マイケルが、ふかく息をしました。 「そうだったのか。ドジャーおじさんが、い むすめ ちばん上の娘っていってたよね。だけど、ぼく、 てんで気がっかなかった。」 「あの人が、春をもってきたんだわ ! 」と、 ジ = インが、夢みるようにいって、〈会話〉をじ っとみつめました。 「どうか」と、うしろで声がしました。「す ぐうちへ帰って、朝ごはんをあがってくださ ふたりは、ギョッとして、ふりかえりました。 一つのっていました。 ジェインが字を読みました。 ネ 〈来年までさようなら、 リー・ルビナ・ノア〉 324
ぎんか 「ふふんーーー」そして、最後にそういうと、六ペンス銀貨を、エプロンのポケットにすべりこ ませました。「ペニ 1 の世話をやけば、ポンドが世話をやいてくれる。」 「とても役に立ったらいいなと思うの。」マイケルが、悲しそうな顔をして、そのポケットをじ いました。 っと見つめながら、 「わたしも、そう思います。」メアリー・ポビンズは、きつい声でくりかえすと、行ってお風呂 のせんをひねりました : ( 1 ) ハイランド・フリング・ー、・手足を活発に動かして踊るスコットランド高地地方の踊り。
いました。そして、大きな赤い手をの もうふ ばすと、毛布のひだをすこし押しあけ わら て、まんぞくげな笑いを顔いつばいに うかべました。 「よしよし ! 」と、あまったるい声 をだしました。「小ヒッジちゃん ! アヒルちゃん ! ちっちゃなびかびか ちゃん ! 天使みたいじゃないか、ほ んとに ! 」 1 トソン・アイは、また、あく びをして、 . 口をすこしあけたまま、毛 布のつつみに目をこらしていました。 くっ 「靴みがきが一足ふえるな ! 」と、 ゅううっそうにいって、てすりにもた れかかりました。 「おとさないように、気をつけてく たさいよ ! 」と、フリルばあやは、メ 155
「チッ、チッ、チ 風船を眺めたって、どうなるもんかね ! 風船はさわってみなくちゃ、 風船はもってみなくちゃ、風船となかよしにならなくちゃ。見にくる ! それが、なんになるん だね ? 」 おばあさんの声は、ちいさなほのおみたいに、はじけました。そして、腰かけたまま、ぐらぐ らからだをゆすりました。 ジェインとマイケルは、どうしようもなしに、おばあさんをみつめていました。おばあさんの 、、つとおりだとい、つことは、わかって るのです。だゝらって、どうにもな らないじゃありませんか ! むすめ 「わたしが、娘っこの時分にや、」と、 おばあさんが話をつづけます。「世の なかの人は、風船のことを、ほんとに わかってたよ。ただ見にきたりなんぞ はしなかったね ! 買ったものさ そうさ、買ったよ ! 風船をもたずに、 この門をくぐるような子は、ひとりだ っていなかったよ。そのころは、だれ なが 267
「あんたはーーあんたはーーー」ミ ス・アンドリュ 1 が、しやがれた声 で、い」 , もり ZJ もり、 しもました。「じ やけんで、無礼で、思いやりのない、 ごうじよ なんて いじわるの、強情つばり ことを、なんてことを ! 」 メアリ 1 ・ ポビンズは、その顔を じっと見つめました。なかば閉じた 目に、仕返しのおもいをこめて、ミ ス・アンドリューのことを、ながい あいだ見すえていました。 「あなたは、わたしが、子どもたちのしつけをしらないといい は、はっきりしたことばで、ゆっくり、 もいました。 ミスアンドリ ーは、あとじさりをして、こわそ、つにふるえました。 「お、おわびします。」と、生つばをのんでいいました。 ぶさにう むのう ぜんんしんよう ましたね。」と、メアリ 「不作法で、無能で、全然信用ならないといい こ 0 なま 0 をー ましたね。」メアリー・ポビンズ ー・ポビンスカも p 、まし ′ 0
おなじに、腰から下は、しつかりつまっていることが、わかりました。半分ほど灰色のペンキで ぬりかけた、木づくりのカッコウを、片手にもってきましたが、じぶんの鼻のうえにも、おなじ 色のペンキを、はねかしていました。 「呼んたかい ? 」と、おだやかな、ていねいな声でききました。 そのとき、メアリー・ ポビンズが目にはいりました。 「やあ、やっときたね、メアリ 1 ・ ポビンズ。ネリー・ ルビナも、うれし かろう。あなたをあてにしていたから ね。手を貸してもらって、例の すがた その入は、子どもの姿をみて、きゅ ことばを切りました。 っ 「ああ、これは失礼。お連れがある とは、知らなかったよ、メアリー・ ビンズ ! ちょっといって、この鳥を しあげてこなくちゃ 「いかないで、ドジャーおじさん ! 」 と、ネリ ました。 ルビナカもし しつれい かたて 0 303
