総理大臣 - みる会図書館


検索対象: とびらをあけるメアリー・ポピンズ
13件見つかりました。

1. とびらをあけるメアリー・ポピンズ

つもなにかほかのことを考えていたからです。 ところで、王さまが考えることは、あなたがたはあるいはそう思うかもしれませんが、国の くら 人たちの暮しむきのこととか、どうしたらみんなを幸福にできるか、というようなことではな かったのです。まるで違うのです。王さまの頭は、ほかの問題で、いそがしかったのです。た とえば、インドにいるヒヒの数とか北の極は南の極と同じくらい長いだろうかとか、プタに 歌が教えられるだろうかとか、そういうことだったのです。 ことカら 事柄に頭をなやましていたわけではありません。ほかの 王さまは、じぶんだけで、こういう だれもかれもに、やはり、同じことを強いていたのです。ただひとり、総理大臣だけはべつで んん そうりだいじん 総理大臣はもともと、ものを考えるような質の人ではなく、日当りに腰をおろして、全然なに ろうじん もしないでいるのが好きな老入だ「たのです。しかし、首をはねられるのがこわくて、このこ とは、王さまに知れないように用心していたのです。 おさ きゅうでん すいしよう 王さまは、全体が水晶でつくられた宮殿に住んでいました。それは、王さまがこの国を治め ころ るようになったはじめの頃は、きらきらと光り輝いていて、通りかかった人は、目がくらむの すいしよう を恐れて、手で目をおおうほどでした。ところが、だんだん、水品の光がうすれてきて、長い かがや 年月のちりほこりで、その輝きもかくされてしまいました。これを磨くのに割く入手はありま ちが たち かがや みが そうりだいじん

2. とびらをあけるメアリー・ポピンズ

よせい さま自身も、この上なく幸福でした。もう、なんにも考えないでよかったからです。そして、 ぎさき つまり、王さま お妃もまた幸福でした。それには、きわめてもっともな理由があるわけで もんく までは、だれにも文句をい が幸福だったからです。ちいさな小姓も、やはり、幸福でした。い ひんにもどしたりすることができたからで われずに、インクつぼにインクをいれたり、また、。 そうりだいじん す。けれども、みんなのなかで、いちばん幸福だったのは、年とった総理大臣でした。 ったい、何をしたかご存じですか ? ふこく 布告を発したのです。 ふこく 王は、その臣下に命ずる ( と、布告に書いてありました ) 、メイボ 1 ルを立ててぐるりで踊る べきこと、メリー・ ゴウ・ラウンドをとりだして乗るべきこと、踊り、祝い、歌い、太って、 いんさっ おたがいに、したしく愛しあうべきこと。そして、さらに ( はっきり印刷されていたのですが ) 、 このおきてに背くものは、ただちに、王に首をはねらるべきこと。 そうりだいじん じゅうぶん それだけしてしまうと、総理大臣は、もう十分だと思いました。そして、なんにもしないで、 ひなたゆ 日向で揺りいすにすわって、ココヤシの葉のおうぎで、おだやかな風 余生をおくりました を、顔にあてていただけです。 きさき ネコについていうと、世界の道という道を、田 5 いどおりに通っていきました。お妃に、こだ じしん そむ しんか あい ぞん こしよう おど 131

3. とびらをあけるメアリー・ポピンズ

ぼうし おさ ことといたします。帽子をもって、いっしょにきていただきます。われわれ四人して、国を治 めることといたしましよう。」 「だが、わしはどうなるのじゃ ? 」と、王さまが叫びました。「どこへ やって暮らすのじゃ ? 」 ネコが、きびしい目を、細めました。 「そうしたことは、もっとまえに、お考えになるとよろしかったのです。たしかいのものは、 とりひき さいさん ネコと取引をするときには、再三、考えます。さあ、ここで剣をおぬきなさい、博学なるお 方 ! きれ味はよいものと思います。」 「お待ちください ! 」総理大臣が、王さまの刀のつかを手でおさえて、そう叫びました。そ して、ネコのほうをむいて、ていねいに頭をさげました。 そうりだいじん ました。「わたくしめのいうことをおききくださ 「もし、」と、総理大臣は、しずかにいい こうへいびようどうしあし たしかに、あなたさまは、公平平等な試合によって、王冠をかちとられました。そして、 あなたさまは、まこと、王子であるかもしれません。しかしながら、わたくしは、あなたさま のおもうしでを、おうけいたしかねます。わたくしは、父王の宮廷で小姓をしておりました頃 ちゅうじっ おうかん から、忠実に王さまにおっかえもうしてきております。王冠をいたたいておられようが、おら あじ そうりだいじん さけ おうかん つるぎ ぎゅうていこしよう くのじゃ ? どう さけ ころ 120

