娘 - みる会図書館


検索対象: クインテット! 2
237件見つかりました。

1. クインテット! 2

せりふ と、敬介の台詞に続けて居候娘たちが次々に口を開いた。 「周りを見渡せば、夏期休暇を謳歌する同年代の少年少女たちの笑顔、笑顔、また笑顔。何度 ・ : そして今日、 もくじけそうになった。逃げ出したくなった。しかし俺たちは戦い続けた ! その戦いに終止符が打たれたのだ ! 」 そこで敬介は一旦言葉を句切り、五人娘の方を振り返った。 娘たちもその視線を真っ直ぐに受け止める そうして一同はゆっくり大きく深呼吸すると、 「 : : : 補習終わったあああああああー そろ 声を揃えて唱和した。 つばき この日、終業式の翌日から一週間に渡って行われた赤点補習の全日程が終了し、晴れて椿家 一の面々は夏休みに突入したのだった。 ~ 「俺たちの夏休みはこれからだっ ! 太陽がうらやむほどに遊び倒してやるぜ ! そうだろ、 みんな ! 」 む 「お 1 っ ! 」 湯 と五人娘が拳を振り上げて応える 話 い「ねーねー、唄丸。白線の上だけ歩いて帰ろー」 こうた それから、不意にツバメが道路の白線の上にピョコンと飛び乗ると、小唄にそう提案した。

2. クインテット! 2

「いや、なんか、見張っとった連中全員寝惚け面したカボエラ女とツナギ着たアマレス女にボ コボコにされて追い返された一一一口うてましたわ」 「あはは」 と、操は思わす吹き出した。十中八九ツバメと小唄のことだろう。あの一一人ならいかにもや りそうなことだ。ヤクザ連中を相手に大立ち回りするツバメと小唄の姿を想像し、操は可笑し くなった。 「おっかない娘のいてる家ですな」 「そんなことない。みんないい娘ばっかりや」 操はフルフルと首を横に振った。 本当に、みんなお人好しばかりで困ったものだ、と操は思った。多分、後で敬介から事情を 説明されても、あの家の中で今回の一件に関して「操のせいで厄介ごとに巻き込まれた」など と考える者は一人としていないに違いない。 だから困るのだ。そんなお人好したちをこれ以上自分の家のごたごたに巻き込むわけにはい かない。 けじめだけは自分でつけなくてはならない。極道の家に生まれた人間として落とし前という ものはしつかりとわきまえなくてはならないのだ。 なあに、最悪死にかけの娘が本当に死ぬだけだ。たいしたことじゃあない。

3. クインテット! 2

そういう目でぐるりと部屋の中を見回してみると、どこか部屋全体がよそよそしくなってい る気がした。 ひとごと ホーム 多分もう、あっちが本宅になっちゃったんだろうな、とひだりは他人事のように考えた。 「なんであのくらいで飛び出してきちゃったんだろ ? ポツリと呟いた。 訊ねつつ、実はひだりにはその理由がわかっていた。 理由は、居候娘たちがやってきたことにある。 なるほど、敬介自身は以前と同じつもりでひだりにワガママを言っただけなのだろうが、受 け取り手のひだりにとっては状況が違う。 椿家には、彼女と同じ年頃の娘が四人もいるのだ。 当然、他の四人娘に対して、敬介がワガママをぶつけることはない。それは敬介が彼女たち オ チ に対して、ひだりほどに親しみを抱いていないということであるが、翻って言えば、彼女たち プ 力を異性として意識しているということでもある。 戸 のそんな中、自分一人だけ以前と同じように家族として扱われていることがひだりにとって不 天 満だったのである。 話 敬介にしてみれば、もちろんそれだけひだりを気の置けない仲と認識しているからこその行 為なのだろうが、ひだりにしてみればたまったものではない。自分一人だけ女の子として見て

