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検索対象: ボウケンするだろ! : 青桃院学園風紀録
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1. ボウケンするだろ! : 青桃院学園風紀録

156 うら では気にもかけなかった距離を恨む顔だ。 いしだたみ 石畳の坂を駆け上がって、家のまえ。 「兄貴っ ! 」 叫んで飛び込むのは、開けつばなしの玄関である。 あとから、心配顔の老漁師たちが、 「おいおい、押さないでくれ」 「網男はどうした、網男は ? 」 ハラバラといっしょに駆け込んできた。 西日の射し込む部屋のなか。 ふとん 敷かれた布団には、もう何日も目覚めない網男の兄が、相変わらす目を閉したままで横たわ っている。 片方の靴は蹴り落とし、もう片方は足につつかけたままで畳の上に上がり込んだ網男は、兄 のそばへと転がるように駆けつけて、 「兄貴っ : : : なあ、兄貴 ! お願いだ。死なないでくれよっ。オレ、言いつけを破って島へ行 ってきたんだ。駄目だって言われてても、どうしても : : : どうしても兄貴に、これを飲ませた くって ! 」 しか 言いつけを聞かなかったといって怒るのなら、目を開けて叱ってくれよ、と。

2. ボウケンするだろ! : 青桃院学園風紀録

146 岩から降りていく黒服たちが、そちらを目指して猛然と急ぐように見える。 「あっ。ビショーネンのリヨーシが危ないぞ ! 」 叫んだ剣が、スクリューのような高速回転で水をかく。 御霊寺と朱雀も、あらん限りのスピードで腕を振る。 はざま みるみるうちに速度を増したインチキ・イカダは、海上に突き出す岩と岩との狭間に向かっ て再度見事な激突を決めた。 ろうぜきもの 「待ちたまえ、狼藉者諸君 ! 」 じようず 「なあなあ、リヨーシってすんごい泳ぎが上手だな。今度クロール教えて」 「 : : : 感心してる場合かよ」 かば それぞれ着地に成功した剣たちは、網男を庇うように黒服たちと見合う格好。 「面倒くせえ。やっちまおうぜ、このガキどもっ」 こちらに向かって武器を構えた男に向かって、朱雀が先ほどの怪我の礼だとばかりに強烈な 足技をお見舞いした。 「ぎやっ ! 」 ついで剣も、 「えへへ、ケンカ ? 探険よりも得意だぞ」 びよん、と身軽にジャンプして、残るひとりの顔面に飛び蹴りだ。

3. ボウケンするだろ! : 青桃院学園風紀録

中電灯で照らしてみたら、白い骨がたくさん山になってたっ ! 」 「・ : ・ : 人骨かよ」 「え ? え ? うーんと、にしたら小さくってコマゴマしてた ? 」 「 : : : しや、コウモリしゃねーか ? 」 「あっ ! そっか。なーんだ、良かったー」 「 : : : 腕つかむなって。痛てー」 剣の乱入で、網男の話は中断だ。 そこに御霊寺も帰ってくる。 「この先は曲がり角も少なく、空気の通りもあるようだ。篁、疲れはとれたか ? む、網男く んは、どこか具合でも ? 」 どうやら御霊寺の道のほうが当たりだったらしい 剣の行った道は骨の山で行き止まりだったということで、ふたたび一行は歩きだす。 ろ 網男は時おり目をこすりながら、トボトボと気落ちしたような足どりだ。 ンそして、しばらくすすんだのち。 ウ「むむつ。なにやら広めの場所に出たようだ」 ごりよーし先輩、地図地図っ。ええっと : : : さっきのが、このあた 「はんとだ、ほんとだー ・ : もうちょっと行ったところが、デンセッのピショーネンのはすだぞっ」 りだとすると :

