「思いだした、思いだした。風が吹いて、ロウソクの火がゆれたんだ ! 」 「これは、したり ! それで、トムーーそれで、どうしたね ? 」 「それからね、おばさんが、『おや、あの戸はーー・』って言ったようだな。」 「それから、どうした、トム ! 」 「すこし考えさせとくれよーーちょっとね。ああ、そうだーーおばさんが、『おや、あの戸 はあいてるんだよ。』って言ったんだ。」 「まったくほんとに、言ったともさね ! ねえ、メアリや、そうじゃないかね ? それか ら、どうしたね ? 」 「それからーーそれからーーああ、はっきり思いだせないや。だけど、なんだか、おばさ んがシッドに 「それで ? それで ? わたしがシッドにどうしたんだね、トムや ? わたしがシッドに どうしたんだね ? 」 「おばさんは、シッドに シッドにーーーああ、おばさんはシッドに戸をしめさせたん
思った。けれど、夜ごとに、トムは、自分の舌を封じておけばよか「たと後海した。 トムは、一日の半分は、インジャン ・ジョ 1 がっかまらないのではあるまいかということ を心配しながらすごし、あとの半分は、つかまるのではあるまいかと心配しながらすごした。 そして、あの男が殺されて、その死がいを見るまでは、自分はけっして安心できないのだと 思った。 けんしよう 懸賞がかけられ、そこらじゅうが捜索されたが、インジャン ・ジョ 1 は発見されなかった。 あのなんでも知っていて、われわれの心に畏敬の念をわきたたせる、ふしぎなものの一つで ある「探偵」が、セント・ルイスからや「て来て、そこらをあさり歩き、頭をふり、も「と じゅうじ とうたっ おどろ もらしい顔をしたあげく、この職業に従事するものが、たいていの場合に到達する、驚くべ かれ き成功をおさめた。つまり、彼は、「手がかり」を発見したのである。けれども、われわれ さつじんはん は、「手がかり」を殺人犯として首をしめるわけにはゆかない。そこで、探偵が用をすまして 帰ってからも、トムはまだ前とおなじようにし配だった。 日はだらだらとたっていった。そして、一日すぎるごとに、し配はほんのすこしずつ軽く なっていった。 せいこう たんてい そうさく ふう こうかい
ゝ 0 「よしよし、おまえがそう言うならな。だが、ハッ、 手がらにしていいのだぞ。」 「いや、だめなんだ、だめなんだ。どうか話さねえでくだせえ ! 」 わか 若いむすこたちがいってしまうと、老ウェ 1 ルズ人は言った。 「せがれたちは、話さんよーーーそれから、わしも話さん。だが、おまえは、どうして人に 知られるのがいやなんだな ? 」 、ツクは、その男たちのひとりについて、もうあまりいろいろなこと知りすぎているから、 わかったら、殺されてし どうしてもその男に、それ以上知ってるように思われたくない まうのだ、という以外は説明しなかった。 やくそく 老人は、もう一度、秘密を守るという約束をしたあとで、言った。 「ハック、おまえはなぜ、あいつらのあとをつけたのだ ? あやしく思えたのか ? 」 ハックはしばらく考えて、じゅうぶん用心ぶかい返事を考案してから、言った。 「あのな、こういうわけでがす。おら、あわれな身の上でーーーともかく、みんなが、おら ひみつ クおまえのやったことは、おまえの 156
そこへかくしておき、それから、その金が消えているのを発見して、びつくりするという不 運にあうはずだったのだ。あの道具をあすこへ持っていったとは、なんと、なんと運の悪し ふくしゅう ことだったことよ ! ふたりは、あのスペイン人が、やつの「復讐」の仕事のチャンスをね らいに町へくるのを見はって、それがどこであろうと、その第二号へつけてゆく決心をした。 そのとき、物すごい考えが、トムの頭に浮かんオ ふくしゅう ク ? 」 「復讐 ? もしおれたちのことだったら、どうする、 、ツクは、もう気を失いそうになって言った。 「ああ、そんなこと言うな ! 」ノ ふたりは、そのことについて、いろいろと話しあった。町にはいったころには、、ンヨーの すくなくとも、トムだけかもし 考えているのは、ことによると、ほかの人かも知れない れない トムだけが裁判で証言したのだから、ということになった。 なさけ ・目分ひとりで亠旭険にさらされるとい、つことは、トムにとって、まことに、まことに旧ない ことだったー だれかほかの人といっしよなら、うんと助かるのだが、と、トムは思った。 きけん さいばん かね 120
