訳者あとがき かいせっせつめい 物語の魅力というものには、解説や説明は要らないと思います。読む人が、じかに自分で感 あいどくしゃ じとるからです。メアリー・ポピンズの物語が、世界じゅうに、おそらく数百万という愛読者 、んいがカ をもち、また、ウォルト・ディズニー・プロダクションが映画化して、一九六四年夏にアメリ えいがしじようくうんせいこうおさ 力で公開された「メアリ 1 ・ポビンズ」がノ 、リウッド映画史上空前の成功を収めているとい みりよくてき あま うことは、この物語が、いかに魅力的なものであるかということを語って余りあるものと思い ます。 ものがたり さっ 「メアリー・ポビンズ」の物語は、全部で四冊の本になっているわけですが、それぞれ、メ さくらまちどお け アリー・ポビンズが、ロンドンの桜町通り十七番地にあるバンクス家の子どもたちの世話をし ている間に起こる、いろいろな出来事のお話が収められています。最初に出たのは、「風にのつ ポビンズ」 ( 一九三 てきたメアリー・ポビンズ」 ( 一九三四年 ) で、次が、「帰ってきたメアリー・ さっ さっ 五年 ) 、第三冊が、この「とびらをあけるメア リー・ポビンズ」 ( 一九四三年 ) 、第四冊は、「公園 のメアリー・ポビンズ」 ( 一九五二年 ) です。 やくしゃ みりよく おさ 363
長い、長いあいだ、理解しあ 0 た目つきが、三人のあいだでかわされました。ふたりがわか リー・ポビンズが知っているとい、つことがふたりにわかりました。 ったことを、メア ポビンズ ? 」と、マイケルが、ききました。 「きよ、つは、新年なの、メアリー・ 「そうですよ。」メアリ 1 ・ポビンズは、おだやかにそういって、お皿をテープルのうえにお きました。 マイケル ~ よ、まじめな顔で、メアリ 1 ・ポビンズをみました。すきまのことを、考えていた のです。 、いきなり口をきって、ききました。 「ばくらも、そうなの、メアリー・ポビンズ ? 」と 「ばくらも、なんなんですって ? 」メアリ 1 ・ポビンズが、鼻をならして、ききかえしまし ねっしん しました。 「末ながく幸福に、暮らすの ? 」と、マイケルが、熱、いにい、 くちもと 半分悲しげで、半分やさしげな、ほほえみが、メアリー・ポビンズのロ許で、かすかに、ち らっきました。 「たぶんね。」メアリー・ポビンズが、考え深く、 「なんになの、メアリ 1 ・ポピンズ ? 」 すえ いました。「よりけりです。」 さら 311
メアリ・ 1 ・ ポビンズは、色とりどりの字をみて、につこりすると、「すてきなあいさつね、 1 ト」と、やさしく、 てぶくろ マッチ売りは、メアリ 1 ・ポビンズの黒い手袋をはめた手をにぎりしめて、じっとみつめま した。「木曜日に会える、メアリー ? 」と、ききました。 メアリ ・ポピンズは、うなずいて、「木曜日ね、 ート」と しいました。それから、子ど もたちのほうに、身のちちむようなまなざしを向けると、「ぐずぐずしてないでください ! 」と 命令して、道の向こう側の十七番地へ追いたてました。 ンクスさ 二階の子ども部屋では、アナベルが、首のぬけそうなほど泣き叫んでいました。バ げんかんま んのおくさんは、なだめるような言葉を呼びかけながら、玄関の間をせわしく歩いていました。 子どもたちが、正面の扉をあけたとき、おくさんはメアリ 1 ・ポピンズを一目みて、くずれる ように階段に腰をおとしました。 「ほんとに、あなたなの、メアリー・ポビンズ ? 」と 「そうです、おくさま。」メアリー・ポビンズは、しずかにいい めいれい かいだんこし がわ とびら もいました。 、いって声をのみました。 さけ ました。
