躑躅 - みる会図書館


検索対象: ホンキでいくだろ! 青桃院学園風紀録
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1. ホンキでいくだろ! 青桃院学園風紀録

にかかられたに違いないよっ」 躑躅先輩、僕をおいて死なないで、と。 腰に手を当てたままで、鹿ヶ谷が泣き崩れる。 「 : : : ャル気、失せたぜ」 朱雀は〃如月発掘みをあきらめる顔で、剣は「ワケわかんないぞ」と目を白黒させるばか 「なあなあ、鹿ヶ谷。どーして泣いてるんだ ? トカゲ先輩が饅頭食ってたってホント ? う まっ。ハヤリヤマイって、ピヨーキのコトか ? だったら、いつもと変わんない ? 」 「冗談しゃないよ、如月っー コトの重大さがキミにはわからないのさつ。嘘だと思うなら、 かだん いますぐに第一校舎まえの花壇に行ってみるといいんだ。そこでは躑躅先輩が : : : 躑躅先輩が っ : : : 菖蒲柄リュックを背負って、つねにない腰つきで穴掘りをつ ! 」 躑躅先輩はいま、第一校舎まえで、穴掘り中。 ろ 泣き叫ぶ鹿ヶ谷の言葉を聞いて、思わす顔を見合わせた剣と朱雀である。 「うーんと、ってコトは、どーゅーコトだ ? ン「あそこで百合柄リュック背負ってる伊集院先輩は、伊集院先輩しゃないってコトだろ」 「えーっと、ってコトは、誰 ? 「学校にヘンタイがもう一人ってコトだろ」

2. ホンキでいくだろ! 青桃院学園風紀録

つつじ 「そうかい。それで、躑躅くんにはこのことを ? 」 「坊ちゃまにはお昼のうちに、わたくしからお知らせいたしました。清らかな学園を守るため にと、躑躅坊ちゃまはそれはそれは麗しく立ち上がられてー いまごろナゾの仏像とやらに果 敢に迫っておられるコトでしようつ」 ふう、と深い溜め息をもう一度ついて、客は被っていた黒い帽子を取りはすす。 あらわれたのは、誰しも思わす見とれてしまうほどの洋風美中年。 年のころはおそらく四十代。 すがすが ふんいき 顔の造作にどことなくそぐわないような、清々しい雰囲気を漂わせている。 美しく波打っ黒髪。 ひとみ 煙るような瞳。 ろ おと そこらしゅうに立ち並ぶ美青年像にも、はたまた美青年召使いたちにも、少しも劣らないそ びぼう の美貌。 で たちばな 「とにかく、お早くお屋敷のなかへ。橘さま」 ホ 橘さま、と三笠山が声をかける。 ぼたん 伊集院躑躅の叔父にして、その父牡丹の双子の弟である、伊集院橘だ。

3. ホンキでいくだろ! 青桃院学園風紀録

「駄目だよっ。高性能ドライヤーは僕の巻き毛専用なんだからっ」 あわ バタン、とドアを開けて宣一言すると、訪ねてきた生徒が慌ててくびを振った。 ちくいち 「違うよ。そうしゃなくって、いつもどおりの躑躅先輩情報さ。先輩のご様子を逐一知らせる かわりに、キミの美肌パックを譲ってくれる約束だろう ? 今日の伊集院先輩は、三十分くら せいとうかい いまえに青桃会室のおもてで子犬組の子からシナモン風味の手焼きクッキーと、手編みレース のナイトウェアを受け取っていらしたって」 「ええっ卩」 きようがく もたらされた〃伊集院情報みに、鹿ヶ谷は驚愕の悲鳴を上げる。 「そ、そんな : ・ : シナモン風味 ? しかも手焼き ? だって、躑躅先輩は近ごろシナモンはあ んまりお好きしゃないはすなのにつ。最近召し上がる焼き ~ 果子は、伊集院家のレシピで焼かれ たものか、オテル・ド・ワカオージから取り寄せたものに限られてたはすつ。それに、レース だって ? たとえシルクでも、レースは敏感なお肌に跡がつくから、ついこのあいだまでお気 ろ に入りじゃなかったー 「それとね、鹿ヶ谷くん。言いにくいんだけど : : : 」 で はず いつもどおり、お礼は弾むよ。僕愛用の秘密の美容液も三日分だ キ「どんなことでも教えてつ。 ホけならサービスしてあげるつ」 あやめ いつもとは違って、菖蒲の 「あのね、驚かないで聞いて。躑躅先輩のお持ち物が、そのう :

