145 しかいしゃ でんれいかん えんかい 金の小づちを持っているふとった男は、宴会の司会者でした。伝令官が、やせていて、背が こおとこ でんれいかん たかいのと反対に、この人は、でっぷりふとった小男でした。そして、伝令官の心がひややか はんたい で、かたいのと反対に、この人の心は、あたたかくやわらかでした。というのは、この人は、 ごてんちい い、なめらかにゆたか たかい身分の生まれでなく、この人が御殿で地位をえたのは、その美し ふじん ふじん な声のためだったからです。この人のぎよろ目は、ご婦人を見れば、相手がどんなご婦人であ っても、 ハターのようにとけました。スーザとミンタを見たときでさえ、マーガリンのように とけました。この人は、ご婦人というものは、好かれるためにできているのだと考え、そして、 くべっ ふじん じぶんでも、どんなご婦人であろうと、区別なく好きになりました。ということは、じぶんの 気もちを、すべての女の人に、まんべんなくまわさなければなりませんから、ひとりひとりのつ ふじん 人を、すこしずつ好きになるということです。この人はまだ、あるひとりのご婦人を、じぶん むね の胸の中にありったけの気もちで、好きになったことがありません。 れいじよう みぶん けれどもいま、王子さまが六人の身分のたかい令嬢がたと、特別のテー・フルにおっきになっ ご健康を祝って みぶん はんたい けんこう ふじん とくべっ うつく ご
225 「あの人、あたしたちに、すっかりまいっちゃったんだよ。」と、スーザも、くすくす、わ らいました。 ゅめ エラは、はっとして、 ( それじゃ、やつばり、あれは夢だったんだわ。 ) 「あたしたち、あの人とおどったんだよ ! 」と、スーザ。 「あたしたち、あの人とうたったんだよ ! 」と、ミンタ 「あたしたち、あの人とふざけたの。 「とってもすてきな人。」 「そして、こつけいで。あんな人、見たことないから。あたしに、とんぼがえりをうってみ せてくれたんだ。」 「まあ、とんぼがえりを、スーザ ? 」 「ああ。 「なんのために ? 」 かた 「そりや、お生まれがいいからだろうよ。」と、スーザが肩をそびやかしました。 「あたしたちにむちゅうで、じっとしちゃいられないってこと、見せるためだろ。」と、ミ ンタがいいました。 23 やつばり , ほんとではなかった
159 ゅび どうけ 道化は、もうひとりを指さしました。 「あまりしかつめらしい。」 では、三人めー 「あまり、ありきたりだ。」 四人めー 「あまりかわっている。」 五人め 「あまりきちんとしている。」 六人め 「あまりあっかましい。」 王子さまの気にいる人は、ひとりもいません。 ゅび どうけ 道化は、にやにやしながら、スーザを指さしました。スーザは、ぎよっとして、はんぶんい すから立ちあがりかけました。 「は、は。」王子さまは、小声でわらいました。「あれは ! 」 どうけ 道化は手をふって、スーザをすわらせ、ミンタにあいずしました。 「は、は。あれか ! 」王子さまは、またわらいました。 16 王子はダンスがおいや
「おしてやしないよ。あれ、りつばな人だ。 「とてもりつばな人だ ! 」スーザはあえぐようにいって、「やつばり、おしてるじゃないか。」 「おしてやしないよ。あんたが、あたしをつきとばしてるんだよ。」 「いいよ 。いくらでも、あんたのほねと皮ばかりのひじで、あたしのあばら・ほねををつつつ ・カ「し . し一 、よ。あしたになったら、あたしは、青あざだらけになってるから。」 かた 「何いってんのさ。そのでつかい肩であたしの背ぼねをつつつきたいなら、つつくがいいさ あたしは、今夜、黒あざだらけになってるから。」 おもてに、もういちど、ラッパの音がとどろきました。 まど 女の子たちの目は、むさ・ほるように、窓の外の、赤や金色のかざりをつけた男の人のすがた に見とれています。 「おかあちゃん、おかあちゃん、いままで見たこともないほど、りつばな人。おかあちゃん だって、あんなりつばな人、見たこともないから。」 かた おとうさんは、むすめたちの肩ごしに外をのそくと、 でんれいかん 「あれは、王さまの伝令官だ。」 まど 「まさか ! 」こうさけぶと、おかあさんは、窓ぎわにかけより、三人をかきのけました。 せつめい おとうさんが説明しました。 こんや 4 舞踏会への招待