ムクドリが、失礼だといわんばかりに、おうへいな 1 目をむけました。 「じゃ、これ、なんなの ? そいで、どっからきた の ? 」ひなどりは、かんだかく叫ぶと、短い翼をはば たいて、ゆりかごのなかを見おろしました。 「話しておやり、アナベル ! 」と、親どりが、しゃ がれ声でいいました。 もうふ アナベルは、毛布の下で、手を動かしました。 「わたしは、土と空と火と水なの。」と、しずかにい やみ いました。「わたしは闇のなかからきたの。なんでも、 はじまりはそこなの。」 「ああ、あんなに暗いとこ ! 」と、ムクドリはやさ しくいって、首をまげて胸にあてました。 たまご 「卵のなかも、暗かったよ ! 」と、ひなどりが、ビ もいました。 「わたしは、海と潮からきたの。」と、アナベルが ピ しつれい しお むね さけ つばさ
しんだい そして、ふとんをさっと寝台からひつばると、ジ = インは床のうえに立っていました。 「まあ ! 」と、ジ = インはぶつぶついいました。「どうして、いつも、まっさきに起きなきゃい けないの ? 」 だからです ! 」メアリー・ 「あなたが、いちばん年上ですよ ポビンズはジェインをお風呂 場のほうへ押しやりました。 「だってわたし、いちばん年上なんかになりたくないわ。どうして、たまには、マイケルが年 上ってことになっちゃいけないの ? 」 「あなたが、いちばんにうまれたからですーーーわかったでしょ ? 」 「でも、たのんだわけじゃないわ。いちばんにうまれたのにあきちゃった。考えごとがしたい 「歯をみがきながらだって、考えごとはできます。」 「おなじ考えごとはできないわ。」 「そう、だれだって、 いつもおなじ考えごとをしたいとは思わないでしよ。」 「わたしは、したいわ。」 メアリ ・ポピンズは、すばやい、ふきげんな目を走らせました。 ちょうし 「もうたくさんです ! 」その声の調子で、ジェインには、メアリー・ポビンズが本気でいって るのだとい、つことがわかりました。 のよ。」
だいきようじゅ そして、玉を投げあげると、大教授は、前にかがんで、それを、手の甲で受けとめました。 きようじゅちょうさけ ーうし 「ははあ ! 」と、教授の長が叫びました。「わしは知「とるぞ。幗子と鈴の身なりでも、のらく らものは知っとるぞ ! 」 どうけ 「は、ま ! 」と、道化が笑いました。 「あのものは、ほかになにをお教えいたしましたでしようか、陛下 ? 」教授の長は、王さまの ほうに、むきなおりました。 「歌じゃ。」と、王さまが答えました。 そして、立ちあがって歌いました。 〈黒、白、まだらの雌牛が一びき、 木のぼりをして、すわってる、 もしもわたしが、あの牛だったら、 そしたら、わたしはわたしじゃない ! 〉 だいきようじゅ 「まさに、そのとおり。」と、大教授がいいました。「ほ、にはなにか ? 」 王さまは、たのしそうに、声をふるわせて、また、歌いました。 めうし わら 196
「ばくたちしたのは、ただ : : : 」と、マイケルがいいわけをはじめました。 かた 「じゃ、しないで ! 」と、メアリ 1 ・ポピンズが、きめつけました。そして、ジ = インの肩ご しにのぞきこむと、〈会話〉を、とりあげました。 「これ、わたしのだと思います ! 」そういって、エプロンのポケットにしまいこむと、公園を ぬけて、家へむかいました。 とちゅう マイケルは、途中で、緑の芽のでた小枝を折って、よくよくしらべていました。 「いまは、ぜんぜん、ほんものらしいよ。」と、マイケルがいいました。 、ました。 「きっと、ずっと、そうだったんだわ。」と、ジ = インがい ものまねをするような声が、トネリコの木のあいだから、流れてきました。 「カッコウ ! カッコウ ! カッコウ ! 」 んじゅ , みんたたか ( 1 ) ズ 1 ルー族ーーーアフリカ南部の原住民。戦いをこのむといわれる。 やく ( 2 ) オンスーー目方の単位で、一オンスは約二八グラム。 うち たんい め こえだお 325