Ⅷたいなゴッゴッしたメタリックパープルのコスチュームを身につけていたのである。とはいえ、 顔の造形自体は主婦層の人気を博す若手アクション俳優のような造りをしていたので、ある意 味では逆にマッチしていると一言えなくもなかったが。 「いやはや、実にソウソーリ 1 君たち乗客はまるで悪くない。ノットロングだ。だがしかし、 ニュータイプ 私はこれよりこの新型パワ 1 ドス 1 ツのテストのために池袋でテロ行為を行わなくてはならな いのだよ、マストドウーイングなのさね」 と、男は革靴でコッコツリズムを刻みながら語り始めた。 「なのでこのトレインを占拠して次の下板橋ステ 1 ションとその次の北池袋ステ 1 ションで停 車せずにノンストップで池袋ステ 1 ションに急行してもらいたいのだよ。アンダスタン ? 」 男の説明を聞きながら敬介は、もしここにひだりがいたら「うわ、イタイ ! どうしよう敬 ちゃん、この人イタイ ! 変態さんだよおーなんて活きのいいリアクションの一つも見せてく れたことだろう、と残念に田 5 った。 「カーッカッカ ! オ 1 ケイ、説明終了」 ひるがえ 男が満足そうに頷き、無意味に白衣を翻した。 やがて、駅のホームにプルルルルルと発車合図の電子音が響き、奇妙な男を乗せた電車は発 車した。 「諸君、いいかね、くれぐれもおとなしくシニアしくしていたまえよ。さすればこちらも手荒
268 身体は華奢なままだったけれど、心は誰よりも男だった。 そのつもりだった。その少年に出会うまでは。 早々と推薦で高校に合格し、後は卒業を待つばかりとなったある日。 高校に入ったら総合格闘技を始めよ、つと考えていた小唄は、何の気なしに近所のマンガ喫茶 に立ち寄り、パソコンでばんやり格闘技関連のサイトをめぐっていた。 と、とあるサイトのプログが小唄の目に止まった。 「、観戦レポート : 新しくできた格闘技団体か何かの略称だろうか、と首をひねりながら記事を読み進めるうち、 小唄はその内容に目を見張った。 ともな 雪初少数のフリークたちの小規模な集まりだったものが、動員数の増加に伴い、このたび初 期の参加者たちによって正式にクラブとして立ち上げられることになりました。名称は池袋ス トリートファイトクラブ』 しゅし 『その趣旨はいたってシンプル。街中の喧嘩自慢が深夜の池袋に集結し、大々的なストリート ファイトを繰り広げるとい、つもの』 『空手、柔道、合気道、相撲、ボクシング、キック、ムエタイ、カボエラ、テコンドー、ジ 1 クンドー、中国拳法、少林寺、日本拳法、古武道、レスリング、サンボ、シュ 1 ト、プラジリ
「なんや、死ぬほどむかっくんやけど : 「 : : : 敬介サマ、この方ぶっ飛ばしてよろしいですか ? 「後でな」 敬介にはそう言うのが精一杯だった。 「正解は 5 、池袋ストリートファイトクラブの略でござるよ」 と、十兵衛が三人の間を取り成すよ、つに正解を告げた。 「池袋ストリ 1 トファイトクラブ ? が、一同いまだはてな顔である 「いやまあ、説明も何も、今見ているとおりのものでござるよ」 十兵衛はコートの中で殴り合う一一人をアゴで示し、 「年齢性別格闘技経験その他一切不問、ともかくも格闘技好きや喧嘩自慢がガチファイトして 一番強い奴を決めようという実に単純明快な集まりでござるよ。毎月偶数週に開かれていて、 きんてき 金的、目潰し、噛み付き、武器の使用を除いて反則なし。時間制限なし。ただし、両者スタミ ロナ切れによるドロ 1 判定とレフリーストップはありの一本勝負。怪我に関しては自己責任 「なんでも、元々は格闘技好きの連中が遊びで始めた小さい集まりだったらしいんだけど、ロ 話 第コミやらネットやらで噂が広がって、いつの間にかこんだけギャラリーが集まるくらいの規模 になっちまったんだって」 つぶ
