「赤ちゃんですよ、軍艦じゃありません ! 」 「男の子 ? 」と、マイケルがききました。 しえ、女ですーー名まえはアナベル。」 マイケルとアナベルは、じっと、目をあわせました。マイケルは、指を一本、手のなかにいれ てやると、アナベルは、しつかりにぎりしめました。 ポビンズのひざに、 「ほくのお人形ちゃん ! 」と、ジョンがいって、メアリー・ からだをおし つけました。 「わたしのウサちゃん ! 」と、 した。 「ああ ! 」と、ジェインは、風のカールした髪の毛をなでながら、息をひそめていいました。 「なんて、ちいちゃくて、かわいいんでしよう ! 星のようよ。どこからきたの、アナベルちゃ ん ? 」 きかれたのが、たいへんうれしくて、アナベルは、また、話をはじめました。 「わたし、闇のなかからきたの 」と、やさしく、、った、つよ、つにい、 もました。 さけ ジェインは、笑いました。「おかしな、かわいい声ったら ! 」と叫びました。「ロがきけて、話 してくれるといいのにね。」 アナベルは、びつくりしました。 わら ぐんかん ーバラはいって、アナベルの、肩にまいたきれをひつばりま かみ かた 166
きたりしていました。 ゆりかごのなかが、すこし動いて、アナベルが目をあけました。 「こんにちは ! 」と、アナベルは、、 もました。「会いたかったのよ。」 「ほほう ! 」といって、ムクドリは、そばまで飛んでゆきました。 「思いだしたいことがあるんだけど。」と、アナベルは、まゆをしかめていいました。「教えて もらえると思って。」 ムクドリは、どきっとしました。黒いひとみが、きらきらしました。 いました。「こんな ? 」 「どんなふうなの ? 」と、やさしく、 そういって、かすれた声ではじめました。「わたしは、土と空と火と水 : : : 」 「ちがうわよ ! 」と、アナベルは、いらだたしそうにい、 もました。「もちろん、そんなんじゃな 「それじゃ、」と、ムクドリは、気づかわしげに、、 もました。「あんたの旅のことだね ? あん たは、海と潮からきて、空とーーー」 「まあ、へんなのやめて ! 」と、アナベルが叫びました。「わたしの旅ったら、けさ、公園まで 行って帰っただけよ。そんなんじゃないのーーーなにか、だいじなこと。なにか、〈ビ〉ではじまる もの。」 そして、ふいに、わあっとうれしそうに叫びました。 しお さけ さけ 172
「わかったわ。」と、大きな声をだしました。「ビスケットよ。半分のが、暖炉のうえにあるわ。 マイケルが、お茶のあとで、おいてったの ! 」 しました。 「それだけ ? 」と、ムクドリが、悲しそうにい、 「そうよ、もちろんよ。」アナベルが、じれていいました。「まだ、たりないの ? おいしいビ スケットがあったら、うれしいんだろうと思ってたわ ! 」 はあわてていいました。「だがーーー」 「そうとも、そうとも ! 」と、ムクドリ まくら アナベルは、枕のうえに顔をふせて、目をとじました。 しいました。「わたし、ねむいの。」 「もう、おしゃべりしないで。」と、 ムクドリは、暖炉のほうを見やって、また、アナベルに目をおとしました。 いました。「あーあ 1 、アナベル、あ 1 あ ! 」 「ビスケットか ! 」と、頭をふりふり、 メアリ 1 ・ポビンズが、しずかにはいってきて、戸をしめました。 「目をさました ? 」と、ひそひそ声でいいました。 ムクドリは、、つなずきました。 「ほんの一分間。」と、悲しそうにい、 もました。「だが、たつぶり長かったよ。」 メアリ 1 ・ポビンズが、もの問いたげな目をむけました。 わす 「忘れちゃったよ。」と、ムクドリはのどにひっかかった、しやがれ声でいいました。「あの子 わす あ 1 あ、 いい子だったのに、な は、すっかり、忘れちゃったよ。そうとは、わかってたんだが。 だんろ だんろ 173