4. とびらをあけるメアリー・ポピンズ

ます わか せて、しわがよってきましたし、髪の毛は、若いうちから、灰色になりました。食べ物も、ほと そうりだいじん んど、とらないといっていいくらいでした ただ、年とった総理大臣が、食事がテープルの 上に用意してございますというたびに、チーズと玉ネギのサンドイッチを食べるくらいでした。 きさき そうぞう さて ! あなたがたには、お妃が、どんなにさびしかったかということは、想像がつくでし そうりだいじん よう。ときおり、総理大臣が、用心深く、すり足で玉座に近づいて、お妃の手に、やさしく指 をふれることがありました。時には、また、ちいさな小姓が、インクつぼにインクをつぐあし きさき まに、目をあげて、お妃さまにむかってにつこりすることもありました。けれども、年寄りに きさき なぐさ しても、男の子にしても、お妃の心を慰めるために割く時間は、あまりありませんでした。首 をなくすのが、こわかったからです。 あなたがたとしても、王さまが、わざと思いやりのないことをしていたと考えてはなりませ ん。それどころではないので、王さまは、じぶんの臣下は、この上なく幸運に恵まれていると 思っていました。だって、事実上、あらゆることを知っている王さまをいただいているではあ りませんか ? ところが、王さまが、せっせと知識を集めているあいだに、国民は、どんどん 貧しくなっていきました。家はあれはてて、畑は耕されなくなりました。それは、王さまの考 えごとを助けるためには、すべての人が必要だったからなのです。 かみ ひつよう ちしき たがや しんか ぎよくざ こしよう はいいろ きさき こくみん としょ 104

5. とびらをあけるメアリー・ポピンズ

むかしむかし、ひとりの王さまがいました。その王さまは、おおよそ、ありとあらゆること を知っていると、じぶんで考えていました。王さまが知っていると思っている事柄をお話しょ うとしても、なにからはじめていいか、わからないくらいです。頭のなかは、実のつまったザ クロのように、事実や数字で、 いつばいでした。そして、そのため、王さまは、ひどく、うわ しん の空でいるようなことになりました。こういっても、あなたがたは信じないかもしれませんが わす ごじぶんの名まえさえ、忘れてしまうくらいだったのです。コールというのが、その名まえだ ものおぼ そうりだいじん ったのですが、総理大臣が、たいへん物覚えのいい入だったので、時々、思いださせてあげて いたのです。 さて、この王さまのお気にいりの仕事といえば、それは、考えごとでした。王さまは、夜ど おし考えました。朝も考えました。食事ちゅうも、お風呂にはいるときも、考えていました。 王さまは、目の前で起きていることには、けっして、気がっきません。それは、もちろん、 まど 窓のそとを、じっと見ています。 「むかし、むかし、」と、メアリー・ ちょうし 光でできた書きものから、読みとってでもいるような調子で。 ポビンズが、ゆっくり、ロを切りました。まるで、日の ふろ ことがら

6. とびらをあけるメアリー・ポピンズ

王さまは、短く、けいべつをあらわして、笑いました。 たみおさ 「ばかをいうな ! それを、どうしようというのだ ? 法律を定めたり、民を治めたりはで きまい。読み書きすらも知るまいが。わしの国をネコにゆずるのだと ? それくらいなら、く びれて死ぬわ ! 」 ネコは、おおらかに、わらいました。 「わたくしのみるところでは、王さまの知恵には、おとぎばなしから学ぶものが、はいって へんそう おりません。それさえあれば、変装した王子をみつけだすには、ネコの首をはねさえすればい いのだということが、おわかりになるはずです。」 ッ 「おとぎばなしだと ? プー そんなものは、わしにとっては、つまらんもんじゃ。わ しの考えておるのは、わしの国のことじゃ。」 ゆる 「王さまの国ですが、」と、ネコがいも 、ました。「お許しいただいてもうしあげますと、もう、 あなたさまにかかわりのあることではありません。このさい、お考えいただくことは、ただち さ、らにも、つ に、わたくしの首をはねることだけです。あとは、わたくしにおまかせください かしこそうりだいじん ふんべっ しますならば、王さまにご用のないことは明らかでありますから、この賢い総理大臣と、分別 きさき こしよう ふじん ある婦入であられるお妃さまと、この気のきく子、あなたの小姓を、わたくしが召しかかえる わら ほうりつさだ まな め 119

7. とびらをあけるメアリー・ポピンズ

いただき ると、それは一つの高さじゃ。山の頂からでは、また別の高さとなる。このところを頭におい こうど さだ わす きあっ しんど どけいど て、つぎに、緯度、経度、振度、光度、頻度を定めねばならん。忘れてはならんのは、気圧、 んばん ちゅうのげい とうけい 気うつ、統計に、宙乗り芸、さらに全般としての、沈みかた、ひびきかた、感じかた、いいか たをまとめーーー」 「失礼ですが、」と、ネコがさえぎりました。「それでは答えになりません。もいちど、お願 いします、空の高さは ? 」 ままで、だれひとり、王さまの 王さまは、りと驚きで、目の玉がとびでるようでした。い ことばをさえぎるようなことはなかったのです。 よろしい、もち 「それはな、」と、王さまがわめきました。「うむーーその、ーーそれは ろん何メートルというような答えはできん。だれにも、できはせんのだ。おそらく、それは せいか ~ 、 、ました。そして、王さまから、あっ 「正確な答えが、いただきたいのです。」と、ネコがいし けにとられてならんでいる廷臣たちのほうへ目をうっしました。「だれか、この、学問の広間 で、わたくしの問いに答えるものはおりませんか ? 」 おずおずと、王さまのほうをみながら、総理大臣が、ふるえる手をあげました。 しつれい と おどろ ていしん ひんど そうりだいじん しず 0 ねが 115