4. クインテット! 2

夜半、ひだりは布団の中でうなった。 トイレに行きたい。 誰しも経験のあることだろうが、就寝中尿意を催した際、布団の中から抜け出すのには一大 あらが 決心を必要とする。下腹部の鈍い痛みを自覚しつつも、レム睡眠の快感には抗いがたいものが ある。 しかし、ひだりは結局至福のひとときを手放し不要物を排出することを選択した。 もっそり起き上がり、ちょっぴり着崩れた浴衣の裾を直しながら、しばし寝惚けた頭が起動 するまでの間周りをほんやり見回す。 他の娘たちはすっかり熟睡しているようである。 デ みんな昼間、「夜になったら敬介と、あんなこといいな、できたらいいな」と言っておきな ナ ふた セがら、蓋を開けてみればこのありさまである。そりゃあほとんど雑魚寝状態の部屋の中で周囲 慕に気取られすに夜這いを成功させ得る確率は不可能に近いが、揃いも揃って安心しきった顔で む 眠りこける彼女たちの様子にひだりは失笑を禁じえなかった。ロではなんだかんだ言いながら、 ひきよう 湯 そんな卑怯な手段でアドバンテージを稼ごうと考える娘などいないと、全員が全員信じきって 話 第 いるのだ。そしてそれはひだりにも一一一一口えることだった。 ある日を境に唐突に同居することになった五人の居候娘たち。 すそ

5. クインテット! 2

236 「お客さん、入場チケット買ってください」 入り口の従業員に引き留められた。 一方その頃、謎の誘拐グループに拉致されたひだりはマンゴーワニ園の中にある温室の一つ へと連れられていた。 一体何がどうなっているのかひだりにもサッパリわからなかった。ほんの十分前まで敬介た ちと駅前をぶらついていたと思ったら、突然ワゴンから現れた男たちがひだりを取り囲み、 「いたぞ、この娘だ ! 」「間違いないか ? , 「大丈夫、髪の毛をおさげにしてる娘という特徴通り ぼうぜん だ ! と言って、呆然とするひだりをいきなり車の中に押し込んでここへ連れてきたのである。 「ど、どこに連れて行く気 : : : です、か ? ともかく状況を把握しなくてはと思い、ひだりは勇気を振り絞って自分を取り囲む誘拐グル ープに訊ねてみた。 すると、ひだりの前方を歩く男が、 「も、つすぐです、お嬢さん」 とだけ応えた。 存外、男の口調が丁寧だったので、ひだりは幾分ホッとした。とりあえず手荒な真似をされ る心配はなさそうだ。 らち

6. クインテット! 2

ノ 58 いざ念を押された途端、露骨に嫌そうな顔をするツバメ 「明らかに行きたくなさそうじゃないか ! そんな見え透いた嘘つかないでよ ! 余計傷つくよ ! 」 と、小唄がますます落ち込み、一同が本来の目的を見失いかけた頃、 「み、みんな、何やってるの : ・ 路地の向こう側からやってきたひだりが、自宅前で座り込んでいる四人娘の姿を認めて声を 力。に 「あっ、あれええっ ? ひ、ひだりん、家の中にいたんじゃないの ? ボクたちのこと無視し て引きこもってたんじゃ : : : 」 「はいっ ? 違うよ。ほら、例の裏祭りの件で、明日からあたしたち補習でしょ ? だから、 予習しておこうと思ってさっきまで学校の図書館で勉強してたんだけど」 と、驚いて訊ねるツバメに対し、ひだりは制服姿の自分の恰好を指さして事も無げに応えた。 「えええええ 5 四人娘は揃ってその場に崩れ落ちた。 そうして一方のひだりは、 「えっと、とりあえずご近所さんに苦情言われる前に、このプルーシート片しておいてね」 と苦笑いを浮かべつつ言って、バタンと家の中に入っていった。

7. クインテット! 2

732 いそうろう の担当みたいになっていた。とはいえ、別に強制されたわけではなく、居候という立場から自 発的に昼食当番を買って出たまでのことであり、言わば純然たる慈善行為であった。当然こう いう言い方をされては面白くない かんめん 「仕方ないじゃん。お中元でいつばいもらった上に、この前余韻さんが商店街の福引きで乾麺 セット当てちゃったんだから」 というひだりの説明に、 「ああ、ママさんは昔から男運悪い割に、クジ運だけはいいんだ」 小唄がしれっと付け加えた。なにげにひどいこと言、つ娘である 「 : : : 小唄、それ絶対親父の前で言うなよ。あいつ、マジ傷つくから」 敬介がタメ息をつきながらこの場にいない父親を気遣って言った。それから仕切り直して、 「とにかく、何も毎日そうめんじゃなくてもいいだろ」 「冷麦だってばー 「そ、ついうことじゃねえって ! 」 ガチャンと乱暴にそうめんのお椀を置き、一一人が険悪な顔つきで睨み合う。ビチャッとめん っゆがテープルに飛び散った。 けんか 一方、他の四人娘も慣れたもので、一一人の喧嘩を眺めながら「あー、また始まったか」とい そろ った様子でのんきにそうめんをたぐっている。今の顔ぶれが揃ってからというもの、毎日何か