281 どうけ 風はやみ、カーテンは、しずかにたれました。道化は、 れいじよう こまのようにくるくるまわるのをやめ、令嬢がたも、輪に なってかけまわっていたのが、しずかになって、みだれた カールをなでつけ、スカートをなでおろしました。そして、 ぎよくざま 玉座の間は、さわぎのおこるまえと、すっかりおなじよう すになりました。 でも、ほんとにおなじだったでしようか。部屋のまん中に、・ほろ・ほろのショールをかけた、 小さなおばあさんが、つえにすがって立っていました。この人は、たしかにまえにはいません でしたし、なぜか、この人の出てきたために、あたりはたいへんかわって見えました。この人 国 は、どこから、どんなふうにして、やってきたのでしよう。 の すべての人が、こんなことを心に思いめぐらしているまに、王子さまは、はっきりおばあさ夢 冫いかけていました。 夢の国
の見つめているところには、なにもありません。その額ぶちには、絵がはいっていなかったの です。 「道化。」といって、王子さまは、ため息をもらしました。 どうけ 道化は、大のように、ご主人に話しかけられることをむしようによろこんで、さか立ちする と、下のほうからさかさに王子さまを見あげました。 れいじよう 「道化、あと一時間すると、令嬢がたがこられる。 どうけ 道化は、またとん・ほがえりをうってもとにもどると、王子さまを頭のほうからながめました。 「あの人がーーあの人がくるのだ。」と、王子さまがいいました。 どうけ むね 道化は、片手を胸におしあてました。 どうけ 「いったい、その人は、だれなのだ。ああ、道化よ、だれなのだ。」 どうけ 道化は、じぶんのかみの毛をくしやくしやにして、かなしげに目を空にそらせました。 「いや、それでも。」と、王子さまはいいました。「その人を見れば、わたしの胸は、その人 どうけ むね に気がつくだろう。ああ、道化よ、わたしの胸は鳴っている 道化は、王子さまの胸に頭をおしつけ、じっと耳をすませましたーー・それから、まるで耳が遡 りようて 子 王 がんがんしたように、いそいで両手で耳をふさいで、からだを、ゆらゆらゆすりました。 「どきどき、鳴っているだろう。」王子さまがききました。 どうけ どうけ どうけ かたて むね しゅじん むね
157 を 楽 思 だ と た に 道ー 道 見 道、 し退をに 道ー 王 い で と に 化けあ っ 化けか い 味み場ぎ 化けあ 化けあ に し は く し た の 0 よ の は の は め ず れ 人 よ あ 人 人 ま て か し 玉ーて ん た う は か は か は か る か い た 座を だ の な な な な で な 亠いで ま 子 し し の 道ど げ 王 味み が だ く う ま し し み の し、 化け 世よ胸き 頭 し 子 の し ょ た お て、 に に を て を あ をよ ろ し、 け う り か と さ そ ち な れ ら な り な ま は の ヒ う さ し お い ま い ま い し び や て ぐ し た ン た ど の し げ の ク り だ た た っ す 劇ー ま の 手 の 絹こた へ を ん た り て 見 と た め ち の た 顔 、し の て の に は お い 劇臓す用頭 を ノ、 れ 出 ま を の を る す 注せ 見 う さ さ 亠う、ん て け れ と り が い と た で を ま し た る と し た び ほ る ま が き か の は し 王 美小 の ね た しく も 子 さ な み は な と し、 の 劇ーら 人 玉ー じ ひ は に 座ぶ か は そ た げ れ に ん ま れ て ぐ だ そ な な の わ に れ 目 し、 つ か 反 る た に か で り き と ら か 対 き な く も し、 の さ 方 た た い 主 れ の れ 向 人 日 文くしゅ はんたい しゅじん はうこう 16 王子はダンスがおいや
