どうどう かねね おとぎばなしの音楽は死にたえていました。堂々とした鐘の音に、かきけされてしまったの と ) ひび です。いまや、塔という塔から、勝ちほこったように、チャイムの響きが、鳴り渡っているか じいん らです。ビッグ・べン、セント・ べィリ 1 の ポ 1 ル寺院、セント・ブライド教会、オールド さいばんしょ 裁判所、サウスワック寺院、セント・ マ 1 チン教会、ウエストミンスター寺院、ボウ教会、ど の鐘も、みんな鳴っています。 かねね ね ところが、一つの鐘の音カ ゞ、ほかの音に立ちまさって鳴っていました。楽しげに、さえた音 で、しつつこく鳴っています。 チリン、チリン、チリン、チリン ! その音は、どこか、新年の鐘の響きとは違っていて、 ききなれた、なっかしい、もっと身近な音でした。 チリン、チリン、チリン ! と、なっています。そして、そのこだまする響きにまじって、 よく知っている声がしました。 ( 4 ) 「だれか、クランペットいりますか ? 」と、その声が、すぐ返事をしろというように、高く 叫びました。 ジェインとマイケルが、目をあけました。起きなおって、じっと、あたりを見ました。ふた りは、じぶんのべッドにいて、羽根ぶとんをかけています。ジョンとヾ ハラが、そのそばで さけ かね とう じいん かねひび じいん ひび わた 305
る、すばらしいものを、いろいろと考えました。 もんく 「だって、木ののびる音はきこえないでしよ。」と、マイケルが文句をいいました。「そんな 音楽ってないんじゃない ? 」 ! 」と、トイグリーさんがもどかしそうにいいました。「むろん、あるとも ! にだって音楽はあるんだ。地球のまわる音を、きいたことはないかね ? うなりごまみたいな がわ きゅうでんえいこくこっか 音をさせるよ 。バッキンガム宮殿は〈英国国歌〉をかなでるし、テームズ河は、ねむ気のさすよ うなフルートさ。そうともー この世のものはなんでもーー木や、岩や、星や、人間やーーーな んでもみんな、じぶんのほんとうの音楽をもってるんだよ。」 そういいながら、トイグリーさんは、部屋を舞うように横切っていって、オルゴールを一つ よびこ 巻きました。すぐに、上のちいさな盤がまわりだして、なかから、おもちゃの呼子の音のよう な、明るい、かん高い、笛の音がきこえてきました。 「これが、わしのだ ! 」と、トイグリーさんは、得意そうにいって、首をかしげて耳をすま せました。それから、もう一つのオルゴールを巻きましたが、ちがう節が、空中に流れだしま した。 ぼくの大好きな歌だ ! 」と、マイケルが叫びました。 「これ、〈ロンドン橋が落ちる〉だ ! ふえ ばん さけ
、、、ました。 「おかしな音が、きこえたんだ ! 」と、マイケルが、声をひそめて ジェインにも、きこえました。ジェインは、 ジェインは、耳をすませました。ほんとだ ! するど くちぶえ 高く鋭い、はるかな口笛の音をきいて、かたずをのみました。 「ヒュ ーイ 1 ! 」 音は、だんだん、近づいてきます。すると 、いきなり、外の闇から、かん高い声で呼ぶのが きこえました。 「おいで、シュガ 1 おいで、ライトフット ! おいで、キャンディ ! おいで、 ぐずぐずしてると、おくれるよ。それが、きまりだよ ! 」 そして、その時、メアリ 1 ・ポビンズのべッド のわきの部屋のすみで、あわただしく、ばこ ばたする音がしました。 カたかた ! びしゃん ! どすん ! しゅうつ そして、四本のステッキが、一つずつ、からだをおこして、窓からとびだしていきました。 あっという間に、ふたりはべッドをとびだして、窓のしきいに身をのりだしました。そとは、 まっくらでした。星一つない夜です。しかし、桜の木のうえのほうで、なにかが、きみような、 この世のものならぬ輝きで、光っていました。 かがや さくら まど まど ミン 222