「あんなやつを相手にしているのでなかったら ! 」トムは、歯ぎしりしながら思った。「り きぞく つばな服着て、貴族みたいなつもりでいる、あのセント ・ルイスのなまいきやろうじゃなか まあ、 ったら、町じゅうのどの子だって、おれはがまんできるんだー ししや、きさまがは じめてこの町へやって来たその日に、おれは、きさまをなぐってやったんだからな。またな ぐってあげますよ。またとつつかまえてやるから、お待ちなさいよ ! おれはあっさり、と つつかまえてーー」 そして、トムは、空中をげんこつで突いたり、蹴ったり、えぐったりして、想像でそこに えがきだした少年をやつつける、さまざまな仕ぐさを、ひとわたりやってみた。 「おや、そうですか ? こうさん、というのかね ? さあ、それじゃ、これで思い知った ろ、つ ! 」 そうして、トムの頭のなかの刑罰は、トムの満足のいくように終わった。 昼になると、トムは逃げるようにして家へ帰った。トムの良むは、それ以上、エ 謝したり喜んだりするところを見ていられなかったし、トムのやきもちは、もう一つのかな しみを、これ以上がまんすることができなかったのだ。べッキ 1 は、またアルフレッドと絵
また、しないという答え。つぎは、べッキー・サッチャ 1 だった。 こうふん トムは、興奮したのと、この場のどうにもならないなりゆきに、頭から足の先までふるえ ていた きようふ 「レベッカ・サッチャ 1 。 」 ( トムは、ちらっとべッキーの顔を見たーーーその顔は、恐布のた いや、わたしの顔をじっと見なさい。」 ( 許し めに、まっさおだった。 ) 「あなたはこの本を を乞うように、べッキーが両手を前にあげた。 ) 「この本を破いたのは、あなたか ? 」 ある考えが、トムの頭に、イナズマのようにひらめいた。トムはとびあがって、さけんだ。 「ぼくがしたんです ! 」 全校生徒は、トムの、この信じられないほどばからしい行ないにあきれて、目をまるくし こんらん てながめた。トムは、混乱した頭をまとめるため、ちょっとのま、じっと立っていた。それ そのとき、トムの上にそそがれた、あわれなべ から、罰をうけるために前に出ていったが、 ノキーの、おどろきと感謝と礼賛にみちた目は、百のムチをつぐなって、まだ余りがあるよ うに思われた。このとき、ドビンス先生のような人でさえ、いままでやったことのなかった むじひ ような無慈悲なおしおきを、トムは、自分の行ないのすばらしさに感激しながら、さけび声 らいさん かんげき
なった。宿屋の灯が消された。いまは、どこもまっくらやみだった。ハックは、ずいぶん長 クの信念はゆるぎはじめた。 し尸待ったような気がした。が、何事も起こらなかった。ハッ 見はりをする必要があるんだろうか。ほんとうに、あるのだろうか ? もうやめて、帰って 寝たほうがいいのじゃないだろうか かれ よこちょう 何か、物音がした。たちまち、彼はからだじゅうを耳にした。横丁に面している入口が、 しゅんかん 静かにしまった。レンガ屋のすみまで 、、ツクは、とびのいた。つぎの瞬間、ふたりの男が、 、ツクのそばをかすめるようにすれちがったが、ひとりは腕の下に何かをかかえているよう たからもの だった。あの箱にちがいない ! では、あの宝物をどこかへ運ぶのだな ? いま、トムを呼 びにいっていてどうなるんだ。とんでもない 、ってし 男たちは、箱を持って、どこかへし まい、それきり見つからなくなるだろう。いや、こいつらのあとにくつついて、つけてゆこ う。やみ夜のおかげで、見つかることはあるまい。そうしに思いながら 、、ツクは、やっと 相手が見えるくらいの間をおいて、男たちのあとから、はだしの足でネコのように歩きだし、 すべるようについていった。 男たちは川通りを川上に向かって三丁ばかりいって、それから、十字路を左にまがった。 やどや うで 144
