〃 3 第 0 話押しかけクインテット きゅ・つくっ 。。 ( し力ないよ。ここは身内であるわ 「何をつんだ。客人にそんな窮屈な思いをさせるわナこよ、、 たしがアニさんと相部屋になろ、つ」 いえいえ、何をおっしやるですか。ココはこの家の使用人でございますので、この場は ココが相部屋になるですよ。敬介サマの身の回りのお世話もございますし」 「あー、えっと : : : あ、あたしはほら、敬ちゃんがみんなに変な真似しないように見張らなき やだから ! 」 「うっせ工工工 ! あとすげー埃つほい と、布団をバタバタぶつけ合いながら激しい陣取り合戦を繰り広げる四人娘を見回し、敬介 は怒鳴り声を上げた。 「どうして俺の方に相部屋するしないで揉めてんだよ ! 普通一人部屋が欲しくて揉めるもん だろ、つがよお」 らくたろうよいん 現在椿家で居住可能なスペースは一階にある楽太郎と余韻さんの寝室を除くと、一一階の三部 屋のみである。その内一部屋は敬介の部屋でもある。 これを五人で割り振ると一一つが相部屋、一つが一人部屋。本来ならば当然この一人部屋に人 気が殺到するはずなのだが、この場では誰が敬介の相部屋になるかで揉めていた。 「つーか、考えるまでもなく俺が一人部屋だつつーの ! お前ら四人で誰と相部屋になるか決 めろよ。オラオラ、散れ散れ ! 」
306 そんなひだりの心境など露知らず、敬介は気楽な調子で一一一口う。 ひだりはそんな敬介の顔面に、「こオの鈍感野郎っ ! 」とパイを投げつけてやりたい気分に なった。 と、そんなとき。 コンコン。 部室にノックの音が響き、一同の視線がドアに集中する。 敬介は一同に声を上げないよう目配せしてから、用心深くドアに近づき、 「ダイヤモンドは ? 「砕けない」 すぐに合い言葉が返ってきたので、敬介はホッとした。小唄の声である。 「よう、遅かったな。どりあえず中入れ」 敬介がドアを開け、そこにたたずむ小唄を室内に招き入れようとすると、 「いや、ここで遠慮しておくよ」 一方の小唄はビニール傘の中でフッと口元に微笑を浮かべてかぶりを振った。 「はあ ?. 「アニさん」 と敬介がキョトンとした瞬間、小唄は言った。 っゅし
けていった。そうして泣き出したみんなを整列させて言った。 こいつ、はなみずはらだろうかー 「おま、んらバカか ! どうやら敬介の方もひだりの顔を知っていたようだ。ついでにそのあだ名も。 「こんなよわいやっ、よってたかっていじめてんじゃあない。はすかしくねえのか ! 」 と、敬介は怒鳴った。すがすがしいくらいサッパリした理屈だった。喧嘩するなら強い奴と ひきようまね しろ、弱い奴をいじめるなんて卑怯な真似をするな。ガキ大将に求められる資質を敬介はきち んと身につけていたのだ。 ところがその後、 「おい、おまえ。ダイジョブか ? 」 「、つつ、ぐしゆっ : : : 、つ、つ、つ、つー 「きいてんのか ? ダイジョブかっての」 「わあああっ。ぐしゅ、ぐしゆっ ひだりは助け出された安堵感でますます泣き出してしまって、敬介の質問に答えられなかっ 、」 0 押 「このヤロウ、いつまでもめそめそ泣いてんじゃあねえ ! 」 話 第 しび と、敬介はいつまでたっても泣きやまないひだりに痺れを切らし、おでこをはたいて帰って