あい、強く弱く、つめたい深夜の闇のなかで、鳴りわたりました。 げんしゆくしんえんせいじゃく とっ懸ん すると突然、音がはたと、やみました。そして、その、厳粛で深遠な静寂のなかから、大時 計の鐘が、時を打ちました。 「ガ 1 ン ! 」と、ビッグ・べンが、なりました。 それが、夜中の十二時の、打ちはじめでした。 その時、子ども部屋のなかで、なにか動く気配がしました。 そして、ことこという、ひづめの音がきこえました。 ジェインとマイケルは、すぐに、ばっちりと、目を覚ましま した。ふたりとも、びつくりして、起きあがりました。 「おやっ ! 」と、マイケルがいいました。 、ました。 「あらまあ ! 」と、ジェインがいし こうけい ふたりの目のまえに、胆をつぶすような光景が、まちかまえ ていたのです。床のうえに、金色のプタが立って、金のうしろ 足でちょこちょこ、はねまわりながら、たいへん、もったいぶ と、重いくもった音が った顔つきをしていました。ドサッ かね しんや 279
「時間が、そろそろ切れるんですよ ! 」 、ました。 」、ロビンソン・クルーソーカも 「あれが、六つ目だったはずです ! 」 ふたりは、ちょっとのま、ダンスをやめ て、時計の音に、耳をすましました。 ひび 七つ ! その響きにかぶさるように、お とぎばなしの音楽が高まって、みんなを、 あみ ゅ 金色の網で、揺り動かしました。 かくじっ 八つ ! 遠い、確実な、時計の音が響き ました。踊る足なみは、ますます、速まる ようでした。 九つ ! もう、木まで踊りだして、おと ふしちょうし ぎばなしの節に調子をあわせて、枝をふり ました。 いっかくじゅう 十 ! ああ、ライオンと一角獣、オオカ おど おど えだ や ひび 303
と、うたっていました。 ぐるぐる、ぐるぐる、メアリ 1 ・ポビンズがまわってゆきます。ものしずかで、生まれた、 その日からまわっていたかと思うようです。 「さあ、みんないっしょよ ! 」ジ = インが、うれしそうに叫びました。そして、窓のほうを みて、マイケルの注意をひくように、手をふりました。 おもての通りでは、ちいさな家が、みんな土台のうえでまわっていました。空には、高く ゃねうらべや 白い雲が二つ、まわ「ていました。そして、屋根裏部屋そのものが、オルゴ 1 ルの糴と同じよ ぐるぐるまわっていました。 けれども、四つの節が音高く鳴り響いてはいましたが、別の音が、それを越えてきこえてき ました。ドシンー ドシン ! 重い足音が近づいてきます。 おサルがイタチを追いかけた。 おサルがいうには、みんなじようだん イタチがびよんととんででる ! 〉 〈くっ屋の台をぐるぐるまわって、 ひび べっ さけ こ まど
しげ その朝は、〈クワの茂みをめぐって〉という歌にあるような、寒くて、やや霧のかかった朝で さくら した。どんよりした灰色の日の光が、桜の木のあいだをもれて、水のように、家々をひたして いました。ちょっとした風が、うめくように、庭を吹きぬけました。ひゅうっと、公園をつつ ばしると、通りにそって、すすりなくような音をさせていきました。 、、、、、ました。「このひどい風のやっ、なにをしようってん 「プルルル ! 」と、十七番地の家力もも やめろ、やめないか ! ふ だーーーゅうれいみたいに、くよくよ、わめきまわって ! お るえが、くるじゃないか ! 」 ッ ! おれに、どうしろっていうんだ ! 」風は、耳もかさずに、叫び 声をあげました。 ートソン・アイが、灰をかきだして、新しい薪を、 火かきの音が、家のなかでしました。ロヾ 暖炉にいれているのです。 、、、、、ました。メアリ 1 ・ポビンズか子 「ああ、それがほしかったんだ ! 」と、十七番地カ だんろ 8 の 扉を べっ ぎり さけ 313
