聞き - みる会図書館


検索対象: 小公女
367件見つかりました。

1. 小公女

した。その子は、くびをのばして、てすりのあいだから、セーラがのぞけるように目を大きく ひょうじよう あけていました。その子のよごれた顔が、なにかひたむきな、また、おどおどした表情をうか べているので、セーラも、思わずそちらのほうを見ました。そして、にこにこしました。ひと にあえば、にこにこするのが、セーラのくせでしたから。 けれども、よごれた顔をして、目を見はっている女の子は、りつばな生徒をながめたりして いるところを見つかってはたいへんだというように、びくびくしていました。そしてびつくり 箱の人形みたいにびよこんと身をちぢめて、ちょこちょこと台所の中へはいってしまいました。 そのかくれかたがあんまり早かったので、そんなみしめな、たよりなさそうな子でなかったら、 わら セーラは、もうすこしで笑ってしまうところでした。その同し日の夕方、セーラが教室のすみ で、ききてのお友だちにかこまれて、おはなしを聞かせていると、さっきと同し女の子が、重 せきたんばこ すぎるような石炭箱をさげて、おずおずと、へやの中へはいってきました。そして、炉べりの しきものの上にひざをついて、石炭をついだり、灰を掃きよせたりしました。 だいどころぐちかいだん その子は、さっき台所ロの階段のてすりからのぞいていたときよりは、きれいになっていま した。でも、びくびくしているようすは同しでした。生徒たちのほうを見ないように、またお はなしを聞いていると思われないように気をつかっているのが、よくわかりました。音をさせ まいとして、石炭をひとつひとつ手でくべたり、火ばしだの火かき棒だのがおいてあるところ ま・フ せいと

2. 小公女

いくつくだすったの ? 」 「五つ。」 おかみさんは、すっかり考えこんでしまいました。そして、 「自分には、一つしか残さないでねえ。」と小さい声でいいました。「まるまる六つだって、 たべられただろうに、 あの目をみればわかるんだよ。」 そして、だんだん遠くなっていくセーラのみすほらしいすがたを、見おくっていました。い つも、たのしい気もちでいられるおかみさんは、めったにないほど、おちつかなくなってきて いました。 「あんなに早くいってしまわなければいいのに。なんで、十二もあげておかなかったんだろ うね。」といってから、また女の子のほうをむいて、聞きました。 「まだ、おなかがすいているの ? 」 「いつだってすいている。でも、いまはそんなしゃない。」 「こっちへおはいり。」おかみさんは、そういって、店の戸をあけてやりました。 女の子は、たちあがって、のろのろとはいってきました。パンがい つばいおいてある、あた たかいへやにいれてもらえるなんて、うそのような気がしました。これから、どんなことにな るのか、けんとうもっきません。けれども、そんなことはどうだって、かまいませんでした。 のこ

3. 小公女

「あたしが、この先生をうつくしいなんていったら、うそをついてることになるんだわ。」 そうセーラは思いました。「そして、自分がうそをついてるってことを、自分だってわかるわ。 あたしなりに。なんのた あたしは、きっとこのかたと同しぐらい、みつともないんだわ、 めにこのひとは、あんなことをいうのかしら ? 」 あとで、ミンチン先生のことがよくわかるようになってから、セーラには、先生がなぜあん なことをいったのか、わかりました。この先生は、自分の学校に子どもをつれてくる父親や母 いつも同しことをいうのです。 親に、 セーラは、おとうさんのそばに立って、おとうさんとミンチン先生とがお話しするのを聞い じゅく ていました。セーラがこの塾へつれてこられたのは、メリディス夫人のおしようさんが、ふた たいい りとも、ここで教育をうけたからでした。クルー大尉は、メリディス夫人のしたことならば、 まちがいはないと思っていたのです。 とく・ヘつきしゆくせい セーラは「特別寄宿生 . になることに、きまっていました。しかも、ふつうの特別寄宿生よ りも、もっと特別のあっかいを受けることになっていました。自分だけの、きれいな寝室と居 ーいたとき、お守 間もあたえられることになっていましたし、ト馬と馬車と、それからインドこ こまづか りをしてくれたばあやのかわりには、、 1 使いまで使えることになっていました。 「この子の教育については、わたしは、すこしも心配しておりません。」クルー大尉は快活 ふじん しんしつい かいかっ