249 第 3 話メロコア FC あった ! お前らは悪魔の手先だ。あるべきものがないというだけの理由でいつもお前らは俺 から愛を奪、つ ! だから俺は誓った。強くなると。愛する者を失いながらも人々のために戦い おお 続けたケンシロウのように、強く、雄々しく生きるとー ( こ、この男は : : : ) こぶし 拳を握り締め遠い目をしながら語り続ける藤村を見上げ、小唄はクラクラとめまいを感じな がら呟いた。 「恐るべき : : : 強敵だ」 「す、すごい相手だね。このクラブの選手はみんなあんな感じなの ? コートの外で一部始終を見守っていたひだりは唖然とした顔で十兵衛の方を振り返った。 「い、いや、おそらくは彼が特殊なだけだと思うでござる。それがしもドン引きでござるよ : : : 」 十兵衛も珍しく顔を引きつらせながら応える 「とはいえ : : : これはあまり小唄氏にとって好ましくない状況でござるな」 「ふえ ? どうして ? まだ戦ってもないじゃん」 「だからさ。戦う前から思いっきり相手に呑まれてるってことだ」 と、敬介が十兵衛の言葉を引き継ぐよ、つにして言った。 「喧嘩ってのは、まあ、半分くらい意地の張り合いだ。技術なしで勝てるわけはねえけど、根
「はあ ? そんなもん、いつばい泣いたからにきまってるだろ」 と少年は言った。 : カら ? ・ 「いつばい、泣いた・ : 遊恋子はちょっと小首を傾けてパチパチまばたきした。 「そうだよ、おまえさっきゼンゼン泣いてなかっただろ ? そんなのいくら泣いたってナミダ かとまるわけねえよ」 「 : : : 泣いて、たのです。とてもたくさん」 「泣いてねえよ。こえだしてなかったじゃあないか」 わかり切ったことを訊くな、という風に少年は鼻を鳴らした。 「おれの家来にすぐ泣くやつがいるけどな、そいつはすぐ泣きやむんだ。ちゃんとこえだして 泣きわめくからな」 「 : : : ちゃんとこえをだして、泣く ? 「そうだよ、いまおまえがやったみたいにな」 遊恋子は目の醒める思いで少年の顔を見つめた。 「 : : : あの、家来に。ココを家来にして、なのです ! 」 「ああっ ? 」 少年はわけがわからず声を上げた。今まで無理やり家来にした人間はたくさんいたが、自分
だけど押しが弱くてあんまり自己主張が得意ではないひだりには、思ったことを口にするこ とができなかった。なのでひだりはいつもいじめられていた。 「おい、はなみずだしてみろよ。はなみずはら」 その日も、男の子たちに取り囲まれたひだりはそう要求された。そんなこと言われたって水 道の蛇ロじゃあるまいし、自分の意思で出したり引っ込めたりできるもんじゃない。 「じゅ。そんな、だせないよう : ・ : ぐしつ」 勇気を振り絞って言ってみるが、聞き入れてもらえるはずもない。 「だせないじゃねーよ、はやくだせよ」 「だせよ、だせよ」 「ほらあ、はやくしろよ」 周りから口々にせかされる。ひだりは胸が苦しくなって、目の前の景色がグルグル回り出す ような錯覚を覚えた。 「ぐし : : : うつ、、つつうつ、じゅ。うわああああん」 こらえきれずひだりは泣き出した。 途端、鼻水がびろーっと垂れてくる。 「うわっ、だしやがった」 「ばっちい 5 」
と、しばらくしてから小唄は思い出したように声を上げた。 「アニさん、そ、ついえば」 「あん ? 「・ : ・ : 約東、破ってしまったよ。絶対負けないって言ったのに。すまない」 「あー、気にすんな。俺もよく破る」 敬介がカラリと応えた。 「ホントそうだよね 1 。ほら、覚えてる ? 確か高校に上がる前もあたしと約東したじゃん。 『頼む、もう喧嘩しないから受験勉強教えてくれ 5 』ってさあ」 横合いからひだりが唇を尖らせて言ってきた。 「ち、ちげえよ、馬鹿。あれは高校に受かるまではっていう意味でだな」 「うそっきー、うそっき 1 」 「うるっせえな。どの道もう契約期限切れだよ。昔の話引っ張り出してきやがって」 ~ そんな敬介とひだりのやり取りを聞きながら小唄は、 ( なるほど。あの引退宣言にはそんな内幕があったのか ) と感心した。 話 第 なんだかいきなり小唄の中にあるトシロウの存在が崩れていくような気がした。だけど不思 議と幻滅したりはしなかった。むしろ敬介との距離が近くなった気がして小唄は満足だった。
