溜め息 - みる会図書館


検索対象: ホンキでいくだろ! 青桃院学園風紀録
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1. ホンキでいくだろ! 青桃院学園風紀録

154 せいとういん ここは、青桃院学園から遠く離れた、とある街の片隅のとあるバ 「マスター、お代はツケで一杯いただけますか ? 」 肉体労働に疲れた様子で、ひとりの美中年がカウンター席に腰をかけていた。 うねびやま 料金は後払いでと遠慮がちに注文をするのは、畝傍山である。 店のマスターに「お疲れですね」と声をかけられて、ウーロン茶のグラスを手に深い溜め息 をついた。 「実は、これは心配の溜め息なのでございます。日々の労働など、坊ちゃまのためならば少し あやめ もッライとは思いません。ああ、菖蒲坊ちゃま。いまごろ、どのように過ごされておいででし ようか ? ところでマスター、お店の電話はまだ一度も鳴りませんか ? 」 ナルシ この『男流海』の電話番号を坊ちゃまにお持たせしているのですが、と。 ゥーロン茶をすすりながら、畝傍山はカウンター端の電話へと目を向ける。 まだですよ、とマスターがくびを振るのを見て、また溜め息。

2. ホンキでいくだろ! 青桃院学園風紀録

ろ にぎ で 青桃院学園の湖畔では、賑やかな花火と歓声。 あこが ン 「ドキドキするねつ。釐れの先輩に見初められたらどうしようつ」 ホ 「あっ、竹中くん。いつもながら抜群のセンスだね。ものすごくキュートだよ、そのテディベ ア水着 ! 」 たた れるに至るいきさつがあまりに悲劇的なために、掘り返すものには必す祟るに違いないと、あ の古文書にも書いてあったつけ」 せわ ふう、と湖を望んで溜め息をつくところに、忙しく三笠山がやってくる。 ぼたん 「ああ、橘さま、こちらにおいででしたか。そろそろお茶の時間でございますよ。牡丹さまの かすか 麗しきレース編み〃幽と牡丹の運命の再会み完成を祝しまして、〃スペシャル古狸プレックフ アストみをご用意いたしました」 呼ばれて橘は振り返る。 うれ 美貌に憂いの表情を浮かべて、 「そう。では、いただこうかな。ただしそのプレックファスト、料金はツケで」 こはん

3. ホンキでいくだろ! 青桃院学園風紀録

つつじ 「そうかい。それで、躑躅くんにはこのことを ? 」 「坊ちゃまにはお昼のうちに、わたくしからお知らせいたしました。清らかな学園を守るため にと、躑躅坊ちゃまはそれはそれは麗しく立ち上がられてー いまごろナゾの仏像とやらに果 敢に迫っておられるコトでしようつ」 ふう、と深い溜め息をもう一度ついて、客は被っていた黒い帽子を取りはすす。 あらわれたのは、誰しも思わす見とれてしまうほどの洋風美中年。 年のころはおそらく四十代。 すがすが ふんいき 顔の造作にどことなくそぐわないような、清々しい雰囲気を漂わせている。 美しく波打っ黒髪。 ひとみ 煙るような瞳。 ろ おと そこらしゅうに立ち並ぶ美青年像にも、はたまた美青年召使いたちにも、少しも劣らないそ びぼう の美貌。 で たちばな 「とにかく、お早くお屋敷のなかへ。橘さま」 ホ 橘さま、と三笠山が声をかける。 ぼたん 伊集院躑躅の叔父にして、その父牡丹の双子の弟である、伊集院橘だ。

4. ホンキでいくだろ! 青桃院学園風紀録

以前、風紀委員に任命されたおりには、敷地の端から時計塔まで走らされたことを思い出し なか て、剣は思わず「考えたら、お腹すいちゃった」と溜め息だ。 「トカゲ先輩のことだから、おかしな探知機とか持ってくるのかなー。それとも、ごりよーじ 先輩が〃れーのーりよくみ使って、ネズミとかカラスとかにブッゾー掘らせちゃったりすんの かなー」 どっちにしても見つけたらオヤッと交換、と。 あくまで都合のいいように思い描きつつ、カフェテリアへと突入。並んだアンティークのテ ープルに腰かけて、 「あれつ ? 」 ふと窓際を眺めたところで、くびを傾げた剣である。 まどぎわ 見れば、自分と同じ制服の高等部一年生たちが、窓際にかたまってなにやら作業に夢中にな っていた。 ただでさえ派手な内装のカフェテリアの窓際を、さらに色とりどりの花やリポンで飾りつけ ているようである。 「なあなあ、あれってナニしてるんだ ? もしかして、夏の新メニューの発表会とかか ? え へへ、夏だと冷たいスパゲッティとか、辛あいカレーとか ? うまっ」 ゅうが 想像して舌なめすりするところに、カフェテリアのギャルソンが優雅な足取りで注文をとり かし から