8. とびらをあけるメアリー・ポピンズ

そうりだいじん タコや花火から、人間がふってくる、総理大臣が風船にのって、ひょこひょこ、とびまわる しわざ それもこれも、みんな、おまえさんの仕業なんだ この牝ギッネめ ! 」そういって、メアリ ・ポビンズめがけて、むやみに、こぶしをふりあげました。 じよやく 「かわいそうに ! カわいそうに 頭のちょうつがいが、はずれたらしい ! 」第一助役が 悲しそ、つにいいました。 てじよう じよやく 「手錠を用意したほうが、よくはないかな。」と、第二助役が、びくびくして、小声でいいま した。 だが、やった 「わたしを、どうでもしてくれ ! しばりくびでもなんでも、したらいい ! のは、わたしじゃない ! 」みじめな思いにうちのめされて、公園番は、台座に身を投げかけて、 な さめざめと泣きました。 メアリー・ポビンズが、ふりむいて、ネリウスに合図しました。ネリウスは、大理石の足で そばに走りよると、おとなしく、頭をたれました。 「時間なの ? 」ネリウスは、目をあげて、小声でききました。 メアリ 1 ・ ポビンズが、すぐ、うなずきました。そして、身をかがめると、ネリウスを両手 えいきゅう で抱いて、大理石のひたいに、キスをしました。しばらくのあいだ、ネリウスは、もう永久に だ め 177

9. とびらをあけるメアリー・ポピンズ

きました。王さまは、ひどくおどろいて、につこりしました。すると、ネコの鏡のような目の びしよう なかで、大きな、ゆったりした、ヾ ノラ色の顔の男が、につこりと微笑をかえしました。 さけ 「これは、なんということだ ! あれが、わしだ ! 」と、王さまが叫びました。「とうとう、 かしこ わしが、まことに何者であるかわかった ! ほんに、わしは、この世でいちばん賢いものなど わら ではないわ ! 」そして、頭をふりあげると、はじけるように笑いました。「ホッ、ホッ ! 、ツ これで、すっかりわかった ! わしは、てんで、考える人間などではない。わしは、 陽気な、うかれものにすぎんのじゃ ! 」 ていしん 王さまは、あっけにとられている廷臣たちにむかって、両手をふりました。「それ、みなのも つくえ この、ペンやら紙やら、みなもち去れ。帳面をひきさけ ! 机をもやせ ! それで、も し、なにびとでも、事実などいうことをわしの耳にいれおったら、わしみずから、首をはねて つかわすぞ ! 」 そういうと、また大声で笑って、総理大臣をしつかり抱きしめました。あまりきつく抱いた ので、しめころしそうなほどでした。 ちゅうじっ さけ 「許してくれ、忠実なる友よ ! 」と、王さまが叫びました。「そして、わしの。ハイ。フと、ポン チ酒を、もってまいれ、ヴァイオリンひき三入を呼びいれよ ! 」 ゆる わら そうりだいじん かがみ 124

10. とびらをあけるメアリー・ポピンズ

いました。 けれども、その 」、に、答えることばはきかれませんでした。王さまは、泣いていたのです。 な 「おお、賢いお方、なぜ泣くのです ? 」と、ネコがたずねました。 なみだ 「わしは、はずかしいからだ。」と、王さまはいって、涙にむせびました。「わしは、じぶん かしこ の賢さを鼻にかけておった。このわしは、あらゆることを知っておると思っておったーーーまず、 ろうじん わかもの それに近いとな。ところが、ひとりの老人と、ひとりの婦人と、ひとりの若者がおって、みな、 わしよりも、はるかに賢いことがわかったのじゃ。わしを、なぐさめようと思うてくれるな ! 」 きさきそうりだいじん な お妃と総理大臣が、王さまの両手に手をおいたので、王さまは、また泣きました。「わしは、そ れにふさわしいものではない。わしは、まったくなにも知らんのだ。じぶんが何者かも、わか らんのだ ! 」 そういって、王さまは、ひじに顔をふせました。「わしは、じぶんが王であることは承知して おる ! 」と、王さまは叫びました。「もちろん、名まえも住所も知っておる ! だが、この長い へ 年月を経て、わしが、まことに、まことに、何者であるかを知らんのだ ! 」 「わたくしを、ごらんになればわかります。」と、ネコがしずかにいい ノンカチのなかで 「というて、わしは、おまえを、さ、さっきから見ておる ! 」王さまは、、 かしこ と かしこ さけ ふじん ました。 な しようち 122