かないと困るですよ。あんまりべッドの音が激しいですと、ココと敬介サマがふしだらな行為 でエキサイティングしているのではないかとあらぬ誤解を招くですよ。めつ と、遊恋子は微笑を絶やさず敬介に近づいていく。 一方の敬介は生きたままフライバンの上に乗せられたエビのように身をよじった。 「 : : : そんなに怖がらないでくださいまし。あいにくとココにカニバリズムの嗜好はございま せんので、取って食べたりはしないですよ。うふふふふ」 ささや 遊恋子はふんわりとべッドの上に腰掛け、敬介の耳元で囁く。そうしてゆっくりと敬介の頬 を撫でてから、口元のガムテープに手を伸ばした。 「 : : : 邪魔者は追い返しましたので、とりあえずおロのガムテープを剥がして差し上げますね。 と、その前に。敬介サマ、くれぐれも騒いだり助けを呼んだりしてはいけませんよ。おとなし くしていただけないのなら、取ってあげません。よろしいですね ? 」 「んー、んーっ ! 」 てんとう 敬介は必死に点頭した。 遊恋子が満足して口元のガムテープを剥がした瞬間、 「ひだりイイ ! 助けーーーがフッ ! 」 ちゅうちょ しゆと・つ 躊躇なく助けを呼ばうとした敬介は即座に遊恋子の手刀でのどを突かれ、悶絶した。 「 : : : はあはあ、け、敬介サマ、なかなかのギャンプラーですね」 もんぜっ
「 : : : トマトだけでなく、ニンジンもピ 1 マンもキャベツの芯もしいたけもダメではないです かというかちょっぴり好き嫌いが多すぎですよ おまけに敬介は酢豚のパイナップル、カボチャの煮っ転がしなど甘いおかずは一切ダメ。か といって辛いものも苦手で、カレーは甘ロしか食べられないというお子様のような味覚の持ち 主なのである。 「 : : : 素直に食べないのならココがロ移しで 「いただきマッスル。もぐもぐ : : : うわ、すっぺ、すっぺ 「 : : : それはそれでむかっくですよ」 即座にトマトを食べる敬介を見て、遊恋子は少しむっとした。 一通り食べ終えたところで、 「 : : : 今お茶を煎れますね」 きゅうす 曲 舞 と遊恋子がポットから急須にお湯を注ぎつつ言った。 ス途端、部屋中に香ばしいお茶の香りが広がり、敬介は思わすくかくか鼻を鳴らした。 盟「ん、なんかいい匂いだな」 んん、駅前の商店街に日本茶のお店があったので、この前買ってきたのです。字治のか 話 ぎよくろ 新ぶせ玉露なのですよ」 「ははあ。ウジノカプセギョクロなのですか」
しら騒動が絶えないため、いつの間にかこの家では当事者以外が喧嘩に関知しないというのが 暗黙の了解になっていた。 「唄丸、マヨネーズとってー」 とう ( てーーーって、ちょっと待った、ツバメさん ! なんでそうめんにマヨネーズかい るんだい ? 「なんでってかけるんだよ、そうめんに。マヨネーズに他の使い道なんてないじゃん」 言いつつ、そうめんにプリプリマヨネ 1 ズをかけ始めるツバメ 「 : : : ひいいっ ! ツ、ツバメサマ、やめてくださいまし ! 見ていて不愉快なのですよ ! 」 くつがえ こ、これはそうめんの常識を根底から覆す食べ方やっー 「わちゃっ、気持ちワル ! 四人娘がそんなやりとりを繰り広げている間にも、敬介とひだりの口論は外の気温よりも白 熱し始めていた。 チ 「たまにはカレーとか食わせろよ、カレーカレー ! 」 プ 「うるっさい、どうせ甘ロカレ 1 しか食べられないくせにー 戸 の「んだと、コラ ! あんまり俺を見くびるんじゃあねえ ! 頑張れば中辛も食べれますううつ ! 」 天 全然自慢になってないことを全力で言い放っ敬介であった。 話 「大体そういうことは自分が家事やってから言いなさいよ ! 」 「馬鹿野郎、男が家事なんてちまちましたことやってられつか ! 」