考えながら、べッドには、つこ。 ばん かみなり そして、その晩、しのつく雨、耳をつんざく雷、目もくらむばかりのイナズマとともに恐 ろしい嵐がやってきた。トムは、ふとんをひっかぶり、 いまか、いまかと自分の最後を待ち うけた。この騒動が、自分のために起こったのだということを、トムは信じて、うたがわな かった。自分がたいへん悪い子だったために、天にまします神さまは、もうがまんができな ほ、つへい くなり、こういうことになったのだと、トムは考えた。虫一匹殺すのに、砲兵中隊をくり出 だんやくろうひ したら、あまり大げさで、弾薬を浪費することだということは、トムにもわかったろう。け れど、自分みたいな虫けらをたおすために、これほど高価な嵐をひき起こすのは、つじつま があわないということは考えっかなかった。 あらし そのうち、嵐はおさまり、その目的を達しないで終わった。トムのしに最初にうかんだの は、感謝して、毎い改めようという考えだった。そのあとで、もうすこし、ようすを見よう と思ったーー嵐はもう起こらないかもしれない : つぎの日、またお医者たちがよばれた。トムは、ぶりかえしたのだ。それから寝床で暮ら した三週間は、まったく長い年月のように思われた。とうとうまた外に出られるようになっ あらし そうどう びき ねどこ お
のうちでは、一ばんうれしいことばだった。ハックは、自分に向かて、こういうことばが 吐かれたのを聞いたおばえがなかった。。 トアの錠はすぐはずされ、、ツクは、よゝには、つ た。そして、いすをあたえられ、老人と大きなむすこふたりは、すばやく服を着た。 「さて、ばうず、 もいあんばいに腹がへっておるとよいがな。朝めしは、日がのばりしだ すぐ用意できる。しかも、できたてのほやほやの熱いところをやるとしようーーーそのこ ここへ来て泊まればいい とは、し配するなよ ! わしもせがれたちも、おまえがゆうべ 思っていたんだが。」 、、ツクは言った。「逃げだしちゃったん 「おら、すっかりおっかなくなっちゃって、」と だ。ビストル鳴ったとき、おら、かけだして、三マイルもかけどおした。そいで、そのこと あくま もう死んでるかもしんねえ 聞くべえと思って、いまやって来たんだ。あの悪魔やろうに けど、会いたくねえから、夜あけるの、待ってて来たんだ。」 「やれ、かわいそうに、一晩じゅう、ひどいめにあったようだな。だが、朝めしがすんだ ら、うちのべ、 トで休むがいし いや、やつらは死ななかったよーーわしたちも、そのこと は残念だと思っておる。おまえの話でな、わしたちは、どこでやつらを押えられるかわかっ ひとばん はら おさ 153
「トム、おまえに天使が乗りうつりなすったんだね ? おまえは予言してるんだよ。おま えがやってるのは、それさね ! まあ、なんてことだろう ! さあ、先をお話し、トム ! 」 「それから、シッド トがーーー」 「ぼく、何も言わなかったと思うけどな。」と、シッドが言った。 え、言ったわ、シッド。」と、メアリが言った。 「まあ、しゃべらずに、ト ムの話をお聞きょー シッドは、なんて言ったね、トムや ? 」 ーしし力なって一言って、もしばく 「シッドは、ぼくがいままでより、しあわせにやってれま、、、、、 が、生きているうちにもうすこしいい子だったらって言ったと思うな。」 「そうれ、聞いたかね ? シッドの言ったとおりじゃないか ! 」 「それから、おばさんが、だまれって言ったんだ。」 コ言ったともさね ! あの時、あすこには天使がおいでになったにちがいない。おいでん なったんだとも、どっかそこいらにね ! 」 はなし 「それから、ジョ ーのおかあさんが、ジョ 1 にクラッカーでおどかされた話して、それか ちんつうざい はなし ら、おばさんが、ビーターと鎮痛剤の話してーーこ