これはもうたしかにひっくりかえる、と思いながら立っていた。自分のいる場所がどこか、 みばうじんじしょ ( ックにはわか「ていた。そこは、ダグラス未亡人の地所にはいる踏み段所の境 0 柵のと一 ) ろ 段があるカら、五歩とはなれてはいなか「た。よし、あいつら、そこ ~ うめるがいも 、ツクは思った。そこなら、見つけるのもやさしいことだった。 インジャン・ジョ 1 の声だった。 そのとき、声が・ーー非常に低い声がした こんなにおそく、あかりがついてる。」 「ちきしようめ、客がいるんだな 「おれにや見えねえ。」 むね これは、あの知らない男のーーばけ物屋敷で見た、知らない男の声だった。ハックは、胸 に ふくしゅう そこ の底までひやっとしたーーーでは、これが復讐なのだな ! 逃げよう、と、まず、ハックは思 みばうじん った。が、すぐまた、ダグラス未亡人が、何度も自分に親切にしてくれたことを思いだした。 ことによると、この男たちは、夫人を殺すのかもしれない。ハックは、勇気をだして、未亡 人に知らしてやりたいものだと思った。が、そんな勇気などないことは、わかっていた 男たちに、つかまっちまうだろう。これだけのことを、そして、もっとたくさんのことを、 しゅんかん 、ツクは、その男のことばとインジャン・ジョ 1 のつぎのことばの間の、短い瞬間に考えた。 やしき だん 146
なった。宿屋の灯が消された。いまは、どこもまっくらやみだった。ハックは、ずいぶん長 クの信念はゆるぎはじめた。 し尸待ったような気がした。が、何事も起こらなかった。ハッ 見はりをする必要があるんだろうか。ほんとうに、あるのだろうか ? もうやめて、帰って 寝たほうがいいのじゃないだろうか かれ よこちょう 何か、物音がした。たちまち、彼はからだじゅうを耳にした。横丁に面している入口が、 しゅんかん 静かにしまった。レンガ屋のすみまで 、、ツクは、とびのいた。つぎの瞬間、ふたりの男が、 、ツクのそばをかすめるようにすれちがったが、ひとりは腕の下に何かをかかえているよう たからもの だった。あの箱にちがいない ! では、あの宝物をどこかへ運ぶのだな ? いま、トムを呼 びにいっていてどうなるんだ。とんでもない 、ってし 男たちは、箱を持って、どこかへし まい、それきり見つからなくなるだろう。いや、こいつらのあとにくつついて、つけてゆこ う。やみ夜のおかげで、見つかることはあるまい。そうしに思いながら 、、ツクは、やっと 相手が見えるくらいの間をおいて、男たちのあとから、はだしの足でネコのように歩きだし、 すべるようについていった。 男たちは川通りを川上に向かって三丁ばかりいって、それから、十字路を左にまがった。 やどや うで 144
もう、くたびれて死ぬところだとわかっているし、死にたいのだから、そんなばかな話で、 トムが苦心さんたん、それがほんとの話だ 気をいらいらさせないでくれと言った。そこで、 ということを、やっとわからせ、べッキ 1 も手さぐりで這いだして、自分の目で、その日光 の青い点を見つけたときには、べッキ 1 はうれしくて、もうすこしで死ぬところだ「た。ト ムは、その穴からむりに這いだすと、べッキ 1 もひつばりだし、そこで、ふたりはすわって、 かるぶね うれし泣きに声をあげて泣いた。それから、数人の男が軽舟に乗ってやって来たので、トム は男たちを呼びとめて、自分たちの事情とおなかのへっていることを話した。すると、男た かれ ちははじめ、そのとてつもない話を信じなかった。というのは、彼らの話によれば、「おまえ ほらあな たちは、洞穴の入口のある谷間から、五マイルも川下にいるんだぜ。」ということだ「た けん それから、男たちはふたりを舟にのせ、一軒の家へつれてゆき、ふたりにタはんをたべさせ た。そして、二、三時間やすませてから、日暮れすぎ、家へつれて来てくれたのであ「た。 夜あけ前に、サッチャー判事と小人数の捜索隊は、彼らがあとに残していった糸の目じる しで、いる場所がっきとめられて、この重大ニースはったえられた。 くうふく みばんほね ほらあな 洞穴のなかの三日三晩の骨おりと空腹は、トムとべッキ 1 にも、まもなくわか「たように、 ひぐ そうさくたい かれ 198
