108 エラは、心の目で、そのひとりひとりを見ました。みな美しく、王子さまは、どうしてその 中から、ひとりをえらぶことができるのでしよう。リンリンなるすずは、エラと王さまの御殿 はしら とをつなぐただ一つのくさりのようなものでした。ああ、もしエラもそこへいって、大きな柱 ぶとうかい のかげにうすくまり、舞踏会のようすをただ見ているだけでもゆるしてもらえたら、だれより もしあわせになれるのに。 れいじよう それから、しばらく、すずの音はとだえました。令嬢たちは、もうずっと御殿の近くにいっ ノ、るまよ げんかん てしまったからです。もうみんな、お車寄せの道に乗り入れたり、馬車から、御殿のお玄関に きんぎん つづく大理石の階段の上におりたり、金銀のくつで足ばやにその階段をの・ほっていったり、白 けがわ テンの毛皮のマントのはしで、すこしばかり雪の粉をはらったり、むらさきのじゅうたんのし ぶとうま きつめてある、まばゆい広間にはいっていったりしているところなのです。いま、舞踏の間の 入り口では、その人たちの名まえがよばれ、入り口をはいれば、そこには、光をあびて、王子さ まが、みんなをまってーーーそのくせ、そのうちのひとりをまって、立っていらっしやるのです。 どてん エラはまだ、 , 御殿も、御殿の階段も、広間のあかりも見たことがありません。それから、ど ぶとう・かい んな舞踏会へもいったことがありません。けれども、雪の上になるすずの音をききながら、ど そうぞう んなこまかいところまでも思いうかべることができました。ただひとつ、エラが想像できなか かいだん ごてんかいだん こな うつく かいだん ごてん ごてん ごてん
223 とたずねました。 ぶとう・カし 「じゃ、やつばり、舞踏会はあったんですわね ? 」 、ました。「なんだって、舞踏会が 「あいたっ ! 」最初のくつがぬげると、おかあさんはいし あったかって ? ゅうべ一晩、わたしたちが、どこへいってたと思うのさ。もちろん、舞踏会 はあったさ。」 ねっしん 「そうでしたわね。」エラは、熱心にあいづちをうって、二つめのくつをひつばりました。 「たのしい会でしたか。 「あいたっ ! 」と、またおかあさんはいって、あくびまじりにつぶやきました。「まるで夢 ぶとう・かい みたいな舞踏会さ。」 エラは、 がっかりした顔になって、ききました。 ゅめ っ 「夢 ? 」 いや、そんなに強くでなく、もっとそっと。そんで 「わたしの足をおさすり、もっと強くー A 」 なにそっとでなく : こういいかけて、おかあさんは、まるでおきているのにあきた子ネコほ のように、いきなり、ねむりこんでしまいました。 っ や 「さ、シンデレラ。」と、あくびをしながらスーザがいって、足をつき出しました。 エラは、いそいでスーザのそばにいって、くつをぬがせにかかりました。 さいしょ ひとばん ぶとうかい ぶとうかい
178 王子さまは、また、頭をさげました。 「まあ、こまったわ。」エラはつぶやきました。 ちゅうおう 王子さまは、エラの手をとり、まるい輪の中央まですすみ出ました。エラは、まるでどぎま ぎした子どものように、そこに立っていました。すべての目が、エラの最初の動きをまって、 じっとエラを見ていました。そして、うきたつような音楽は、エラの耳をうっていました。 ーティーの けれど、ああ、この音楽は ! エラが小さいとき、おかあさんが子どもたちのパ きよく ためにひいてくださったのと、おなじ曲でした。エラは、パンと両手をたたくと、知らぬまに、 れいじよう でんれいかんごうれし 「令嬢がたは、まるく輪をつくって ! 、伝令官が号令をかけました。 れいじよ。う 令嬢がたは、いわれるままに、広間のまん中に輪をつくりました。 れいじよう 「殿下が、まずおどりをはじめられます。それまで令嬢がたはおまちください。」 れいじよう しんぞう 令嬢がたの心臓は、木の葉のようにふるえました。だれもかれも、 ( やつばり、王子さまが おどりのお相手にえらばれるのは、あたしじゃないかしら。 ) と考えていたからです。 でも、王子さまは「ドコ = モナイ国、の王女のまえで、頭をさげていました。木ののふる えは、とまりました。 「あたしたち、みなさんの先にたっておどらなくちゃなりませんの ? 」エラはささやきまし でんか りようて さいしょ
