「タンポポくん、仕方がない。キミがそばにいると、ついつい齧りたくなってしまうからね」 「え、やつばし齧られるのか ? うひやっ卩」 慣れた仕草でお別れのキスを贈ろうとした帝から、朱雀がナイスタイミングで剣を引きはが あてひと につこりと微笑む帝貴人前青桃会会長が、 なび 「それでは諸君、また会おう。タンポポくん、つぎにキミと会うそのときまで、たやすく靡か ない野の花でいておくれ。それから番大くん、キミがヒミツに気づかないよう、祈っている 「・ : ・ : ヒミッってなんです ? 」 「さあ。訊かれても答えられないから、ヒミッというんだよ」 ランチ 〃洋上の白い女神みから四人を乗せた小型艇が海へと降ろされ、剣が帝に向かってプンプンと ろ 手を振った。 。すんごくウマかったです ! 」 「ごちそ ( く〉 ~ 。 , 、さま むじやき あいさっ や 海の冒険もまたしたいです、と。無邪気な最後の挨拶。 みやび ダ去っていく客たちを見送る帝のそはに、お世話係の黒服雅がスイと歩み寄った。 「貴人さま」 「ああ、雅」 かじ
168 「えへへつ、ミカド先輩、くすぐったいぞ。あっ、あっ、朱雀朱雀っ ! お弁当っ」 「 : : : オレと弁当と、会いたかったのはどっちだよ」 ぶっちさつづら 仏項面の朱雀が、弁当ポックスを剣にパスだ。 「むむむつ ! 申し訳ありませんつ、前会長 ! 不覚にも我々は敵の手に落ちてしまいまし た。ですが、このとおり無事ですー ご心配およびご迷惑をおかけして済みませんでしたと御霊寺が謝れば、帝が周囲のダイバ たちを見回したあとに、質問で、 「無事で何よりだ、御霊寺くん。だが、これはどうしたワケかな ? 情報によれば、この島は 人身売買シンジケートである『邪頭』のアジトだということだった。しかし、彼らとキミたち とは、見たところそう険悪な様子とも思えない」 説明してくれたまえと言われて、御霊寺が手短に島でのいきさつを解説する。 「というワケで、彼らは丘マクドナルドなる『邪頭』のポスと、敵対関係にあるようなので す。彼らをまとめる〃お頭〃は、朝食のために魚を捕りに出かけたまま、いまだ戻らす」 帰りが遅れているようなのです、と。 報告すると、周囲のダイバーたちがふたたび騒ぎだした。 「そうだっ、〃お頭 / ! 」 「早く〃お頭みを助けに行かなくちゃあっ」
青桃会の前会長にして、在校生たちからは〃青桃院のカリスマみ〃学園の帝王みと呼ばれる、 てんじようびと 殿上人だ。 泣かせた下級生は数知れす。 、つら けれど、そのひとのあまりの優雅さゆえに限みに思うものは一人もいないという、もはや半 伝説と化した上級生。 学園の制服である白詰め襟ではなく、ごくごくカジュアルな普段着姿。けれども、大人びた ふんいき 雰囲気とその落ち着きようから、高校生らしからぬ洗練された香りが漂うようだった。 「よ、つこそ、タンポポくん」 タラップを勢いよく駆け上がってきた剣を迎えて、帝はにつこりと余裕の笑み。 世話係の雅へ向かって、 「ご苦労だった」 おお 「仰せのとおりにお連れいたしました、貴人さま」 現青桃会会長の御霊寺に向かっては、 「下級生の監督、ご苦労さまだね。御霊寺会長」 めっそう 「む。滅相もございません、帝前会長 ! 」 最後に朱雀に向かい、 「キミも、 ) 」苦労さまだ。番犬くん」