しくってあったかくって、食べる人のことすげー考えてる味がする。で、機嫌悪いときはちょ っとしよっ辛くてね。そこがまたイんだけど。とにかく、あの味とまったく同じ奴はボクには 作れない。だから作らない」 「わかんねえ奴だな、お前も。だからひだりがいない間だけ代わりに 「代わりなんてできるわけないじゃん。ふざけてんの、敬介 ? 」 敬介が言いかけた途端、不意にツバメがひやりとするほど険しい顔になって言った。 「さっきから聞いてりやさー、なに、敬介 ? まるでひだりんが料理作るためだけにこの家に いるみたいな言い草じゃん。そりやひだりんも愛想尽かして出てっちゃうよ、敬介の甲斐性な し。挙げ句、ひだりんの代わりにご飯作ってくれる人探してさ、バッカじゃない ? そうじゃ ないじゃん。まずひだりん連れ戻すことを考えるのが先でしょ ? 「なっ、うつ : オ チ 珍しく真剣な表情をするツバメの視線に射抜かれ、敬介は思わす言葉に詰まる。 プ : つまんにやい意地張るなよ、敬介ー。敬介だってホント 「ま、これ以上言わないけどさ。 戸 岩 の はひだりんの料理食べたいんだろー ? 天 それからツバメは再びいつものトロンとした顔に戻ると、 話 「少なくともボクは、ひだりんの料理食べたいよ ? んで、ひだりんの代わりに料理作るのも 嫌だから、これからひだりんのこと連れ戻しに行く」
「ああ、そうやった」 操は思い出したよ、つに頷いた 「ひどっ ! ョョョ、あんまりや旦那はん。ウチがタネを植え、水をやり、立派な木に成長す るのを見届け、しかる後にじっくり選別した上で採取したりんごを食べてくれへんやなんてー 「うふおっふえ ! きんふおのふーばーれひほふふろごひやふふえんでふあったやふだうお、 そえ」 1 で一袋五百円で買った奴だろ、それ、と敬ちゃんは言ってます , 「嘘つけ ! 近所のスー 、ええからガタガタ言わんと早よ食べよし ! 」 「ちゃっ ! 「ふいだだだっ、かじゅふがっ ! かじゅふが、ふあなにふあいうつー 「いだだだっ、果汁がっ ! 果汁が、鼻に入るつ ! と敬ちゃんは言ってます」 「 : : : 敬介サマー 歌 と、今度は横合いから遊恋子がしびん片手に顔を出した。 挽 の 「 : : : そろそろですか ? そろそろコレの出番ですか ? ち 道「あいまふえんほ ! 」 極 「ありませんよ ! と敬ちゃんは言ってます」 話 ひだりは敬介の感情まで代弁するように怖い顔を作って言った。実際よく聞き取れるもので ある。
子を見下ろしてから、顔を見合わせクスクスと笑った。 その後、遊恋子は「冗談だって , と敬介たちが諭しても一言うことを聞かず白線の上を歩き続 けたのだった。 その日の夕食時。 「いただきマッスル ! 」 居候娘たちがもはやすっかりおなじみとなった椿家特有の食事のフレーズを合唱し、 「はい、アニさん」 「 : : : どうぞなのですよ、敬介サア だんな 「ちゃちゃちゃ、旦那はん」 デ 「ん、敬介。あ 5 ん」 ナ ガチガチガチガチ ! セ 情 慕 「ぎゃああああっ ! 」 む 「こらこらあ ! みんな敬ちゃんにお皿押しつけちやダメだって ! 敬ちゃんが圧殺されちゃ 湯 うでしよ」 話 しれつ 新例によって例のごとく、誰が敬介にご飯を食べさせるかで熾烈な争いを繰り広げていると、 「えへんえへん。はー、、 しみんな一旦注目ー
と言って嬉しそうに部屋を出ていく遊恋子を眺め、敬介はもう一度タメ息をついた。 「 : : : ハイ、敬介サマ。あ 5 んですよ」 「、つつ、む、つ : : : あ 5 ん」 しゅんじゅん と、眼前に差し出されたスプーンを眺め、一瞬逡巡してから諦めたように口を開ける敬介。 まったく絵に描いたようなへタレつぶりだが、実際問題利き腕がギブスで固定されているので ど、つしよ、つもないのである。 「 : : : よく噛んで食べなくてはダメですよ。あごを刺激すると脳の働きが活発になるのです」 「もぐもぐ、寝たきりの状態で活発になってどうすんだって話だけどな」 へりくっ 「 : : : そういう屁理屈をこねてもダメなのですよ。それと、ロの中にモノを入れたまま話して もいけません」 「はいはい」 「 : : : ハイ、あ 5 ん」 「うえつ、トマトかよ 5 」 目の前に差し出された野菜を確認し、敬介は渋面を作った。 「 : : : 好き嫌いもダメなのです」 「うるさいなあ。トマトなんか食わなくっても死にやしねえよ」 うれ じゅうめん あきら
