たいきやく していた。天空に燃えるイナズマのたえまない大火の下で、すべてのものは、くつきり、影 もないほどあざやかにうかびあがった。風にしなう木、白くあわをふき、大波をうつ川、飛 ぶシブキ。流れるちぎれ雲、横なぐりの雨のヴェ 1 ルの間から、ちらちら見える対岸の高い 崖のばうとしたりんかく。短い間をおいては、何かの大木が戦いに敗れ、若木の間へヾ たお ばくはってき リッと伊れオも こ。、つこうに力のおとろえない雷鳴は、いまは耳もつんざくばかりの、爆発的 おんきよう な音響となり、はげしく、鋭く、ことばにあらわせないほどのすさまじさだった。嵐はまさ いっしゅんかん 一瞬間で島をこつばみじんにかみくだき、燃やしつくし、木のてつべんまでを水びたし にし、吹きとばし、そのなかのすべての生き者の耳の力を失わせそうな、無類の一大勢力に までもりあがっていた。野宿する、家のない子どもらのためには、ものすごい夜であった。 きようはく しかし、とうとう戦いは決して、脅迫、不平のうめきをだんだんとよわめながら、軍勢は 退却し、平和がふたたびあたりを支配した。少年たちは、大自然の力に大いにうちひしがれ かんしゃ て、キャンプにもどった。けれど、彼らは感謝すべき事実を発見した。というのは、べッド きょだい の屋根であった、あの巨大なスズカケの木は、雷にうたれて、廃墟と化していたのだ。そし ひげき て、その悲劇のおこったとき、三人はその下にいなかったのオ するど かれ かみなり はいきょ わかぎ あらし かげ 251
こんなことを考えているうちに、トムは、もう牧場小路のずっと先までやって来ていた。 学校の「はじめ」の鐘が、トムの耳にかすかにひびいて来た。もうあの聞きなれた、なっか しい立日も、けっして、けっして二度と聞くことはないのだと思い トムはいま、すすりあげ これはとてもつらいことだ。けれど、これはみんなに追いつめられたことだから、ど 、つにもしよ、つがない。 トムはこの世の荒波に放り出されたのだから、されたようになるより しかたがないのだ が、トムは、みんなを許した。そう思うと、すすり泣きは、つづけざ まにこみあげて来た。 ちょうどこの時、トムは、むの友、ジョ に出くわした。ジョ 1 も、けわしい 目つきをして、たしかに心のなかにおそろしい決心をもっているようすだった。まさに、 そで れは、「むは一つ、身は二つ」だった。トムは、袖で目をふきながら、家の仕うちがひどく て、思いやりもないから、逃げだして、広い世界をさまよい、二度と帰らない決心をした、 わす などということを、泣きじゃくりながら、話しはじめた。そして、最後は、自分を忘れてく れるな、ということばで結んだ。 ところが、ちょうどジョーも、おなじようなことをトムにたのもうと思って、そのために、 かね あらなみ ノ まきばこうじ ノ 195
だれにもそれを話さなかった。 トムの学校友だちは、ネコの死がいを使って検死あそびをはじめ、それをいつまでもやめ ないので、トムは、例の心配ごとを思い出させられるような気がしてならなかった。いつも おんど ならトムは、あたらしい遊びごとといえば、かならず音頭とりを買って出るのに、死んだネ シッドは気がついた。そして、トムは コの検死官にだけはなったことがないということに、 これはおかしなことだった。そして、トムがはっきり、そうい 証人にさえならなかった うことをきらうようなようすを見せて、いつもできれば、それをさけていることを、シッド は見のがさなかった。シッドは、ふしぎに思った。けれども、何も言わなかった。だが、こ の検死あそびも、やがて、はやらなくなり、トムの良心をくるしめなくなった。 こういう悲しみを味わっていたころ、トムは毎日か一日おきに機会を見つけては、格子の もんひん ついている小さい牢屋の窓にゆき、自分の手にはいるような、ほんのちょっとした慰問品を 「殺人犯」にこっそり差し入れてやった。 そまっ 番人はいなかった。 牢屋は、粗末なレンガ建ての小屋で、村はずれの沼地に立っていた。 ざいにん なかに罪人がはいっていることは、それほどめずらしかったのだ。そして、このみつぎ物を さつじんはん ろうや ろうや まど ぬまち こうし 180
