田母神 - みる会図書館


検索対象: 文藝春秋 2016年7月号
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1. 文藝春秋 2016年7月号

契機としてネット空間の辺境から発いう厳然たる事実は、田母神に寄生と呼称して熱烈なる支持の情を表明 生した。なぜ辺境なのかといえば、することによって成立していたネッした。 それまでのネット空間の主力は都市ト右翼の精神世界を完膚無きまでに「田母神閣下は日本の救世主であ 伝説、違法情報、犯罪予告、叩きのめすに充分な破壊力を持ってる」とまで過大視して、ネット右翼 ( アスキーアート ) 開陳の場だったのいた。 とそれを追認する保守系言論人とそ が、とたんにネット右翼の骨格を形これはどういう意味であろうか。 の運動体がまるで翼賛体制となって 成する「反マスコミ」と「極端な嫌田母神の基本的世界観はネット右田母神を支持した。前述した一四年 韓」という性質に取って代わられた翼の持っ世界観と驚くほどシンクロの都知事選挙への田母神擁立は、こ からだ。だが今後、彼らの寿命はそする。その根底には反既成の大手マのようなネット右翼と保守系言論 う長くはないだろう。ネット右翼のスメディア ( 特にと民放テレ人・保守運動の相互依存と互恵関係 凋落を決定付けるような報道が立てビ及びリべラル新聞 ) という観念がを元にした熱風ともいうべき狂騒を 続けに噴出している。 あり、直情的な嫌韓・嫌中の姿勢も追い風にしたムープメントだった。 今年四月十四日、かねてから予想瓜二つである。よく、田母神の社会なにせ非自民・ネット右翼独自候補 されていたとはいえ衝撃的報道が列的立場の終焉とネット右翼の終焉にともいうべき候補者の存在は、この 島を駆け巡った。元航空幕僚長・田はどのような相関関係があるのか、国の憲政史始まって以来の出来事だ 母神俊雄の公職選挙法違反容疑でのと質問を受けるが、答えは明瞭であったからだ。 逮捕劇である。田母神が出馬した一る。この両者はぞの保有する世界観しかし、ネット世界の熱狂は必ず 四年の東京都知事選挙を巡る資金管においてまず同質であり、元空幕長しも私達の皮膚感覚と重複している 理に関する疑惑は、関係者の間ではという社会的に観て高い地位に有るわけではない。 早い段階で指摘されていた。ま、 カそ人物からの承認に飢えていたネット ネット通販で話題の化粧品が銀座 れでもやはり田母神の逮捕・起訴と右翼は、こぞって田母神を「閣下」の百貨店では一切売られていない い 28 )

2. 文藝春秋 2016年7月号

さない市民の会 ) に対する巨額の賠チ対策法」が成立した。 場の人物の神格化運動と時を同じく 償命令 ( 約千一一百万円 ) が確定した ネット右翼と保守運動は、現時点して、民主党という「共通の敵」が のはつい最近のことであるが、類似で、みじん切りのように更に分裂と存在した「黄金時代一は、そう簡単 の判決は数知れず下されている。民矮小化を繰り返している。ネットをに再現されないのだ。 間の対応も始まっている。ニコニコ見て驚くのは、この段に至っても デマと差別を撤き散らす、あまり 動画を運営するドワンゴは、在特会「田母神有罪」と「田母神無罪」のにも右に行き過ぎたネット右翼と保 のチャンネルを閉鎖。ューチュープ両派が激しくつばぜり合いをしてい 守運動は、保守的な傾向を持っ現政 は、差別的な動画を大量に投稿してると言う点である。何でも「無罪権下でも、明らかに煙たがられてい 広告収入を稼ぐ魑魅魍魎のごときュ派」の言い分は、田母神逮捕は反社る。田母神が舛添に勝てなかった都 ーチューバー等から広告権利を剥奪会的勢力やの陰謀なのだとい知事選挙と、続く同年衆院選挙にお しはじめたし、ヤフージャパンは、 う。こうなってくると、日本帝国のける次世代の党 ( 田母神公認 ) で、 同社のニュースに大量に書き込まれ敗戦解釈をめぐって「勝ち組」とその全国的趨勢が明らかになったこ る民族呪詛のコメントをチェック・ 「負け組」に分裂した先の大戦直後とにより、政権与党は彼らを有意な 削除する体制を構築・運営すると発の南米日系人社会を髣髴とさせる混票田とみなさなくなった。肝心の保 表した。 乱状態である。 守政権から見放されたネット右翼と 特定の民族への差別的な言動をネット右翼と保守運動は、分裂とその周辺は、常識的で穏健な保守勢 「差別ではなく区別」などと主張し矮小化を続けながら収縮していく。 力によってますます社会の片隅に追 て憚らないネット右翼への社会的制田母神の次に彼らのスターとなる人いやられるだろう。二〇二〇年に 裁は、このように日を追うごとに明物がいたとしても、それは田母神のは、おそらく、保守運動がまだまだ 瞭になる。今年五月二十四日には、劣化コピーであって、田母神と同等ー日陰者であった一九九〇年代後半の 罰則こそ無いものの「ヘイトスピーではない。元空幕長という社会的立地位にまで、逆コースのように後退 ( 330 )

3. 文藝春秋 2016年7月号

という事実と同じように、ネットでもが単に「アンチ民主党」というのオウンゴールに過ぎない。 のプームⅡ世論ではない。田母神は錦の御旗の元に結集していただけな 田母神の次のスターは ? 落選した。敗戦した陣営、つまりネのだから、その旗がなくなれば分裂 ット右翼からの照射を受けた田母神するのは火を見るよりも明らかであ 近未来のネット右翼の姿を想像す の後援者たちは「戦後処理」というる。 二〇二〇年、東京五輪が現実のもるのは比較的容易である。既に法の 重い重責を果たしきれぬまま、やが てすぐに分裂と反目の「保守内のとなる。一四年の都知事選挙で田裁定がネット右翼を包囲しつつあ 戦 (conservative Civil war) 」に突母神を打ち負かし圧勝した舛添は自る。ネット右翼の成れの果てであ る、いわゆるヘイトスピーチを開陳 身の不正支出疑惑で火達磨になり、 入していく。 して憚らない在特会 ( 在日特権を許 そもそも、ネット右翼の凋落はなどうやら開会式を見れそうにない。 にも田母神の逮捕・起訴から始まつ自民党が支援した舛添を呪詛する一 たのではない。巨視的に見ればそれ方で、非自民の田母神こそが安倍政・岩素ふるさと食品コン 7 ル最賞 ・盛岡地域新作菓子展コンテスト最優秀賞 ・全国コンクール・開発部門・農水省流通局長賞 は一二年十二月の第二次安倍政権誕権のバートナーにふさわしい、きっ 生から開始されている。それまで、 粉 4 鉄 と安倍総理も連立政権内部での狡猾ズ一 ~ 屬 「民主党」という共通の敵の存在でな重臣たちに阻まれて田母神支持の 融合した保守運動の一部は、安倍政勝手な「君側の奸」理論を持ち出し 本権誕生により主敵を失ったことによてきたネット右翼にとって、この状 り、簡単にいえば路頭に迷った。元況は三年越しに望むところだろう。 年 来、単なる無知蒙昧な差別主義者かが、特別それはネット右翼の加持祈 ら、バークやトクヴィルの愛読者まが成就したのではなく、単に舛添 ・芽屋 ( 329 )