231 んのまわりをおどって歩きました。「ほんとなんだわ、ほんとなんだわ ! 」 「しつ、しつ、しつ ! 」おとうさんが小さな声でいいました。 「しつ、しつ、しつ ! 」エラは、いびきをかいている三人の人たちにむかって、わざと大き なこそこそ声でいいました。それから、また、おとうさんのわきにひざをつくと、「そして、 その人が、いちばんきれいだったの ? ・」 「ああ、いちばんもいちばん、とびぬけて美しかった。」 「おとうさんが見たこともなかったくらい ? 」 おとうさんは、頭をふりました。 「いや、親ばかかもしれんがな、エラや、わしは、いつもおまえがーーー」 「いえ、ちがうわ、おとうさん。あたし、『ドコニモナイ国』の王女さまほどきれいじゃな いわ。王女さまが、いちばんきれいなのよ。ね、おとうさん、そういって。ね、そうだったで しよう。」 は , 、じよ第ノ おとうさんは、しぶしぶ、白状しました。 「王女さまは、わしが、いままで見たこともないほどきれいな人だった。」 「ああ、おとうさん ! 」エラは、おとうさんをかたくだきしめました。ああ、エラの胸は、 王子さまはどうでした ? 」 とてもどきどき鳴っていました。「そして、王子さまは : うつく むね 24 おとうさんのおみやげ
216 れいじよう なった王子は、かわいい王女を、わらい、ふざけている令嬢がたの群れからすくいだそうと、 れいじよう 中にわりこもうとしています。いまこそ、令嬢がたに、さっき王女の耳にささやいたことを この人こそは、じぶんの心の人であり、じぶんのえらんだ花よめであり、あす、この人と けっこん こわだか 結婚するのだということを声高にきかせてやるのです。 「十二 ! 」 ふくき もみあう人がきの中から、すりきれた服を着て、かみには、たきぎのもえさしをつけ、手は れいじよう 灰たらけの、みす・ほらしい少女が走り出てきました。もっとほかの人をさがしている令嬢がた は、そんな子どもに気がっきもしません。王子は、じぶんのわきをすりぬけて、かけていく子 みと を認めましたが、それは、「ドコニモナイ国ーの王女ではありませんでした。王子は、「そこ、 どけ ! 」とさけんで、その子をわきにおしのけました。少女は、石段をころげおちていきまし うつく れいじよう・ た。令嬢がたは、輪をひらいて、じぶんたちがチョウのようにつかまえた、美しい王女を見よ うとしました。けれども、王女はどこにもいませんでした。 れいじよう 「どこ。あなたは、どこ。」と、令嬢がたはよびました。 「どこへいかれたのだ。」王子は、むなしくさけびました。 けれども、「ドコニモナイ国」の王女のすがたは、きえていました。 どうけ どうけ 道化が、なにかを胸にだきながら、すべりやすい石段をはいあがってきました。道化は、王 むね いしだん いしだん
283 「わたしの知っているのは、とても美しい人だ。」 「美しいというのは、見る人の気もちしだいさ。どんな人だね ? 」 「ドコニモナイ国 ? 」王子さまはさけびました。 「どこにも、どこにもない国。」と、おばあさんはいいました。 「あなたは、『ドコニモナイ国』からきたのか ? 」 「わたしのいちどいったことは、ほんとだよ。」 「では、『ドコニモナイ国』の王女を知っているか ? 」 「どの王女だね。」 「王女は、ひとりしかいないはずだ。」 「これは、これは。」と、おばあさんはわらいました。「『ドコニモナイ国』は王女だらけだ うつく ゃぶれたショールかけ どこからきたか ? どこにもどこに , も ない国から。 うつく 30 夢の国