8. クインテット! 2

「あちゃちゃ、今日も朝からあつおすなあ。このままやとウチ、放課後には干からびてしまい ますわ 1 」 「ねーねー、今日学校終わったらプール行こ。としまえんプール。駅前で放置自転車パクれば 十五分で行けるぜい」 し考えだね、ツバメさん。放置自転車うんぬんはともかく、今日は授業でも水 「あ、それはい、 泳があるから水着持ってきているし」 などとのんきに放課後の予定を話し合っている。ついこの間、誰が敬介の看病をするかであ れだけ揉めたというのに、三人とも今ではすっかり遊恋子に丸投げするつもりのようだった。 ( まったくもう。みんな飽きつほいんだから : : : ) あき 結局、威勢がいいのは最初だけなのだ、とひだりは内心呆れる思いだった。 まあ実際のところ、この三人娘には看病などというマメな作業は向いていないのだろうが、 それでもちょっぴり腹立たしかった。 「うん ? どうしたの、ひだりちゃん ? 獄 「なにやら浮かない顔つきでござるな」 もんどじゅうべえ と、そこへ、ひだりの様子を目ざとく見つけた主水と十兵衛がひょっこり声をかけてきた。 話 相変わらず、面白そうな事件の匂いにはやたらと敏感な一一人である。プールの話題で盛り上が じんじようきゅうかく つている三人娘よりひだりの方に反応する辺り、尋常の嗅覚ではない。

9. クインテット! 2

224 「でね。わたしは思うんだ」 小唄は駅前のおみやげ屋さんを冷やかしている他の娘たちを眺めながら続ける。 「わたしはまあ、ママさんが再婚したおかげでこれからも椿家にいられると思うけれど、他の みんなは必ずしもそうじゃあないだろう ? 遊恋子さんも操さんもいずれはご実家に帰らなけ ればいけないだろうし、ツバメさんだっていつまでもウチでゴロゴロしていられるわけじゃあ ない。彼女の帰りを待っファンの人たちがたくさんいるんだからね。いずれ、タレントの仕事 に復帰する日が来ると思う。そ、つなったらきっと、気軽に会うこともできなくなると思、つんだ」 「ああ、そうだな」 それは敬介も考えたことがある。 というか、つい先日、ゴロ寝するツバメの隣で彼女が出演しているテレピ番組を観てそう思 ったばかりである。 本人の意思はさておき、世の中にはあのアイドル娘を必要とする人間が大勢いるのだ。仕事 を続けるにせよ辞めるにせよ、このままなあなあの形で板橋区の片隅で飼い殺しにするわけに ーいかないどこかで一旦、彼女にけじめを付けさせなくてはなるまい。という聿々んが、ここ のところずっと彼の頭の中にあった。 「ひだりだってそうさ。ご両親が海外から戻ってきたら自分の家に帰ってしまう。そりゃあお 隣さんだから会おうと思えばいつでも会えるだろうけど、すっと今と同じ関係でいられるとい

10. クインテット! 2

おわりなごや 「尾張名古屋は城でもっ ! 」 「つわものどもが夢の跡ー はいしゃ 「歯医者は負け大 ! しようしゃ 「商社は勝ち組ー いそうろうむすめ 身振り手振りを交え、敬介と居候娘たちはさながらプロードウェイのミュージカル俳優のよ うに唱和する。その表情は真剣そのもの。冷房の効いた室内にも関わらず、一同は額に汗の粒 を浮かべながらリビングのテープルを囲んで、歌い踊った。 「立直一発ああっー 「一撃必殺ああっ ! 」 そしてリビングの緊張感が最高潮に達した直後、 「お使いジャンケン、ジャーンケン、ポイ ! 」 一同は一斉に手を出した。 し、 一瞬の静寂の後、 「やったー 「うぎゃあ ! 」 と、家中に勝者と敗者の歓声と悲鳴が交錯した。