= 儲 , 三当 曲 7 71 いさんだな 「もひとり」とい、つのは、どこにも愉快げ なところのない顔をした、ばろ服の、きたな らしい男だった。スペイン人は、セラーベ メキシコふうの をかけ、白いひげをぼうば、つの はでな肩かけ ばしていた。ソンプレロ帽の下からは、長い しらががたれさがり、みどり色の色めがねを かけていた。ふたりがはいって来たとき、 「もひとり」は低い声で話していた。ふたり かべ は、壁をうしろにして、入口の方に向き、地 面にすわった。語り手はしゃべりつづけた。 その男は話しているうちに、だんだん安心し はじめたふうで、ことばもはっきりして来た。 もひとりは、見たことない 109
ここで、この記録はおわる。これは、厳密に言って、ある「少年」の物語なので、ここで おしまいにしなければならないのだ。もしこれ以上っづければ、それは、ある「男」の物語 ーしし力とも、つことま、まっ去」り になってしまう。おとなの小説を書く場合、どこでやめれよ、、ゝ わかっている つまり、結婚でおわりにすればいいのだ。けれども、子どもたちの小説を 書くときは、作家は、一ばんうまくやめられるところで、やめなければならない。 この本のなかに出てくる人物は、たいてい、まだ生きていて、順調に、しあわせに暮らし ている。またいっか、この中の若い人たちをとりあげて、この少年少女たちが、どんな男に、 またどんな女に成長したかを見るのも、やりがいのあることに思える日もくることだろう。 かしこ そこで、いまは、この子どもたちの生涯の、その部分には触れないでおいた方が、一ばん賢 しように思われる。 おわり けっこん わか しようがい げんみつ 243
ゝ 0 「よしよし、おまえがそう言うならな。だが、ハッ、 手がらにしていいのだぞ。」 「いや、だめなんだ、だめなんだ。どうか話さねえでくだせえ ! 」 わか 若いむすこたちがいってしまうと、老ウェ 1 ルズ人は言った。 「せがれたちは、話さんよーーーそれから、わしも話さん。だが、おまえは、どうして人に 知られるのがいやなんだな ? 」 、ツクは、その男たちのひとりについて、もうあまりいろいろなこと知りすぎているから、 わかったら、殺されてし どうしてもその男に、それ以上知ってるように思われたくない まうのだ、という以外は説明しなかった。 やくそく 老人は、もう一度、秘密を守るという約束をしたあとで、言った。 「ハック、おまえはなぜ、あいつらのあとをつけたのだ ? あやしく思えたのか ? 」 ハックはしばらく考えて、じゅうぶん用心ぶかい返事を考案してから、言った。 「あのな、こういうわけでがす。おら、あわれな身の上でーーーともかく、みんなが、おら ひみつ クおまえのやったことは、おまえの 156
のわくがはめてあり、長い年月の間にだんだんくさってはしまったが、そのまえは、がんじ たからもの ような箱だったのだ。男たちは、しばらくの間、うれしそうにだまって、その宝物をながめ ていた。 こりや、何千ドルもあるぞ。」と、インジャン・ジョーが一言った。 「きようだい、 「マレル一味 少年時代 0 無法一味 ) が、ひと夏、ここいら、うろついた「てことは、いつも聞 いてたが。」と、知らない男が言った。 「おれも、そのうわさは聞いてた。」と、インジャン それらしいな。」 「こうなりや、おめえ、あっちの仕事はしなくていいんだな ? 」 、ンヨーは、まゆをよせた。それから、 「おめえ、おれを知らねえな ? ともかくも、そのことについちゃ、すっかりわかってね ふくしゅう えんだ。あのこたあ、ぜんぜん、盗みじゃねえーー復讐なんだ ! 」 そして、悪意のこもった光が、ジョ 1 の目にひらめいた。 「おらあ、おめえに助けてもらいてえんだ。それが終わったらーー・ーテキサスさ。おめえの いちみ ぬす . 、ンヨーは一言った。「こりや、ど、つも 116
