと腰かけていたピアノから降りるところへ、伊集院 がナイトウェアの裾をつまんで、くるり、とターンを決めた。 「困るね。キミたち、理解力が不足しているよ。要するにこういうことさ。青桃会会長がつつ がなく執り行おうとしているお披露目の夜会 : : : それを、僕たちの手でさらに楽しいものに仕 上げてあげようという、これは素晴らしい作戦なんだよ」 さいすん : っていっても、伊集院先輩、採寸のことさえ知らされてなかったんじゃないんですかー 「ふふふ、だからこそさ、篁。あの密は、青桃会副会長である僕を愛するあまりに、楽しい行 事にまつわるアレコレをぜんぶ横取りしてくれるんだよ。きっと、僕のまなざしが余所を向く のが嫌なのさ。かわいそうな、密 : : : そして、なんて罪つくりな僕の美貌 ! だけど僕は、そ んな密がたまらなく愛しくてね。愛しいからには、いろいろ邪魔してあげたい。なんというか : そう、愛の裏返し ! 初恋の相手のスカートは当然めくりたいという、アレだよ」 ごりようじ すさま 「ご、御霊寺会長のスカートって、なんだか妻じ、な」 「 : : : そーゅー意味か ? 」 「そのとおり、そういう意味さ ! そして、その密のスカートをめくるためには、来たるべき はな 夜会をこれまでになく華やかなものにしてみせる必要がある。だから、僕はとびきりの作戦を 考えた。よくよく聞いてくれたまえ、ふたりともっ」 ひろめ せいとうかい じゃま よそ

8. キケンじゃないだろ! 青桃院学園風紀録

「うわあ、また鹿が ! 」 「危ない ! 会長。伏せてくださいつ」 ぐらぐらと揺れたあげくに壁から落ちかける彫刻を、御霊寺の腕がまるで予期したかのよう なすばやさで押しとどめた。 「い、伊集院副会長は、おそらく腹痛でも起こしたんだろう。さもなくば、腰痛。さもなく つうふう ば、痛風。さもなくば : : : もしかすると単なる寝坊かも知れない。それよりも諸君、すみやか におのおのの仕事を行ってくれたまえ」 「は、はいっ 「知ってのとおり、新委員に選ばれたもののなかには、外部からの人学生、編人生が含まれて しっと いる。中等部在籍中から委員となることを熱望していた生徒のうちには、当然、彼らに嫉妬を 抱くものもあるだろう。しかし、いかに感心しかねる指名であったとしても、決まったものを 軽々しく取り消すわけにはいかないのだ」 由緒正しき青桃院の秩序をもって、来たるべき夜会を無事に執り行うことが肝心、と。 青桃会会長の厳しい言葉に、執行部メン・ハーたちが、はい、とそろって返事をよこす。 それぞれ残りの打ち合わせを終えて、彼らはつぎつぎと青桃会室から去っていく。 やがて、部屋のなかには、大きな鹿の頭を片手で支えたままの御霊寺がひとり。 おかん 「むむ、嫌な予感だ。わかる : : : わかるぞ。十五年の経験からして、こういう悪寒を覚えると

9. キケンじゃないだろ! 青桃院学園風紀録

「ところで、新委員たちの礼服の支度はどうなっている ? 」 ちょうど壁に嵌め込みで飾られた鹿の頭部の彫刻の真下から、ふいに一同を、しん、と黙ら せる質問の声が響いてきた。 ごりようじひそか 青桃会会長、御霊寺密。 いちぶすき みけん 二年生の制服を一分の隙もなくきっちりと着込み、眉間に厳しい縦皺を刻んでいるのが、彼 である。 腰ほどまで丈のある長い髪は、つやつやとまっすぐな漆黒。 すうつ、と通った鼻筋に加えて、冗談のひとっさえ通じなさそうな切れ長の目。 和風仕立ての美形である。グレーの詰め襟も似合うが、羽織袴や剣道着もさぞかし似合うで たんれい あろうと想像させる、容姿端麗ぶりだ。 そもそもここにそろう執行部メン・ハーは、みながみな " 美形〃 " 秀才〃と褒められてしかる よ めいせきびもくしゅうれい べき、選りすぐりの生徒たち。頭脳明晰、眉目秀麗。制服をきちんと着こなした見た目も、優 そうめい はため 雅で聡明らしい身のこなしも、傍目から見れば非のうちどころがない。 いさい が、そのなかでも会長である御霊寺はやはり、飛び抜けて異彩を放っている。 「すっ、すみません。御霊寺会長。新委員たちの採寸のことをすっかり忘れていましたっ」 あわ 慌て声でよこされた返事に眉間の縦皺をさらに深くして、御霊寺はテープルの上にゆっくり と両手を組む。 は しつこく はおりはかま たてじわ

10. キケンじゃないだろ! 青桃院学園風紀録

「ところで、新委員たちの礼服の支度はどうなっている ? 」 ちょうど壁に嵌め込みで飾られた鹿の頭部の彫刻の真下から、ふいに一同を、しん、と黙ら せる質問の声が響いてきた。 ごりようじひそか 青桃会会長、御霊寺密。 みけん いちぶすき 二年生の制服を一分の隙もなくきっちりと着込み、眉間に厳しい縦皺を刻んでいるのが、彼 である。 腰ほどまで丈のある長い髪は、つやつやとまっすぐな漆黒。 すうつ、と通った鼻筋に加えて、冗談のひとっさえ通じなさそうな切れ長の目。 和風仕立ての美形である。グレーの詰め襟も似合うが、羽織袴や剣道着もさぞかし似合うで たんれい あろうと想像させる、容姿端麗ぶりだ。 そもそもここにそろう執行部メンバーは、みながみな " 美形〃 " 秀才〃と褒められてしかる めいせきびもくしゅうれい べき、選りすぐりの生徒たち。頭脳明晰、眉目秀麗。制服をきちんと着こなした見た目も、優 はため そうめい 雅で聡明らしい身のこなしも、傍目から見れば非のうちどころがない。 いさい が、そのなかでも会長である御霊寺はやはり、飛び抜けて異彩を放っている。 「すっ、すみません。御霊寺会長。新委員たちの採寸のことをすっかり忘れていましたっ」 あわ 慌て声でよこされた返事に眉間の縦皺をさらに深くして、御霊寺はテープルの上にゆっくり と両手を組む。 しつこく はおりはかま たてじわ