少年たち - みる会図書館


検索対象: トム・ソーヤーの冒険 下
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1. トム・ソーヤーの冒険 下

ここで、この記録はおわる。これは、厳密に言って、ある「少年」の物語なので、ここで おしまいにしなければならないのだ。もしこれ以上っづければ、それは、ある「男」の物語 ーしし力とも、つことま、まっ去」り になってしまう。おとなの小説を書く場合、どこでやめれよ、、ゝ わかっている つまり、結婚でおわりにすればいいのだ。けれども、子どもたちの小説を 書くときは、作家は、一ばんうまくやめられるところで、やめなければならない。 この本のなかに出てくる人物は、たいてい、まだ生きていて、順調に、しあわせに暮らし ている。またいっか、この中の若い人たちをとりあげて、この少年少女たちが、どんな男に、 またどんな女に成長したかを見るのも、やりがいのあることに思える日もくることだろう。 かしこ そこで、いまは、この子どもたちの生涯の、その部分には触れないでおいた方が、一ばん賢 しように思われる。 おわり けっこん わか しようがい げんみつ 243

2. トム・ソーヤーの冒険 下

岩波少年文庫発刊に際して 一物も残さず焼きはらわれた街に、草が萌え出し 、いためつけられた街路樹からも、若々しい枝が空に向 かって伸びていった。戦後、いたるところに見た草木の、あのめざましい姿は、私たちに、いま何を大切に し、何に期待すべきかを教える。未曾有の崩壊を経て、まだ立ちなおらない今日の日本に、少年期を過ごし つつある人々こそ、私たちの社会にとって、正にあのみずみずしい草の葉であり、若々しい枝なのである。 この文庫は、日本のこの新しい萌芽に対する深い期待から生まれた。この萌芽に明るい陽光をさし入れ、 豊かな水分を培うことが、この文庫の目的である。幸いに世界文学の宝庫には、少年たちへの温い愛情をモ ティーフとして生まれ、歳月を経てその価値を減ぜず、国境を越えて人に訴える、すぐれた作品が数多く収 められ、また名だたる巨匠の作品で、少年たちにも理解し得る一面を備えたものも、けっして乏しくはない。 私たちは、この宝庫をさぐって、かかる名作を逐次、美しい日本語に移して、彼らに贈りたいと思う。 もとより海外児童文学の名作の、わが国における紹介は、グリム、アンデルセンの作品をはじめとして、 すでにおびただしい数にのぼっている。しかも、少数の例外的な出版者、翻訳者の良心的な試みを除けば、 およそ出版部門のなかで、この部門ほど杜撰な翻訳が看過され、ほしいままの改刪が横行している部門はな 私たちがこの文庫の発足を決心したのも、一つには、多年にわたるこの弊害を除き、名作にふさわしい 定訳を、日本に作ることの必要を痛感したからである。翻訳は、あくまで原作の真の姿を伝えることを期す ると共に、訳文は平明、どこまでも少年諸君に親しみ深いものとするつもりである。 この試みが成功するためには、粗悪な読書の害が、粗悪な間食の害に劣らないことを知る、世の心ある両 親と真摯な教育者との、広汎な御支持を得なければならない。私たちは、その要望にそうため、内容にも装 釘にもできる限りの努力を注ぐと共に、価格も事情の許す限り低廉にしてゆく方針である。私た一ちの努力が、 多少とも所期の成果をあげ、この文庫が都市はもちろん、農村の隅々にまで普及する日が来るならば、それ は、ただ私たちだけの喜びではないであろう。 ( 一九五〇年 )

3. トム・ソーヤーの冒険 下

トウェインは、「トム」の原稿を読んでみてくれるようにと、ていねいにハウエルズにたの げきか 、ウエル み、それをハウエルズに劇化してもらいたいという希望をのべました。ところが、ノ しばい ズは、トウェインが自分で芝居にするようにとすすめ、これは自分がいままで読んだ少年小 説のうちで、最上のものだと激賞しました。これに喜び、自信を得たトウェインは、ここで はじめて「トム」を少年小説として発表する決心をかためました。イギリスでは、一八七六 年の六月に、アメリカでは、それより六か月あとに第一刷が発行されました。こうして、こ ばうけん の、世界でもっとも多く読まれている少年文学、『トム・ソーヤーの冒険』は生まれました。 もはんしようねん はじめこの本は、「模範少年」のすきなおとなや、日曜学校の先生たちの間では、評判がよ くありませんでした。そのわけは、このお話を読んでみれば、よくわかります。しかし、マ ーク・トウェインが書かずにいられなかったいたずらっ子トムのなかに住む少年の魂は、、 までも生きつづけ、人々から愛されています。 マ 1 ク・トウェインは、本名をサミ = エル・ラングホーン・クレメンズと一言い この家族 の歩んだ道すじをたどってみると、その時代のアメリカのようすが、よくうかがわれます。 サミュエルの父ジョン・マ シャル・クレメンズは、東海岸のヴァ 1 ジニア州で生まれまし げんこう たましい 248

