「ねえーーけがしたよ ! 」 はっきりした、とがめるような声が、部屋のなかにひびきました。 ジェインは、びつくりして目をあけました。 「ジェイン ! 」と、また声がしました。「ぼくのひざなんだ ! 」 ジェインは、、そいで首をまわしました。部屋にはだれもいません。 いって開けてみました。やつばりだれもいません ! いそいで戸口へ すると、だれかの笑うのがきこえました。 「ここだよ、ばかだな ! 」また、声がしました。「この、上だよ ! 」 かざざら だんろ ジ = インは暖炉の上を見あげました。時計のわきの飾り皿に、大きなひびがはいっていました たづな おどろ が、みると、驚いたことには、絵にかいた男の子のひとりが、手綱をおとして、両手でひざをか かえてかがみこんでいるのです。ほかのふたりもふりかえって、心配そうにのぞきこんでいまし 「だってーー」と、ジェインは、半分じぶんに、半分はわけのわからない声にむかって、 かけました。「わからないわ。」皿のなかの男の子は、顔をあげて、ジ = インにむかってにつこり しました。 「わからない ? そう、わからないだろうね。きみもマイケルも、しよっちゅう、かんたんな ことがわかんないものなーーそうだろ ? 」 こ 0 わら さら
もんく 遠くしたのほうで、タートレットさんの声がしました。びどく文句をいっています。 ! 」と、部屋のなかで、大きなしやがれ声がしました。「チェッ、ばかな ! あの女に りこ、つなポリー ! ホリ 1 にやらせなさい かわいいポー めんど、つかけることはない ポビンズのオウム ジェインとマイケルが、頭をまわしてみると、驚いたことには、メアリー・ の柄のこうもりがさから声がしていたのです。かさは、そのとき、とんぼ返りをして、お菓子の ほうへ近よってゆきました。そして、頭をしたにして、かんのうえにおりると、二秒間で、くち あな ばしで大きな穴をあけてしまいました。 ーがした 「そら ! 」と、オウムの頭が、とくいそうに、ぎゃあぎゃあ声をだしました。「ポリ きよう びしよう よ ! 器用なポリー ! 」そして、うれしいまんぞくげな微笑を、くちばしに浮かべて、メアリ ゆか 1 ・ポビンズのわきの床に、頭をしたにしておちつきました。 「こりや、 たいへんごしんせつに ! 」タ 1 ヴィーさんは、お菓子の焦げた色の皮がみえるよう になったので、ゆううっそうな声で、おネをいいました。 そして、ポケットからナイフをとりだすと、一きれ切りとって、いきおいよく、ひとくちやり ましたが、ロからはなして、つくづくお菓子を見ました。やがて、とがめるような目つきを、メ ポビンズにむけました。 しわざ ちがうとはいわせない。 「あんたの仕業だね、メアリ 1 干しプドウ入りの菓子だったんだ。ところが、それがーー」 かし おどろ このまえあけたときは、ちゃんと、 こ かし 133
〈おれはライオン、ライオンのレオだ、 みごとで、にあいの、しゃれものライオン、 澄んだ冷たい夜の星空、 オリオンの足もとを見あげてもごろうじ、 かがやなが きらきら、びかびか、輝く眺め、 たいきけんない 大気圏内、まさるものなし ! 〉 そして歌がおわると、なわをまわして、目玉をギョロギョロさせて、おそろしい声でうなりな がら、ぐるりをなわとびでまわりました。 「いそげよ、レオ、ぼくらの番だ ! 」ごろごろいう声が、カーテンのかげからきこえました。 「しつかり、大ネコさん ! 」かんだかい声が、いいたしました。 ライオンは、なわとびをほうりだして、一声ほえると、カーテンにとびつきました。しかし、 つぎにはいってきた二ひきのけものは、用心ぶかくわきによけたので、ライオンにつかまらずに すみました。 、ました。 「大グマと小グマです ! 」と、オリオンがいし ゆっくりと、二ひきのクマが、やってきます。手をつないで、のつし、のつしと、おそい音楽 237
ミス・アンドリューは、鳥籠の針金をがたがたとゆすりました。 「戸をあけて ! 戸をあけて ! 出してちょうだい ! ねえ、出してちょうだい ! 」 「ふん ! 無理でしようよ。」と、メアリー・ ポビンズがひくくあざけるよ、つに、、、ました。 ヒバリは、どんどん飛びつづけて、さえずりながら、ますます高くのぼってゆきます。ミス・ アンドリーをとじこめた重い鳥籠は、爪の先にぶらさがって、あぶなっかしくゆれながらつ てゆきます。 ヒ丿のあかるい声にかさなって、ミス・アンドリ = ーが籠をたたきながら叫ぶ声がきこえて きます。 「しつけのいいわたし。いつも正しいわたし。まちがったことのないわたし。そのわたしが、 こんなことになるなんて ! 」 わら メア丿ー・ポビンズが、ふしぎな、おだやかな笑いをうかべました。 すがた ヒ丿の姿は、もうずいぶん小さくなりましたが、それでもまだ、勝ちほこったように高い声 とりか 1 」 でさえずりながら、上へ上へと輪をえがいてあがってゆきます。鳥籠のなかのミス・アンドリ = 1 もまた、輪をかいて重そうにのほりながら、嵐のなかの船のように右へ左へとゆれていました。 「出してちょうだい ! ねえ、出してちょうだい ! 」と、きいき、 しいう声がきこえてきます。 とっ懸ん 突然、ヒヾリ ノがむきをかえました。ちょっと歌をやめて、よこっとびに飛んだかとおもうと、 すぐまた、あかるく高らかにうたいはじめて、籠の輪を足からふりはなすと、南にむけて飛んで むり とりかご とりか′」 はりカね あらし かごわ さけ
