得する将来の働き手、つまり若者に、就職難というかたちで重荷を課しているのである。要す るに、各企業が無駄な雇用まで抱えてしまっているということだ。 日銀による超緊縮政策のために、若者の働き口がなくなり、それが技能や新知識の習得を防 ちょ、つら ~ 、 ぎ、日本企業の生産性をそぎとっている。このことが将来、日本経済を凋落させる原因にな る。つまり、潜在成長そのものに対しても脅威となるのだ。 日本は見かけの失業率こそ高くないものの、実質的な失業率はかなり高い状態にある。企業 が人を雇いながら効率の悪いことをやり、損失を出しながらも、それを助成金で我慢している のが現状なのだ。 ちなみに、アメリカの日本経済研究の大御所で、日銀政策委員会審議委員の白井さゆり氏の 師である、コロンビア大学教授、ヒュー パトリック氏も、私の金融政策に対する意見に大い に賛成してくれた。 経済学の天才たちの日本経済批判 ここまでに紹介した経済学の大家たちのほかにも、日本経済に興味を持っている人がいる たとえば、ノ 1 ベル経済学賞受賞者のジョー ・スティグリツッとポール・クルーグマンの二人 である。スティグリツッとはイエール大で、クルーグマンとは—で知り合ったが、若いと きから先輩を圧倒する雰囲気を持った大秀才であった。 しら 118
国の中で、日本に限っては、量的緩和不足が ( 円高を招き ) 経済成長を阻害していることは明 らかである 企業の収益悪化の主因をマネジメントの失敗に求める声も多いようだが、それも間違いだ たとえば、日本の電機メ 1 カーの大半は、円がこれほどまでに過大評価されていなければ、ア ジアのサプライチェ 1 ンの中でもっと役割を拡大できていただろう。これら輸出セクターが、 金融危機以降の日銀の失策で最も酷い被害を受けたことは明白だ。言い換えれば、日銀がより 強力な金融政策を推進するようになれば、彼らが取り返せるものも大きい 日本企業はいまだに素晴らしい技術と洗練された製造ノウハウ、そして能力の高い人材を有 している。アジアのサプライチェーンの中でより良いポジションを確保できれば、韓国や台湾 の企業を相手にもっと効果的に戦うことが可能なはずだ。その意味では、私は日本企業の将来 をさほど悲観していない。 そち しかし、円の過大評価を是正する措置なくして、輸出企業のトップに起死回生策を期待する のは酷というものだろう。彼らは、金融政策を担っているわけでも、お札を刷っているわけで もない。電化製品や部品を作っているのだ〉 日本の実質失業率は一三バーセントにも べンジャミン・フリードマン教授はフランコ・モディリア 1 ニの高弟で、宗教が経済活動に 1 16
図表 3 と、第三章の図表 7 で分かる ) 。 たか、日本だけはそ、つしなかった。 「日本はいままでの金融秩序が安定している、だからそれでいいー そんな主張を続けてきたのである。 白川日銀総裁は、「眼前の花壇である金融界さえ安定していれば、一般国民がどんなに失業 してもかまわない」と思っているのではないか。 学生時代の彼は、落ち着いた、聡明で人の苦しみが分かる人物だと思えた。だが日銀という 策組織のなかで働くうち、失業や倒産の苦しみよりも、組織防衛のほうが重要になってしまった 済のだろうか の その結果として起きたのが、実に三〇パーセントもの極端な円高だ。輸出業者は、価格が三 め 〇パ 1 セントも上がった商品を売らなくてはいけないことになる。 の 省 もちろん先述のように、純粋に輸入だけしている企業や、ユニクロのように海外生産を徹底 務 財している企業にはメリットがある。しかし、そのユニクロと競している国内の繊維業者の立 と 銀場にもな ' ? てほしい。競争相手の仕入れ価格が三〇パーセントも下がることになる。これは深 日 刻な事態だ。 章 にもかかわらず、民主党のなかには、「たとえ円高になっても、輸入を考えれば、安い製品 第 が入ってくるので、日本経済にプラス面がある」という著名な議員もいる。 9.