4. ホンキでいくだろ! 青桃院学園風紀録

142 好きさ、モナムール。 僕のモノさ、密、と。 ツーステップとサイドステップとを駆使して、その御霊寺を追い詰める伊集院だ。 「うええ、首が絞まっちゃう」 首輪つき剣は、伊集院の動きにつれて走りまわり、 「躑躅せんばああ ク麗しの白百合みを追う鹿ヶ谷も、激しく第一校舎まえを旋回する。 「穴掘り、どーなったんですか」 ひとり冷静な朱雀が、ポソッ、と一一 = ロうところに、 「ふふ : : : ふ っふつふつふつふ ! 」 とつじよ 突如として不気味な笑い声が聞こえた。 ー副会長み 笑っているのは、誰あろう〃ニュ 泥に汚れた灰色詰め襟制服でさえ麗しい、伊集院躑躅の〃レプリカみにしてク分身みにして 〃生き霊みにしてクソックリさんみだ。 ちっそく あえ おや、と伊集院が御霊寺を追い上げる足を止め、おかげで危うく窒息を免れた剣が喘ぎつつ 「うええ、ニセトカゲ ?

5. ホンキでいくだろ! 青桃院学園風紀録

花の模様だったって」 菖蒲柄。 好きな花は白百合で、日々白百合に囲まれて暮らしているはすの彼の持ち物が : 「ア、菖蒲 ? 百合しゃなくって ? 」 「そうなんだ。ピックリだろう ? あっ、鹿ヶ谷くん、大丈夫 ? ああっ、誰かっ ! 鹿ヶ谷 くんがショックのあまりに失神をつ」 はからすも三条寮の鹿ヶ谷薫を失神に追い込んだのは、伊集院躑躅ではなく、菖蒲。 ′」りよ , つじ 彼はそのころ、御霊寺とともに第一校舎近くを歩いていた。 っ えり 灰色詰め襟制服に身を包み、頭には茶色い巻き毛のカッラ。背中に背負った菖蒲柄のリュッ クを除けば、・ とこからどう見ても、いつもと変わらないク伊集院躑躅〃ご。 「ふふ : : : ふふふ。世紀の仏像大発見、そして、打倒〃ニセモノみまで、あともう少し」 菖蒲が胸に秘めるのは、実は、とある悲願である。 し 「思えば、生まれたときから苦難を強いられた、この僕だった。けれど、その悲運とももうし 0

6. ホンキでいくだろ! 青桃院学園風紀録

「そうとも。いらないエプロンなら、すぐさま僕にくれたまえ」 学園高等部をまとめるトップ一一人に叱られて、水着工プロンの一年生は、わっ、と同時に泣 き崩れた。 「ああっ、ごめんなさい、躑躅先輩 ! 」 「どうか許してくださいつ。僕たち、明日までに心を入れ替えてコンテストに臨みますっ」 反省します、と泣きながら彼らがバタバタと走り去ったあと。 いぶか 少々訝しむ顔色の御霊寺が、菖蒲に向かって問いかけた。 いったいどうしたことなのだ、伊集院。とうていいつもの色魔らしからぬ、適切な 「むう 「それほどでもないよ、御霊寺くん。僕にとっては、ごくごくあたりまえのコトなのさ」 もぎてん ふたたび歩きだす行く先には、クラブや同好会の出張模擬店が華々しく並んでいる。 『美少年焼きそば』に『美少年クレープ』。 ろ 『美少年ラムネ』に『美少年回転寿司』。 こちらに気づいた売り子の一年生たちが、歓喜の声を上げて待ち受ける。 で 々「見てつ、御霊寺会長だよっ」 「躑躅先輩もごいっしょだ ! 」 彼らに気づいた御霊寺が、眉間を指で押さえつつ苦悩の表情で言った。 しか

7. ホンキでいくだろ! 青桃院学園風紀録

おとしい しゅび きにおさらば。首尾よく仏像パニックを巻き起こして、僕の幸運を横取りした憎い相手を陥れ てみせるのさ」 憎き〃ニセモノ〃伊集院躑躅を : : : と。 ゞ、、ツキリとつぶやく 薔薇色のくちびるカノ 目指すのは、伊集院躑躅の追い落とし。 そして狙うのは、『美少年フェスティバル』開催中の青桃院学園における、仏像発見大パニ 「当然ながら青桃会副会長の評判はガタ落ちで、責任をとってすぐさま辞任。ふふふつ : : : ふ ふつ」 そうすれば : ・ : と、宝石のような瞳をほそめる菖蒲である。 いしだたみ おもむき 石畳の道を歩んで、古い教会のような趣の第一校舎がもう目のまえ。 みけんたてじわ と、先を行く御霊寺が足を止め、眉間に縦皺を刻んでこちらを振り返った。 ろ だ「ところで伊集院、例の件だが」 「なんだい、御霊寺くん」 で しつじ キ「伊集院家の執事が知らせてくださった、仏像についてのことなのだ」 「おや、そんな知らせがすでに ? そうしつ 「む。もしや、ドングリのせいで、なにからなにまで記意喪失に ? 」 ねら