堂々船上挙式 ! マリンプルーの波とともに一一人の愛は激しく盛り上がり打ち砕け、ついには 海底深くへと沈むのさつ」 におうだ 対する御霊寺は、デッキチェアの上に仁王立ち。 ご , 」どうだん ごとは ふらちし 「退け、悪霊つ。帝前会長のお船の上で、不埒な痴れ言を吐くとは言語道断 ! 」 たちまちプールサイドでの睨み合いへと突入する青桃会会長および副会長だが、帝はいっこ かい うに意に介さない様子だ。 カフェでコーヒーを飲み終えた朱雀が、 e シャツを脱ぎ、ジーンズを脱いで、水着姿でプー ルに飛び込むのに向かって、 「番大くん」 「なんでしょー」 「昨日の約束を覚えているだろうね」 「 : : : 覚えてます」 「では、まずはわたしの番ということで、異存はないね」 や「ありません」 レ 「あっ、あっ、なんだ、朱雀つ。一人で泳ぐのズルイぞ ! オレも泳ぐ泳ぐっ。えへへ、水着 着てないけど、ハダカで飛び込んでもかまわない ? 」 「ダメだよ、タンポポくん」 にら
114 きゼん 対して、眉間に縦皺の御霊寺が、青桃会会長らしく毅然とした態度でもって反論した。 ゆくえ 「しかし、我々は学園に帰らなければなりません。夏期休瑕中、旅行先で行方知れすになった ただでさえ、このわ とあっては、輝かしい青桃院の伝統に傷をつけることになりかねないー たしは青桃会会長、伊集院は副会長にして風紀委員長。この如月くんは風紀委員であって、全 もはん 学園生の模範となり、率先して学園の秩序を守るべき名誉ある立場つ」 なんとしてでも無事に休暇を終え、秩序正しく学園に戻らなけれは、と。 長い黒髪をざわめかせて訴えるが、黒ダイバー一同は首を縦には振ってくれない。 「ダメだ ! 」 「ダメと言ったら、ダメなんだ ! 」 かしら 「すまないが、おまえたちには売り飛ばされてもらう。でないと、お頭が : : : 」 「シッ ! 余計なことを一一一口うんしゃねえ , 〃お頭がみと一人が一一 = ロいかけた。 すると、その仲間を、残りのダイバーたちが寄ってたかって黙らせる。 うら 「とにかくつ、観念してもらおう ! 恨みたければ、美少年に生まれた我が身の不幸を恨むん 逃げ出さないように見張っていろ、と命令されて、ダイバー三人ばかりが小屋のなかに居残 った。戸口の外側にも何人かが立って、剣たちはこのまま行くと〃各国政財界の大物〃に売り
「あっ、あっ、思い出したぞっ。ミカド先輩のゴーカなオフネで、タイとかヒラメとかが食い 放題だ ! 」 すでに決まっている夏のスケジュール。 夏休み早々、旅行の予定。 行く先は、前青桃会会長帝貴人のプライベート・シップ。 うらや 先に催された『美少年コンテスト』で特別賞を受賞した剣への、それは、誰もが羨むであろ ほうび うご褒美だったのだ。 「であるから、つまり、如月くんに篁。わたしもキミたちの目付役として同行することにした のだ。帝前会長のお誘いによるバカンスを、成績不振だからなどという理由で断るのはもって のほかー となれば、これらの課題を持ってお船に乗り込むよりほかに手だてはない。が、 しかし、キミたちだけをバカンスに行かせては、とうてい課題を済ませてくるとも思えない おもも そこでわたしも同行させてもらえるよう、やむなく頼み込んだのだと、沈痛な面持ちで御霊 寺が一言う。 さち 剣はすでに、海の幸のあれやこれやに期待満々で、 「えへへ 。だったら、ごりよーじ先輩もいっしょにタコとかイカの踊り食い ? でもって、ミ カド先輩のオフネってゆーのは、どんな感じ ? トカゲ先輩ん家のインチキ・イカダよりはだ