5. ホンキでいくだろ! 青桃院学園風紀録

でマネキン遊びしてていいんですか ? 」 「おや。だからこそだよ、篁」 「どーゅーコトです ? 」 「だって『美少年コンテスト』の主役は一年生だから」 「 : : : ちなみにオレたち、今日はなんのために呼ばれたんです ? 」 「ふつふつふつ。なんのためかと問われて答えればっ : : : 『美少年コンテスト』に対抗して、 僕も『密コンテスト』を大開催 ! 果たしてどの〃密みがこの僕にいちばんふさわしいかを、 ついに決定するための、キミたちは特別審査員なのさ」 ほうび 「え ? え ? 審査員 ? それってご褒美のオヤッ出る ? え 5 っと、オレならこっちのエプ ロンっけてるヤツか、しゃなかったら、まだ見てないけど〃人魚〃 「 : ・・ : 選ぶなよ」 どうやら伊集院は、学園あげての行事が気に入らない様子。 ろ だ つねに人目を集める〃青桃院の白百合みである彼にとっては、下級生ばかりが注目の的とな る『美少年コンテスト』は、みすからにとってのオフシーズンであるらしい。「学園内はまる で キで火が消えたような寂しささ」と、〃お手伝い・密みのフリル付きエプロンに頬すりしながら、 もの憂げな溜め息だ。 どくだんじよう 「ああ、こうしていると思い出すよ。去年のフェスティバルは、紛うコトなき僕の独壇場だっ

6. ホンキでいくだろ! 青桃院学園風紀録

「そこが問題でもないだろ」 「あああああっ、お許しくださいつ、牡丹さま、躑躅さまっ。この上は、三笠山、死んでお詫 びを申し上げますっ ! 」 すっくと立ち上がり、庭へと走り出そうとした三笠山を、伊集院親子が声をそろえて引き留 める。 「おや、駄目なのさ、三笠山。死ぬというなら、わたしと幽がついに結ばれる瞬間を見届けて からに」 「そうさ、三笠山。僕と密の愛の結末を見すに死んでは、上手に成仏できないに決まってる」 「あああっ、若旦那に、躑躅坊ちゃま ! 」 かんるい ありがとうございます、と三笠山が感涙にむせぶのを、溜め息をつきつつ横目で見やった伊 集院橘が、古文書を手にこちらへとやってきた。 「これを渡しておきましよう」 ろ そう言って本をさし出すのが、朱雀のまえ。 「仏像の由来と、その埋蔵場所とが記されています。由緒ある〃悲劇の埋蔵仏みを、かならす ン菖蒲よりも先に探し出してください。それから、これがわたしの研究室の住所ですので、捜し ホ 当てた仏像は、お得な引っ越し荷物便ででも運んでいただければ : : : ただし、配送料金はツケ で」 ゆいしょ じようぶつ

7. ホンキでいくだろ! 青桃院学園風紀録

湖を渡りきったゴンドラが小島の端に着くと、お使いの黒服美青年が忙しくお屋敷のなかへ 駆け込んだ。 みかさやま ああっ、三笠山さま。お客さまがお着きになりましたっ」 「三笠山さまあ しつじ 呼ばれて、つい先ほど青桃院学園から戻ったばかりの伊集院家の執事が、バタバタと玄関か ら走り出る。 ゴンドラから、ひとりの男が岸辺に降り立っている。 かぶ 深く被った黒い帽子に、同じく黒の着古したマント。 使い古したカバンを手に提げて、屋敷の様子を、ちら、と眺めたかと思うと、くびを振りつ っ溜め息をついた。 「相変わらすの、派手派手しさだね」 出てきた三笠山が、そこへまっすぐ駆けつける。 「ああっ、お会いできてよろしゅうございました ! お待ち申し上げておりましたつ。伊集院 家の情報網をフル稼働させて、ようやく居所をお調べできたのですっ」 お上がりください、と言われて、客はどうやら迷惑顔になるらしい 「アレのことがあるから、やむを得すに来たのだよ。それで : : : アレはやはり思ったとおり、 青桃院学園へ ? 」 「はい。それらしい人物が学園最寄り駅で列車から降りたという情報が、もたらされておりま せわ

