漁師 - みる会図書館


検索対象: ボウケンするだろ! : 青桃院学園風紀録
36件見つかりました。

1. ボウケンするだろ! : 青桃院学園風紀録

いしてやろうしゃないか」 その言葉に、網男の肩に手を置こうとしていた漁師もうなすくようだ。 「そうか : : : そうだな。それがいい」 「賛成だよ。こうなったら、みんなで網男のために祈ってやることにしよう」 そうしよう、そうしよう、とまたたく間に意見の一致をみて、みなしてこぞって手を合わせ はじめる老漁師たちだ。 ちょうど家のまえを通りがかったものに、窓からだれかが声をかけ、 ) っしょに祈らないかねっ 「おおいつ、爺さんー こうなったら人数はできるだけ多いほうがいい。村の住人たちを集めてこようと、何人かが 急いで外へと走っていき、 「なあ、網男んところで祈ってるんだが、あんたも来ないかね . 「なんでも稚児ヶ島の水だそうだよ。ああ、ちょっと、そこの : : : おまえさんも、時間があっ ろ たら祈りに寄っていかないかい ? 」 ン玉蘭漁協の即売場のまえ。 いじゅういん ウ今晩のディナーのために魚を仕入れに来ていた伊集院家の執事と料理長までもが、お祈り要 員にスカウトされた。 「はて、なんでございますか ? 稚児 ? それはまた、なにやら効きそうな。よろしゅうござ じい

2. ボウケンするだろ! : 青桃院学園風紀録

厳しい顔つきで眉間に縦皺を刻んだ御霊寺が、そう宣言である。 海の幸が夢と消えて、剣はしょんほりと落胆だ。 それならは気をつけて、と漁師たちに見送られて、桟橋近くから上がっていこうとしたが、 「あれつ ? 」 漁船の向こうから人影が走り去るのを見つけて、剣は声を上げる。 「なあなあ、朱雀。あれって、さっきのピショーネン ? 」 「そーしゃねーか」 「オレたちの話、聞いてたのか ? 」 「そーなんじゃねーか」 「走って逃げてっちゃったぞ ? 」 「都合の悪いことでもあるんしゃねーか」 坂を上がって向こう。こぢんまりとした家が集まっているあたりに向かって、少年漁師が振 り返りもせずに走り去っていく。 それを見た老漁師たちが、いっせいに同情の溜め息をついた。 「ああ、網男だよ。かわいそうになあ、兄さんがあんなことになって」 走ってたちまち姿を消してしまった美少年漁師、網男。 そういえば先ほど、彼は他人の世話どころではないのだと漁師たちが話していたのを、剣は

3. ボウケンするだろ! : 青桃院学園風紀録

「稚児ヶ島の玉蘭洞の悲しい伝説じやろう ? ここらあたりしゃあ、年寄りのあいだで語り種 になっているよ。むかしむかしのご領主さまのときの話らしいがね」 「え ? え ? 悲しい云説 ? 」 「そーいや、昔話がどーのこーのって帝先輩が言ってたぜ」 「む。その伝説の詳しい内容は、わたしも聞いていない . はいちょう よかったら話してあげようかと言われて、三人そろっておとなしく拝聴の格好になる。 網を直すのに手を動かしながら、「むかしむかし : : : 」と漁師がお決まりの前置きをしたあ 「むかあし、この村に、腕のいいひとりの若い漁師か暮らしていたそうだ。その男のところ に、ある日、年若い少年が漁師見習いとしてやってきた。漁師は、見習いの少年をたいそうか わいがり、来る日も来る日も、仲良くふたりで海に舟を出していた。あそこに見える稚児ヶ島 のあたりは、そのむかし魚がよくとれて、男と少年とは村いちばんの魚とりの腕を誇っていた そうだ : そんなある日。 このあたりを治めるご領主さまの使いが、村の近くをお通りになることになった。 かねてから、男の漁の腕がいいのに嫉妬していた仲間の漁師が、その使いにこっそりと申し 出た。 しっと ぐさ

