言い - みる会図書館


検索対象: クインテット! 2
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1. クインテット! 2

「はあい、旦那はん。あ 5 ん」 「ふぶは」 と、べッドに寝かしつけられた敬介はわすかに首を振って言った。 「するか、と敬ちゃんは言ってます」 と、べッドの横に座ったひだりが敬介の言葉を通訳した。 「むう 5 」 あきら 操は露骨に不満そうな顔になり、諦めきれずに敬介の鼻先にりんごを押し付けた。 「好き嫌い一一一口うたらあきまへんえ。ちゃんと栄養摂らへんと」 こんはでふいそほふあいのふいばりのちょうふおふみふあいなりんほじゃあな 「ひげえほー くふえ、ちゃんふおきふえいなかふあちにかっとふいたりんほふはヘうおっていっふえんだう お 「ちげえよ ! こんな出来損ないの木彫りの彫刻みたいなりんごじゃあなくて、ちゃんときれ いな形にカットしたりんご食わせろって言ってんだよ、と敬ちゃんは言ってます」 と、ひだりは不細工なコケシみたいな形をしたりんごを見ながら不平を言った。 「ちゃちゃっ、なんやて、ひだりはん ! 」 「ち、違うよお。あたしじゃあなくて敬ちゃんがそう言ってるんだよ」 慌ててひだりは敬介を指差し首を横に振った。

2. クインテット! 2

228 でね」 あいしゅう 店員さんはそう一言ってカウンタ 1 の中に引っ込み、深いシワの刻まれた目元に哀愁を漂わせ ながら、敬介たちの姿を眺め始めた。 「あうう : : : な、なんか背中にものすごいプレッシャ 1 が。ど、ど、つしよう、敬ちゃん ? と、その視線を感じ取り、ひだりがオロオロして敬介に訊ねた。 「ど、どうするってお前、あんな話聞かされたら買うしかねえだろ」 対する敬介も困惑気味に応えた。 「でもさー、敬介。実際、んにやこと言ったって、欲しいものなんか一つもないーー・もがが」 「ば、馬鹿 ! ツバメ、声がでかい。オッサンに聞こえたらどうすんだ」 と、敬介が慌ててツバメのロを塞いだ直後、カウンターの方で店員さんが小さく咳払いする 音が聞こえてきた。プレッシャー、さらに増大である 「 : : : も、もうこうなったら、なんでもいいから買、つしかありませんね」 遊恋子が意を決したように小声でささやいた。 「こ、ここまでくると、もはやちょっとした押し売りみたいなものだね。実際、あのおじさん、 わたしたちが買い物することを前提に話していたし」 「ちゃっ、ひょっとしてあの店員はん、来るお客さん来るお客さんにおんなじ話して、無理や りおみやげ買わせてるんとちゃう ? 」

3. クインテット! 2

られているのを感じた。彼の馬鹿には人を傷つける力はない。彼の馬鹿は親しい人に向けられ る親愛表現の一つなのだ。 「けどさ、俺はこんな性格だからさ、本当に、つくづく自分が嫌になるけどさ、言ってやれね えんだ。無理すんなって。ことあるたんびに喧嘩するばっかで : : : 。あいつは馬鹿だ、どうし ようもねえ馬鹿だ。新婚のときに買ったでつかいダイニングテープル指差して、これがぎゅう ぎゅうになるくらい子作りに励むって誓った話とかガキの時分の俺にしやがるくれえの馬鹿だ。 ・ : そんで離婚して、一人でさびしそうにテープル座って、お袋が座ってた椅子眺めてたんだ」 初耳だった。あの能天気な楽太郎がそんな風に落ち込んでいたことも、それを見てぶつきら ほうの敬介がそんな風に考えていたことも。長い時間を共有してきたことで、同じ時間を共有 してきたのだと錯覚していた事実を、ひだりはこのとき初めて実感した。 デ 自分の知らないところで、敬介が、楽太郎が、壊れそうな家を必死でつなぎとめようともが ナ セ いていたことを知った。 「でも、もう違うんだ。家族旅行は全員参加、メシは全員揃っていただきマッスルなんだよ。 む こいつらが来てくれたおかげで、ウチのテープルは : : : 満杯なんだよ」 湯 そう言って、敬介は不意に布団の中で眠る家族たちの方に視線を向けた。 話 第ひだりは何か言葉をかけようとした。でも一言葉が見つからなかった。多分これは、椿家の親 すずはら 子にしか立ち入れない問題なのだろう。涼原家の娘で、椿家のお隣さんだったひだりが介入で