「ほい ! 」と、ジョ 1 は言った。 「なんだ ? 」と、相棒が言った。 いや、箱のようだぞ。おい、手をかしてくれ、なんだか見てみよう 「くさりかけた板 あな じゃねえか。いや、も、つ いい穴があいた。」 ジョ 1 は、手をつつこんで、中身をひつばりだした。 かね 「おい、金だ ! 」 ふたりの男は、ひとにぎりの貨幣をしらべた。それは金貨だった。二階のふたりの少年は、 かれらにおとらず興奮し、大喜びだった。 あいーう ジョーの相棒は言った。 「こりや、早くしまつをつけようぜ。暖炉のうしろがわのすみの草んなかに、古い、さび たつるはしがあったつけーーーおらあ、ちょっとまえに見たんだ。」 男は走っていって、トムたちのつるはしとシャベルを持って来た。インジャン・ジョーは、 ごと つるはしをとると、おかしいぞというようにそれをながめ、首をふり、何かひとり言をいっ てから、使いはじめた。箱はすぐ土から出て来た。あまり大きくはなかった。ふちには、鉄 こうふん あい , う はこ はこ だんろ 115
こ。ゝ、、、とは思えねえ。そいつあ、 「いや、」と、男は言った。「おれもそれは考えてみオカしも あぶねえよ。」 ロのきけないはずのス 「あぶねえと ? 」トムたちは、まったくぎようてんしたのだが ペイン人がこう言ったのである。「こしぬけめ ! 」 少年たちは、この声を聞くと、ロをあけ、ふるえた。それは、インジャン ・ジョーの声だ った。しばらく、どっちの男もしゃべらなかった。それから、ジョーが言った。 「あっちの仕事よりあぶねえ仕事があるかよー・ーーしかも何も起こらなかったじゃねえか。」 「そりや、ちがうぜ。あんなに川上で、それに、あたりに家があるわけじゃなし、おれた ちがやったこたあ、だれも気がつくめえーーーともかく、おれたちがしくじってるうちはな。」 「ふん。だが、ひる日なか、ここへやって来るくれえ、あぶねえことがあるか ? おれた ちを見た者は、だれだってあやしいと思うぜ。」 「そりや、おれもわかってるよ。だが、あいつをしくじってからは、手近な場所はほかに ねえんだ。おらあ、この小屋を出てえんだ。きのう、出たかったんだよ。だが、向こうの山 の、ここがまる見えのところに、あのいまいましいガキどもが遊んでる間は、やっても、む 110
トで暮ら すぐ回復できるものではなかった。ふたりは、水曜日と木曜日を、まるまる、べ " し、しかもだんだん疲れが出てくるような気がした。トムは、木曜日にすこし起きて歩き、 金曜日には外へ出た。そして、土曜日には、ほとんどまえとおなじくらいになっていた。け はいびよう れども、べッキーは、日曜日まで自分の部屋を出ないで、それからも、肺病でもしたあとの ようなようすをしていた ト . ム・十ま、、ツ もにたたが、寝室へは入れてもら クの病気の話を聞いて、金曜日に会、 えなかった。土曜日にも、日曜日にも会えなかった。それからあとは、毎日、寝室へ入れて ばうけんだんこうふん もらったが、あの冒険談や興奮するような話は、何も話してはいけないととめられた。ダグ ラス未亡人は、トムが命令を守るように、そばについていた。トムは、カ 1 ディフ山の事件 できしたい や、渡し船の船つき場の近所で、とうとう「ばろの男」の溺死体が発見されたということは、 に 家の人たちから聞いていた。たぶん、その男は、逃げようとして、川に落ちて死んだのだろ 0 ほう・もん ほらあな トムは、ツクを訪問に出かけた。ハックは、も、つ 洞穴から救われてから、二週間たって、 こうふん くら いかなりよくなっていた。そこで、トムは、、ツクに興味 興奮する話を聞いてもいし みばうじん わた つか しんしつ 199