ゅめじ いかでかわれのみ花の床にうましき夢路をたどるべきか」 ろうどく ぼくし こんしんかい 牧師さんは朗読がすばらしくうまいということになっていた。教会の懇親会では、いつも しゆくじよ 詩を読まされていた。牧師さんが読み終わると、淑女たちは、手をもちあげ、それから、ど うしようもないというようすで、それをひざにおろし、黒目をぐるぐるっとまわして白目を あらわし、「ことばでは、言いつくされませんわ。あまりにも、あまりにも美しすぎて、この 世のものではありませんわ。」というように、首をふるのであった。 ばくし こくちばん えんかい 賛美歌が終わると、スプレイグ牧師は、告知板にかわって、集会や宴会やそのほかのこと しんばん について、最後の審判の日までつづくかと思われるほどの通知を読みあげた。それは、アメ リカでいまだに、都会地でさえ、しかもこのさかんな新聞時代になってもつづけられている、 いんしゅうてき おかしな習慣である。因襲的な習慣というものは、役にたたないものほど、なかなかやめら れないことが多いものなのである。 さてつぎに、牧師さんは祈った。それは、りつばな、むひろやかなお祈りで、細かいとこ ろにまでゆきわたっていた。牧師さんは、教会のために祈り、教会の子どもたちのために祈 ぼくし とこ
村にある、ほかの教会のために祈り、村そのもののために祈り、郡のために祈り、州の がっしゅうこく ために祈り、州の役人たちのために祈り、アメリカ合衆国のために祈り、アメリカの教会の ために祈り、国会のために祈り、大統領のために祈り、政府の役人のために祈り、嵐多い海 せんせいせい ツ。ハの国々の王政、東洋の専制政 にゆられている、あわれな水夫たちのために祈り、ヨーロ ふくいん 治のもとにふみにじられている者のために祈り、光と福音に接しながら、見る目も、聞く耳 も持たない者のために祈り、遠い小島にある異教徒のために祈り、そして、最後に、いま自 おんちょうかご 分の言わんとしていることばが、恩寵と加護を得、よき土にまかれた種のように、いずれよ しゅうかく き収穫を得られんことを、アーメン、と祈った。 かいしゅう 衣ずれの音をさせて、立っていた会衆たちは腰かけた。この本の主人公である少年は、こ かれ のお祈りを好かなかった。彼はただがまんして聞いていただけであるーー・・しかし、そのが まんもなみたいていのことではなかった。トムはお祈りの間じゅう、反抗的な気もちでいた。 彼は、いつもそのお祈りのこまかい部分を、自分ではそれと気づかずに、前に聞いたのと照 らしあわせていた。なぜ気づかずに、かといえば、トムはお祈りをよくも聞いていなかった からだ。それでも、トムは、牧師がいつもくり返す範囲を知っていた。そして、何かちょっ きぬ いの ぼくし だいとうりよう いきようと はんい はんこうてき あらし
もの えんかい もてなしがよく、宴会のような場合には、とてつもない大ばんぶるまいをするということは、 じまん セント・ピータース。ハ 1 グ村での自慢のたねになっていた。それから、腰のまがった、お年 べんごし しようさ よりのウォード少佐とその夫人、最近、遠くからひっこして来たリヴァ 1 ソン弁護士。つぎ わか ひょうばんむすめ ) の服を着、リポンでかざ「た若い娘さん 、村一ばんの評判娘を先頭に、ロ 1 ン ( ふわふわした の一隊。そのあとから一団となって、町の青年会社員たちがつづいた。というのは、この若 者たちは、最後の娘さんが、何か皮肉なことをいいながら自分たちのまえを通りすぎてしま かみ うまで、髪を油で光らせ、ステッキの頭をしゃぶり、にやにや笑いながら教会の玄関内のホ なら かべ そして、こういう ールで壁のように並んで立っていなければならなかったからだった。 もはん マファーソンが、まるで切り子ガラスででもあるか 人びとの最後に、「模範少年」ウィリ 1 ・ ′」しよう リーよ、、つもお力あ のように、おかあさんを後生だいじにかかえながらやって来た。ウィ さんをつれて教会へやって来て、村のおくさんがたみんなの褒め者になっていた。少年たち リーは、、子であった。それにまた、子ど は、みなウィリーをきらっていた。それほどウィ 丿 1 の白 もたちは、何かといえば、ウィー 丿ーを「手本にしろ」と言われていたからだ。ウィー うしろのポ くうぜんに ンカチは、いつもの日曜とおなじように、きようもまた わら げんかんない わか