4. ボウケンするだろ! : 青桃院学園風紀録

「うーんと、蹴ったらいけるかな ? 」 「む。蹴ろう」 「 : : : 足なら無事だぜ」 「じゃあ、せえの、でいっしょに」 ガッン、といっせいにインチキを蹴りつける。 ぎしよう 四人の脚力を合わせて、見事ひと蹴りで座礁したイカダの救出に成功だ。 「高い波が来るから気をつけて。いまだよっ、乗ろう ! 」 網男の号令でふたたびインチキ号の乗客になる、剣たち。 と、とたんに強い風と波とが、インチキ・イカダをぐんぐんと運びはじめた。 「うひやー、すごいぞ。漕がなくっても島のはうに近づいてくぞっ ? 」 「潮の流れで引っ張り込まれてるんだ ! ふつうの船じゃ、磯には近づけないから、こんな流 ろ れがあるなんて、いままで気がっかなかった。なんだか島に呼ばれてるみたい。あっ、危ない す ン っ ! 横波が来るからっかまってつ」 ウ「ひやああああああああ ! 朱雀朱雀つ、だいじよぶかっ卩」 「・ : ・ : 腕、つかむなよ」 つ、水難よっ、去れ 「む き、

5. ボウケンするだろ! : 青桃院学園風紀録

106 しま 稚児ヶ島の森のなか。 つるぎ 身を隠すのにちょうどいい、茂った木の枝と大きな岩とに囲まれた場所で、剣たちはようや く立ち止まった。 さすがの剣も、ぜいはあと息をついている。 ′」りよ、つじ ほおひたい 御霊寺の長い髪も、汗に濡れて頬や額に乱れている。 けが すざく ボウガンの矢で腕に怪我をしてしまった朱雀は、 「なあなあ、朱雀。痛いのか ? 血い全然とまんないぞ ? ねえねえ、ごりよーし先輩。れー のーりよくって、怪我には効かない ? いつもやってるお祈りとかで、どーにかなんない ? 」 あいにく霊能力では怪我は治せない。とりあえす止血をしようと言った御霊寺が、朱雀の制 服のネクタイをはすして、急場しのぎの手当てをする。 かば 自分を庇って怪我をした朱雀の顔を、剣は半ペソかきながら見上げるばかりだ。 「朱雀う。死んだら、ケンカできなくなっちゃうぞ ? ウマいもんも、もう食えなくなっちゃ ぬ

6. ボウケンするだろ! : 青桃院学園風紀録

おちい わっ、と周りを囲まれ、たちまち危機一髪の状況に陥る、剣、朱雀、御霊寺、伊集院。 「おとなしくしろっ」 「ひやああああっ、できないできないー 「その地図をよこせ ! 」 「むつ。青桃院の伝統にかけて、渡しはしないつ」 「クソッ ! 意外にすばしつこいぞ」 「ふーっふつふつふつ、あたりまえなのさ、ムッシュウ。なぜなら僕のステップは、ウィーン で一一年、ハリで三年、コッテリ仕込んだものだから ! 」 「うわっ。ガキのくせに、こいつ、やりやがった」 おとなしく従ってたまるものかと、剣たちは砂浜の砂を蹴散らしながらの奮闘だが、 「かまわねえつ。一人くらいやっちまえ , ポスの声でふたたびボウガンが構えられる。 ろ る 手下どもがいっせいに矢を発射した。 す ン 前後左右から、剣たち目がけて矢が迫り、 ウ「おい、危ねー」 「ひやっ卩朱雀っ ? 」 「素敵だ ! 囚われの美青年」 とら ふんとう

7. ボウケンするだろ! : 青桃院学園風紀録

帝がおもむろに水筒のフタを開け、なかの水を半分そこへと注いだ。 飲んでもいいよと、それを渡されて、剣は相変わらすわからない顔である。 「う 5 んと、ってコトは、オレとミカド先輩とで半分すっフローチョージュ ? 」 「そういうことになるね」 「そーすると、朱雀は ? 」 「スザク ? 」 「ちなみに先輩は、パンチと蹴りとどっちが得意 ? 渡された水をじっと見つめたままで、剣はめすらしく頭を悩ませるようだ。 「う ~ んうく、ん、半分ってことは、たぶん三分の一じゃなくて二分の一で、そのまた半分 になると、つまりフローチョージュの何分の一くらい ? 」 ひとしきりウンウン言ったあとに、まあいいや、と顔を上げ、 「それじゃあ、いただきま ~ す ! ろ 御霊寺、伊集院、朱雀の注目するなか、勢いよく水筒のフタを持ち上げた。 る ン「むむつ。如月くん」 たかむら さかずき ウ「素敵だ ! ムッシュウ帝と如月くんが誓いの杯というコトは、フラレた篁は僕のモノ ? 」 ポ 一同見守るなか、ゴクゴクと喉を鳴らして剣は不老長寿の水をガプ飲みである。 のど