ヴィーナスは、ちょっとの間、爪先だちで、平均をとりました。「 ( ィッ ! 」と、太陽が声をか けました。すると、ヴィ 1 ナスは、このうえなく優美に輪をくぐりぬけて、ベガサスの背におり たちました。 「フレー ! 」と、ジェインとマイケルとが叫ぶと、見物の星たちも、山びこのように声をかえ しました。 「フレ 1 いっちょうやらせろ ! ネコの笑うくら、 「おれにもやらしてくれ ! あわれなジョイにも、 さけ どうけ の、ちっちゃいやつを。」と、道化が叫びました。けれども、ヴィーナスは、頭をふりあげただ えんぎじよう けで、笑って、演技場から走り去りました。 すがた ヴィ 1 ナスの姿が消えるか消えないうちに、三びきの子ャギが、踊りながら出てきました。は ずかしそうなようすで、おずおずと、太陽に頭をさげました。そして、そのまえに一列にならぶ あとあし と、後足でたって、高い細い声で、こんな歌をうたいました。 ひづめとつのと、 くる夜もくる夜も、 子ャギが三びき、うまれます。 〈つのとひづめと、 わら つまさき さけ へいぎん おど わら 231
んにもいわないでいるほうがりこうだっていうことは、わかっていたからです。ジェインは、し ー・ビスケットをゆっくり、かじりながら、プラインドのすき らん顔をしていました。ジンジャ まから、きらめく夜の空を注意ぶかく、のぞいていました。 「十三、十四、十五、十六 「ねるって、 ませんか ? 」ききなれた声が、うしろでしました。 いいましたか、いい 「↓よ、、十 6 、 しきますよ、メアリー・ポピンス ! 」 ふたりは、きゃあきゃあいいながら、寝室のほうへ走ってゆきました。メアリー・ すぐあとを追いましたが、まさに、すごい顔つきでした。 半時間もたたないうちに、みんな、べッドにいれられました。メアリ 1 ・ポビンズが、ぶりぶ しぎふ もうふ ットレスのしたにおしこんで、めいめい りしながら、すばやく手を動かして、敷布と毛布を、マ しつかりくるんでしまいました。 「さあ ! 」と、メアリー・ポビンズは、はきだすよ、つに、、、 ました。「今夜は、これでおしま 、ませんでしたが、顔つきが、いうへ もし、ひとことでもきこえたらーーー」そこまでしかい きことをすっかりいっていました。 「めんどうなことになりますよ ! 」と、マイケルが、あとをいいたしましたが、大きな声でい もうふ ったら、どんなことになるかわかっていたので、毛布に口をあてて、息をころして、低い声でい ました。メアリ 1 ・ ポビンズは、のりのきいたエプロンの音を、かさかさ、ばりばりとさせな しんしつ ひく ポビンズも、 215
「わかったわ。」と、大きな声をだしました。「ビスケットよ。半分のが、暖炉のうえにあるわ。 マイケルが、お茶のあとで、おいてったの ! 」 しました。 「それだけ ? 」と、ムクドリが、悲しそうにい、 「そうよ、もちろんよ。」アナベルが、じれていいました。「まだ、たりないの ? おいしいビ スケットがあったら、うれしいんだろうと思ってたわ ! 」 はあわてていいました。「だがーーー」 「そうとも、そうとも ! 」と、ムクドリ まくら アナベルは、枕のうえに顔をふせて、目をとじました。 しいました。「わたし、ねむいの。」 「もう、おしゃべりしないで。」と、 ムクドリは、暖炉のほうを見やって、また、アナベルに目をおとしました。 いました。「あーあ 1 、アナベル、あ 1 あ ! 」 「ビスケットか ! 」と、頭をふりふり、 メアリ 1 ・ポビンズが、しずかにはいってきて、戸をしめました。 「目をさました ? 」と、ひそひそ声でいいました。 ムクドリは、、つなずきました。 「ほんの一分間。」と、悲しそうにい、 もました。「だが、たつぶり長かったよ。」 メアリ 1 ・ポビンズが、もの問いたげな目をむけました。 わす 「忘れちゃったよ。」と、ムクドリはのどにひっかかった、しやがれ声でいいました。「あの子 わす あ 1 あ、 いい子だったのに、な は、すっかり、忘れちゃったよ。そうとは、わかってたんだが。 だんろ だんろ 173
