「悲しむ者、そ、の、ひーー・・ああ、なんだかわかんないよ ! 」 「その人は ! 」 「ああ、その人はだ ! その人はーーその人は、あーーその人は、悲しむーー幸福なるか な、悲しむ者、その人は・ーーその人はどうするのさ。メアリ、なぜ教えてくれないの ? な ぜそんなにいじわるするの ? 」 「まあ、トムったら、かわいそうなおばかさん。あたし、あなたをからかってなんかいな いわ。あたし、そんなこと、しやしないわ。あなた、もう一度、勉強しなくちゃだめね。が つかりしないでね、トム。きっとうまくできるからーーーーそしたら、あたし、とても、 もいもの あげるわ。さあ、いい子だから、やりましよう。」 「うん、じゃ、やるよ、メアリ。何くれるの ? なんだか、話してよ。」 、ものって一一 = ロえば、、、 「トム、そんなこと、いま考えなくてもいいの。あたしが、しし のなんだから。」 「うん、そりやそうだね、メアリ。よし、じゃ、ぼく、もう一度やつつける。」 こうきしん そして、トムは、「もう一度、やつつけた」。そして、好奇心と何かをもらえるというたの さいわい
い悪事と考えたことを、残念に思った。かなしい物語がすすむにつれて、人びとはいよいよ かれ ぜんかいしゅうな 感動し、とうとう全会衆は泣きくずれた。そして、彼らのはげしいすすり泣きは、涙にくれ ている家族の人たちの声に和した。牧師自身、自分の感情にまけ、壇上に声をはな「て、泣 いていた。 かいろう このとき、回廊にかすかな物音が起こ「た。が、だれもそれに気がっかなか「た。そして、 なみだ れいはいどう そのすぐあと、礼拝堂の戸がキ 1 と鳴った。牧師は、涙の目を ( ンカチからあげ、立ちすく んだー ほかの人たちも、ひとり、またひとりと、牧師の見ているほうを見た。そして、人 びとは、一時に立ちあがると、三人の死んだ少年が、通路を前進してくるさまを、まじまじ と見守った。 最初にトム、つぎにジ = ー、それから、おかざりのさが「た、ボロ服の ( ックが、はずかし かいろう そうに、こそこそとしんがりをうけたまわっていた ! 三人は、ひとの使わない回廊にかく そうしき れて、自分たちの葬式のお説教を聞いていたのだ ! 0 、 ー家の人たちは、帰って来た子どもたちにだきっき、息 ポリ 1 おばさん、メアリ、 ノ ノ のつまるほど、キスをあびせかけて、感謝のことばをほとばしらせた。ただひとり、あわれ かんしゃ ばくし だんじよう なみだ 260
ーたちは、ビー玉にも、サーカスにも、およぎにも、なににも気のりがしなかった。トムは みんなに、例のおどろくべき秘密を思い出させ、かすかな元気を持たせることができた。そ の元気のつづいている間に、トムは、ふたりを新しいあそびにさそった。それは、しばらく、 かいぞく 海賊ごっこはやめて、ちょっと気をかえ、インディアンごっこをやろうというのであった。 ( オカになり、頭から足の先 ふたりは、この考えにのって来た。そこで、まもなく三人は、よ、、こゝ まで黒土で線をひき、まるで何びきものシマウマのようになっていた もちろん、三人と しゅうちょう かいたくちしゅうげき も酋長だった。それから、三人は、イギリス人開拓地襲撃のために森をわけて走っていった。 ぶんれつ そのうち、少年たちは、けんかをしている三つの部族に分裂すると、ときの声をあげて物 かげから奇襲し、何千となく敵を討ちとり、頭の皮をはいだ。それは、血なま 0 さい一日だ った。したがって、また非常に満足な日でもあった。 三人は、腹をへらし、たのしく、タはん時ちかくにキャンプに集合した。ところが、こま なか ったことがおこった。というのは、敵対しているインディアンたちは、最初に仲なおりして からでなければ、いっしょにごちそうをたべることはできないのだし、またそうするには、 ぜったい 平和のタバコをすってからでなくては、絶対にだめなのであった。ほかの方法は、三人は聞 きしゅう ひみつ 253