ネリウスが、大理石の頭をあげると、日の光が、ちいさな、かけた鼻にあたって、きらっと 光りました。 メアリー・ 「ねえ、下にいちゃいけよ、、 ポビンズ ? 」と、ネリウスがたのみました。「もす こし、下で、ジェインとマイケルと遊ばせてよ ! あの上にいるって、どんなにさびしいか知 しんけん らないでしよ、話をするのは鳥だけなんだもん ! 」大理石の目が、真剣になって、うったえま した。そして、「いいでしよ、メアリ 1 ・ポビンズ ! 」と、両手をにぎりしめて、そっと、 、 . し ました。 メアリー・ ポビンズは、ちょっとのま、考えこんで、じっとみおろしていました。心をきめ ようす ようとしている様子でした。やがて、その目が、やわらいできました。かすかなほほえみが、 口をつたって、片ほおのはしをくねらせました。 、、ゝ、、、ました。「こんどだけです 「じゃあ、きようの午後だけ ! 」と、メアリ 1 ・ポビンズカ よ、ネリウス 二度とさせません ! 」 やくそく 「二度としませんーー・約東します、メアリ 1 ・・ポビンズ ! 」ネリウスは、メアリ 1 ・ポビン ズに、、たず - らっぽく、にやっとしました。 「きみ、メアリ 1 ・ポピンズ、知ってるの ? 」と、マイケルがききました。「どこで、会った かた 155
まわして : : : まわして・ : : ・まわ : 「しつかり、つかまえてて、メアリー・ ポビンズ ! 」マイケルが、ねむい声でつぶやいて、 メアリー・ポビンズの、気もちのいい腕をもとめて、手さぐりしました。 返事は、ありませんでした。 「いるの、メアリ 1 ・ポピンズ ? 」マイケルは、あくびをしながらいうと、ゆれる海にもた れました。 やはり、返事はありません。 そこで、目をとじたまま、また呼ぶと、海が、こだまをかえしたように思われました。「メア リ 1 ・ポビンズ、なにかいって ! メアリ 1 ・ポビンズ、どこにいるの ? 」 「朝のこの時間に、、 もつもいるところにいます ! 」メアリー・ポビンズが、怒った声で、そ つけなく答えました。 「ああ、なんて、すばらしいダンスなんだろう ! 」マイケルは、ねむそうにい、 ひきょ して、メアリ 1 ・ポビンズを、引寄せようとして、手をのばしました。 なんにも、さわりません。さぐっているうちに、指にさわったのは、あたたかくて、やわら うで おこ もました。そ 265
イノ ジェインとマイケルが走りだしました。 さけ ふたりの息は楽しい叫び声になって、ほと ばしりました。 メアリー・ 「メアリ 1 ・ポビンズ わら ビンズ ! メアリ 1 ・ ポビンズ ! 」半分笑 って、半分泣きながら、ふたりは、メアリ 1 ・ポビンズにとびつきました。 「やっと、やっと、か、かえって、き、 むちゅう きたね ! 」マイケル ~ よ、夢中になって、ど もりどもりいうと、きちんとくつをはいた 片足にしがみつきました。その足は、あた ね たかくて骨ばっていて、ほんとのほんもの で、黒いくつずみの匂いがしました。 しん 「帰るの知ってたわ。信じてたんですも ん ! 」ジェインが、メアリ 1 ・ポビンズの かたあし な にお
むよう す した。「一シリングは、ご無用です。好きでやってるこってすから。」そして、子どもたちが見 ていると、目をあげて、公園から歩みでてきたメアリー・ ポビンズと、目まぜをしました。ト イグリ 1 さんは、力をこめてハンドルをまわしたので、曲の響きは、ひときわ、大きく速くな りました。 わす 「忘れな草を一つーーそれで、できあがり。」マッチ売りは、ぶつぶつひとりごとをいって、 はなたば くわ 花束に、一つ花をかき加えました。 「まあ、きれいだこと、 ト ! 」メアリー・ポビンズが、感嘆していいました。乳母車を さけ 押して、うしろまできていて、じっと絵をみていたのです。マッチ売りは、短く叫ぶと、すっ と立ちあがって、舗道から花束をつかみとって、メアリー・ポピンズの手に、おしつけました。 「とってくださいメアリー。 しました。「みんな、 あなたのためにかいたんです ! 」 「ほんとに、ヾ ート ! 」メアリ ー・ポビンズは、につこりしていいました。「まあ、なんと、 . し はなたま ってお礼をいったらいいんでしよう ! 」メアリー・ポビンズは、赤みのさした顔を花東のかげ にかくしました。子どもたちのほ、つに、ヾ ノラの香りが、ただよいました。 マッチ売りは、メアリ 1 ・ポビンズの燃えるような目の色をみて、いとおしそうに、につこ お どう はなたば 」と、マッチ売りは、はにかんだようにい、 あゆ ひび かんたん うばぐるま や 342