4. ボウケンするだろ! : 青桃院学園風紀録

てくれた。 あみお 「網男に声をかけても、無駄だよ。ありゃあ、いまは他人の世話どころじゃあないからな。な んか困ったことがあるんなら、こっちに声をかけてくれたらいい。 宿かい ? それとも食事か どうやら美少年漁師の名前は、網男といったらしい ていねいあいさっ 彼に相談をしても無駄だからと笑った老人たちに、ますは御霊寺が丁寧に挨拶をした。 「ご親切にありがとうございます。実は我々はあるかたから、とある密命を受け、あそこに見 える稚児ヶ島まで、なんとしてでも渡らなければなりません。お忙しいところ、まことにお邪 魔かとは存じますが、どなたか船に乗せてはいただけませんか」 実は、島の持ち主であるひとから頼まれて、と。 不老長寿の水のことはロに出さすに、漁師たちに頼んでみると、 「ああ、稚児ヶ島かい ? 」 ろ だ「さては例の水かね」 す「水じやろう、あんたたち。なんとも物好きな」 ケ歯のない口をいっせいに開けて、老漁師たちが笑いだした。 剣、朱雀、御霊寺の三人は、みなして顔を見合わせる。 年寄り漁師のうちのひとりが、仕事の後始末をする片手間に、 じゃ

5. ボウケンするだろ! : 青桃院学園風紀録

な疑問。 リヨーシュとリヨーシがどーのこーのってゆー話」 「はら、港で聞いただろ ? 「 : : : 漁師と漁師しゃねーか ? 」 「うーんと、島でピショーネンが死んしやって、リヨーシが泣いちゃったって」 「・ : ・ : いまごろ天国で仲良くしてるんしゃねーか ? 」 い 5 な」 、なら良かったー。一一人でウマい魚、たくさん食ってると 「そっかー : つつーか、さりげなくウラヤマシーぜ」 りよ、つおも 伝説とはいえ、ガッチリ両想いであったらしい漁師たちに思いを馳せて、剣と朱雀はそれぞ かんがいひた れ別の感慨に浸るようである。 一方、伊集院はといえば、解放感あふれる景色をまえに、長年の友めがけて愛のピッグ・ウ エープを繰り出し中。 しおひが 「ふつふつふ。ねえ、モナムール・密。この機会に、ふたりで愛の潮干狩りはどうだい ? 波 ろ に濡れながら、ロマンチックにそこらしゅうを掘り起こすのさ。そしてキミは、僕のササ工も ほたてがい すしくは帆立貝をゲット ! それともこの際、愛の遠泳にチャレンジかい ? 泳ぎだしたら最 後、一一度とは帰「てこられないフォーエバーなヴォャージ = を、僕とい「しょに熱くエンジョ イなのさつ」 しきま 「むむつ、下がるのだ、色魔 ! 」

6. ボウケンするだろ! : 青桃院学園風紀録

とはいえ、その後〃美少年之泉〃を見つけたという噂も、その水を飲んで長生きしたものが あったという話も聞かないよと、漁師たちはいっせいに笑い声を上げる。 リュック 稚児ヶ島の伝説を聞かされた剣は、もはやパイが一つと懐中電灯しか入っていない を抱き締めながら、しやくり上げている。 「な、なあなあ、朱雀。カワイソーな話だな」 「そーか ? 」 「だって、死んじゃうんだぞ。刺し身もタタキももう食えない。にしても、この三つ目のタル ト、すんごくウマい」 あき 食うのか泣くのかどっちかにしろよ、と朱雀は呆れ声だ。 みけん 漁師の話に、ふうむ、と聞き入っていた御霊寺は、眉間の縦皺あたりに指を当てて、暮れゆ く海のほうをまっすぐ睨んだが、 おんりよう 「む。とりあえずあの島からは、昔話に出てきた漁師と少年の怨霊らしき気配は感じられない ようだ。ご老人、かたしけない。明日の朝にでも、もしよければ我々をあの島まで : : : 」 船に乗せて送ってもらえないだろうかと訊ねると、すぐに気前のいい返事が返ってきた。 「いいだろう。あんたたちが早起きできたなら、この港まで出ておいで。そしたら、わしの船 に乗っけてやろう。あのとおり、稚児ヶ島まではすぐだ。ただし、不老長寿の水なんぞは期待 ) と思うよ。いままでに、コッソリあの島を訪れたものもあったらしいかノカ せんほう力しし にら うわさ