ノ 50 「んむ ? すると、そうめんにべッタリマヨネーズを塗りたくっていたツバメは顔を上げ、 「できるよ、料理」 ケロリと応えた。 「ええええええええっ ? 直後、敬介たちは揃って驚きの声を上げた。 「え ? なに ? ツ、ツバメ。それ、マジで言ってんのか ? いや、それ以前にお前正気か ? 」 「ツ、ツバメさん、料理の定義は人間がおいしいと感じる食物をこしらえる技術のことだよ ? 大丈夫かい、何か別のものと勘違いしているんじゃあないのかい ? 「 : : : そ、そうですよ、ツバメサマ。食べた相手を死に至らしめる毒物の精製法とかではない のですよ ? 」 「ちゃっ、も、もしくはその毒物を利用した暗殺術とか ? よもやそうめんにマヨネ 1 ズぶつかけて食うような娘にまともな料理が作れるとは思えず、 一同は疑わしそうに訊ねた。 「んだよー、みんなしてそのリアクション。ボクが料理できちゃ悪いのかよ 1 ? 」 まなざ 全員から疑いの眼差しを向けられ、さすがにツバメはぶすっとした。 、や、悪かねえけどさ。あんまり意外だったもんだから。 : っーか実際、お前ウチに
とひだりは首をひねった。何か、自分の中でとても大切なことだったように思う。 が、しばらく考えても思い出すことができず、ひだりは一旦諦めた。チラリと図書館の時計 を見上げると、いつの間にか結構な時間が過ぎていた。 気づけばもうお昼時である。 勉強は正直あまり進まなかったけれど、なんだかんだで愚痴を吐いたらちょっぴりスッキリ したことだし、そろそろ帰る頃合いかな、とひだりは考えた。 「うーん : とひだりは一度大きく伸びをして、宮崎にそろそろ帰るね、と伝えた。 「あ、ひだりちゃん。この後用事ある ? もしよかったら俺と」 その後、宮崎の誘いを上の空で聞き流し、ひだりは帰宅していった。 チ 「・ : ・ : だからなんで今日もまたそうめんなんだよ ? 」 プ 一方その頃、椿家のダイニングでは、敬介がテープルに山盛りにされたそうめんを眺めてゲ 戸 のンナリとしていた。 天 「仕方ないだろう、アニさん。ひだりが自分の家に帰っちゃったんだから」 話 第 と、ひだりに代わって今日のお昼当番を引き受けた小唄が「文句があるなら食べるな」とで も言いたげな顔で言った。
敬介の思い切った行動に、遊恋子はむしろ感心した。 「がはつ、げ・ほっ。ぎ」や、逆に、つ亠ま , い , かなーと思って」 「 : : : 今回は見逃して差し上げますが」 おうねん 「見逃してないじゃん ! 今まさに往年の悪役プロレスラー、アブドーラ・ザ・ブッチャ 1 ば さくれつ りの地獄突き炸裂させただろー 「 : : : とにかく、次は許しませんからね」 キッと敬介を睨みつけ遊恋子は念を押した。 りふじん 「ふつざけっ ! んな理不尽な命令誰が聞くーーんごっ ? と、敬介が言いかけた瞬間、遊恋子がエプロンのポケットから何かを取り出し、敬介のロの 中に押し込んだ。 「な、んぐっ : : : な、なにを飲ませたっ ? 」 曲 舞 ごくり、とのどを鳴らしてから敬介は言った。 バネロ」 「 : : : 敬介サマ。敬介サマは確かお好きでしたよね ? 獄 と、遊恋子はエプロンのポケットから攻撃的なパッケ 1 ジをしたお菓子の袋を取り出し、ニ 監 コリと微笑む。 話 い「そ、それは暴君ハバネロつつ ! 」 一方の敬介はそのお菓子を目撃した途端、顔色を変えた。甘ロカレーしか食べられない敬介