4. クインテット! 2

「ほれ、お茶でいいか ? と、公園内の自動販売機で飲み物を買ってきた敬介は、まるで親の帰りを待っ子供のように ちょこんとべンチに腰掛けている操に向かってペットボトルを差し出した。 「おおきにー」 うれ よほどのどが渇いていたらしく、操は嬉しそうにペットボトルを受け取った。そのくせ一気 ほにゆう に飲むことができないらしく、哺乳ビンを手にした赤ちゃんみたいにちびちび飲んだ。 「あんま見んといてください。よう子供つほいて言われますねん」 本人にも自覚があるらしく操は恥ずかしそうにはにかんだ。敬介はむしろその様子の方に可 笑しみを覚え、小さく吹き出した。 「ちゃっ ! せやから見たら嫌や一一一口うとるのに、。 し旦那はんのいけず 1 」 わり 「いや、悪イ悪イ」 敬介がくつくっと笑いをかみ殺しながら謝る。 「仕方ないですやろー身体がコレなんやもん」 そでぐち ほお と、操は着物の袖口をつまんでぶくっと頬を膨らませた。確かに十六歳女子の平均をはるか に下回る小柄な身体つきは、お世辞にも健康的とは言いがたい 「ん、やつばアレか。身体弱かったりすんのか ? 」 そ、ついえば先刻も日差しが苦手だと言っていたことを思い出し、敬介は訊ねた。

5. クインテット! 2

「 : : : 我慢は身体によくないのですよ。何を恥ずかしがる必要があるですか。さあさあ、ほら ほら」 「なんふえそんふあせつきょふふえきなんふあふお ! あぶほ 1 まうなほうふえんのきゃあか いふあっふんのやめふおうおー 「何でそんな積極的なんだよ ! アプノーマルな方面のキャラ開拓すんのやめろよ ! と敬ち ゃんは言ってます」 ものすごくうきうきした様子で迫ってくる遊恋子にひだりはゲンナリした身振りを交えて言 った。 「ちゃちゃちゃ、遊恋子はん。旦那はんは今ウチが看病しとるんどす。邪魔せんといて」 いえいえ、主人の身の回りのお世話をするのが使用人の務めですので。操サマこそお休 みするがよろしいのです」 「ふたりふおもやめふおー 「俺の世話はひだり一人で十分だ、と敬ちゃんは言ってます ! 」 「、つええええっ ? 「二人ともやめろ ! 」と言ったはすの敬介はひだりが全然違うことを口走ったので驚いた。 「おひっ ! 」 と敬介は怒鳴った。

6. クインテット! 2

もう未練はない。 操は、まるで言い聞かせるように鏡の前の自分にそう語りかけた。 と、 「なんや辛そうでんな。小嬢はん」 その直後、鏡の中に瓜のように細長い神森の顔が映った。 操は驚きもせずに背後を振り返る 「身体弱いんやさかい、あんまり無茶したらあきまへんで」 と、神森はロでは操を気遣う台詞を言いながら、その実ちっとも心配していない様子で言っ 操はその顔を鋭く睨みつけ、 「自分、目工ついてへんの ? 表に女子トイレの看板かかってたの見えへんかったん ? 歌 「今んとこ、小嬢はんの他に使てる女いてまへんがな。固いこと言わんといてくださいー 挽 の が、対する神森は辺りの個室を見回し、悪びれずに応える。 道 「ちゅーか、前々から思ててんけど、女子トイレて個室しかおまへんやろ ? 別に男が中に入 極 ったかて困らへんと思いますねん」 「あんたがどう思てるかなんて訊いてへんわ」 「さいですか」

7. クインテット! 2

「そら強いか弱いかで言うたら弱い方やと思います。小さい頃はしよっちゅうお医者はんにか かっとり・ましたし 「そうだったのか。さっきは無理させて悪かったな」 と敬介は謝った。言われてみれば確かに、先程全力疾走してからちょっぴり顔色が悪いよう にも思、んる。 「や、そんな、普通に生活する分には困らへんさかい、気イ遣わんといてください」 「そうか。ならいいんだけど」 ぞんがい 操が存外気楽そうに応えたので、敬介は安心した。 「で、結局何がどうなってんだ ? それから、敬介は本題に移った。 歌途端、操は申し訳なさそうに表情を曇らせて口ごもった。 の 「オイオイ、今さら隠し事はなしだぜ。こっちももう巻き込まれてんだからさ」 た 道 すんまへん : : : 」 「はい、 極 が、すぐに敬介に促され、操は覚悟を決めたようにゆっくりと口を開き始めた。 話 こさん 「実は今、ウチの実家の京都玄龍会は、お父ちゃんや古参の幹部を中心とした保守派と、若手 幹部を中心とした造反派の一一つに分かれて、内部抗争の真っ最中なんどす。 : : : で、あの神森