4. 小公女

てくるのでした。 やり 「みんなは、王女のくびを槍のさきにさして、そのまわりでおどったというのよ。」セーラ きんばっ は話してきかせました。「美しい金髪が、風になびいていたの。あたし、この王女のことを考 えると、いつも頭が、からだにくつついていないで、槍のさきにのっているとこしか、目にう かんでこないの。そして、きちがいのようになった人たちが、わめきながらおどりくるってい るのが、見えてくるのよ。」 ふたりはこのようにきめたことを、セント・ジョン氏にお話しすることにきめました。それ で、本は、とうぶん屋根うらにおいておくことになりました。 「しや、こんどは、両方でお話を聞かせつこしましよう。フランス語はこのごろどう ? 」と セーラかいいました。 どうし 「このまえ、ここへきて、あなたに動詞の変化をおそわってから、とてもよくわかるように れんしゅうもんだい なったわ。あのつぎの朝、あたしの練習問題がよくできていたのが、ミンチン先生にはふしぎ らしいの。」 わら セーラは、ちょっと笑って、ひざをかかえました。 「それから、ロッティが算数ができるようになったってことも、ミンチン先生はふしぎなん でしよ。」とセーラはいいました。「でも、それは、やつばりここへあがってくるからなのだわ。 へんか

5. 小公女

ひろま ほね しのものばかりでした。ひしかけいすさえも、ぎくしやくと骨はっているようでした。広間の ものは、どれもこれもごっごっしていて、みがきたてられたものばかりでした。すみのほうに ある、せいのたかい、お月さまの顔をした時計の赤いほっぺたにまで、いかめしく光るものが おうせつま ぬってありました。ふたりが通された応接間のしゅうたんには、四角なもようがついていまし たし、おいてあるいすも、みんな四角でした。おもくるしい大理石のだんろの上には、おもく るしい大理石の時計がのっていました。 かたいマホガニーのいすに腰をおろすと、セーラは、すばやくあたりをながめまわしました。 : でも、兵隊さんだってーーとてもつよい兵隊 「あたし、ここ、すきしゃないわ、 せんそう さんだってー・ーほんとうは戦争にいくの、いやなんでしようね。」 わか たいい これをきくと、クルー大尉は、声をたてて笑いました。大尉は、まだ若くって、いろんなこ しくら聞 とをおもしろがるひとでしたから、セーラの、こんなふうなおもしろい話しかたは、、 いてもあきないのでした。 、 0 、 0 、キ玉、 「ああ、セーラ。そんなましめくさったお話をしてくれるひとがいなくなったら とこにもいないんだもの。」 どうしたらいいのだろうね、おまえのようにましめなひとは、・ 「でも、ましめなお話が、どうしてそんなにおかしいの ? ーセーラは聞きました。 「セーラが言うと、とてもおもしろいからさ。」そして、おとうさんは、また笑いました。 わら へいたい

6. 小公女

ジャネットとノラのほうでも、同しようにこの紳士がすきでした。それで、ときどきおひる ひろば からおゆるしがでて、広場のむこうの紳士の家へ、おぎようぎをよくしてたずねていくのを、 ほうもん 大のたのしみにしていました。でも、ゆくさきは病人でしたから、訪問といっても、それは、 ほんのちょっとの、れいぎ正しい訪問だったのです。 しました。「あたしたちが 「おしさまは、ほんとにお気のどくなのよ。」と、ジャネットはい、 しず いくと、元気がでるっておっしやるの。だから、静かにして、元気をつけてあげましようね。」 としうえ ジャネットは、きようだいのなかで一ばん年上でしたから、弟や妹たちがさわがないように、 とんなときがい、 気をくばっていました。インドの紳士に、インドのお話をしてもらうのは、・ はんだん かと、判断するのもジャネットでしたし、紳士がっかれたころをみはからって、ラム・ダスに あとをたのみ、そうっとおいとましようとするのも、このジャネットでした。きようだいは、 ラム・ダスも大すきでした。ラム・ダスは、ヒンドスタン語しか話せませんでしたが、そうで なかったら、いくらでもお話をしてくれることができました。インドの紳士のほんとの名まえ は、キャリスフォード氏といいました。ジャネットは、キャリスフォードさんに、「こしきで はない小さい女の子 , にあった話をしてあげました。キャリスフォードさんは、それを聞いて たいへんおもしろがりましたが、ラム・ダスから、小ザルが屋根をわたっていった話を聞いて だい しんし

7. 小公女

だんなれてきました。 へいたい 「兵隊さんは、長くてうんざりするような進軍をするとき、こんな気もちがするのでしよう ね。」セーラはよく自分にこういいました。「長くてうんざりするような進軍」ということばが すきだったのです。そういうと、自分が兵隊になったような気がしました。それからまた、セ ーラは、自分が女主人公としてこの屋根うらでお客をするという、変わったことも考えました。 しろ 「あたしがお城に住んでいるのだったら、」セーラはまず、そうきめてみます。「アーメンガ ごうし ードはべつのお城のおくがたで、騎士だの、郷士だの、けらいだのをたくさんおともにつれて、 ほうもん はた 長い旗をひらめかしながら、馬にのって、あたしを訪問にくるのだわ。はね橋のそとに、ラッ おおひろま むか こちそうの宴 ハの音が聞こえたら、あたしは迎えに出ていきましよう。それから、大広間に、・ ミンストレル をはって、吟誦詩人をよびましよう。そして歌をうたわせたり、音楽をかなでさせたり、物語 こちそうの宴は、はれな をさせたりしましよう。アーメンガードが屋根うらへ来たときには、。 いけれど、物語を聞かせてあげることはできるわ。そして、いやなことは、聞かせないように するのよ。大きな館のおくがたでも、ききんなどで、土地を荒らされたときには、やつばり、 こうしなければならなかったのだわ。」 セーラは、誇りのたかい、し ナなげな、館の女主人でしたから、自分のもっている、たったひ それは、自分のゆめみる夢 とつのもてなしものを、おしげもなくお客にふるまいました。 やかた しんぐん ゅめ えん