しゃべるな ! 」 「しつ ! 」と、トムは言った。「静かに 三人は、ずいぶん長い間、待ったような気がした。すると、やがて、前とおなじように、 こもったような、ドーンという音が、おごそかな静けさをふるわせて、ひびいてきた。 「いってみよう。」 三人は、とびあがるようにして立ちあがると、町に面している方の岸をめがけていそいだ。 じようきせん それから、川岸のやぶをわけて、水の上をのぞいた。小さい蒸気船が、村から一マイルほど るよ、つに見 月下を、流れにのってくだっていた。その広いデッキの上には、人がいつばいい かるぶね えた。そして、その蒸気船の近くには、ゝ 力なりたくさんの軽舟 ( カ 小ミく ) が、漕いだり、流れ にのったりしていたが、その人たちが何をしているのかは、見当がっかなかった。まもなく 蒸気船の横つばらから白い煙がたくさん、どっと吹きだした。そして、それがひろがって高 くのばって、のんびりとした雲になったとき、あのにぶい、空気をふるわすような音が、ま たじっと聞きいる三人の耳にとどいた。 「これでわかった ! 」と、トムがさけんだ。「だれかが川で死んだんだ。」 ノクが言った。「去年の夏、ビル・タ 1 ナーが川で死んだとき、やつば 「それだ・」と、 けむり 218
あたりをつつんだやみのなかで、三人は、ぎようてんし、たがいにしがみついていた。いく つぶか、大つぶの雨が、木の葉の上に、ばらばらと落ちて来た。 「そら、早く。テントにはいれ ! 」トムがさけんだ。 三人は、くらやみのなかで木の根につまずき、つるにからまれながら、てんでんばらばら わた の方向にかけだした。いかりくるった突風が、木の間をうなって渡り、ふれるもの、すべて を歌わせた。目もくらむようなイナズマが、つぎつぎと光って、耳をつんざくような雷鳴が つづいた。どしゃ降りになり、その雨は、旋風に吹きまくられて、白いきれのように地上を 這った。少年たちは、たがいにさけびあったが、その声は、吠える風ととどろく雷鳴にすっ かりのまれた。だが、やがて、三人は、冷え、おびえ、びしょぬれの姿で、テントのかくれ がに逃げこんだ。しかし、こまったときに友がいるとい、つことは、ありがたいことのよ、つで ある。三人は、話はできなかった。ほかの音は、ともかくとしても、古い帆のばたばた鳴る あらし 音で、話はできなかった。嵐はいよいよっのり、古い帆は、まもなく、とめてある場所から ひきちぎられ、風にのって、とんでいった。三人は、手をとり合い ころんだり、すりむい つつみ ぜっちょう たりしながら、川の堤にたっているカシの大木の下まで逃げのびた。い ま、戦いは絶頂に達 とつぶう せんぶうふ すがた 250
けっこん ほかの者と結婚しちゃいけないんだ、する ? 」 え、あたし、あなたよりほかの人、すきにならないわ、トム。そして、あなたより ほかの人と結婚しないわーーだから、あなたも、あたしよりほかの人と結婚しないのよ。」 「そうさ、もちろんだ。それが約束のなかにはいってることだもの。それから、いつも学 校へくるときや、家へかえるときも、ほかのものが見てなかったら、ばくと歩くんだよ それから、 ーティーにいったときは、きみはぼくを相手に選ぶし、ばくはきみを相手に選 ぶんだ。だって、婚約してれば、そうするんだもの。」 「とてもすてきね。あたし、いままで、そんなこと聞いたことなかったわ。」 ー・ローレンスなんかーーー」 「ああ、とてもおもしろいよ。ほら、ばくとエミ トムは、べッキーの大きな目を見たとき、自分の大しくじりに気がついて、どぎまぎして 口をつぐんだ。 「まあ、トム ! じゃ、あなた、あたしよりほかの人と、まえに婚約したことあるのね ! 」 な べッキ 1 は位きだした。 トムは言った。 けっこん こんやく やくそく こんやく 125
て、おそれげもなく危険と死に立ち向かい くちびるにざんこくな微笑をうかべながら死ぬ ところを見せてやりたいと思った。ジャクソン島を、村から見えないところにうっしてしま 、つュなどとい、つことよ、ト ムの想像力をほんのちょっとつつけば、わけなくできることだった。 かいぞく そこで、トムは心は傷つきながらも同時に満足して、「見おさめ」をした。他の海賊たちもま た「見おさめ」ていた。そして、あまりいつまで、見おさめしすぎて、あやうく島からずつ とはなれたところに流されそうになった。 おうきゅうしょち しかし、三人は、うまいぐあいに早くそれに気がっき、すぐ応急処置をほどこすことがで きた。午前二時、ごろ、イカダは島のはしから二百ャードもっき出ている砂州に乗りあげ、三 ふぞくひん 人は水の上をいったり来たりして、船の荷をあげた。