月亠ノこ。 いた . ら 「よくよく聞いてくれたまえよ、伊集院。たとえ呪われた運命の悪戲でそうと定められたにせ よ、仮にもキミは、会長であるわたしとともに我が学園を治めるべき、青桃会副会長なのだ。 伝統ある『美少年フェスティバル』の最中に、清らかな学園の秩序が乱されるようなことにな れは、わたしは当然みすから会長職を辞する覚悟。キミも同しく副会長の座をおわれることに なるだろう ! 」 「ふふふ。というコトはやはり、手に手をとって一一人は仏前ケッコンを ? 」 「むうつ。輝かしい学園の歴史に泥を塗ったものとして、わたしはすみやかに実家へ戻り、一 から修行のしなおしをするつ」 「ああっ ! というコトは、田 5 いもよらない僕とキミとの愛の危機っ ? 」 「さようでございますとも、躑躅坊ちゃま ! 」 あとじさ 麗しい腰つきで、伊集院がフラリと後退る。 ろ 執事の三笠山がすばやくそれを、はっしと横からサポートだ。 「ふふ : : : ふーっふつふつふ ! 僕とキミとが仏前破局と聞いては、さすがにピックリなの で きさらぎ たかむら キさ、モナムール。であるからには、忠実なる風紀委員である如月くんに篁。キミたちは当然、 ホ仏像探しに即出発。僕と密の愛の園を、ムッシュウ仏像ドロポーから守るのさつ」 〃すみやかに仏像を掘り当て、学園を危機から救うのさ %
178 地図を受け取る朱雀が、ごくごく面倒そうに、 「つまり、伊集院先輩のクニセモノみがいるかも知れないから、そいつより先に仏像探せって コトですね」 聞いた剣が目をまるくして、 〃ニセモノみ ? ニセトカゲってゆーと、第一校舎の花壇でグルグルまわっ 「えっ ? えっ ? てたアレなのか ? 」 「なんだって ? 許せないっ ! 清らかで美しい躑躅先輩の〃ニセモノみなんて、僕が必殺の こじか 美少年パンチもしくは子鹿キックで追い返しますっ」 伊集院菖蒲と、執事畝傍山。 彼らの悪だくみから青桃院学園を守るための仏像掘り。 コトの次第と目的とがハッキリして、多少の認識のズレはあるものの、一同はようやく一致 団結の気配だ。 「ふふ : : : ふーっふつふつふ ! 僕をこよなく愛するモンプチ諸君 ! たとえエーゲ海のダイ アモンドであろうとハダカの赤ん坊であろうと、僕の美しさのまえでは真っ青なのさつ。秘密 の地図とやらが手に入れば鬼に金棒 ! いよいよナゾの穴掘りに精が出て、密との仏前ケッコ ンは目と鼻の先だよっ」 さようでございますとも、と三笠山が涙ぐみ、伊集院牡丹はレース編みに夢中で、伊集院橘
ひとやまあてぞう 『美青年探険家一山当蔵探険記』とか。それから実家に帰ったときテレピでも : : : 『お茶の間 みぞう びぼう スペシャルっいにナゾの埋蔵金に迫る ! 美貌の隊長に未曾有の危機がリ』っていう一一十一一 時間番組とか」 けつきよく美青年探険家も美貌の隊長も、埋蔵金は見つけられすしまいだったけれど、と紅 茶ポットを片手に竹千代。 「でもロマンチックだなあ。そんな由緒ある仏サマが僕たちの学園のどこかに眠ってるなん て ! しかも、一一体もつ。だから、この学園は僕たちの平和な花園なんだね、如月」 「そーかなー」 りやく 「もしもその仏像を掘り当てたら、ご利益で素敵な先輩とご縁があるかもしれないよっ」 「そーかな 5 」 「でも、まんがいち仏像発見のニュースが派手に流れたりしたら、平和な学園が急に騒がしく なっちゃったりするのかな ? ろ 〃驚愕 ! 人里離れた学園の敷地から、ナゾの仏像出現ー または、 で キ〃衝撃 ! ついに発見された埋蔵金。華麗なる美少年の園にいまカメラが ! 〃 ホ 、もーレノ \ は、 ク突撃取材 ! 金の仏像とともに秘密の森で暮らすナゾの美少年集団の正体に迫るー