8. ホンキでいくだろ! 青桃院学園風紀録

さんじようりよう 三条寮。 いったん寮に戻った剣が、腹ごしらえをしながらほゃいていた。 ひざ たけちょ 膝の上に抱えているのは、ルームメイトの竹千代からもらったビスケット缶。クマ型チョコ レート味ビスケットを、つぎからつぎへと頬はっている最中だ。 すざく 最初に一枚もらったピスケットの端をまだ齧りながら、朱雀はべッドの上。竹千代がかいか いしく、一一人に上等の紅茶をいれてくれている。 「スゴイね。この学園の敷地のどこかに、金の仏像が ? 聞くからになんだか由緒ありげな話 だよ。僕の実家の裏山からも以前、由緒正しい仏像が出てきたことがあってね。一時期は観光 客や研究者でとっても賑わったことがあったんだ」 ・ : 学園の敷地内に、ナゾの埋蔵仏。 剣たちから話を聞かされて、竹千代は感心する様子である。 いれてもらった紅茶をゴクンと一口飲んで、剣は、 なか 「ブッゾー掘るのって、お腹減りそーだな」 と、空腹の溜め息だ。 「それにしても、幕府埋蔵金の一部だなんていったら、きっとマスコミが詰めかけて大変だ ね。はら、知らないかい、如月。江戸慕府が倒れるときに、 たくさんのお金をどこかに隠し て、それがいまだに見つかっていないっていう話だよ。僕、本を読んだことがあってね : ほお かじ

9. ホンキでいくだろ! 青桃院学園風紀録

「うひやあっ ! 」 すそひるがえかれいちょうやく あらわれるやいなやナイトウェアの裾を翻して華麗に跳躍を決めた〃彼みを、朱雀は持ち前 の運動神経ですばやく避けるが、剣は空腹が災いしてあっけなくその下敷きだ。 いじゅういんつつじ 伊集院躑躅。 人呼んで〃青桃院の白百合み。 まっえい 旧華族とロシア貴族の血を引く家柄の末裔にして、女神も驚く超絶美形。 じゃっかんめい びぼう ほんの若干名を除く青桃院生はばすべての〃産れの君〃であり、その美貌を目にしたなら誰 もが羞らいに頬を染めるという、学園のアイドル。 肌は抜けるように白く、 くちびるばら 唇は薔薇の花びらのように美しく、 したい しなやかな肢体は、ギリシャ神話の青年神を思わせる。 かんたん 伊集院が歩けは上級生は感嘆の溜め息をつき、 ほほえ 伊集院が微笑めば同級生は誇らしく目をほそめ、 伊集院に見つめられようものなら下級生は即座に失神間違いなし。 ただし、剣にとっては、理解不能の〃いじゅーいんトカゲみだ 「うえええー、すんごく重い。それにすんごい匂いで、すんごい巻き毛」 「おや、如月くん。さては僕のキューティクルたつぶりなウェープに埋もれて、感激のあまり

10. ホンキでいくだろ! 青桃院学園風紀録

168 「うひやー。黒トカゲ。しかも、大トカゲだぞ」 だいぶ印象は違うが、髪の色を除けば兄の牡丹とウリ一一つ。見ただけで紛れもなく伊集院家 ゆかりのものだとわかる彼が、溜め息のあとに口を開いて言った。 「伊集院の家とは縁を切ったつもりで、十数年。この上なく地味な歴史学研究の道を歩んで、 たぬき 日々落ち着いた暮らしを送ってきました。悪趣味な青年像とも、ロに合わない狸料理とも、 かか 透けすぎる衣服とも、装飾過多な住まいとも、一一度と関わり合いにならずに済むと思っていた のです。ところが : : : 困ったことに、アレが」 アレが、とつぶやいた橘が、あからさまにその美貌を曇らせた。 「アレとはつまり : : : わたしの息子、伊集院菖蒲のこと」 〃伊集院菖蒲み。 はじめて耳にする名前に、一同は「えっ ? 」と驚きの声を上げた。 「いしゅーいん、あやめ ? アヤメってゆーのは、どんなアメ ? あまっ」 「おや、菖蒲 ? それはまた地味な」 「そんなっ。躑躅先輩の叔父さまでいらっしやる橘さんの息子っていうコトは、躑躅先輩のイ トコ ? ああ、僕つ、どうしようつ ! 」 「もしかすると、すでにキミたちは彼に出会っているかも知れない。三笠山はわたしに遠慮を