まもなく、また月があらわれたとき、インジャン ジョーは、横たわっているふたつのか らだを見おろしながら、立っていた。医師は、何やらはっきりしないことをつぶやくと、一 二度、長くあえぎ、それきり静かになった。 インジャン ジョーは、つぶやいた 「これで遺恨がはれたんだ。ちくしようめ ! 」 それから、死体についているものをぬきとった。そのあとで、あの運命のナイフを、ひら いたままになっているポッターの右手につかませ、からになった棺の上に腰をおろした。三 分ーー四分ーーー五分とたった。やがて、ポッタ 1 が身うごきをはじめ、うなりだした。ポッ ターの手は、ナイフをにぎりしめた。ポッタ 1 はナイフを持ちあげ、じっとながめたが、身 ぶるいすると、下へおとした。それから、死体をおしのけて起きあがると、よくよくながめ てから、あわてたようにあたりを見まわした。 ポッターの目が、ジョ 1 の目とあった。 「ああ、ジョ 1 こりや、ど、つしたことだ。」と、ポッタ 1 は一言った。 「ひでえことをやったもんだ。」ジョ 1 は動かずに、言った。「おめえ、なんでこんなこと いこん かん こし 151
んだ。、ツク、おれは、そうやっておれの手から、イボ、何千もとったんだぞ。おれ、いっ まめ でもカエルっかまえてあそぶから、イボはたくさんあったんだ。ときどき、豆でとったこと もあるぜ。」 「そうだ、豆はいいな。おらもやった。」 「やった ? どんなふうにやった ? 」 「豆、わってな。イボは、すこし血も出るように切るのよ。それから、豆の片われの方へ つじあな 血いくつつけて、月の出ねえ晩に四つ辻に穴ほって、うめんのよ。もう片っぽは、焼いちゃ うんだ。そうすると、血いくつついてる方の豆がな、もう片っぽと一つになりたがって、一 生けんめい、よぶからな。やつばりイボだって、ひつばられちゃうんだ。それで、イボ、お ちるのよ。」 まめ、しず 「そうだ、ハック、そうやればいいんだ。だけどな、それ、うめるとき、『豆、沈め、イ ボ、とれろ。また出て来て、うるさがらせるんじゃないぞ ! 』って言えば、なおきくんだぜ。 。ハーはそうするんだ。ジョーは、コンスタンティノープルのすぐそばまでだっ ていったことあるし、ずいぶんいろんなとこ知ってるんだぞ。だけどさーーネコの死んだの かた 102
ムは、もうすこし思案した。と、急に、あることに気がついた。上の前歯が一本、ぐらぐら しているのだ。これは、うまい。そこで、トムのことばで言えば、つまり「手はじめ」とし うった て、うなりだそうとしたとき、気がついたことだが、もしこの理くつを申したてて、訴え出 れば、おばさんは、その歯をぬくだろう。ぬけば、、たいのだ。そこで、歯のことは、しば らくおあずけとして、ほかの場所をしらべることにした。ちょっとのま、うまい考えは何も うかんでこなかった。。 : 力やがて思い出したのは、あるお医者から聞いた、二、三週間ねてい るうちに、指を一本とらなければならなくなるような病気の話だった。そこで、トムは、夢 ちゅう 中になって、いたい足の指を、ジーツの下からひつばりだしてしらべてみた。ところが、そ の病気になったら、どんなようすになるのか、 トムは知らなかった。だが、とにかく、その 病気は、やってみる値うちが、じゅうぶんありそうに思えたので、かなり威勢よくうなりだ シッドは、まだ何も知らずに寝ていた。トムは、前より大きな声をだした。すると、なん となく足がいたいような気がして来た。 はんのう ほね まだ、シッドからは、何の反応もなかった。トムはもう、この、だいぶ骨の折れる仕事の
まって来たとき、三人は、だんだんにおしゃべりをやめ、いかにも、うわのそらで、じっと 火をみつめはじめた。もう興奮はおさまり、トムとジョーは、、 ま、家に残っている、 人かの人びとのことを考えないわナこま、ゝ ( 冫 ( も力なかった。その人たちは、この悪ふざけを、自 分たちほど喜んではいないのだ。不安がわいて来た。心配になり、気がめいって来た。ため 息が、一つふたっ、知らないまにもれた。そのうち、ジョーが思いきって、おずおずと遠ま わしな「さぐり」を入れてみた。ほかのふたりは、文明社会に帰ることをーーもちろん、 ど、つ思うかと℃、つのだ。 ますぐにというのではないけれども トムは、笑って、ジョーをやりこめたー ハックは、そのときまで、へまな口だしをして いなかったので、トムに味方した。そこで、この気おくれ者は、すぐにコ一 = ロいわけ」をした。 おくびよう そして、自分の服にくつついている臆病なホームシックの虫などは、できるだけふるいおと して、この急場から逃げだし、ほっとした。これで、むほんは、さしあたり、うまくしずめ られた。 夜がふけてくるにつれて 、、ツクはいねむりをはじめ、やがて、いびきをかいていた。ジ 1 も、それにつづいた。トムは、しばらくの間、腕まくらをし、身うごきもしないで、じ わら こうふん うで 222