4. トム・ソーヤーの冒険 下

なか とによると、べッキ 1 は、「仲なおり」したいと思っているかもしれない。 れいたん そう思わせておくがし トムも、ほかの者たちのように冷淡になれるということを、思 も知るがいいんだ。まもなく、べッキーが学校へやって来た。トムは、気がっかないふりを なかま した。トムは、向こうの方へいって、いく人かの少年少女の仲間にはいり、話しはじめた。 ト・ムキ、亠 9- 《、一 ) 、。ッ へキ 1 が顔をほてらせ、きらきら目をかがやかしながら、にぎやかにか けまわり、さもいそがしく友だちをつかまえているふりをし、つかまえると、大声でキャッ わら キャと笑っていることに気がついた。けれども、べッキーが友だちをつかまえるのは、いっ もトムのそばへ来たときで、そういうとき、わざとちらちら、トムの方を見るということに こうまんしん も、トムは気がついていた。これで、 トムの心のなかにある、いやしい高慢むは、、 しやが上 にも満足した。そこで、トムは、むをひかれるどころ力し ゝ、、っそう「えらぶって」しまい いっそう一生けんめい、べッキ 1 に気がっかないふりをすることになってしまった。まもな さわ から騒ぎをやめると、一つ二つため息をもらし、物ほしげにトムの方をぬ すみ見ながら、あたりをふらっきはじめた。それから、 まトムが、だれよりも特にエ むね ロ 1 レンスに話しかけていることに気がついた。べッキーは、たちまちはげしく胸をし うん、そんなら、

5. トム・ソーヤーの冒険 下

トム・ソーヤーアメリカ南部ミシシッビ河畔セント・ビ 1 タ 1 スパ 1 グという村に住む 少年。父母をなくし、年とったポリ 1 おばさんに育てられているいたずらっ子 だが、うそをにくみ、愛情深い心をもっている。 ポリーおばさんトムばかりでなく、弟のシッドとトムのいとこのメアリも育てている。 しんじん 信心深くお人よしのおばさんは、トムのいたずらにいつも泣かされている。 ふろう ハックルべリ・フィンビ 1 タ 1 スパーグ付近をうろっく浮浪少年。学校へ行く必要もな ばうけん く、「自由な」生活を送るこの少年をトムたちはうらやんでいる。トムとは冒険 友だち。 トムの好きな女の子。べッキー主催のビクニックで、トムとべッ べッキー・サッチャー しようにゆうどう キ 1 は鍾乳洞の中で迷子になるが、三日三晩ののち、二人は出口を見つける。 おもな登場人物 かはん ばん しゆさい

6. トム・ソーヤーの冒険 下

いるようにみえた。その結果、年のすくない子どもたちは、昼は昼で恐れと苦しみのうちに すごし、夜は、しかえしを計画しながらすごすありさまになった。生徒たちは、先生にいた いちまい ずらする機会があれば、けっしてそれをのがさなかった。けれど、いつも先生の方が、一枚 ふくしゅう 上手だった。生徒のしかえしが成功したときには、それにつづく復讐はとても物すごく、ま たいきやく た堂々たるもので、少年たちは、いつもこっぴどくやつつけられて、戦場から退却した。そ こで、とうとう子どもたちは、ぐるになってむほんをくわだて、輝かしい勝利の得られそう な計画に思いあたった。子どもたちは、看板屋の子どもをだきこんで、この計画をうちあけ、 助力を求めた。この少年は、自分でも喜んでその計画に荷担する理由があった、というのは、 先生はその子の家に下宿していたので、先生をきらうわけは、じゅうぶんにあったからであ る。先生のおくさんは、四、五日のうちに、いなかへお客にゆくことになっていたから、この 計画のじゃまになるものは、何もないはずだった。先生は、いつも大きな行事のあるごとに、 準備として、かなりのお酒を召しあがる習慣があった。それで、看板屋の少年が言うには、 「成績発表のタベ」に、先生が、適当な酔いかげんになって、いすで居眠りをするまに、自 分が「うまくやってのけるから」ということだった。それから、ちょうどいい時間に目をさ うわて め せいこう よ かんばんや かたん かがや お ねむ