8. ホンキでいくだろ! 青桃院学園風紀録

「そこが問題でもないだろ」 「あああああっ、お許しくださいつ、牡丹さま、躑躅さまっ。この上は、三笠山、死んでお詫 びを申し上げますっ ! 」 すっくと立ち上がり、庭へと走り出そうとした三笠山を、伊集院親子が声をそろえて引き留 める。 「おや、駄目なのさ、三笠山。死ぬというなら、わたしと幽がついに結ばれる瞬間を見届けて からに」 「そうさ、三笠山。僕と密の愛の結末を見すに死んでは、上手に成仏できないに決まってる」 「あああっ、若旦那に、躑躅坊ちゃま ! 」 かんるい ありがとうございます、と三笠山が感涙にむせぶのを、溜め息をつきつつ横目で見やった伊 集院橘が、古文書を手にこちらへとやってきた。 「これを渡しておきましよう」 ろ そう言って本をさし出すのが、朱雀のまえ。 「仏像の由来と、その埋蔵場所とが記されています。由緒ある〃悲劇の埋蔵仏みを、かならす ン菖蒲よりも先に探し出してください。それから、これがわたしの研究室の住所ですので、捜し ホ 当てた仏像は、お得な引っ越し荷物便ででも運んでいただければ : : : ただし、配送料金はツケ で」 ゆいしょ じようぶつ

9. ホンキでいくだろ! 青桃院学園風紀録

すことになるだろう。 「悪くすれば、躑躅くんは伊集院家を追放。そして、そうなったときに跡取りとして呼び戻さ れるのは、菖蒲です。アレの狙いは、まさにソレ。ですから一刻も早く止めなけれはいけませ ん。彼には有能な畝傍山もついています。伊集院家乗っ取りのために、どんなオソロシイ作戦 を考えっかないとも限りません。父であるわたしがいながら、申し訳ないことになりました。 アレになり代わり詫びを言います。牡丹、すみません」 「ああっ、なんていう悲劇 ! レース糸が引っかかって僕の幽がおかしな顔になっちゃった」 のどかわ 伊集院橘はひととおりの話を終え、黒縁メガネをかけ直すと、喉が渇いたといって三笠山を 振り返り、 ぜいたく 「お茶をいつばいいただけますか ? わたしは伊集院家を出た身ですので贅沢は言いません。 お茶の代金は : : ッケで」 大理石の床にキチンと正座するのへ、朱雀が面倒そうに訊ねる。 ろ 「にしても、どーして乗っ取ろうなんて思いつくんですか ? 」 倉菖蒲が伊集院家の乗っ取りを目指すワケはなんですかと、ごくごく基本的な質間だ。 ンそもそも菖蒲は伊集院家の人間で、伊集院躑躅にとっては従兄弟のはす。その気になればこ ホ の屋敷に戻って、青桃院学園の生徒になることもできるのではないかというのが、朱雀の疑問 である。

10. ホンキでいくだろ! 青桃院学園風紀録

みけん 背筋を正し、眉間に深い縦皺を刻んで青桃館のおもてへ出たところで、ピタリ、と足を止め 、」 0 「むつ、色魔 ! 」 えり ふところ すかさす詰め襟制服の懐からお祓い棒を取り出したのは、視線の先に伊集院の姿を見とめた からである。 さては、やはり仏像探しの邪魔をしにあらわれたかと身構えるところに、スタスタと相手が 近づいてきた。 が、こちらに到着しないうちに、あたりからバラバラと下級生たちが駆けつけてくる。 しらゆり 「ああっ、僕たちの〃白百合み伊集院先輩っ ! 」 つつじ 「どうしよう ! 僕、身だしなみがイマイチなのに。でもつ、光り輝く躑躅先輩のお姿を見か けたら、思わす駆け寄らすにはいられないつ。せんばああ 〃青桃院の白百合み伊集院。 彼はつねに、学園生徒たちの注目の的である。 すき 隙あらばお目にとまってお近づきになりたいと、ことに高等部一年生たちは必死。 キ「先輩つ。これ、実は、僕が焼いたクッキーなんですつ。フェスティバル開催に合わせた『シ ナモン風味美少年ソフトクッキー』。躑躅先輩に食べていただきたくって、今朝から九重寮 玄関で張り込みをつづけて、いまやっと」 たてじわ はらぼう