764 「いやはや、スーツのスペックを測るグッドなテストになりました。災い口 1 リングしてハッ ピーとなす。さすがはジーニアスサイエンティスト、ドウーすることに無駄がナッシング」 ドクタ 1 ープルであった。腕には真新しいギブスを巻いている。 「ふい 5 ん。当初の予定じゃあ池袋でテストすうってー話じゃなかった 1 け ? そもそも移動 にはこっちで用意しておいた車を使うよーに指示したはずだしょ ? 独特の節回しで喋りながら少女は角砂糖を前歯でかじった。 「ふはは、こう見えて私はオ 1 トマ限定で第一一段階までいったほどのドライビングテクニック の持ち主でしてね」 「車庫入れもできない実力じゃないさ。なーでそれをもっと早く言わなーの」 少女はさすがにちょっぴり不機嫌そうに眉を吊り上げた。 「いやいや、しかしその程度の誤差は想定の範囲内。私のマ 1 べラスプレインをもってすれば たちまち解決。すぐさま東武東上ラインに乗っていけば確実に池袋に到達できるというアンサ ーを導き出したわけです」 「そえで逆方面の電車に乗い込んで、電車を占拠しょーとしたわけ ? 「カ 1 ッカッカ、いかにもイグザクトリー、 そのとおりです。シスタ 1 プラック様」 「馬鹿タレちゃん ! 誰がそ 1 な人目につく真似をしおと言ったさ。第一テストは夜間に行う げんめい よ 1 に厳命しておいたはずだしよ」
273 第 3 話メロコア FC と、続いて遊恋子と操の泣き声も聞こえてきた。 「仕方ねえだろ、電車ないんだから。あと少しなんだから我慢しろよ その言葉で、小唄はようやく状況を理解した。 どうやら藤村との試合の後、今の今まで自分は気絶していたらしい。そして敬介たちは池袋 から徒歩で帰路に就いているようだった。 「アニさん、も、ついいよ。降ろしてくれ。ここからは自分で歩くから」 しりもち 「あ ? 馬鹿一言え。今のお前じゃ降ろした途端、尻餅ついちまうぞ」 そういえば、藤村のパンチをもらったせいですっかり脚がへなへなになっていることを思い 出した。 ・ : ごめんよ、アニさん」 「謝るなよ、妹さん」 と敬介は気楽に応える。 「けしかけた俺の方にも責任あるんだからさ」 「だけど : : : 」 「いいから喋るなって。ロの中だって切れてんだろ」 「うん」
234 と、敬介同様、投げやりな態度で訊ねかけるひだり。 「 : : : うん、ひだりちゃん。も、つ少し声張っていこうよう」 「あ、ゴメン。正直どうでもよかったから」 情けない声を上げる主水にひだりは素直に告白した。 「手厳しいでござる ! 」 「あ 5 も、つ、いちいちリアクション取らへんくてええから、ちゃっちゃちゃっちゃ説明しとく れやす」 「了解。ョョョ : せりふ と、これまた手厳しい操の台詞に、つくづく報われないポケ担当の一一人はすすり泣きながら 頷いた 「いや、実は十兵衛に誘われての観戦しに来たんだよ」 主水の口から飛び出した聞きなれない単語に操と遊恋子が揃って小首をかしげる。 「あいえすえふしー ? 池袋、ウエスト、ゲ ! ・ : : あ 1 、あかん。全然ちゃうわ」 「・ : ・ : 。何かのファンクラブですか ? 「ぶーっ ! ぶつぶぶつぶ 11 っ ! はすれ、は・ず・れ ! 」 途端、主水は今ほどの意趣返しとばかりに実に憎たらしいリアクションで二人の神経を逆撫 でした。 さかな
「ち、ちげえよ、馬鹿 ! 大人数だと目立つだろが。この娘一応アイドルなんだからそこらへ ん配慮してやらねえとーー」 「んー、敬ちん。一応サガミオリジナル用意しておいた方がいい ? それともやつばミチコロ ンドン ? ・ 「使わねえよ、馬鹿っー 「うえっ ! ナ、ナマでやっちゃうの ? 敬ゃん、つけない派 ? 「意味違うつ ! 頼むからこれ以上誤解を助長させるようなこと言わないでくれ」 当然というべきか、右のような騒動を繰り広げてから、自分たちもついていくと言ってきか ない娘たちを必死でなだめた敬介は、ツバメと一一人で家を出た。 のだが、 「あ、つあ、つあ、つあ、つあう」 「 : : : またか」 とりあえず池袋に出てきた敬介は近くでオットセイみたいな鳴き声が聞こえてきたのに気づ き、疲れ果てた顔つきで辺りを見回した。 「あ、つあうあ、つあ、つあ、つ」 すると駅前の交差点のところで、ひっきりなしに通行人にぶつかっているツバメの姿が見え はため た。それは、傍目にはわざと通行人にぶつかりに行っているようにしか見えないくらい見事な いけぶくろ