気をつけろって、 いったんだが、きかなかったんだよ ! だから、もちろんーー」 「しずかにしないかね ! 」と、メアリ 1 ・ ポビンズはいって、エプロンでビシャッとやりまし 「しないね ! 」と、ムクドリはどなって、手ぎわよく、身をかわしました。「だまってる時じゃ ないよ。みんなに知らせてこよう。」 そして、さっと窓べをはなれました。 かた さけ 「五分でもどるよ ! 」と、ムクドリは肩ごしに叫んで、矢のようにとび去りました。 メアリー・ ポビンズは、しずかに子ども部屋をあちこちして、アナベルの新しいきものを、こ ざっぱりとつみあげました。 日の光が、窓からすべりこんで、部屋をよこぎって、ゆりかごのほうへのびてゆきました。 「目をお開け、」と、日の光はやさしく、 しいました。「つやをよくしてあげるからね ! 」 もうふ ゆりかごにかけた毛布がゆれて、アナベルが、目をあけました。 「いい子だ ! 」と、日の光がいいました。「青だね。わたしのすきな色さ。ほうら ! どこへ いったって、こんなつやつやした目はないよ ! 」そういって、アナベルの目から、そっと、すべ りだして、ゆりかごのわきのほうへゆきました。 「ほんとに、ありがとう ! 」と、アナベルか、て、ねいに、、 しました。 まくら かざ あたたかいそよかぜが、枕のうえのモスリンのひだ飾りを、動かしました。 、」 0 あ まど まど や 159
ひなどりは、まるい、ものめずらしそうな目をあけて、キョロキョロ、あたりを見まわしてい ます。ムクドリが、枕のほうへはねてゆきました。 「アナベルちゃん、」と、ムクドリはあまったれた、しやがれ声ではじめました。「わたしはね、 かりかりばりばりの、おいしいビスケットには目がないんですよ。」そ、ついって、食いしんほ、つら しく、目をきらきらさせました。「一つおもちじゃないでしようね ? 」 まくら カールした頭が、枕のうえで動きました。 もい子で 「ない ? おおかた、まだビスケットははやいんでしよう。ねえさんのバ おぼ したよ、きまえがよくって、かいかつでね いつも、わたしのことを覚えててくれましたよ。 だから、あんたも、そのうち、ひとかけ、ふたかけ、このおじさんにわけてくれるでしようね 「もちろん、あげるわ。」と、アナベルが、毛布のかげからいいました。 「それでこそ、いい子ちゃんだ ! 」と、ムクドリが、まんぞくそうな、があがあ声でいいました。 そして、首をかしげて、まるいきらきらした片目で、じっと、アナベルをみつめました。「旅の あとで、」と、あいそよく、 いました。「疲れがでやあしなかったでしようね。」 アナベルは首をふりました。 いました。 「どっからきたのー・ーーーから出たの ? 」と、ひょっこが、ふいに、ビ 1 ビ 1 リ 1 ・ポビンスかあざけるよ、つに、、 「へーえ ! 」と、メア ました。「スズメと思ってるのか たまご もうふ かため 161
ムクドリが、失礼だといわんばかりに、おうへいな 1 目をむけました。 「じゃ、これ、なんなの ? そいで、どっからきた の ? 」ひなどりは、かんだかく叫ぶと、短い翼をはば たいて、ゆりかごのなかを見おろしました。 「話しておやり、アナベル ! 」と、親どりが、しゃ がれ声でいいました。 もうふ アナベルは、毛布の下で、手を動かしました。 「わたしは、土と空と火と水なの。」と、しずかにい やみ いました。「わたしは闇のなかからきたの。なんでも、 はじまりはそこなの。」 「ああ、あんなに暗いとこ ! 」と、ムクドリはやさ しくいって、首をまげて胸にあてました。 たまご 「卵のなかも、暗かったよ ! 」と、ひなどりが、ビ もいました。 「わたしは、海と潮からきたの。」と、アナベルが ピ しつれい しお むね さけ つばさ
メアリー・ポビンズが顔をあげました。 煙突のてつべんにすんでいるムクドリが、窓じきいのうえで、興奮してはねていました。 「女の子。アナベル。」と、メアリ 1 ・ポビンズが、そっけなくいい ました。「それにしても、 もすこし静かにしたらどう ? キイキイ、ギャアギャア、カササギのたばみたいにさわいで ! 」 ちゅうがえ しかし、ムクドリは耳をかしませんでした。しきいのうえで、なんども宙返りをして、頭をだ すたびに、むやみに羽ばたきをしました。 「なんたるよろこび ! 」と、ムクドリは、さいごにまっすぐ立ったとき、息をはずませていし ました。「なんたるよろこび ! ああ、歌でもうたいたい ! 」 「歌えやしないよ。この世の終わりがくるまで、やろうったって、だめよ ! 」と、メアリ 1 ポビンズがあざけるよ、つに、、 もました。 しかし、ムクドリは、あんまりうれしいので、気にもしません。 つまさき かなき 「女の子ねえ ! 」と、爪先でおどりながら、金切り声をだしました。「ことしんなって、三度、 卵をかえしたけど ほん気にするかな ? ーーーひとつのこらず男さ。だが、アナベルがうめあわ せをしてくれるってもんだ ! 」 そして、しきいづたいに、すこしとびました。「アナベル ! 」と、いきなりまた、いいだしまし ていとく えんとっ た。「いい名だ ! わしのおばで、アナベルっての力もオ ゞ、こつけ。ブーム提督んとこの煙突に住んで たつけが、死んだよ。かわいそうに、 うれてないリンゴとブドウをたべたんだよ。気をつけろ、 たまご えんとっ しず まど こうふん 158
