うし やまたかうし 「帽子だ ! 」と、バンクスさんが歯をむいていいました。「わたしの、いちばん上等の山高帽子 ぼうし そして、階段をかけあがると、また、それをけおとしました。帽子は、床のタイルのうえで、 ちょっとくるくるまわりをしてから、おくさんの足もとでとまりました。 「それがどうかしたんですか ? 」と、 ンクス夫人は、おどおどしてききかえしましたが、じ ぶんでは、ご主人がどうかしたのではないかと思いました。 「みてみろ ! 」と、 ンクスさんが、おくさんをどなりつけました。 ぼうし ぼ ) し ンクス夫人は、身をふるわせながら、かがんで帽子をひろいあげました。帽子には、つやの とくべっ ある、ねばっこそうな大きなしみが、 、つばいついていて、なにか特別のにおいがするのに気が つきました。 ふじん バンクス夫人は、つばのあたりをかいでみていいました。 「くつずみのようなにおいだわ。」 「くつずみなんだとも ! 」と、 ンクスさんが、お、つむがえしにい、 もました。「ロ。 ぼうし アイが、わたしの帽子をくつのプラシでこすったんだー・ーっまり、みがいちゃったんだ。」 ンクス夫人は、ぞっとして口をとじました。 「このうちじゃ、なにがおこるかわからん ! 」 バンクスさんはつづけました。「なんでも、ちゃ むかし んといったためしがない 昔つからだ ! ひげそりのお湯があっすぎると思うと、朝のコーヒ ふじん ふじん かいだん ふじん トソン・
りまわしました。「こんなことは見たこともない , ん ! 市長さまに申しあげなくちゃ ! 」 子どもたちは、だまってその場をはなれました。メリー・ ゴウ・ラウンドは、草の、つえに、な んのあとものこしていません。クロ 1 ーのへこんだあとさえないのです。公園番が、どなった ノ うで しばふ り、腕をふったりして立っている以外には、緑の芝生は、からっぽになりました。 うばぐるま おうふくぎつぶ もいました。 「往復切符もってたね。」と、マイケルが、乳母車のわきを、ゆっくり歩きながら、 「帰ってくるってことだと思う ? 」 ジ = インは、しばらく考えていました。「たぶんねーーーもし、ほんとに帰ってもらいたいと思 えばね。」と、ゆっくり、 「そうだね、きっと : ! 」マイケルもくりかえして、ちいさくため息をつきました。そして べや 子ども部屋へもどるまで、ロをききませんでした : 「やあ ! ゃあ ! ゃあ ! 」 バンクスさんが、前庭の道をはしって、玄関からとびこんできました。 かいだん みんなどこだ ? 」と、どなって、階段を、一度に三段ずつ、かけあがりました。 、、、ました。 「なんです、いったい ? 」と、 ノンクス夫人が、いそいで出迎えて さけ 「すばらしいできごとだ ! 」と 、バンクスさんは叫んで、子ども部屋の戸を、いきおいよくひ いました。 が げんかん ふじん ほうこ / 、 子どもん時からだって。報告をせにゃなら でむか だん 355
「なんでしよう、こんどは ? 」バンクス夫人は、なにごとかと思って、いそいでとびだしました。 さけ 「ああ、わたしの足、わたしの足が ! 」と、女中のエレンが叫びました。 かいだん せともの エレンは、まわりじゅうに瀬戸物のかけらをちらかして、階段にすわりこんで、大声でうめい ていました。 ハンクス夫人が声をとがらせてききました。 「足がどうしたの ? 」と、 ました。 「折れたんです ! 」と、エレンは手すりによりかかったまま、おそろしそうにいい 「ばかをいいなさい、エレン ! 足首をくじ いたんでしよ、それだけよ ! 」 けれどもエレンは、また、うめいただけでし ど、つしましよ、つ ? 」そ、つ 「足が折れた ! な って、なんどもなんども、泣き叫びました。 かなき そのとき、ふたごたちの金切り声が、子ども 部屋からひびいてきました。ふたりは、青いセ ルロイドのアヒルをとりつこしていたのです。 さけ その叫びも、ジェインとマイケルの声からみる と、かほそくきこえました。ジェインとマイケ ふじん ふじん 、一 0 お さけ