8. ボウケンするだろ! : 青桃院学園風紀録

叫んだ網男が、突然立って駆け出した。 どん、と剣は軽く突き飛ばされる。 危うくスッポリと〃美少年之泉みにはまり込みそうになった剣を、朱雀がうしろから危うく キャッチだ。 「うひやっ ? 」 「むむつ、脱走か ? 」 「 : : : なんでいままで気づかねーのか、むしろナゾだぜ」 兄が病気だという網男が、最初からなにを考えて洞窟探険に加わったのか、と。 舌打ちした朱雀の腕のなかから、水筒を握った剣が緊急発進で、 「ひやあ 5 ~ くっ ! 水ドロボウ ? もしかすると黒服の仲間か ? にしたら、ビショーネンす ぎる ? 「む ! いすれにせよ肝心の水を奪われては、輝かしい青桃院の未来に傷がつく。諸君、全力 ろ をもって追跡したまえつ」 す ン とにかく捕まえなければと、三人して網男のあとを追いかけた。 ウ行きには枝分かれを繰り返してわかりにくい道だったが、帰りは案外迷わない。 それでもデコボコした地面と曲がりくねるカープは変わらないので、ことに剣は何度もあち からだ Ⅷこちに身体をぶつけながらの追跡だ。

9. ボウケンするだろ! : 青桃院学園風紀録

134 「泉の水が目当てなんだろ」 ひとこと質問である。 ひとみ 訊かれたとたんに、網男がただでさえ大きな瞳を目一杯まるくした。 「港で爺さん漁師たちから聞いた。兄貴が病気でかわいそーだって。でもって、いきなり不老 不死の水探しの手伝いじゃ、狙ってねーってほうが信用できねー」 にじ 一つかよ、とロ 門い詰められた網男は、たちまち瞳に涙を滲ませる。 家で眠っている兄のことを思い出したのだろうか、くちびるを噛んで顔を伏せ、しばらくそ うして黙り込んだあとに、 「違う、って言っても : : : 信用してくれないんだろう ? 」 あきらめたように、そう言った。 それから、 「あんたは、あの子のことが、好きなんだろ ? 」 唐突にそんなことを訊かれた朱雀は、当然ながら無言である。 「ひどい怪我をしてるのに、彼のことを庇ってた。急な崖を降りるとちゅうで、よっぱど気に かけてなかったら、足を滑らせたところをとっさに助けてあげられないだろ。その傷だって、 あの子のことを庇ったんじゃないの ? あの子も、あんたの怪我を治そうって、一生懸命で。 りよう・おも もしかして、あんたたち、両想い ? 」 とうとっ ねら

10. ボウケンするだろ! : 青桃院学園風紀録

うぞ ? せつかく学校いっしょになったのに、おまえと会えなくなったら、オレもジョーブッ できないぞ ? 、つーんと、ジョーブッしゃなくって、ショーテン ? 」 きさら、 : つつーか、如月。腕、そんなにギュウギュウつかむなよ」 岩にもたれて顔をしかめた朱雀は、幸いお祈りに頼らなければいけないほどの怪我ではない らしい。さすがに腕を上げるのは無理なようだが、いまのところ一番の痛みの原因は、心配の あまりに力いつばい腕にしがみついている剣である。 「痛てーけど、ついでにちょっとだけシアワセだぜ」 怪我してちょっとは得したぜ、と。 ばそっ、と小さな声でつぶやいてから、 「で、先輩。どーするつもりですか ? 」 もはや消えがたいほどに深く皺の刻まれた御霊寺のおでこあたりを、朱雀は、ちら、と振り 返って訊いた。 ろ とら いじゅういん 伊集院は、黒服たちに囚われの身である。 る す ン 日没までに地図を渡さなければ無事では済まさないと、あの黒ポスが言っていた。 びしようねんのいずみ ウ「地図が欲しいってことは、あいつらも〃美少年之泉〃目当てってことですね」 自分たちがイカダで到着するよりも先に、島に乗りつけたポートがあった。彼らはおそら く、あれで上陸していたのだろう。 しわ