7. ボウケンするだろ! : 青桃院学園風紀録

〃玉蘭村には、どんな女もかなわないはど美しい少年があるそうな % 使いからそう聞かされた領主は、とたんに興味をそそられ、ぜひともその少年を自分のもと によこ、丁よ、つにと、村に〈叩じた。 した お城に上がるように迫られた少年は、慕う漁師と離れ離れになるの嫌さに、ひとり舟を出し て稚児ヶ島へと漕ぎ着き、奧の奧へはだれも足を踏み入れたことのないという、恐ろしい洞窟 に降りていく : あわ 、、【市ま、硫ててあとを追ったそうだ。洞窟のなかへと踏 「少年がいなくなったことに気づした漁自 ( み込んだが、少年を見つけたときにはすでに遅かった。少年は自分の胸を小刀で突いたあと。 苦しい息の下から、漁師に向かってこう言った」 あに : いっか必ず、生まれ変わってふたたび逢えたなら、添い遂げましよう。春も夏も 『兄さん : ・ 秋も、ずうっと : : : ふたりで舟を漕いで、きっと幸せに暮らしましよう』 ろ る なげく す「そう言って、嘆き悔やむ漁師に看取られながら、少年は息絶えたそうな」 ケふたりの涙が流れたところから湧き出したのが、百年に一度だけ不老長寿の水を湛える〃美 少年之泉み。 おちごそう かれん なきがら 少年の亡骸が横たわったそばからは、可憐な花を咲かせる御稚児草が生えたという話。 たた

8. ボウケンするだろ! : 青桃院学園風紀録

玉蘭村の港である。 だいぶ日が高くなって、海からは朝の漁を終えた漁船が戻りはしめていた。 あみお 「おや、網男しゃないか。こんな時間からどこへ行く気なんだ ? 」 船から降りて仕事の後始末をする漁師たちが、これから船に乗ろうとしている少年に向かっ て声をかけた。 「いま時分からしゃあ、沖へ出ていったってロクな仕事にはならないだろう。うちで兄さんの 看病をしてたほうがいいんじゃないか ? 暮らしに困るようなら、みんなで少しすつでも助け ろ てやるから」 す無理をするなと気づかう声をかけられたが、美少年漁師の網男は船を出す支度をやめようと ケはしない ポ 「おいおい、網男。こんな時間じゃあ、魚だっていやしないぞ」 「いいんです。あんまり休んでば「かりだと漁の宛も転「ちゃうし。兄貴が目を覚ましたとき たまらんむら

9. ボウケンするだろ! : 青桃院学園風紀録

囲に魚一匹とれない漁師になってたら、情けないぞって叱られそうだから」 「しかしなあ、おまえさん」 「そういえば、昨日来てた人たちはどうしたんですか ? ほら、稚児ヶ島に渡りたいって言っ てた、制服の」 「ああ、あの子たちなら来なかったよ。おおかた早起きがつらかったんだろう。なんだかお金 やと 持ちそうな様子だったから、もしかするとよそで上等のポートでも雇ったのかもしれないな」 「・・・・ : そうですか」 うつむいて少々考えるそぶりを見せてから、網男は船に飛び乗った。 さんばし 馴れた手順で船を動かし、桟橋からたちまち離れてい 「おおいつ、網男 ! あんまり気を落とすなよっ」 年老いた漁師たちに見送られて、網男の船は沖へと出ていった。 スクリューが勢いよく水を巻き上げて、一直線に向かっていくのは、どうやら不穏な空気漂 う稚児ヶ島の方角である。 しか ちご しま

10. ボウケンするだろ! : 青桃院学園風紀録

両想いかと訊かれて、またもや朱雀は無言だ。 ぶあいそう 無表情かっ無愛想にその質問を聞き流す。 悲しい顔をした網男の目には、いつばいに涙が溜まっているようだ。 「オレ、わかるんだ」 そで わかるんだ、と美少年漁師はシャツの袖で目もとを拭いて、 「オレ、小さいころから身寄りがなくってさ。この港ではしめて兄貴に会って、なんでだかす でし ぐに、ようやく会えた、って : : : 思ったんだ。兄貴にとっては、ただの漁師見習いの弟子かも しれなかったけど、オレにとって兄貴は家族よりも大事な人になったんだ。なのに、そんな兄 貴が突然倒れちゃって、どうしていいかわからなくって。ほら、あの子 : : : あんたの友達は、 あんたが腕に怪我しただけで一生懸命だろ ? もしも眠ったまんま起きなくなったりしたら、 ろいまのオレと同しくらい必死になるに決まってる」 る のど ン「そうだよ。兄貴が倒れてからは、オレ、ロクに食事も喉を通らないくらいだった。あの子 ウも、あんたが倒れたりしたら、きっと」 「それはねーな」 「え ? 」