「いやいやいやいやいや、何をおっしゃいますやら、お嬢さん、そんな。お顔をお上げになっ て ! も、つウチの息子でよかったらいくらでも ! 」 「ちょっと楽太郎さん、止めなきやダメじゃあないですかっ ! なんでそんないい加減なんで と、またしてもダイニングで緊急家族会議を招集している一同。基本的には敬介と楽太郎だ こうた けが終始発言するのが本会議の形式だが、今回はひだりと小唄も参加している。 あかみね 今回の議題は無論、「赤嶺遊恋子を家に置くか否か」というのがテーマだ。が、議長の楽太 かんらく 郎が早くも陥落していた。過去の議事録ではこのパターンだと百パ 1 セントなし崩しで議長の 思惑通りの決定を迎えることになっている。 「だって、断る理由ないしさ。いいんじゃない ? 議長がケロリと言った。 「受け入れる理由もないですってば ! 」 「それを言っちゃったらひだりちゃんもおんなじだろ ? おじさん、ひだりちゃんを追い返し たくないなあ」 「、つぐっ それを言われると居候という肩書きのひだりは辛い。というか、今回は楽太郎も自分に非が ない上、出世に直結している分、強気の発言が目立つ。 つら
344 それからしばらく敬介がばんやり画面を眺めていると、 「なあ、敬介。俺さあ、ビッグスクータ 1 欲しいんだよね」 不意に戸口で待機していた主水が敬介に声をかけてきた。 「ああ ? 何だよ、いきなり。もうすぐ済むからあとにしてくれ」 突然そんな話題を振られ、敬介はちょっぴり面食らいつつ、パソコンの画面から目を離さず に応える。 「ヤマハのマジェスティ。夏休み前に買おうと思ってさ、今金貯めてんだよね」 「わかったからちょっと黙れって。賞金稼ぎの連中に見つかったらどうすんだよ。今じゃなく たっていいだろう」 確かに、廊下にいた生徒会の生徒たちは何者かに気絶させられていたが、近くに賞金稼ぎが いないとも限らない。まだ決して安心できる状況ではないというのに、のんきにバイクの話を 振ってくる主水の緊張感のなさに、敬介は苛立ちを覚えた。 「いやあ、今話しといた方がいいと思ってさ」 が、そんな敬介の心境などお構いなしに主水は先を続ける。 「でさ、あと十万でローンの頭金貯まるんだよね。そう、ちょうど十万なんだよ」 そこまで聞いて、敬介はふと主水の台詞に違和感を覚えた。 「 : : : 何の話だ ?
「ちょっと敬ちゃん、三国志読んで号泣してないで帰り支度してよ。ていうかツバメちゃんの 夢の原因はこれかっー とひだりは半ばあきれ顔で敬介をせかした。 「あと少しでこの巻読み終わるからちょっと待ってろ」 が、敬介はマンガから視線を上げずに応える。 最近敬介たち一一年四組の男子の間で空前の三国志プームが到来しており、みんな図書館から よこやまみってる 横山光輝の三国志を借りてきては、授業中休み時間を問わず読みふけっているのだった。 「もおつ。テスト一週間前だってのに。赤点取って夏休み補習になっても知らないからね。 おれ うらまっ 「ああ、大丈夫大丈夫。俺今年も裏祭り参加するから」 と、敬介が余裕たつぶりに応える。 まね 「け、敬ちゃんっ ? 今年もあんな危ない真似する気 ? プ 途端、ひだりはサッと顔色を変えた。 「心配ないって。サクッと問題データゲットしてくるからよ」 線 雨 「ちゃ ? 何の話どす ? 一一人だけで話進めんと、ウチらにもわかるように説明しとくれやす」 とが と二人の会話を聞き咎めた操が口を挟んだ。 話 ・つなず 第その言葉にひだりは頷き、 「うん、えっと、ウチの学校には俗に裏祭りって呼ばれてる学校行事があってね」 なか