8. クインテット! 2

すると、小唄とツバメが顔を上げ、 「うん、子守唄代わりにと思ってね。ふふ、こう見えてわたしは小学校六年生のとき都の朗読 コンクールで惜しくも入賞を逃したほどの実力の持ち主なんだ。安心していいよ、アニさん。 あ・え・い・う・え・お・あ・お・あ」 「んい、病気のときはジョジョが一番だぜよ、敬介。『凄み』が出れば怪我なんか一瞬で治るぜい」 と、言った。 「あふおかああああ ! どふおのふえかいにおおふえけんふあぶふおうとジョジョききながふ あやふらかにねむふえうにんえんがいふんだほ、むはくはうなふあえふわ ! 」 「アホかああああ ! どこの世界に大江健三郎とジョジョ聴きながら安らかに眠れる人間がい るんだよ、むちゃくちゃうなされるわ ! と敬ちゃんは言ってます」 なぜだか「ジョジョ , の部分だけちゃんと発音できる敬介だった。 歌そうして大声を出した拍子にべッドからすり落ち、敬介は床に身体を打ちつけた。 挽 の 「いっふええっ ! 」 道 「いつでええっ ! と敬ちゃんは言って・・・ーー」 極 「こんなふおのまえつうふあくしなふていいっ ! 」 話 第 「こんなものまで通訳しなくていいっ ! あ、そうだね」 言ってひだりはハッと我に返り、慌てて敬介を抱え起こした。

9. クインテット! 2

けんげん シアが顕現しやがったー と、敬介が歓喜の声を漏らした直後、 「でも、作ってあげにやい マヨネーズ和えそ、つめんをずずずずるっとすすりつつ、しれっとツバメが言った。 思わず一同が「は ? という顔になる。 「な、なに、言ってんの、お前 ? 」 ツバメの言葉が理解できず、敬介が唖然としてブッ切りの日本語で訊ねた。 「料理、作れるけど、作ってあげない、と言ってんの、ボク」 ツバメが敬介の口調を真似して繰り返した。 「はああああああっ ? 何言ってんだ、お前っ ? ひだりなき今、椿家における献立のマンネ リ化を解消できるスペックの持ち主はお前しかいねえんだぞ ! 今立ち上がらずにどうすん こばやかわひであき くわ だ ! 関ヶ原の戦いで一言えば、東軍が西軍に押されてるときに小早川秀秋が指咥えて見てるだ けみたいなもんだぞ ! この一刻を争う状況でお前は何を言ってーー」 「だってボク、ひだりんの料理好きなんだもん」 げつこう 思わす激昂する敬介の言葉を遮り、ツバメが言った。 「ぶっちやけひだりんの料理は食べながら覚えちゃったから、見た目も味もほとんど同じの作 れると思うよ ? けどさ、やつばり料理って作った人の性格が出るんだよ。ひだりんのは、優

10. クインテット! 2

くてただの自傷行為ですから。ただのストレス解消です。ただのセルフカウンセリングなので すよ。だからサクサクサクサクリストカットしましたけどココはヘっちゃらです。平気の平左。 どういたしまして。だってココには敬介サマという心の支えがありますから全然へっちゃらで す。昨日も敬介サマ、今日も敬介サマ、来る日も来る日もくるくるくるくるくるくる狂、つ狂う 狂う狂う狂う狂、つ狂う日も敬介サマ敬介サマ敬介サマ敬介サマ敬介サマ敬介サマ敬介サマ敬介 サマ敬介サマ敬介サマ敬介サマ敬介サマ敬介サマ敬介サマ敬介サマ敬介サマ。ココはヘっちゃ らです、ええもう全然平気。サクサクサクサク。違います、これは違います。ココは平気だっ て言ってるじゃありませんか。なのにセクハラと冷めたコーヒーを飲むためだけに学校にいる ような先生が『この娘さんはもう限界です。帰国させたほうがいいでしよう』っていうからコ コとしては勿論帰国して敬介サマに再会できればそれに越したことはありませんから一一一口うとお りにして帰ってきたんです。そしたらいざ帰国してみたらあの糞ジジイが空港で待ち構えてい 舞てココを無理やりに病院に連れていこうとするからココは必死になって抵抗しました。この糞 ろうごく ジジイ、ココを大好きな敬介サマと離れ離れにしてあんな牢獄みたいな学校に入れたと思った 盟ら今度はもっと牢獄みたいな、だって窓に鉄格子がはめてあるあんな病院に、こんな x x x x 監 話か入る病院に、ココは x x x x じゃないのにココはヘイキなのに病院に叩き込もうとするから いココは暴れておじいサマに噛み付いて敬介サマに会わせろ会わせろ会わせろ会わせろと言った めらおじいサマは「 : : : わかった。お前の好きにしろ』と言ってココを敬介サマの学校に転入さ