その小イカダの付属品のなかには古い ひょうろう 帆があったので、三人はこれをやぶのかたすみにはり、兵糧をしまうテントにした。しかし、 自分たちは、悪者らしく、晴れた戸外にねることにした。 はら 三人は、暗い密林から、二、三十歩はなれたところで、大きな丸太の腹にたてかけて、たき 火をたいた。それから、フライ。ハンでタ食のべ ーコンをいため、持って来たトウモロコシ・ ハンのストックを半分もたいらげてしまった。人の住みかから遠くはなれて、人跡未踏の、 みつりん きけん まるた びしよう じんせきみとう 203
えいゅう たちまち、三人は、英雄のような気がしだした。これこそ、すばらしい勝利だ「た。三人 がいなくなったということがわかったのだ。死者として、悼まれているのだ。自分たちのた めに、人びとが嘆きかなしみ、涙を流しているのだ。いなくなった少年たちに不親切だった こうかい ことを思い出して、人びとは、心責められ、いまさらどうにもしようのない嘆きや後毎にひ たっているのだった。そして、一ばんうれしいのは、いなくなった者は、町じゅうの話のた せんぼう ねになり、ともかくも、このすばらしい評判に関するかぎりでは、すべての少年の羨望の的 かいぞく にな「ているということだ。これは、すばらしいことだ「た。海賊というものは、やはり、 やりがいのある仕事なのだ。 じようきせん タやみのせまるころ、蒸気船は、いつもの仕事にもどり、軽舟はいなくなった。海賊たち も、キャンプにもどった。三人は、自分たちが急にえらくなって、あんな大さわぎをひき起 こしたことを鼻にかけて、大はしゃぎであった。そして、魚をとって、夕食の料理をしてた べた。それから、村の者たちが、自分たちのことを、どんなふうに考えたり、話したりして すいりよう いるかということを推量しはじめた。三人のために、大ぜいの者が嘆いている光景は うれしいながめだった。けれど、夜のかげが自分たちの上にせ ムたちの考えから言うと なみだ かるぶね なげ かいぞく 221
トムのむは、人間の考えのとどくことのできるかぎりの場所をかけめぐり、その手は、 気ばらしになる、いろいろなレクリエ ションにいそがしかったのだから。メアリは、トム の本をとって、暗誦させオ こ。トムは、霧をわけて進んオ 「幸福なるかなーー・あ、あーー」 さいわい 「ああ、しだ。幸福なるかな、心、あーー・」 「心の貧しき者ーー」 さいわい 「心の貧しき者。幸福なるかな、心の貧しき者、天国へーー天国へ 「天国は、その人のものなり。」 「天国は、その人のものなり。幸福なるかな、心の貧しき者、天国はその人のものなり。 さいわい 幸福なるかな、悲しむ者、あーー」 「悲しむ者、あーー」 「そ、の、ひーーー」 きり
キャンプのなかのものは、たき火もなにも、びしょぬれだった。三人は、どの子どもたち ほね とも同じように、不注意で、雨の用意はしてなかった。それで、骨まで水びたしになってい さいなん オカすこしし たというのは、こまったことだった。三人は、しきりにこの災難をこばしこ。。、、 て、気がついてみると、さっき、大きな丸太の、地面から丸くもちあがっている腹のところ に立てかけて燃やしたたき火が、おく深くくいこんでいて、手のひらほどの場所が、まだぬ れないで残っていた。そこで、あちこちのぬれていない丸太のかげから、木ぎれや木の皮を しんばうづよく集めて、たきつけた。そしてとうとう、ばうばう火を燃やしつけて、三人と えんかい もまた元気になることができた。三人は、 ( ムのかたまりをかわかし、宴会をひらいた。そ れがすむと、たき火のわきにすわりこみ、朝になるまで、その夜の冒険を大げさに話したり、 、ばったりした。というのは、どこにも横になれるほどのかわいた場所がなかったからだ。 さす 日の光が子どもたちの上にさしはじめたころ、みんなはねむくな「たので、砂州に出かけ、 横になり、ねむった。そのうち、やけどするほどじりじり焼かれ、元気なく、朝はんの支度 食事がすむと、だるくて、からだの節々はいたみ、またすこしホームシックに なった。トムは、そのけはいをみとめて、できるだけ海賊たちを元気づけた。けれど、ジョ まるた ふしぶし かいぞく ばうけん したく 252