いじゅういん つるぎすざく さんじようりよう 三条寮を出た剣と朱雀は、伊集院との待ち合わせのために、カフェテリアまでやってきて ひそか 『キミたちは当然、仏像探しに即出発。僕と密の愛の園を、ムッシュウ仏像ドロポーから守る のさっ』 たんさく ′」りようじ 御霊寺の仏像探索の決意を聞いて、珍しく自分も立ち上がる気になったらしい伊集院。みす からすすんで学園に眠るお宝探しに乗り出す準備をするからと、いったん別れて落ち合う約束 をした。 ろ 「にしてもさー、朱雀。いったいどーやってブッゾー見つけるんだ ? だって、この学校、す んごく広いだろ ? 校舎の向こうもまだ学校で、寮のあっちもすうっと学校だろ ? 」 で キ「 : : : かったり せいとういん ホ 青桃院学園は陸の孤島。 広い敷地のなかには湖もあれば、森もある。
朱雀が溜め息混じりに言うのへ、なかの一人が顔を隠しつつ訂正だ。 「違うよ、篁くん。これは金粉しゃなくって金箔さつ。社交界のロコミで知った、美肌のため のスペシャル・テクニック。上等の金箔で、お肌の最後の仕上げの最中だったのに ! 」 金箔パックが台なしに、と。 あとじさ 五人同時に顔を上げられて、剣は思わす後退る。 「え、えへへ。驚いたら、喉がつまってたのとれちゃった」 もうお茶はいらなくなっちゃったと『談話室』を出て、ふたたび三人は三条寮の外へ。 引きつづき金ピカ仏像を求めて学園内をさまようとちゅう、嫌々ながらっき合う朱雀が伊集 院に所貝間だ。 「で、先輩。この調子でどのくらいかかるんです ? 仏像探し . 「さあ。それは如月くんの鼻しだい」 らち 「つつっても、このまんましゃ埒あかないんじゃないですか ? , ろ 「おや。埒はあかなくとも、如月くんの首輪姿にグッとはこないかい ? 」 「グッとはきますけど、どーせなら邪魔者なしで一一人っきりがいーです」 ン「ふつふつふつ。そういうコトなら、仏像発見の瞬間こそ絶好のチャンス ! 掘り当てた仏像 すき を僕が運び出すその隙に、秘密の穴のなかでキミと如月くんは見事に成仏を遂げるのさつ」 ・ : 狭そーだぜ」
おとしい しゅび きにおさらば。首尾よく仏像パニックを巻き起こして、僕の幸運を横取りした憎い相手を陥れ てみせるのさ」 憎き〃ニセモノ〃伊集院躑躅を : : : と。 ゞ、、ツキリとつぶやく 薔薇色のくちびるカノ 目指すのは、伊集院躑躅の追い落とし。 そして狙うのは、『美少年フェスティバル』開催中の青桃院学園における、仏像発見大パニ 「当然ながら青桃会副会長の評判はガタ落ちで、責任をとってすぐさま辞任。ふふふつ : : : ふ ふつ」 そうすれば : ・ : と、宝石のような瞳をほそめる菖蒲である。 いしだたみ おもむき 石畳の道を歩んで、古い教会のような趣の第一校舎がもう目のまえ。 みけんたてじわ と、先を行く御霊寺が足を止め、眉間に縦皺を刻んでこちらを振り返った。 ろ だ「ところで伊集院、例の件だが」 「なんだい、御霊寺くん」 で しつじ キ「伊集院家の執事が知らせてくださった、仏像についてのことなのだ」 「おや、そんな知らせがすでに ? そうしつ 「む。もしや、ドングリのせいで、なにからなにまで記意喪失に ? 」 ねら
110 彼に、御霊寺がドングリ効果について説明する。 「心配いらないのだ、運動部長。実はかくかくしかじかで : : : ここにいる伊集院副会長は、こ れまでの忌まわしき色魔とはまるで別人。いわばクニュー伊集院〃ともいうべき存在なのだ。 新しく生まれ変わった、秩序正しき青桃会副会長と言っても過言ではないー ・〃ニュー伊集院み ! 」 それはおめでとうございます、と木葉隠が驚嘆しつつ祝いの言葉を述べる。 げん 「どうりで身のこなしがいつもとは異なっておられたような。青桃院生の心を乱すお得意の幻 じゅっ あざむ 術なども使われす、木葉隠流忍術さえ欺く怪しのステップも踏まれないご様子」 ならば仏像探しにおいても百人力、と。 納得した様子であとから地図をのぞき込み、 「ぬ。このいわくありげな古地図はいったい ? 「喜んでくれたまえ、運動部長。仏像の埋蔵場所を記した地図なのだそうだ。これさえあれ ば、仏像発見はもう間近 ! 」 と、御霊寺が菖蒲を振り返る。 そしてその埋蔵場所とはー 期待のまなざしで木葉隠運動部長も、菖蒲のほうを。 と、 「ふつふつふつ、キミたち。こうして学園地図と照らし合わせた結果、ようくわかったのさ。