8. 小公女

そぎでいろいろのことを考えて、気をまぎらさなくてはなりませんでした。 ロッティは、教室のゆかをすべりまわり、まず大きな音をたてて、ラヴィニアとジェッシー をジリジリさせていましたが、とうとう、ころんで、まるまるしたひざをすりむいてしまいま な てきみかた した。そこで大きな声で泣きながら、敵や味方のまんなかをとびはねました。みんなは、かわ りばんこになだめたり、しかりつけたりしました。 めいれい 「やめなさい、すぐ ! 泣き虫 ! いますぐに ! 」とラヴィニアが命令しました。 「あたし、泣き虫しゃあない そうしゃない ! 」ロッティは泣きわめきました。「セーラ、 「はやくやめてくれないと、ミンチン先生に聞こえるわ。」ジェッシーはさけびました。「ロ ッティちゃん、おかねあげるからよしなさいね。」 「おかねなんかいらない。」ロッティはすすりあげました。そして、まるまるしたひざへ目 をおとしました。ところが、そこに血がちょっとついていたものですから、またもやわっと泣 きだしました。 セーラが、むこうからとんできて、ゆかにひざをついて、ロッティをだきました。 ロッティ。あなた、セーラ 「いいの、ロッティ。」とセーラはいいました。「お聞きなさい、 やくそく とお約束したでしよう。」

9. 小公女

き、自分がひとりごとをいったのを、思いだしたのです。 「この子は、おなかがすいているのだわ。あたしよりも、ずっとおなかがすいているのだ 3 「あの子は、うえ死にしかけていたんでございます。」と、おかみさんはい、 しました。「あれ から、あの子は、なんども、あたしに話しておりましたがーーーずぶぬれになってすわっている と、まるで、オオカミが、自分のからだのなかにいて、くいちぎっているようでした、って。」 「まあ、あれから、あの子におあいになったんですか ? , と、セーラは聞きました。「いま、 どこにいるかごぞんし ? ぞんしております。」と答えて、おかみさんは、ますます、人がよさそうに、 にこしました。「ほら、あのおくのへやにいるんでございますよ。おしようさま、ここへきて から、もう、ひと月になります。だんだん、きちんとした、いい子になっていくようでござい ます。お店でも、台所でも、なかなかよく手つだってくれまして、あんな暮らしをしてきた子 とは、思えないくらいでございます。」 とぐち おかみさんは、おくのへやの戸口にいって、声をかけました。すぐに、ひとりの女の子が、 おかみさんのあとから、カウンターのところまで出てきました。それは、まぎれもなく、あの こしきの女の子でした。さつばりした服をきちんと着て、もう、ながいことおなかがすいたな

10. 小公女

それから、いきなりむすめをだきよせて、つよくキスしました。笑うのもやめて、涙があふれ そうな顔になって。 ちょうどそのとき、ミンチン先生がはいってきました。このお家とそっくりだわ、と、セー ラは田 5 いました。せいは高く、けれど、見ばえがしなくて、お上品で、だけれどいやな顔です。 大きな、つめたい、お魚のような目をして、大きな、つめたい、お魚のような微笑をうかべて いました。先生がセーラとクルー大尉の方をみたとき、その微笑は、ますます大げさになりま じよし した。ミンチン女史は、自分の学校をクルー氏にすいせんしてくれたおくさんから、いろいろ わかぐんじん と、この若い軍人について、耳よりな話をきいていました。そのなかでも、この父親はお金も ちで、小さいむすめのためには、、 しくらでもお金をおしまないひとだということを、聞いてい ました。 こうえい ゅ - つぼ、つ 「こんなおきれいで、有望なお子さまをおあずかりいたしますのは、ほんとに光栄でござい ますわ、クルー大尉さま。」ミンチン先生は、セーラの手をとってなでながら、こういいまし た。「メリディスのおくさまから、このお子さまが、どんなにおりこうかということは、よく じゅく たから うかがっております。わたくしどものような塾では、りこうなお子さんは、だいしな宝なので ございます。」 しず セーラは、 ミンチン先生の顔をしっとみつめたまま、静かに立っていました。例によって、 たいい し うち わら びしょ - フ おお れい なみだ