ひとりの子は、すこしばかり自慢げに、こんな思い出ばなしをした。 「トムは、いっか一度、おれをなぐったことあるんだぞ。」 けれど、そんなことでえらくなろうとしたって、それは、まずかった。たいていの少年は、 おんなじことが言えたのだから、それではちっとも、めずらしくはないわけだった。子ども けいけーん えいゅう たちは、なおも敬虔な声で、いまは亡い英雄たちのおもかげをしのびながら、ゆっくりそこ を立ち去った。 つぎの朝、日曜学校の時間が終わったとき、教会の鐘は、いつもとちがって、ゆるやかな 葬式の鐘をならしはじめた。非常に静かな日曜日で、そのかなしげな鐘の音は、あたりをつ つむ、物思いにしずんでいるような静けさにふさわしく思われた。村の人たちは集まりはじ めたが、しばらくは教会の入口に立ちどまり、こんどの悲しい事件について、小声で話しあ った。しかし、内にはいってからは、ささやき声さえもれず、ただ女の人たちがさだめの席 に着くときの、しめやかな衣ずれの音が、沈黙をやぶるだけだった。この小さい教会が、い きおく ままでこんなにぎっしりいつばいになったことは、だれの記憶にもなかった。そして、最後 ちんもく にしばらく、人を待ちもうけるような間と沈黙があり、それからポリーおばさんが、シッド そうしき きぬ じまん ちんもく かね 258
の子どもは日曜学校ーートムが心 からきらいで、メアリとシッドの すきな場所ーーへ出かけていった。 日曜学校は、九時から十時半ま であ 0 た。そして、そのあとが教 会の礼拝だった。三人のうちふた りは、すすんでお説教まで残った。 そして、あとのひとりも、いつも 残った。が、それは、もっと別な、 大きな理由があるからだった。教会の、寄りかかりの高い、クッションのついていない腰か とう けには、三百人の人がかけられた。建物は、小さい見ばえのしないもので、上には塔のかわ まついたはこ りに、松板の箱のようなものがのつかっていた。入口で、トムは一あしおくれ、よそゆき着 の友だちに話しかけた。 「おい、ヒリー 黄いろい札、持ってるか ? 」 ふだ れいはい こし
学校へゆく必要もなければ、教会へゆくこともなく、だれかれを主人とよぶ必要もなければ、 だれの言うことをきくこともなかった。すきな時、すきなところへ釣りにもゆけたし、泳ぎ にもゆけたし、それも、したいだけ、していてよかった。けんかをしてはいけないという人 は、だれもなかったし、また、夜ふかしもすきなだけできた。春になって、最初にはだしで くっ ノ 出歩くのは、ハックだったし、秋になって、一ばん最後に靴をはくのも、 ックは、顔や手をあらう必要はなく、さつばりした服を着ることもなかった。そして、 ひとこと クのあくたいときては、すばらしかった。一言で言えば、人生をすばらしくするすべてのも と、日ごろ、きゅうくつな思いをして、苦しんでいる、セン のを 、、ツクはもっている ト・ビータースパーグじゅうの良家の少年たちは考えていた。 トムは、このロマンティックな宿なしによびかけた。 、、ツクルべ 「やあ、おはよう 「へえ、おめえこそおはようだ。」 「おまえ、もってるの、なんだい ? 」 「ネコの死んだのよ。」 りようか やど っ