づけていました。そして、くつが、ごろごろ音をたてて、通っていくとき、手をのばして、ク モの背を、軽くたたきました。 「あの子、逃げもしないね ! 」と、マイケルが叫びました。「どうして、こわがらないんだろ 、つ ? 」と、いふかりました。 「すきまだからです。」アルフレッドは、またそういって、みんなを、さきへいそがせました。 ジェインとマイケルは、赤ずきんと、ミス・マフェットのことを、じろじろ見ないでいられ ませんでした。オオカミや、あの黒い、とてつもなく大きいクモを、こわがらないなんて、な んて、ふしぎなんでしよう ! そのとき、うすい膜をはったような白いものが、みんなに軽くさわりました。みると、きら きらした人影がいて、片手を口にあてて、あくびをしていました。 「まだねむいんですか、お姫さま ? 」アルフレッドが、ラ せなか を、背中にぐるっとまわしてやりました。 お姫さまは、その鼻を軽くたたいて、ゾウに身をよせました。 「深い夢のなかにいたのです。」と、やさしくつぶやきました。「ですが、打ちはじめの音で、 運よく、目が覚めたのですわ ! 」 ひめ ひとかげ かたて ひめ さけ ハのような声できいて、長い鼻 290
と、ジェインがうたいました。 くちぶえ そして、トイグリーさんが、幸福なツグミのように、ロ笛をふきました。 子どもたちの両足は、じぶんのほんとうの音楽にあわせて踊ると、つばさのように軽く、 ままでけっして、こんなに、軽やかに楽しかったことはないと、ふたりは思いました。 かたあしつまさき げんかんとびら バタン ! 玄関の扉がしまる音がして、家がゆれました。トイグリーさんは、片足の爪先で かいだん と、階段で足音がきこえて、大きな声が、 立ったまま、耳をすましました。ドシン、ドシン ! おどり場ごしにわめきました。 トイグリ 1 さんは、ぎよっとして息をつめると、上着の両すそで、耳をおさえました。 「くるぞ ! 」と、きいきい声で叫びました。「さあ、たいへん ! どうしよう ! 安全ないい 場所にいたいな ! 」 トランペットが、はじけるような音で、鳴りました。そして、そこで、ふしぎなことが起こ りました。 トイグリーさんが、まるで見えない手につかまれたように、屋根裏部屋の床から、やにわに 持ちあげられました。風にのったアザミの綿毛のように、子どもらのわきをとびさって、ぶ さけ うち わたげ うわぎ おど ゃねうらべや 9. ・ 6
婦人がたが、最新ニ = 1 スを交換しながら、ぶらぶら歩いています。 公園番が、夏の制服でーーそでに赤いしまのはいった青い服ですがーー芝生を、と「とと横 切りながら、だれかれに目をくばっています。 きそく 「規則をまもってください ! 芝生にはいらないでください ! ごみはくずかごにいれてく ださい ! 」と、公園番がどなります。 ジ = インは、日のふりそそぐ、夢みるような光景を、じっとながめていました。「トイグリー さんのオルゴールとそっくりだわ。」と、幸福そうに、ためいきをもらして、 マイケルはカシの木の幹に耳をおしつけました。 「育っ音が、きこえるよ ! 」と、マイケルが叫びました。「ちいさな、そっとした、はうよう な音がしているー・・ーー」 「あなたが、 すぐ、はうようになりますよ ! ぐずぐずしているなら、家へ帰ります ! 」メ けいこく ポビンズが、警告を発しました。 「公園に紙くずはおことわり ! 」公園番が、そうどな「たとき、メアリ 1 ・ポビンズが、ラ なみきみち イムの並木道をいそぎ足で通りかかりました。 「あんたこそ紙くず ! 」メアリ 1 ・ポビンズが、小気味よくやりかえして、ほこらし気な頭 ふじん さいしん みき こうかん しばふ こうけい さけ うち しばふ もいました。 142