伊集院 - みる会図書館


検索対象: フジュンじゃないだろ! 青桃院学園風紀録
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1. フジュンじゃないだろ! 青桃院学園風紀録

遠くライトアップされた時計塔が望めるものの、あたりは暗く、道沿いの電灯を除けは三条 寮の明かりも茂みの向こう側 ご主人さまの僕を置いて行ってしまうなんて、よほ 「ああ、ここにいたのかい、僕のビリ どの事情があったに違いない。ハッ ! さてはこのあたりでマイ・ハニー・密が、期待に胸躍 らせながら僕を待ち伏せ ? 」 みやげ それとも芝生のあいだに密の愛の置き土産が ? と。 手綱をとりながら、ひとり目を輝かせる伊集院である。 「おお、密っ : : : そこにいるのは密かい ? おや、違う。ただの電灯 ? 僕とキミとは赤ん坊 のころから相思相愛で、切っても切れない仲だというのに、十五年経ってもアレやコレやがな いまんま。けれど、ふふふつ、そんな不幸も明日でおしまい。父兄参観日が僕たちのゴージャ スな記念日になること請け合いつ」 ・ : と武者ぶるいしつつ、夜道のターンを決めようとしたが、 ろ 「おやっ」 ターと道端に倒れてしまった。 ト石に蹴っますいた伊集院は、ヾッ ) や倒れ込んだ格好のままで、フワフワ巻き毛をもの憂げにかき上げる。 オ 「けれど、そのためには、なんといっても必殺の趣向が必要なのさ。父と父とが二人そろっ はず て、アッとピックリ。ついつい弾みで結ばれてしまうような、特別製の一発が :

2. フジュンじゃないだろ! 青桃院学園風紀録

なぞ 謎の歌い踊る一団は、そのまま青桃館玄関へ。 父兄たちがいっせいに左右に分かれてホール中央に道をあけ、その向こうでは御霊寺親子が かなしば まるで金縛りにあったように棒立ちである。 華やかに登場したのは、青桃会副会長にして、風紀委員長にして、学園内に並ぶもののない 超絶美形、伊集院躑躅。 きゅうかぞく そして、いま一人は、躑躅の父にして、旧華族とロシア貴族の血をくむ名家伊集院家の若主 ぼたん 人にして、現学園長の名代をつとめる、伊集院牡丹そのひと。 その伊集院牡丹の姿を見とめたとたん、御霊寺幽が、くわっ、と眼光鋭く目をむいた。 ごを」どうだんだいさいやく おんみよう ごくあくひどうだいしきま 「いつ、伊集院牡丹っ ! 極悪非道の大色魔にして、言語道断の大災厄 ! 陰陽の道に照らし ものけ 合わせても、即刻退治されてしかるべき、忌まわしき物の怪っ , 今日こそ覚語、とまっすぐにお祓い棒を突きつける。 ほほえ 対して、伊集院牡丹が、ふふふ、と優雅に微笑んだ。 「実に、会いたかったよ : : : 」 る カ 息子の躑躅をそのままオトナにしたような、円熟の色気を振りまく洋風美中年。今宵、身に きら ジまと ャ纏う衣装は煌めくトルコ風で、透けるヴェールと、揺れるヘソ飾りとが、とうていこの世のも オ のとは思われないほどの麗しさだ。 くちひげ 軽やかに波打っ髪と、片時も手入れを怠らない口髭。 みようだい す おこた

3. フジュンじゃないだろ! 青桃院学園風紀録

152 つつじ ここのえりよう 九重寮三階の、伊集院躑躅のプライベートルームでは。 出来た。出来たよっ。思わず、あっ、と 「ふふ : ・・ : ふ , ~ 、 ~ 、つふつふつふ ! プラボ 驚くはどの素晴らしい出来映えなのさ ! 」 くすだま ガウン姿の伊集院が〃愛の薬玉〃の会心の仕上がりに、満足のステップを踏んでいた。 レース波打つべッドの上。 ひそか 巨大なクマのぬいぐるみ『密号』とともにそこに乗っているのは、クマと同しくらいに巨 大な金色の薬玉。 ばっと見は〃薬玉みというより、ミラーポールと表したほうが適当な色かたちだ。得意気な かみふぶき ート型の紙吹雪とがぎ 伊集院がそれをパッカリと二つに開くと、なかにはピンク色の風船とハ っしり詰められている。 「そして、これが最強アイテム〃垂れ幕み ! 加えて、密と僕のそっくり人形。僕に似ている ほうを、ロミオ。そして密をジュリオと名づけたのさ ! 」 かか とう見てもマネキンと呼ぶ 素晴らしいまでの芸術性だろう、と伊集院が掲げてみせるのは、・ かぶ しろもの べき代物だ。片方は黒髪長髪のかつらを、もう一方はフワフワ巻き毛を被せられているらし しか、も、