元気よく ! 」 「あめっちこぞりて、かしこみたたえよーー歌いましようー さんびか そして、みんなは歌った。そして、古い第百番の賛美歌は、意気揚々ともりあがり、その 歌が教会の梁をふるわせている間、海賊トム・ソ 1 ャーは、自分のまわりにうらやましそう しゅんかん いまこそ自分の生涯のもっとも得意な瞬間だ にしている子どもたちをながめ、しひそかに、 と思った。 かいしゅう 「かつがれた」会衆は、出てゆきながら、あんなにみごとな百番が聞けるならば、もう一 しいと一言っていた 度だまされても、 トムは、その日、ポリーおばさんのお天気の変わるままに、それまでの一年間にうけたよ りも、もっとたくさんのげんこつやキスをちょうだいした。が、そのげんこっとキスのうち、 どっちが多く、神さまに対する感謝とトムへの愛情をあらわしているのか、トムにはよくわ からなかった。 んだ。 はり かんしゃ かいぞく しようがい いきようよう 262
「そう ? あたし、すこし持ってるわ。すこしかましてあげるから、返さなくちゃだめ これは、けっこうな話たった。そこで、ふたりは、かわり番にかみ、べンチに足をぶらさ ごまんえっ げて、すっかり御満悦だった。 「きみ、サ 1 カスへいったことある ? 」と、トムは言った。 「ええ。そして、あたしがおとなしくしてれば、おとうさんがまたつれてってくださる 「ばく、サーカスには、三度か四度ーー・何度もいったな。教会なんか、サ 1 カスにくらべ れば、つまんないや。サーカスだと、はじめ「から終わりまで、いろんなことやってるんだ どうけし ものね。ばく、大きくなったら、道化師になるんだよ。」 「あら、そ、つ ? もいわね。からだじゅう、ぼちほち、点々があって、とてもきれいね。」 「うん、そうだ。そうして、うんと金になるんだよーーー一日一ドルくらいもとれるんだ。 べン・ロジャースが、そう言ってたよ。ねえ、きみ、婚約したことある ? 」 「それ、なんのこと ? 」 こんやく 121
ケットからはみだしていた。トムは、ハンカチを持っていなかった。そして、持っているも のはきざなやつだとみなしていた。 かいしゅう 会衆がいつばいになったので、ぐずぐずしてる人たちゃ、おくれた人たちを呼ぶために、 かいろう もう一度鐘が鳴り、それから、教会は沈黙につつまれて、ただ回廊の合唱隊のしのび笑いと れいは ) ささやきだけが聞こえていた。合唱隊というものはいつも、礼拝の間じゅう、くすくす笑っ ゝリこ、おぎようぎのよい合唱隊が一組、 たり、こそこそ話をしたりするものである。いっカ前冫 、まはおばえていない。 どこかにあったことを、わたしは知っているが、どこであったか、し それは、かなり前のことで、ほとんど何も思い出せないが、どうも外国のことだったらしい ばくし 牧師さんは、賛美歌の番号をつげ、そして、それをいかにもたのしげな、その地方で称賛さ おんてい れている、きみような調子をつけて読みあげた。それは、最初、ふつうの音程からはじまり、 じりじりと高まってゆき、ついに、ある点まで達すると、そのことばを、ひどく強めて言っ 一気にさがるやりかたである。 てから、まるで飛びこみ台からでもとびおりるように、 「我が主のいくさのさきがけして、血の海をこえて友はかちぬ わ かね しゅ ちんもく しようさん わら
「ああ。」 「なんとなら、とっかえる ? 」 「きみ、なに持ってるんだい ? 」 かんぞう あま」草の根。子」もが ) すこしと釣り針。」 「甘草 ( お菓 「見せろ。」 トムはならべた。品物は満足のいくものだった。そこで、おたがいの財産は、交換された。 あかふだまい それからトムは、白いビー玉二つと赤札三枚をとりかえ、それから、ちょっとした物二つ三 あおふだ っと青札二枚をとりかえた。そのあとで、また、十分か十五分、ほかの男の子たちがくるの を待ちぶせて、いろいろな色の札を手に入れた。さて、それから、さつばりした、うるさい 子どもたちの群と一しょに、教会にはいり、自分の席につくと、一ばん近くの子どもとけん かをはじめた。まじめそうな顔をした、かなりの年の先生が、それをとめた。けれども、先 生がうしろを向いたとたんに、トムは、となりのべンチの少年の髪をひつばり、その子がふ むちゅう へつの子に「あいた 、、、こ。しかし、また、まもなく、、、 り向いたときには、夢中で本を読んてもオ 「 ! 」と言わせたくなって、ビンでチクリとやり、また先生からお目玉をいただいた。 かみ こうかん