びぼう 華麗なる美貌を喜びの色に染める伊集院いわく、 「僕はこう考えたのさ、如月くん。恥ずかしがりやのモナムールが愛する僕とのアレコレをた めらうのは、他ならぬ青桃院学園のせいではないかとね。なぜなら、彼は青桃会会長で、僕は ゆいいつむに 副会長。おまけに、僕はつねにみんなの注目の的にして、学園における唯一無一一のアイドル。 となれば、僕への求愛に密が一一の足を踏むのは、当然にしてあたりまえのコトなのさ。例える きんたろう ももたろう なら、僕がロミオで、彼がジュリオ。僕が桃太郎なら、彼はおかつばアタマの金太郎。だか じゃまもの おにしま ら、ほら : : : ここが愛の鬼ヶ島なら、すべては解決。邪魔者皆無の愛の島 : : : 生まれたままの 姿のマイ・ディア・金太郎は、溜めに溜めた僕への情熱を一気に : : : はあはあ : : : 一気に、あ あっ ! 」 というワケで、この島を一一人の〃ラブ・アイランドみにするつもりなのさ、と。 剣に向かってウキウキと耳打ちだ。 ろ となりですかさす御霊寺が長い黒髪を逆立てる。 おかん つ。ただならぬ悪寒 ! 計り知れない凶悪な霊気を間近に 「むうつ ! きええ や 感しるのだ ! 」 ダ伊集院から「良ければキミも」と誘われた剣は、大きな目をパチクリとまばたきさせて考え る。 すぎく 「ええっと、〃生まれたままの姿〃ってゆーのは、ハダカってコトなのか ? オレと朱雀がハ 125 かれい
翌日、『プライム・エンペラー号』船上。 別れのとき。 たず すざくみかど 朱雀が帝に向かって訊ねていた。 「どーしてですか、先輩」 「なにがだい、番犬くん」 「カリプ、連れてくんじゃなかったんですか」 ろ 「ああ、そういうつもりでいたことは確かだよ。けれど今回は、キミに勝ちを譲ってあげるこ とにした」 や 「どーゅー風の吹きまわしですか」 ダ「敵の船で、キミは迷わずタンポポくんを庇って海に落ちていた。その姿に心打たれた、とい うことにでもしておこう」 せいとうかい ほほえ 連れて帰りたまえ、と余裕の微笑みを浮かべる帝前青桃会会長。 199
すざく イ中の朱雀の近くへと寄っていった。 気づいて、面倒くさそうに顔を上げた朱雀に向かって、 「アジトがわかったよ、番犬くん」 「どこですか」 「この船から南南東に位置する島の真ん中だ」 「わかりました。ポート、出してもかまいませんね」 「ああ、かまわない」 「しや、失礼します」 「雅。ウェットスーツをもう一着用意させてくれるかな」 「は ? 貴人さま ? 」 みは 目を瞠って雅が驚く。 「 : : : どーするつもりですか、先輩」 ほほえ うさんくさそうに振り返る朱雀に、帝がニッコリと微笑んでみせた。 「モノにしたいタンポポを、これからキミといっしょに取り返しにいくつもりだよ。篁朱雀 くん」 : 如月剣くんを、取り返しにいく。 前青桃会会長らしい威風を漂わせて、そうキッパリ と宣言である。 たかむら
破られる。 つ、ケンカだぞっ」 「うひや うわさ 「おや。コレが噂の、ロにできないアレコレ ? 」 一方、こちらは朱雀と帝。 目のまえに見る明かりのついた小屋が怪しいと見当をつけて、一一人そろっての突入を決める ところ。 「先に如月を見つけたほうが勝ち、ってゆーのはダメですか。先輩」 「ダメだよ、番犬くん。お弁当を持っているキミのほうが有利になるからね」 っざお ニッコリ笑う前青桃会会長の答えに舌打ちして、朱雀は手にした釣り竿を握り直す。もう一 方の手には、特製お弁当ポックスをさげていた。 ろ 「無事だったら、今度こそ遠慮なく押し倒すぜ」 行こうか、と帝からの合図。 や せえの、で小屋の戸口目がけて飛び込んだ。 ダガタンー・と。 小屋の扉を派手に蹴破って、一気になかへ。 明かりが消されて、あたりは真っ暗だ。 165 ゃぶ