にお 「あっ、あっ、それってもしかしてクマ ? すんごい匂いの花も知ってる。でもって、人形っ てゆーのはロミオとジュリオの親戚 ? だったら、トカゲ先輩がトーソーハン ? 」 「 : : : 違うだろ」 「なあなあ、室伏い。訊いてみよーか。もしかしたら、剣たちが犯人見かけてるかも知れない そうだな。い つもながら冴え渡る刑事の勘だ、司。ちょうどいい ここに似顔杠を佃 こう。木の枝を使って : : : こんな感しか ? 」 司の提案に従った室伏が折れた枝を拾って、記慮を頼りに地面に似顔絵を描きだした。 あまりの〃画才〃に、地面をのぞき込んだ残る三人が口々に言う。 「ええっと、ウマ ? 」 「室伏い。なんだか、ヒッジに似てる」 「それとも、うーん : : : アリクイ ? 」 ろ る「室伏い。だんだんカラスに似てきた」 「 : : : 疲れたぜ」 や「あっ、わかった ! カッハだ 「つけ加えておくと、追跡中のバクダン魔は華奢で童顔の美少年だ。たとえて言うなら、つ かれん つ、司のようにキュートで可憐でラブリーな ! 」 しんせき きやしゃ かん
いじゅういん ど伊集院先輩に顔向けできないっ 「え ? え ? やつばし羊は食っていし 子は食っちゃ駄目 ? 」 別の教室では、『美顔術』の講義中。 ぶっちょう 真剣そのもののクラスメイトたちに交しって、教材の手鏡を握った朱雀があからさまな仏項 「自分の顔より、如月見てたほうがおもしれー」 つかさむろぶし そのころ司と室伏は、校舎の周辺を隈なく捜査中。 せいそう 盛装した父兄たちに混じって制服姿の一一人はよく目立つ。 「司、こっちにはいないようだぞ」 「うーんと、一一階にも見当たらなかった」 じゅうたんじ 「絨緞敷きの三階にも潜んでいる様子はないな」 じゃま おやじ 「なあなあ、室伏い。肩車して。親父たちが邪魔で、よく見えない」 一年生たちの教室の廊下。上級生の父兄らが鈴なりになっているので様子が見えないから と、司が室伏に肩車を要求する。 「くうつ ! 肩車つ」 ひょ ) 、 と司をかるがる肩に乗せた室伏は、鼻息荒く感動だ。これでは捜査に身が入らない づら 。だいたい、キミの父兄 : : : あれは、なにつ」 ダンシ ? それって食えるのか ? でもって、団
188 「なあなあ、室伏し 、。小柄なビショーネン、ちっとも見当たらないな」 つかさ 相変わらす制服姿のままの司と室伏とが、凡波追跡に精を出していた。 そろそろ腹が減ったぞと弱音をこばす司は、だいぶエネルギー切れが近い様子。室伏はとい えば、よほど授業参観での〃肩車〃が効いたとみえて、先ほどからしきりに込み上げる良から ぬ情熱を抑えることに懸命のようである。 ーティーの開始まで、もうそんなに時間がない。もしかすると、敵はオレたちの 「ノ、、つ、つ 0 捜査に気がついて、逃亡をはかったあとかも知れないな」 、、すどなー。そしたら、 「そーかなー。だとしし ( ーティーのご馳走食って、署に帰るだけだけ どな」 あとの捜査を担当者にまかせて、自分たちは帰還。けれど、そのまえに、と : : : 一一人ともが それぞれの希望を、勝手に思い描くらしい 木立のなかで、くん、と鼻を動かした司が、 にお 「えへへ、肉の匂いだ。うひやっ、こっちは魚 ? デミグラス・ソースにホワイトソースに : : : うーん、ニンニクとタマネギの香ばしいャッ ! あ、あ、これってスペアリフ ? ええっ と : : : ェビに、ローストピーフに、こし餡だ ! 」 もんもん そのとなりでは室伏が悶々と、 「しつかりしろ、オトコ室伏つ。非番ならともかく、 いくらなんでも勤務中には許されない