に、円高の波が押し寄せてきたため、震源地であるアメリカやイギリスよりも大きく生産が低 下した。 その後も実質実効為替レートは円高が続き、産業の足かせになっている。鉱工業生産指数は 丿ーマン・ショック前の落ち込みと比べ、わずかしか回復していない。 その結果、日本経済は、潜在成長経路から見て、かなり大幅な需給ギャップを抱えている。 片岡剛士氏は、こうしたギャップが二〇兆円程度に達すると説明していた。潜在の四パ ーセントに近い数字である 二〇一二年のバレンタインデ 1 の金融緩和後、さすがの日銀も金融を緩め、徐々に過去のギ ャップを縮めている。しかし、リー ' マ ' ン・ージョック以来のデフレギャップの大部分力、融政 る す策や為替政策を巧みにやっていたら避けられたのにと田 5 うと ) 残念で仕方がない 復 す 日銀のバランスシートを守るためだけに ま これは一種の 円高が起こると企業はコスト軽減、製品価格の引き下げで対応するしかない。 本自然療法のようなものである。医者が必要な薬、すなわちマネーを出してくれないので、長い 日 時間をかけて企業自身が合理化に努めなければならないのである。その忍耐の過程で破産する 章 エルピーダのような企業も出る。 終 治す薬を持っ医者がそれを出さなかったことに責任を感じないで良いのだろうか。日銀のバ 2 ラ 1
は、このよ、つに衄っている 「じつは、実業界もまったく同じでして、過去二〇年、これはと思うようなが育っていな いということが、つねに議論になっています。片隅のほうで携帯系とか、インタ 1 ネット系か 立ち上がっている以外は、まともに育った企業は非常に少ないですね。それでは、産業の新陳 イ謝か起きるわけがないと思います。日本では、システムとして新しい成長企業を生み出す仕 組みになっていないのではないかと思います」 さいと、つじゅん イエール大学の政治学の助教授だった斉藤淳氏は、世界に発信できるような若者をつくる ための英語塾を日本で開いている。また私が、『ジャパン・アズ・ナンバ ーワン』や『鄧小平 のれん と中国の転換』を著したエズラ・ボーゲル教授から暖簾を借り受けた「ポ 1 ゲルはまだ塾」を イエ 1 ル大学で試みようとするのも、主体性を持ち、それゆえに世界に堂々と意見を主張でき る日本人を育てたいからに他ならない。 ではなぜ、日本の若者のエネルギ 1 が減ってしまったのか。次の章では、新しいパワ】が生 まれにくい原因を考えるために、私の学生時代を振り返りながら、学問の国際化の重要性につ いて記してみることにしよ、つ。 あくまで個人的な体験で、私事にわたるので恐縮だが、参考にしていただければと思う。こ れも、日本経済の復活を切に願うゆえの老婆心からである。 130
かついてしま、つことになるしし 。、、高校から来た学生は、そういう点で恵まれていて、報告レポ 1 トの書き方がうまい エリート間の競争を 日本では、就職活動も大きな問題だ。基本的に日本では、大学三年生の時点から就職活動が スタートする。勝間さんはこう指摘する。 「大学の先生方はみなさん嘆いていらっしゃいます。授業に来ない、ゼミに来ない、と。内定 をもらうと、勉強する気もなくなるよ、つですし」 この点も、やはりアメリカとは正反対なのだ。 アメリカでは、六月ごろに大学の卒業式がある。その後、卒業した教え子に会うこともある のだが、彼らは「これからどこに就職しようかな」とのんびり構えている。いずれ企業に入る にせよ、採用する側も大学での成績を真剣に見るから、まずは大学で優秀な成績を収めなごレ」 ししとい、つわけではない。 が重要なのだ。卒業すれば、 : 日本では大学が、知的創造、知的トレ 1 ニングの場として認められない時期があった。その 風潮がまだ続いており、大学教師が知的付加価値をつける教育をするという意識が低いのかも しれない 「大学は入試というセレクションに合格しさえすればいい。 その次は就職のことを考えよう」 150
く、人口構成がデフレの原因だと言い訳しているのだ。 人口構成の問題だけではない。金融拡張しない理由とし 0 政にデグい ) ・・・一新い訳のび はたん とつである。自分の責任である通貨管理のことを通り越して、財務省所管の財政破綻を防ぐた めに、親心で、日銀が所管外の財政破綻を防ぐため努力している、そのため金融政策がおろそ かになると言い訳するのだ。 きょたきのぶひろ 経済学の現状から見ると、ノーベル経済学賞候補としてよく名の挙がる清滝信宏プリンスト マン・ショック以後、英米の大胆な金融拡大がみプ ン大教授の共同研究が示唆するのは、リ 1 たからこそ、世界大不況のような破局から人々が救われた公算が大ぎしということに他ならな し A 」い、つことだ。 マクロ経済学の分野において「低金利は企業を脆弱にする」という議論よ、・、・実質金利し各 / 金利を無視しているシカゴ大学では一年印に厳しぐ注意され・る誤グだそれだけでなく、か いのうえじゅんのすけ と、った 弱い企業はみな淘汰し、失業もものともしないという、大恐慌時代の井上準之助蔵相の「清 算主義」を思わせる。 「良い日銀 . と「悪い日銀」 ハレンタインデ 1 の政策変更で、いったんは正統的な政策に戻ったように見えた日銀だが、 それはいやいや行ったのではないかという不安もあった。「バレンタインデ 1 緩和」は、私に 2