風船、風船 ! ふじん 「あのう、メアリー・ポビンズ、」と、ある朝、バンクス夫人が、子ども部屋へいそぎ足ではい ってきて、 もいました。「ちょっと買い物してきてもらう時間あるかしら ? 」 えがお そ、ついって、メアリー・ポビンスに、やさし、、・ おずおずした笑顔をむけました。へんじにつ じしん いては、あまり自信がもてないというようすでした。 だんろ メア ) ー・ポビンズは、暖炉のそばで、アナベルの着るものをかわかしていましたが、ふりむ いて答えました。 「ま、たぶん。」と、 しいましたが、たいして、当てになりそうでも、ありませんでした。 「ああ、そう 」と、ヾンクス夫人はいいましたが、まえよりもっとおずおずしていました。 「でも だめかもしれません。」と、メアリー・ポビンズが、ことばをつづけましたが、いそ かなあみ がしそうに、毛糸のジャケツをふるって、暖炉の囲いの金網にかけました。 「じゃーー時間があったとして、書きつけをここへおきます。それから、ここに紙幣で一ポン ドあります。もし、おつりがのこったら、なにかに使ってちょうだい ! 」 ふじん だんろ かこ しへい 257
、ました。「がまんできない そして、エレンに手をかして寝かせると、足首につめたいしつぶをしてやり、それから、子ど も部屋へあがってゆきました。 ジェインとマイケルが、かけよってきました。 「赤いしっぽでなきや、だめだよね ? 」と、マイケルがききました。 「ね、ママ、ばかなことさせないで ! 赤いしつほの馬なんかいないわね ? 」 「じゃ、むらさきのしつぼのがいるかい ? いってごらん ! 」と、マイケルがさけびました。 かなき 「ぼくのアヒルだい ! 」ジョンが、ハ ハラの手からアヒルをひったくって、金切り声をあげ ました。 「わたしの、わたしの、わたしの ! 」と、 ハラもさけんで、また、すばやくとりかえしま した。 「あなたたちったら、やめてちょうだいったら ! 」。 ンクス夫人は、やりきれなくなって、い ルは、壁に絵をかいていたのですが、緑色の馬のしっぽを、むらさきにするか赤にするかで、け きそく んかをはじめたのです。そして、このさわぎのあいだじゅう、女中のエレンのうめき声が、規則 正しい太鼓のひびきのようにきこえていました。 ど、つしましよ、つ ? 」 「足が折れた ! ふじん 「とても、もう、」と かべ 、バンクス夫人は二階にかけあがりながらい ね ふじん
「さあ、ちびたち ! 」オリオンが大声でさえぎりました。「時間にな「たら、おまえらの歌は、 うたえるんだ。いって、用意をしろ、はじまるぞ ! どうぞ、こちらへ ! 」と、オリオンはジ インとマイケルに、、 もました。 すがた ふたりは、すなおに、きらきらする姿のあとを、小走りについてゆきました。とちゅう、金色 の動物たちが、ふたりのほうへ顔をむけましたが、ひそひそと話をかわすのが、通りすがりに、 きれぎれに耳にはいりました。 「あれはだれだ ? 」と、星でできた雄牛が、星くずをかいていた足をとめて、じっとふたりを 見ながら、 もいました。するとライオンがふりむいて、なにか小声で、雄牛の耳にささやきまし た。ふたりには、「バンクス」というのと、「夜の外出」ということばがきこえましたが、それ以 じよう 上はわかりませんでした。 「どういうの ? 」マイケルは、ジ = インが追いついたとき、ちょうど、そういっていました。 あんしょ ) そして、一ばん上のヤギが、詩を暗誦してみせようといっていたにちがいないのですが、せき ばらいをして、はじめました。 〈つのとつまさき、 つまさきとつの おうし おうし 226
ました。 「行っちゃったよ ! 」と、マイケルがいい ふじん 「なんですって , ーー行っちゃった ? 」。 ンクス夫人は、たいへんびつくりしたようでした。 「いたくないみたいだったわ。」と、ジェインカし ふじん バンクス夫人は、まゆをひそめました。 「どういうことなんです、メアリ ー・ポビンズ ? 」と、ききました。 「なんとも申しあげかねます、おくさま、ほんとうに。」と、メアー 丿ー・ポビンズがおちついて もいました。 きようみ まるで、興味がないといった顔つきで、じぶんの新しいプラウスに目をやって、しわをのばし ました。 ふじん ハンクス夫人は、みんなの顔をみくらべて、首をふりました。 「なんてまあ、おかしなことでしようー さつばりわからないわ。」 とびら あ ンクスさ ちょうどその時、門の扉が、かすかにカチリとなって、開いてまた閉まりました。ヾ んが、しのび足でやってきます。もじもじして、みんながふりむくのを、心配そうに、つまさき 立ちでまっていました。 「どう ? きたかい ? 」と、 ンクスさんは心配そうに、声をしのばせていいました。 「きて、行ってしまいました。」と、 、ました。 ンクス夫人がいも ンクスさんは、目をまるくしました。 ふじん 。ゝ、、ました。