ら、みんなは、さらに、さわぎたてました。「なんて、おりこうなんでしよう ! まるで、わかる みたい ! 」 ところが、それが、いつもアナベルをいらいらさせるのです。そこで、みんなのばかさかげん にあいそをつかして、むこうをむいてしまうのです。それが、また、おろかなことに、アナベル のいやそうな顏がチャ 1 ミングにみえるもので、みんなは、ますます、ばかになってしまうので ムクドリが帰ってきたときには、アナベルは、一週間、大きくなっていました。メアリー・ しゅうやとう ビンズが、終夜燈のうすぐらいあかりのなかで、しずかにゆりかごをゆすっているときに、ムク すがた ドリが姿をあらわしました。 「またきたね ! 」と、ムクドリのとびこんできたのをみて、メアリ 1 ・ポピンズが、そっけな いました。「にせ金なみの、ろくでなし ! 」そして、いやらしいというふうに、長く鼻をな らしました。 「いそがしかったよ ! 」と、ムクドリカしし 、ました。「なにごとも、きちんとしとかなきや、な らないんでね。だいいち、わたしが世話しなきゃならない子ども部屋は、ここだけじゃないから ね ! 」そういうと、ビーズ玉のような黒い目を、いじわるそうに光らせました。 「ふん ! 」と、メアリ 1 ・ ポビンズは、にべもなくいい ました。「よそさまには、お気のどく 170
びながら、とくいそ、つに、ビョンビョンはねました。 「マイケル、わたしの根ばたきをとって、あの鳥を追っぱらってちょうだい ! 」と、メアリ ・ポビンズが、亠尸をとがらせていいました。 ムクドリは、おもしろそうに、ぎゃあぎゃあ、い、ました。 ポビンズ、おかげさまで ! ど、っせ、いこ、つとし 「じぶんで追っぱらわれますよ、メアリ 1 ・ てたとこなんだ ! おいで、ほうや ! 」 さけ そして、大きく、クックッと叫ぶと、ひなどりをしきいから追いたてて、いっしょに、窓から 飛び去ってゆきました : さくらまちどお まもなく、アナベルは、桜町通りの生活に、居心地よくおちつきました。そして、みんなにち やほやされるのを楽しんでいましたし、だれかきて、ゆりかごをのぞきこんでは、かわいい子だ 、ってくれるのを、いつも、よろこんで とか、なんておとなしくて気立てがいいんだろうとか、し いました。 、ました。「だいす 「いつまでも、ほめてほしいわ ! 」と、アナベルはよくニコニコしながらいし きょ ! 」 そうすると、みんなは、なんてカ 1 ルがきれいなんだろうとか、なんて目が青いんだろうとか 9 につこりしましたか さきをあらそっていいましたし、アナベルはまた、たいへんうれしそうに、 ごこち まど
「だって、話してるじゃない ! 」と、足をばたばたさせて、さからいました。 ! 」ムクドリが、窓のほうから、ぶえんりょにきゃあきゃあ笑いました。「いった 1 とおりだ ! 笑って、すまんが ! 」 つばさ ひょっこも、翼のかげで、くすくす笑いました。 「きっと、おもちゃ屋からきたんだよ。」と、マイケルがい アナベルは、はげしいいきおいで、マイケルの指を、ふりはらいました。 「ばかなこと、いわないで ! 」と、ジェインがいし 、ました。「シンプソン先生が、きっと、ちい さな茶色のかばんにいれて、もってきたんだわ ! 」 「おじさんのいったとおりだろ、それとも、ちがってたかい ? 」ムクドリ の、ふんべつくさい 黒い目が、きらきらと、なじるよ、つにアナベルにむけられていました。 「いってごらん ! 」そう、からかうようにいうと、勝ちほこったよ、つに、羽ばたきをしました。 しかし、アナベルは、へんじのかわりに、 メアリー・ポピンズのエプロンに、顔をおしつけて 泣きだしました。うまれてはじめての泣き声が、かすかにさびしく、部屋にしみとおるように、 ひびきました。 「いいさ ! もいさ ! 」と、ムクドリが、声をくもらせていいました。「そんなに悲しみなさん だが、きっと、このつぎ どうにもならないんだよ。つまるところ、ただの人間の子さ ! しんよう ゅうしゅう ゅうしゅう さけ には、目上の人たちを信用するようになるよ。優秀な目上さ ! 優秀な目上さ ! 」そう大声で叫 わら まど わら 、ました。 わら