95 オヤジがくるだろ ! 案内の日時を確かめながら、室伏に向かって「今日って何日 ? 」。 父兄参観は、明日。 都合がいいぞと、室伏が拳を握る。 「でもさー、フツーは〃保護者参観みってゆーんだろ ? オレが父親ってコトは、うーんと、 つまり : : : 室伏、おまえが母親 ? 」 あいさっ 「くううつ。よおーしつ ! オトコ室伏つ、これを機会に、思い切って正式にツル坊に挨拶す るぞ ! クお父さんをください、お父さんをください、お父さんをくださいっ % もとい : ・ : ・す みがら ゆいのう みやかに〃凶悪バクダン魔みを発見し、意地でも身柄を確保。輝かしい手柄を結納がわりに、 司を心身ともに逮捕する ! 」 、」ぶし
192 「食われるばっかししや、たまらねー」 「あっ、あっ、すんごい歯ごたえ ? 」 「味見程度じゃ、済まさねー」 「えへへ。これって骨 ? 骨までついでにしゃぶっちゃお」 「ウマいかよ、如月」 「うひやひやつ。餃子がオレのこと押し倒してる」 「うええ。でも、なんだかこの餃子、ナマ焼けみたい」 「ひやあ ! おかしーぞ、このスペアリプ。噛めば噛むほどウマくない , 「なに ? スペアリプ ? スペアリプとはどういうことだ ? 司」 「痛って ! 」 から ゴッン、と何かに頭をぶつけて、思わす顔をしかめながら身体を起こす朱雀だ。 同じく、 「くうつ。オトコ室伏、不覚つ」 司に耳を噛まれたままの状態で、草むらから起き上がった室伏である。 夕暮れの木立のなか。 頭をぶつけ合った朱雀と室伏とが互いに相手を無言で見やり、その相手にそれぞれ噛みつい
きさらぎ えどまえ 警視庁江戸前署刑事課捜査一係の室伏と如月つ」 つぶ 庇うというより無理やり押し潰すような格好で司の上に乗り上げた室伏は、一気に名乗って しまってから、飛び込んだところが無人だと気づいて立ち上がった。 そこは個室手前の、丸天井の優雅なホール。アンティーク・ピアノと、凝った造りのマント いじゅういんすざく しらゆり ルピースと、そこらじゅうに飾られた白百合の花が訪問者を迎える、伊集院と朱雀の二人部屋 「うえええー、鼻が曲がる。ここじゃなくって、奧だぞ。そっちしゃなくて、右のほう」 怪しいのは右側の個室の扉。 教えられて、室伏がそちらに向かって突進だ。 日ごろ持て余し気味のエネルギーをもって、いきなりドアに飛び蹴りを見舞い せいぞう 「観念しろっ、凡波清蔵 ! 」 「あっ、あっ、ズルイぞ、室伏。オレもやりたいぞ、強行突入」 ろ 「どこにいる、凡波 ! 隠れても無駄だ ! 」 る 「うひやー。テープルの上に怪しい道具がいつばい」 や見ろ、と司が指さす丸テープルの上には、ドクロ印の薬品瓶と工具その他が、そのままにさ オ れていた。 窓は開きつばなしで、レースのカーテンがそよ風に揺れている。 びん
166 そのまま九重寮の玄関へと飛び込んで、重厚な造りの階段をヒョイヒョイと三段抜かし。一一 かし 階まで上がったところでキョロキョロと周囲をうかがい、首を傾げたあげくに、もう一階上 あとから追いかける室伏が、 「おいつ、司つ。気をつけろ。こっちは丸腰で、相手は凶悪なバクダン魔だ」 「えへへ、わかってるぞ」 ろうか だいじよぶだぞ、と言いつつ三階に駆け上がる司である。昼なお薄暗い廊下をバタバタと勢 いよく走り抜け、 「うええー、すんごく嫌な感じ ? でも間違いなくここだぞ」 せいどう 立ち止まったのは、青銅に打ち出し紋様のある扉のまえだ。 追いかけてくる室伏を待たすに、ドアノブをつかんでガチャガチャと回す。 「せえーのつ はんっ ! といきなり扉を開いて、部屋のなかへと飛び込んだ。 「司つ、危ないー あとから踏み込む室伏が、そう叫びながら背後から押し倒す。 「うぎや」 むだ なわ 「手を上げろっ、凡波 ! 無駄な抵抗はせずに、おとなしくお縄につくんだ ! オレたちは、