7. トム・ソーヤーの冒険 下

トム・ソーヤーの冒険下 マーク・トウェイン作 石井桃子訳 岩波少年文庫 3010

8. トム・ソーヤーの冒険 下

と、かれは静かになった。まもなく、見はり番も、船をこぎはじめた。その男の頭は、だん だん下へさがってゆき、いびきは、ふたり分になった。 少年たちは、ああ、よかったと、ながいため息をついた。トムがささやいた。 「さ、 いまのうちだ。い一 、ツクは一一 = ロった。 「おら、だめだ。やつら、目えさませば、おら、殺される。」 、ツクは、しりごみした。そこで、しまいにトムはゆっくり立ちあが トムがせきたて ると、ひとりで歩きだした。。ゝ、 カ一あし、ふみだしたとたん、こわれかかった床板が、ギイ と、きみの悪い音をたてたので、死ぬほどたまげてすわりこんだ。そして、トムは、もう一一 度と出かけようとはしなかった。少年たちは、そこに寝て、ゆっくりすぎてゆく一刻一刻を 数えているうち、しまいには時というものがなくなり、永遠さえも年老いたのではあるまい かという気がしだした。そして、とうとう太陽が沈みかけたのに気がっき、ありがたいと思 つ、一 0 ーが起きあがり、あたりを見まわし さて、片方のいびきがやんで、インジャン・ かたほう としお ゆかいた 112

9. トム・ソーヤーの冒険 下

ほね 「えい、ちきしようめ ! じゃ、おらたちゃ、骨おりぞんのくたびれもうけってわけだな。 ばかくせえ、夜なかにまたこなくちゃいけねんだな。ずいぶん遠いからな。おめえ、出てこ られるか ? 」 あな 「きっとくる。これは、今夜やっちやわなくちゃだめだよ。だって、だれか、この穴見れ ば、ここに何があるか、すぐわかって、掘るからな。」 「じゃ、おら、今夜まわってって、ネコのなきまねするからな。」 「よしと。道具は、木の下へかくしておくとしよう。」 ばんやくそく 。もオふたりは、木かげにすわって、待っ 少年たちは、その晩、約束の時間ごろ、そここ、こ。 ていた。そこはさびしい場所で、時間もまた、よく古い伝説などに物語られて、こわい気の ゅうれい せいれい する時刻だった。精霊たちは、さやさやと鳴る葉の間でささやき、幽霊は暗いすみにかくれ とおば ていた。遠くから、ひくい犬の遠吠えが聞こえ、フクロウが、陰気な調子でそれに答えた。 げんしゆく 厳粛な情景にけおされて、ほとんどロもきかなかった。やがて、十二 少年たちは、こういう 時になった、と、ふたりは考えた。そこで、影の落ちた場所にしるしをつけて、掘りはじめ た。希望がふくらみはじめた。興味がましてくると、ふたりの努力も、それと歩調をあわせ かげ いんき

10. トム・ソーヤーの冒険 下

た。最初、マ 1 ク・トウ = インの手で書かれた原稿は、次に筆耕者が清書し、それをまた著 者が、書きなおし同様に手を入れたということです。そのころ、トウ = インは、新しく発明 されたばかりの植字機 ( のちにタイプライタ 1 に発展したもの ) を百二十五ドルで買いました。 そして、その新発明品に大喜びしながら、「トム」の一部も、この機械にかけて、カチャカチ ャやりましたが、その原稿は残っていないということです。 ( ついでに書きますと、トウェイ ンは、植字機というものに大きな夢をかけ、この機械の改良のために何万ドルというお金を つぎこみ、大きな借財をつくりました。 ) かれ さて、こうして完成された「トム」の原稿を、彼は、友人で、そのころ名声のあった作家、 、ウエルズに出した手紙には、 ウィリアム・・ハウエルズに送りました。そのとき、 「この小説を一人称で書かなかったのは、まちがいだったかも知れません。しかし、その うち、十二歳の少年をとりあげて、成長させてみようと思います。しかし、その少年は、ト ム・ソーヤーではありません。」と書いています。このもう一つの小説というのは、一八八五 ・フィンの冒険』 年に発表されて、トム・ソ 1 ャー以上の傑作と言われている『ハックルべリ のことです。 けっさく げんこう ひっこうしゃ ぼうけん 247