ン・カロライン・バンクス〉という字が、大きな白い字であらわれました。 「あんたの名かね、わたしのアヒルっ子ちゃん ? 」と、風船ばあさんがききました。 ジェインはうなずきました。 風船ばあさんは、ジェインが風船をとって、空中ではずませているのを見て、かばそく、くっ くっと、ひとり笑いをしました。 「わたしも ! わたしも ! 」と、ジョンとヾ ーバラが叫んで、風船のお盆のなかへ、まるい手 をつつこみました。ジョンが、ビンク色のをひきだすと、風船ばあさんは、それをふくらませて、 につこりしました。まるい風船のうえに、はっきり字がかいてありました。〈ジョンとヾ ハンクスーーふたごだからふたりで一つ。〉 「だけど、」と、ジェインカしも 、、ゝ、、ました。「わからないわ。どうして、知ってたの ? まえに、 わたしたちのこと、見たことないじゃない。」 「ああ、かわいいアヒルっ子さん、いったじゃないかね、風船、風船なんだからって ! これ とくべっ は、ことさら特別なんだよ。」 「でも、おばあさんが、名まえ書いといたの ? 」と、マイケルがいいました。 わら 「わたしが ? 」と、おばあさんが、くすくす笑いました。「とんでもない ! 」 「じゃ、だれ ? 」 「ちがうことをきいとくれ、アヒルっ子さん ! そこに名まえがあるってことっきや、知らな わら さけ ぼん 271
マイケルは、ジェインにとびかかろ、フとしました。 「もう、それでたくさん ! 」と、メアリ 1 ・ ポビンズが、ジ = インをにらんでいいました。 うちびじん かがみ 「だいいち、この家で美人がだれかっていえばーー」と、ことばをきって、鏡にうつったじぶん すがた の姿をちらっとみて、まんぞくそうにほほえみました。 「だれ ? 」と、マイケルとジ = インが、 、っせいにききました。 「バンクスって名まえのついたひとじゃありません ! 」と、メアリー・ ました。「そうですとも ! 」 マイケルは、いつもメアリ ー・ポビンズがおかしなことをいったときするよ、つに、、ン めくばせをしました。しかし、ジ = インは、そのまなざしに気がついてはいたのですが、しらん とだな えのぐばこ 顔をしていました。そして、むこうへ いって、おもちゃ戸棚から絵具箱をとりだしました。 「汽車ごっこしない ? 」マイケルは、仲なおりをしようと思って、 もいました。 「いやよ、しないわ。ひとりでいたいの。」 「さあさあ、子どもたち、けさはみんな元気ですか ? 」 ふじんへや ( ンクス夫人が部屋のなかに走ってきて、いそいでみんなにキスしました。いつもあんまり忙 しくて、歩いているひまがないのです。 ふじん 「マイケル、」と、夫人はよびました。「スリツ。 ( の新しいのがいるわね。指のさきがのぞいて るわ。メアリ 1 ・ポビンズ、ジョンのカールがとれそうじゃないかしら。 もい子ね、 なか ポビンズはやりかえし いそが
それは、土曜日の午後のことでした。 さくらまちどお せいうけい 桜町通り十七番地の玄関の広間で、バ ンクスさんがしきりに晴雨計をたたきながら、お天気が どうなるか、おくさんに話していました。 ぎおんへいねん かみなり 「南よりの風よわく、気温平年なみ。ところにより雷。波しずか。」と、バンクスさんがい「て もよう います。「天気くずれる模様、おやーーなんだろう ? 」 ンクスさんは、ことばをきりました。頭の上から、なにかぶつかる、どしんばたんという音 がきこえてきたのです。 かいだん 階段の曲がり角から、マイケルがあらわれました。おもい足どりで、ばたんばたんとおりてく るところは、ひどくふきげんで、すねているようすでした。そのうしろへ、ふたごを片腕にひと だん せなか りずつだいて、メアリー・ポビンズがおりてきました。一段ごとに、マイケルの背中をひざでこ ぼうし ずいて、下へおいやっています。つづいて、みんなの帽子をもって、ジ = インが出てきました。 なかな 「はじめよければ、半ば成る。さあ、おりてください ! 」と、メアリー・ ポビンズが、とげと かど 、ス・アンドリ = ーのヒパリ げんかん かたうで