112 ふんいき 重々しい雰囲気の、時代がかった造りの正門 もんび おお 蔦の葉に覆われた門扉が都合よく開かれているそこへと、猛烈な勢いで駆け込んだ。 あとから室伏も、遅れじと追いかける。 正門をくぐると、まっすぐな並木道が正面で、その奧になにやら古めかしい教会のような外 観の校舎。 「うひやー。なんだかゼータクそーな学校だぞ。学費免除って言われたから編入してもいいぞ って言ったけど、あとから請求されたら大変だぞ」 「全寮制なんて、いかにもお坊ちゃん学校だからな」 「あっ、噴水 ! あっ、花畑 ! なあなあ、あの花って食える ? 」 「あれが生徒か ? なんだか細くて頼りなさそうなのがそろっている」 ざた この様子なら中学時代にケンカ沙汰が絶えなかったツル坊も退学の心配はなさそうだなと、 如月家の事情に詳しい室伏が、まるで保護者のような感想だ。 と、そのとき。 「ああっー なんてことだいつ」 突如として頭上から、すっとんきような叫び声が降ってきた。 司も室伏もさすがは刑事らしく、すばやく足をとめて身構える。 声のほうを見上げてみると、そこにいたのは制服姿の生徒だった。 った
せいとういん 青桃院学園は、森のなか。 父兄参観も無事終了で、平穏が戻った翌日。 つかさむろし 凡波の身柄は迎えにやってきた担当刑事に預けられ、司と室伏は服装も元通りにあらためて の帰り道。 ′」りようじ ひざ みやげ 司の膝の上には、ほんのお礼にと御霊寺から渡された土産の箱がのっている。 一路、職場に向かって帰りを急ぐ、室伏運転の車のなかで。 ろ つるぎ る 「なあなあ、室伏い。なにはともあれ、剣が元気そーで良かったよなー。やつばしちょっと変 わった学校だったけど、〃花火打ち上げ予告魔〃も無事に確保できたしさー」 オトコ室伏つ、非番アウトドア・デート作戦はけつきよく水の泡。とうとう司と オ 結ばれる機会もなく、ツル坊に〃お父さんをください〃とも告白できなかったっ」 ししゅーいんみとかゆ 「でもって、美少年予告魔も改心したみたいで、ホッとしたよなー。〃ゞ
「シッ、司。いまは朝飯よりも、犯人確保が大切だ」 まぎ : 小さいかたは紛れもなく如月くんのお父君らしきご様 「む。一見したところ、間違いなし うなすく御霊寺が、それにしても授業参観にはまだ時間が早いようだが、と時計を見るよう 落ち着き払った御霊寺の様子に、どうやらただ者ではないようだぞと、司と室伏は目を見合 わせて、 「なあなあ、室伏い。このひとに話しちゃおーぜ。でもって、早いとこ解決して朝ご飯」 けいしそうかん 「司がそう言うなら、間違いないだろう。去年、見事な刑事の勘を発揮して、警視総監表彰を 受けたくらいだからな」 そうしよう、とうなすいた室伏が、いかにも警察関係者らしい口調で御霊寺に打ち明ける。 「実は、父兄参観もさることながら、一つ協力をお願いしたくて、やってきました。このとお えどまえ りオレたちは、警視庁江戸前署の刑事です , 刑事なんです、と。 や身分を明かしつつ開いて見せるのは、ポケットから取り出す警察手帳。 「昨晩、署から連絡がありまして、この学園の近辺で、重要事件の容疑者が逃走したとのこと なんです。ついては、こちらに潜伏する可能性があるということなので、オレたち一一人が捜査 せんぶく かん