なった。そして、その日の午後も終わらないうちに、三人は、町じゅうの人たちが、そのう ち「何かの事」のうわさを聞くだろうというようなことを言いふらして、うれしい気分に ひたっていた。そして、このばんやりした暗示をうけた子どもたちは、みな、その時までだ まっているようにと注意された。 ま夜中ごろ、ポイルド・ハムと、あと二つ三つ、ちょっとしたたべものを持ってあらわれ たトムは、集合場所を見おろす小さい崖の上の、ぼうばうに茂った下ばえの中にたちどまっ た。空には星があり、あたりはたいへん静かだった。偉大な川は、休息している大洋のよう にひろがっていた。トムは、一ちょっとのま、耳をすました。静けさを破る物音といっては、 何もなかった。トムは、氏く、はっきり口笛を吹いた。崖の下から答えがあった。トムは、 またあと二度吹いた。この合図にも、おなじような答えがあった。それから、あたりをはば かるような声がした。 「そこにゆくのは、だれか。」 おおうなばらふくしゅうしゃ 「『大海原の復讐者』トム・ソーヤーなり。汝らの名をなのれ。」 おに さつじんはん 「『殺人犯』ハック・フィンと、『海の鬼』ジョ 1 ・ がけ くちぶえふ なんじ ハ 1 なり。」 198
ばん ホノターは、大きなナイフを取り その上にのせられ、しつかり口ーフでくくりつけられた。。、【 だすと、ロープのあまっているはしを切り、そして、言った。 ほねき 「さて、骨切り医者さんや、このばちあたりは、用意できましたぜ。あと、五つ出してい ただきてえね。さもなくば、こいつあ、ここへおいとくと。」 ーが一一 = ロった。 「そのとおりだ ! 」と、インジャン・ 「おい、何を言うんだ。」と、医師は言った。「前ばらいしてくれというから、はらってや ったじゃないか。」 「そうさ、それで、おめえさん、まだほかのこともしてくれたぜ。」と、インジャン・ 1 が、そのとき、もう立ちあがっていた医師のそばに近づいていて、言った。「五年前のある 晩、食い物をもらいにいったおれを、おめえさんは、おめえのおやじの家の勝手口から、追 んだしたじゃねえか。それで、おめえ、おれなんざあ、ろくなことしねえとぬかしやがった。 それで百年たっても、この仕返しはするぞと、おれが言ったら、おめえのおやじは、おれを わす ろうや 浮浪者というので牢屋へぶちこみやがった。おめえ、このおれが忘れると思うのか。インジ ャンの血は、むだには流れちゃいねえぞ。さあ、こんどこそ、おめえをとつつかまえたんオ ふろうしゃ 149
こともない ほんのちょっとトムより大きい少年が、まえに立っていたのだ。セント・ビ ひんじゃく ータースヾ ーグのような貧弱な、小さい、みすぼらしい村では、年とか男女の区別なしに、 ノ こうきしん よそから来た者は、強い好奇心をそそるものである。 おまけに、その子は、、い服を着ていた。これは、まったくたまげたことだった。帽子は スホンも 優美なもので、きっちりボタンのついている青い上着は新しくて、しゃれていた。。。 そうだった。靴もはいていた きようは、金曜日だというのに。おまけに、その子ははで なリボンのネクタイさえしていた。その子の都会ふうなところが、ぐっとトムのかんにさわ みもの った。トムは、このりつばな、おどろくべき見物をまじまじとながめた。しかし、まじまじ とながめればながめるほど、そして、なんだ、そのおしゃれと、さもばかにしたような顔を ふうさい して見せれば見せるほど、トム自身の風采は、自分の目にも、だんだん、みすばらしく思え てくるのだった。どちらも、だまっていた。かたほうの子が動けば、かたほうも動いた が、うしろへはゆかず、横へ横へと円を描いてまわった。ふたりは、じっと顔と顔、目と目 を向けたままだった。 その、っち、とうとうトムが言った。 ゅうび くっ えが