4. フジュンじゃないだろ! 青桃院学園風紀録

「部屋番号 333 。ってコトは、オレと伊集院先輩の部屋ですね」 ・ : 風紀委員長伊集院躑躅の部屋。 もっとも近づきたくない相手の個室が〃怪しいみと占いに出て、御霊寺は、ヨロリ、とよろ めいている。御霊寺にとって、伊集院躑躅は幼なしみでありながら、天敵とまで忌み嫌う相手 「占い直さなくっていいんですか、先輩」 、いちじる 「うう・ ・ : むむ。いまの占いは確かに気が著しく乱れてしまった。これはおそらく、なにかの 間違い。なぜなら、伊集院が怪しいのはいまに始まったことではないからだ。近寄るとして 、も、できることなら日取後にしたい。 とにかくます向かうべきは九重寮。怪しげな気配がさきほ どから、わたしの霊感を刺激しつづけている ! 」 必ず風紀違反者を見つけて厳しく処分、と。 そう言いつつ御霊寺が渡してよこすのは、ちょうど真ん中に〃@みと染めぬかれた、風紀検 査用のハチマキである。 ようよう ひたい 剣は制服のプレサーを腕まくりで、意気揚々とそのハチマキを額に結びつけ、 「えへへ。ク淫らな食生活みって、ウマそーでドキドキしちゃうよな」 やる気皆無の朱雀ともども、九重寮目指して出発だ。

5. フジュンじゃないだろ! 青桃院学園風紀録

恋ができない。 なんという悲劇だろう、と。 巻き毛を振り乱して叫ぶやいなや、フリルだらけのべッドの上にすっくと立ち上がる伊集 宀元。 びぼう おそ 「ああっ、神をも畏れぬこの美貌。もしも、この僕が恋のできないカラダになったなら、学園 だいらくたん にとっては大損失 ! 下級生は大パニックで、上級生なら大落胆。如月くんと篁にとっても、 耐えがたい大災難に違いないつ」 : つつーか、むしろ大安心です」 おさななじ ート・密っ ! 僕を愛する幼馴染みの彼 「いいやっ、それよりなにより、マイ・スウィートハ だいおうじよう が知ったら、悲しみのあまり大往生は間違いなし ! 」 ′」りようじ おも 十五年来の想い人である青桃会会長御霊寺密の身の上を思い、立ち上がったべッドの上でク だルリとターンを決める、伊集院躑躅である。 。な コトの次第を聞いた剣は、ばかん、と口を開け、 や 「なあなあ、朱雀う。キシがコイして動いちゃうってゆーのは、ええっと、つまり、ホラーっ ン ュ てことなのか ? - ジ フ つき合ってられねー、とあくびに口を開けた朱雀は、すでに回れ右で自分の部屋に帰る準備

6. フジュンじゃないだろ! 青桃院学園風紀録

106 その決め手の一発をこれからどうやって手に入れようと、道にうつ伏せで麗しい溜め息をつ いたときだ。 「必殺の、一発 ? 」 どこからともなく、不気味な声が聴こえてきた。 なんだろう、と伊集院は目を上げる。 暗いあたりを見回してみるが、目立つ人影は見当たらない。 と、ふたたび、 ・〃ピックリの一発みって、言いましたか ? 」 今度はもっと近いところから、訊ねてよこす声がした。 とつじよ 道端に倒れた伊集院の目のまえ。低木の茂みが突如としてサワザワと激しく揺れる。 「おやおや、なんと ! 密が愛するこの僕の、これはもしかして貞操の危機一髪 ? 楽しみだよと身を乗り出した伊集院のまえに、怪しい黒い影が、飛び出すような勢いの匍匐 前進であらわれた。 はらば ちょうど電灯の下まで腹這いで出てきた、その姿を見てみれは、 「おや、制服 ? ほふく

7. フジュンじゃないだろ! 青桃院学園風紀録

128 「坊ちゃま。そちらでお休みのかたは、下級生のかたでいらっしゃいますか ? 」 伊集院のとなりを見やって、感動に目を細めた。 まぶ 「これはまあ、なんという眺めでございましよう。坊ちゃまの眩しい成長ぶりに、三笠山は感 激ひとしおでございます。さすがは我が伊集院家のご子息さま。伝統ある学びの園で、こうし だんな けんさん て日々研鑽を積まれ、ゆくゆくは立派な伊集院家の旦那さまとなられるのでございますね」 かんるい 想像しただけで手足の震えが来ますと喜びながら、黒服の袖で涙を拭う三笠山である。感涙 ふろしき にむせびつつも、背負ってきた風呂敷包みをスルスルと解き、なかから取り出すのは、なにや ら怪しげなガラス瓶やら、プラスチックケースやらだ。 「昨晩、急いで届けるようにとお指図をいただきました品々でございます。こちらが黒色火薬 しよ、つさん で、こちらが硝酸バリウム。それからカリウムに、シュウ酸ナトリウム。ええと : : : 和紙、導 火線とやらに加えまして、タイマー一式その他もろもろ」 ひとみ お確かめくださいと言われた伊集院が宝石のような瞳を輝かせて、勢いよくべッドから飛び 出した。 素敵だ ! と声を上げるやいなや、ナイトウェア姿のままでクルリと軽やかなターンを決 ほうよう め、そのまま美中年執事を熱く抱擁する。 「ありがとう。素晴らしいよ、三笠山」 「ああっ、この三笠山。坊ちゃまの腕のなかで、死んでもよろしゅうございますっ」 びん そで ぬぐ