ジェインにむかって、不平を訴えまし た。「キャリコおばさんが、とっとくようにいったもん ! 」 「いえ、いわないわ。」と、ジェインが、くびをふっていいました。「とっとけるんだったら、 とっといても いいって、いったのよ。」 「だって、もちろんできるさ ! 」マイケルは、きつばりい、 しんよう メアリー・ポビンズは、信用しないような顔をして、笑いました。「なんとまあ、めずらし いこと ! 」そういって、かがんで、ステッキをみんな、ひろいあげました。 「ばくのもってく、メアリ 1 ・ポビンズ ! 」と、マイケルがいって、おさとうの柄をつかみ ました。 しかし、メアリー・ポビンズは、ステッキを頭のうえへ振りあげて、家のなかへ、どんどん、 はいっていってしまいました。 「食べやしないよ、メアリー・ポビンズ ! 」マイケルが、たのみました。「柄をなめもしない からさ ! 」 ひとこと メアリー・ポピンズは、ぜんぜん、知らん顔で、一言もいわずに、ステッキをかかえたまま、 二階にあがってしまいました。 「だって、ぼくらんだもんねえ ! 」と、マイケルが、 た わら もました。「とっといて、しよっち ) った 218
かは、全部できちゃった ! 」 メアリ ・ポビンズが、すばやく、近づきました。 「ほら、これ ! ちょうどいいでしよう ! 」そういって、身をかがめると、じぶんのドミノ えんとっ を一つ、煙突のあるはずのところへ、おきました。 さけ 「ばんざ 1 すっかり、できあがりだ ! 」マイケルは叫んで、うれしそうに顔をあげま した。すると、メアリー ・ポピンズが、ドミノの箱を、じぶんのそばにおいてくれたのが、目 みよう にはいりました。それを見ると、マイケルは、妙に落ち着かなくなりました。 「それーーー」と、マイケルは、のみこむように、、、 ました。「それーーーばくらが、もらって 、いってこと ? 」 ままでけっして、メアリ マイケルは、ずっと、そのドミノがほしかったのです。ですが、い 1 ・ポビンズは、じぶんの持ちものに、指一本、触れさせませんでした。どういうことなんだ んん ポビンズが、うなずくのをみたとき、 全然、あの人らしくないや。そして、メアリ 1 ・ マイケルもまた、いきなり、つきさすような、さびしさにおそわれました。 「ああ ! 」マイケルは、心配のあまり、わっと泣きだしました。「なにがいけないの、メアリ 1 ・ポビンズ ? なにが、どうしたの ? 」 っ 324
しんだい っと立っているメアリ 1 ・ポビンズは、マイケルを、心地のよい寝台にねかしたまま、凍りつ かせてしまいそうでした。 「聞きちがいではないんでしようね ? 」と、メアリー・ポビンズが、氷のような声でききま した。「わたくしのことを、花火からどうとかってーーそういったんですか ? 」 〈花火〉ということばを、まるで、とてつもないものだと思わせるようないいかたをしました。 マイケルは、ふるえあがって、ちらっと、あたりに目をくばりました。しかし、ほかの子ど もらは、だれもたすけてはくれません。どうしても、じぶんでやりぬかなければならないとい 、つことがわかりました。 「だって、そうだもん、メアリー・ポビンズ ! 」と、マイケルは、勇敢にいいはりました。 それであなたが、花火から出て、空をおりてきたじゃな 「花火がポンとあがったでしょ ! すがた メアリ 1 ・ポビンズの姿は、マイケルのほうへ近づいてきたので、大きくなったようにみえ ました。 「ポンですって ? 」メアリー・ ポビンズは、すさまじい調子で、くりかえしました。「わたし が、ポンといってーーー花火から出たんですって ? 」 ここち ちょ , し ゅうかん こお 4