及ばす影響の研究でも知られている。また知日家で、宮尾龍蔵日本銀行政策委員会審議委員 ード大時代の指導教官でもある人物だ。 教授は、「たしかにコ 1 イチのいうように、日本の貨幣政策には問題がある。しかし、アメ リカの失業率は八パ 1 セントとか九パーセントを記録するのに、日本の失業率は現在、四パ セント台ではないか。だから、日本で金融緩和への圧力があまり高まらないのも理解できる」 と語ってくれた。 これは私も気付いていなかった指摘だ。だが岩田規久男氏のおかげで、その事情が分かった。 昭和恐慌の研究を積み重ね、リフレ派の指導者として、世界の常識から見て正しいマクロ経 日済学を啓蒙してきた氏によれば、雇用調整助成金が日本の失業率を低く保っているという。 内閣府の公表した、この助成金付与の統計を見ると、どれだけの労働者がそのおかげで失業 ちせずに済んでいるかが分かる。雇用調整助成金のおかげで雇用されている人も失業者に数える 者と、日本の失業率は、実に一二パ 1 セントから一三パーセントに跳ね上がる 雇用調整助成金の機能そのものへの議論もあるだろう。この助成金は、正規雇用者の雇用を 才保護しようという考えに立っており、企業が解雇や休職を思いとどまると補助金がもらえる仕 組みになっている。つまり終身雇用の保護につながるため、逆に若年層の雇用状態を悪くして いる恐れもある。 日本の社会の安定に寄与している可能性のある中年層の雇用を保護して、これから技術を取 みやおりゅうぞう 117
日銀の意識に「庶民の生活」はない 毎日のように通勤電車を止める飛び込み自殺。その一部は明らかに経済的要因で説明でき る。しかし、日銀政策委員会を傍聴した人によれば、日本銀行には、金融政策が、失業、倒 産、そして自殺を増やすという形で庶民の生活に密着しているという憲が ' い一らし・い・ 円高政策は弱い企業をいじめる政策である。経済の空洞化を推し進める政策であるのはもち ろん、地方切り捨ての政策でもある。空洞化の流れで、企業が外国に工場を移転しても、東京 簡のヘッド・クオ 1 タ 1 は残る。結果、工場があった地方は疲弊する。東京は超円高に耐えられ 開ても、地方はそうはいかないのである。そう考えれば「大阪維新の会」の支持者が少がづ ' たの 公 のもうなずける話だ。 裁 道しないマスコ これらのメカニズムに気づかない、あるいは気づいても黙っている学 たなかしよう あしお 銀ミも同罪といっていい。二〇世紀初頭にかけて足尾銅山の鉱害と戦っ ' 中正造、、議会で質 日 なわ 問したように、「亡國に至るを知らざれば之れ即ち國の儀」なのである。 子 え また、イギリスの詩人口バ 1 ト・プラウニングは、「知らオし一とは言い = = にならない。そ ふじわらまさひこ 教 れじたいが罪なのであるーといってし 数学者の藤原正彦氏は「週刊新潮」 ( 二〇一二年二 章 月一六日号 ) の連載「管見妄語」において、ここまで私が書いてきたことを、実に簡潔に、以 下のように表現している ( まだお会いしたことはないが、私は『若き数学者のアメリカ』など ひへい
悲鳴を上げているのかといえば、円高で得をする企業の利益を、損をする企業の損失が大幅に 上回っているからである。 円高で不利に立たされた企業はどう対処するのか。倒産しないまでも国内の生産を縮小し、 雇用整理を行う。それが、円高が不況を生むメカニズムだ。もう一つの対処の仕方は、外国に 生産拠点を移すことである。それによって、円高で一層割安になった外国の労働力を使い企業 の収益が回復することとなる。 たしかに、対外進出する企業にとっては合理的な選択だろう。しかし一方で、整理され解雇 される国内の労働者にとっては、あまりにも苛酷だ。これこそが、国内産業「空洞化」のプロ セスに他ならないのである。経済メカニズムの結果、企業の対外移転が促進されるだけならま だしも、政府が税金、すなわち国民のお金を使って「空洞化」傾向を加速化していい理由は、 まったくない 日本の産業が、地方だけでなく東京からも姿を消し、雇用機会がしばんでいくような対策が 「緊急対策」と謳われている。民主党の内閣には、もと社会党系で、本来は「労働者の味方」 、 , 皮らは、「円高対応緊急パッケージ」が日本の労働者に のはずの閣僚がかなり含まれてした。彳 とって最悪の政策であることが分からなかったのだろうか 「円高対応緊急パッケ 1 ジ」は、財務省や日本銀行の利害に基づいた、経済合理性に反する提 案をそのまま丸呑みしたものに過ぎない。円高の根本原因を正せる金融政策には一切触れす、 4