8. フジュンじゃないだろ! 青桃院学園風紀録

214 上から降ってくるのが、無数のハ ート型紙ふぶきと、ピンク色の風船である。 伊集院の一発イベントを盛り上げるための、効果のはどは知れない小道具の数々。 ゴトン、ゴロゴロと、なかから何かが転がりだし、 「ひっ : それに向かって駆け寄るのが、たいそう取り乱した様子の御霊寺父だった。 転がるところを夢中で追いかけ、ひしつ、と平安スタイル衣装の胸に抱き上げて、 さきみ 「ああ、息子よっ。一一目と見られぬ哀れな姿につ。先見のカで我が子の末路を読み当ててしま うとは、なんたる皮肉 ! むむ : : : しかし、立派に色欲魔人と闘い抜いた。我が息子ながら、 さい′」 あつば 天晴れな最期 ! 」 はじ 眉間に縦皺を刻みつつ頬すりするのは、大薬玉から弾け飛んだ長髪カッラ付きのマネキンの 頭である。伊集院の命名に従うなら、ジュリエットならぬ〃ジュリオみ 割れた薬玉からひらひらと下がる垂れ慕には、華麗なる伊集院の文字で、 『伊集院家、御霊寺家、両家結婚披露』 ホールしゅうに舞い遊ぶ風船と紙ふぶきに包まれた父兄たちは、口々に、 「なんという素晴らしい趣向だろう ! 「おそらくは青桃会会長である密くんの、手腕。ああしてご父君までがイベントを盛り上げる あんたい のに協力されて。このぶんだと、御霊寺家も末永く安泰でしような」 ほお

9. フジュンじゃないだろ! 青桃院学園風紀録

うたげ 「いざ、『秘密の宴』のまえに魅惑の風紀検査へと繰り出そう ! おや、それにしても〃風紀ノ というのは、いったいどういう意味だったつけ ? 」 風紀委員長としては実に頼りない一言をつぶやいたかと思うと、ひらりつ、と愛馬に跨がっ はいよー、と声をかけつつ華麗な手並で愛馬に鞭をくれる。 幼なしみにして想い人である御霊寺の部屋を目指して、一直線に駆けていこうとしたのであ るが、 「はいよ おや ? ど しらかば ちょうど白樺林を右に見るあたりで手綱を引いた。見れば、知った姿が実に面倒くさそうな 足どりで九重寮のはうから歩いてくるところである。 たかむら きさらぎ 「ねえ、篁 ? そこにいるのは、僕の忠実なシモべにして、如月くんの運命の恋人にして、四 ぶっちさつづら かむ / ~ ら 六時中仏項面のムツツリ〇〇〇な篁じゃないか。た おやっ、どうし て進路変更を ? 」 すざく 御霊寺の風紀検査を途中放棄してきた朱雀だ。 すばやくピリーを操り、見事な手綱さばきで朱雀の進路妨害をする伊集院である。 すぜん 「いけないね、篁。敵をまえに逃げるはオトコの名折れ、据え膳食わぬは恥なのさっ , 「 : : : 据え膳が先輩じゃなけりや、食いますけど」 たづな むち また

10. フジュンじゃないだろ! 青桃院学園風紀録

132 「どーでもいいですけど、先輩。危険物の持ち込み、遠慮してもらえませんか ? 」 まだ死にたくないんで、と面倒くさそうに注文をつけるのは、三笠山の広げた〃届け物みの 数々が見えたからだ。 怪しげなガラス瓶。 危なげなプラスチックケース。 恐ろしげな紙包。 いわくありげな、機械類。 ただでさえ自身が危険物にも等しい、伊集院躑躅。彼の部屋に持ち込まれたアレコレを見 て、朱雀は眠たそうにポサポサの髪をかきまわしながらも、とりあえす命の危険を感しるよう である。 と、そのとき。伊集院のべッドの上で、ゴソゴソと人が身動きした。 「なあなあ、朱雀。あれって、トカゲ先輩の友達か ? 」 「友達で添い寝すんのがオーケーなら、オレも今夜からさせてもらうぜ」 つうん」 「う どうやら伊集院のとなりで一夜を過ごしたとみえる美少年が、ようやくいま目を開け、ゆっ くりと起き上がった。 ほふく 匍匐前進のためか少々薄汚れてはいるが、やはり朝の光のもとで見ても、たいそうな美少年