108 こちらは同し学園内。 ごりようじあやめ 御霊寺と菖蒲も、剣たちと同様に仏像探しを開始していた。 こちず 菖蒲の古地図と御霊寺所有の学園案内図とを見比べて、あらためて仏像の在りかを検討する ところである。 十五年来自分を悩ませた〃色魔みが、ドングリの木にぶつかったおかげでマトモになったと 信した御霊寺が、 「む。む。伊集院。この地図が半分に破れているのはなぜなのだ」 たず どうやら破れ目は新しいようだがと、注意深く観察して訊ねる。 「おや、御霊寺くん。実は、執事がこれを届けるとちゅうに見知らぬ暴漢と争ったのさ。埋蔵 ねら 仏を狙う悪者と古文書を取り合い、どちらも譲らす、ついに地図のページが真っ二つに。よっ て、地図のもう半分を含む古文書はあえなくオソロシイ敵の手に」 ほほえ 嘆かわしいことだよと、微笑みながら菖蒲が解答する。 : どうやらこの地図には、仏像の由来についても書かれているようだ。しかし、見事 「むう 。これを我が学園の地図と照らし合わせてみると、 に破れているので確かなコトはわからない カフェテリアの丘がちょうどこのあたりで、青桃湖がここ。第一校舎に当たるのが、むむ : しきま
への号令をよろしく頼む」 「ぬ。金の仏像ですかっ、会長 ! 」 ぜんたいみもん 「そのとおり。即刻それを見つけ出さなければ、前代未聞の災難が我が青桃院に降りかからな いともかぎらないのだ。つね日ごろであれば、わたしの霊力をもってすみやかに対処できたは けんそう ずなのだが、おりしもいまは『美少年フェスティバル』の真っ最中。渦巻く喧騒とさまざまな はば 雑念とに阻まれて、残念ながら霊力がしゅうぶんに発揮されない。であるから、キミたち運動 部諸君の力が必要なのだ。学園の秩序とフェスティバルの成功のために、ぜひとも働いてくれ たまえ」 「わかりましたっ、会長 ! 」 きびす 礼儀正しく腰を折る木葉隠が、すぐさま踵を返して学園平和のために出発する。 「御霊寺会長。無事に仏像発見のあかっきには、ふだん文化部中心の学園における我々運動系 クラブの地位向上に力をお貸しくださいつ」 「もちろんだとも、運動部長」 そうして足音もなく木葉隠が立ち去ったあと。 御霊寺は楕円形テープルを降りて、部屋を出る。 「いささか疲れたが、休んでいるヒマはない。場所を移して仏像探しのために陰陽道の秘術を 行おう」
とくがわ 一一体で一対。なにやらひしように由緒あるものだとか。一説によりますと、かの有名な徳川幕 府埋蔵金の一部とも目され : : : とにかく、下手に世に出ますとマスコミがこぞって詰めかける こもんじよ しろもの ような代物なのでございます。その隠し場所を記した古文書が先日さるかたのもとから奪わ れ、敵の手に渡ってしまいました」 学園のどこかに隠されている宝とは、マスコミも注目の〃金の仏像〃 〃埋蔵金みと聞いて、即座に剣は、 「マイゾーキン ? なあんだ、雑巾しや食えない。雑煮だったら好き好き」 「この三笠山が推察いたしますには、敵の狙いは仏像の発掘 ! 学園が『美少年フェスティバ にぎ ル』で賑わいますこのときに、いわくある金の仏像を掘り出し、世間に騒ぎを知らせ、学園の こんたん せいじゃく 静寂を乱そうという魂胆に違いありませんつ。よろしゅうございますか、坊ちゃま ! 敵の横 暴を許してはなりません。これは坊ちゃまのお立場さえをも危うくしかねない、一大事なので ございますよっ」 うるわ 三笠山にそう言われて「ふうん」と麗しくうなすく伊集院だ。 「なんとなく面倒くさそーだぜ」 キポソッ、と朱雀がつぶやき、 「えへへ。ブッゾーも雑巾も、腹いつばいにはならなそー」 食欲つながりを見いだせない剣は、〃学園の危機みにも興味なし。 ぞうきん へた ぞうに