しかし、まえには、もうなんにも見えるものがなく、ただ、一片の、濃い青色の、星のない空が あるだけでした。 マイケルの手が、ジェインの手のなかで、ふるえました。 「さあ、ど、ど、つしよ、つ ? 」と、マイケルがしも 、ました。むりに、こわがらないでいるよう な声でした。 、らっしや、 「さあさあ、いらっしゃい たいした見ものだ ! お金を払って、すきな りようびりゅう つばさ うちゅうきせき のおとり ! 両尾の竜か、翼ある馬か ! 魔術の驚異 ! 宇宙の奇跡 ! いらっしゃい . し 大きな声で、そういっているのが、まるで耳のなかで、どなっているようにきこえました。ふ たりは、びつくりして、あたりを見まわしました。だれもいるようすがありません。 おうし どうけ 「さあ、みんな、おいで、おいで ! 金の雄牛も、おどけの道化も見のがしなく ! 世界に名 せいざぎよくばだん わす だたる星座曲馬団 ! 一ど見たら忘れられない ! 垂れ幕あげて、おはいり、おはいり ! 」 かたて また、ふたりのすぐそばで、声がひびきました。ジェインが、片手をのばしました。すると、 おどろいたことには、ただの、星のない空の一部だと思っていたものが、ほんとは、この色の厚 いカーテンだったのです。ジェインがおしてみると、やわらかくへこみました。そこで、ひとに ぎり、ひだをつかんで、マイケルの手をひつばって、カーテンをおしあけました。 あかるい ぎらぎらした光で、ふたりは、一瞬、目がくらみました。 まじゅっきようい いっしゅん た いっぺん こ あっ 220
どんなことになるかしらと思っていました。 かすかな音が、どこかため息のような、どこかロ笛のようなひびきで、空中にきこえました。 ました。 「なんでしよう ? 」と、ジ = インが早口にい、 また音がしました。こんどは、すこし大きく。メアリー ・ポビンズが、首をかしげて耳をすま せました。 だん かすかな、チイチイいう声が、こんどは、入り口のあがり段のあたりから、きこえてきました。 さけ 「ああ ! 」メア リ 1 ・ポピンズは、勝ちほこったように叫びました。「わかってたはずなの そして、いきなり身をひるがえすと、ミス・アンドリ = ーが残していったまるい物に走りよっ て、おおいをさっとはぎとりました。 その下から、たいへんきれいでびかびかした、しんちゅうの鳥籠がでてきました。そしてなか には、とまり木のはじにとまって、つばさのあいだに身をちぢめた、あかるい茶色の小鳥がいま した。午後の日ざしを頭からあびて、しばらくまばたきをしていましたが、それから、黒い目を まるくひらいて、まじめなようすで、あたりを見まわしました。その目がメア リ 1 ・ポビンスの ほうへむくと、はっと気がついたように、くちばしをひらいて、のどにつまった悲しそうな声で すこしさえずりました。ジ = インとマイケルがきいたこともないような、あわれな声でした。 どう 「あの人が、ほんとに ? ツ、ツ、ツー まさか ! 」メアリー・ポビンズは、そ、つい、つと、同 くちぶえ とりか 1 」 のこ
さけ ! 」と、ネリー・ ルビナか、つれしそ、つに、、 しました。そして、まるでちがう声で叫びました。 「花よ、ドジャーおじさん ! よく見てて ! 」 まえか 「ここだよ、ここだよ ! 」 ドジャーおじさんは、前掛けを、トリカプトやユキワリソウやシ 1 ラの花でふくらませて、大いそぎで、まわってきました。 「ほら、見て ! 見て ! 」ジ = インは叫んで、うれしそうにわが身をだきしめました。ネリ かだん 1 ・ルビナが、からっぽの花壇のふちに、木ぎれの花をつけているのです。ぐるぐるまわりなが ら、板でできた花を、ふちどりに植えてゆくのです。つぎからつぎへと、手をのばして、ドジャ まえか 1 おじさんの前掛けから、新しい花をとりだして。 「とても ももわね ! 」と、メアリー・ポビンズが感心していいましたが、ジ = インとマイケ ちょうし レは、その声の調子が、あいそよく、親しげなのにびつくりしました。 「そうでしょ ! 」ネー 丿ー・ルビナが、手についた雪をはらいながら、かん高い声でいいました。 「ちょっとした眺めね。あとはなに、ドジャ 1 おじさん ? 」 まえか 「鳥だよ、それから、チョウチョ ! 」そういって、前掛けをみせました。ネー 丿 1 ・ルビナとメ ポビンズは、のこった板ぎれをつかんで、公園じゅうを、すばやく、かけまわりました。 す 鳥を枝にとまらせたり、巣のなかにいれたり、チ = ウチ = を空中に投げあげたりしました。ふし ぎなことには、それがそこで、そのままじっとしているのです。地面からはなれて宙に浮かんだ まま、そのあかるいペンキ塗りの板ぎれが、星の光にはっきり見えていました。 えだ なが さけ ちゅうう 316