279 第 4 話梅雨戦線ビバップ いけぶくろ 池袋のストリートファイトから四日経った水曜日。 「え 1 、というわけで、来週からはいよいよ期末テストだ。まあ、学生の義務だと思って適当 に乗り切ってくれー、以上」 しのづか 放課後のホームルームを篠塚先生がそう言って打ち切ると、早速教室が翌週のテストの話題 でざわっき始めた。 つばき 無論、椿家の面々も例外ではなく、 「あ 1 、も、っそんな時期かあ」 つぶや と、隣の席で熟睡しているツバメを揺り起こしながらひだりが呟いた。 「ほら、ツバメちゃん。もう放課後だよ」 こうめい 「う、、つーん : : : 孔明殿 5 、どうか我が軍に加わってくだされ 5 りゅうびげんとく 「どんな夢っ ? なんで劉備玄徳っ ? ツバメちゃん起きてー 「うにゆ : : : あ、ひだりん。おはよん」 と、そこでようやくツバメは目を覚まし、何事もなかったかのように大あくびを一つ。 第 4 話梅雨戦線ビバップ ばいうせんせん
「三秒で説明すんなよお。聞けよ、俺のエピソードを。剣と魔法のファンタジ 1 を、銃と流血 のアクションを、悪党とお姫様の禁断のラブロマンスをよお 「夏休みに遊びたいが金がなくて今のうちに稼ごうってんだな。わかった、もういい」 「簡潔に説明すんなよお。もっと脚色させろよ」 とが 主水はつまらなそうに唇を尖らせてから、 「つーかなに ? お前目工悪くなったのか ? 「いや、俺じゃあなくて、こっち」 左右とも視力一一・〇の敬介は、もみあげの髪をいじくりながら物珍しそうに店内をキョロキ ョロ見回しているツバメの手をぐいと引っ張った。 「あ、つつとと。、つい、ボクボク」 敬介に手を引かれ、ツバメはなんだか飼い主に無理やり引っ張られる大みたいによたよたし ス つつ主水に頭を下げた。 プ「ああ、ハイハイ。同居中の女の子の方か。なに ? どんなプレイに使う眼鏡探してんの ? 」 「馬鹿じゃねえの使わねえよよしんば使うとして言わねえよしかもプレイって眼鏡にそんな多 話彩な使い方があんのかよそもそもそれ以前に眼鏡にプレイ用とそれ以外のものがあんのかよな ごようたし んだここ池袋の眼鏡屋は変態眼鏡フェチ御用達かよっーかも、つ意味わかんねえよ馬鹿 ! ぜーぜー」
238 に入場してきた。ランキング一桁台ともなるとファンの数も先ほどの試合とは違うらしく、会 場のギャラリーから一斉に歓声が上がった。 そして、 「ランキング現在八位、さお : : : あ、失礼しました。え 1 とどうやら一身上の都合に よりお名前が変わったそうです」 という進行役の説明と共に藤村選手の後から一人の少女がコート上に姿を現した。 プカプカのツナギにべリ 1 ショートの娘の姿を確認した瞬間、椿家の面々は硬直した。 「改めましてご紹介します。ランキング現在八位、椿小唄選手の入場です , 「な、なにイイイイイイツ ! 」 きょ・つがく 会場の一角から驚愕の声が上がった。 「ラ、ララ、ランキング八位っ ? すとんきよう 驚愕のコーラスを終えた後、ひだりが改めて素っ頓狂な声を上げた。 「旦那はん旦那はん、八位やて ! す ) 」っ、八位って言ったら九位の上ですえ」 : つ、つまり小唄サマは池袋の中でも八番目に強い女の子ってことになるのですよ」 操と遊恋子も興奮して当たり前なことを言った。 「お、おう。そう言ってたな」 けた