しなもの スーザは、山もりの品物の中から、ポンポンのふくろをつかみだし、そのあめを口いつばい にほおばりました。 「みんなに、一つずつおくれよ、スーザ。ーおかあさんがいいました。 「どうして ? スーザはききました。 「おまえが、すなおな子だってことが、わかるようにさ。」 「じゃ、やるわよ。」スーザは、むつつりした顔でいいました。「そら、これはおかあちゃ そして、スーザは、あめを一つ、おかあさんのロにほうりこみました。 「そら、これはおとうちゃんの といって、スーザは、おとうさんにもおなじようにし、 した 「そら、これはあんたのーーー」といって、ミンタのロにあめをおしこみながら、舌を出し、そ れから、炉のそばに立っているエラに近づくと、「そうら、これはーー・、火にやるのーーー」とい って、エラのあめを炉の火の中にほうりこんで、「やあい。」とからかいました。 「まあ、なんてユーモラスな子なんだろ。」おかあさんが、かわいくてたまらないというよ 冫しいました。「さ、おまえたち、朝のごはんが食べたいんだろ。だれもかまってやらない で、かわいそうだったね。さあ。」と、おかあさんは、エラにむかうと、「そこで、ぐずぐず立 ってないで、この子たちの朝ごはんを、すぐにだすんだよ。 横から、おとうさんが、おだやかに口をはさみました。 んの よこ
という - よ、 ) に、と、 ) とう・、 エラは、カードをまたはんぶんにし、それをまたはんぶんに ぶとう 小さい小さい紙のひらになるまで、ちぎりました。その小さな紙の一つに、「舞踏」という字 が、どうやら読めました。エラは、それをまた、はんぶんにちぎりました。 「さあ、それでこそ、おりこうちゃんだよ。」と、おかあさんは、またねこなで声でいいま した。「それでは、その紙くずを、こんどは、火におくべ。からだが、ほかほかあたたまるだ ろうよ。さあ、おくべ。」 しようたいじよう エラは、王さまの招待状を火にくべました。ばっと小さなほのおがあがり、二、三度、金色 ぶとうかし の火花がちり、そして、王さまの舞踏会はけむりになって、えんとつをの・ほっていきました。 おかあさんは、めん棒をなげすてました。 「ほら、わたしは、よくやくそくをまもるだろ。さあ、あげるよ。 そうして、おかあさんが返してよこしたロケットを、エラは胸にだきしめました。おかあさ エラは、クリーム色のカードを、二つにやぶりました。 。いいました。「はんぶんじゃ、まだだめだ。もっと小さ 「もっと小さく。」と、おかあさんま しようたいじよう 「そりや、ざんねんだね。わたしが、三つ数えるまでに、招待状をやぶっておしまい。一、 かぞ むね
264 きみのからだを二つにわけて、北と南へいってこい ってこい。 しかいしゃ 司会者は、できるだけのことをして、かけていきました。 でんれいかん 「ああ、さて、このわたしだが、伝令官は、さもっかれはてたようすでつぶやきました。 しごと きげん 「あと一年の期限っきで、この仕事をやめよう、しりそこう、 おおぜい でんれいかん じゅうぼく きたか。むれてまいったか。」伝令官は、もどってきた従僕にききました。 じゅうぼく 「まるでハチのように。」従僕はいいました。 でんれいかん 「そくそくやってきたか。つながってきたか。」伝令官は、ふたたびあらわれたラッパ手に ききました。 「まるでアリのように。」ラッパ手はこたえました。 ぶとうか、 「ああ、それがみな、だれかが、舞踏会のあとへくつを一つおとしていったばかりに、おこ でんれいかん ったことなんじゃ。」伝令官は、なげかわしげこ、 冫しいました。「会があれば、人々は、いつもな おうぎ にかをおとしていく 扇や、うで輪、マフに。ハフ、クチナシの花にカーネ 1 ション、くんし ようじ しんよう ように信用 , ーー用事はなんだ ? 」 でんれいかん しかいしゃ 伝令官は、すこしおこったように司会者にききました。せつかくの名演説をとちゅうでじゃ まされたのがいやだったのです。 しかいしやほうこく 司会者は報告しました。 しゅ わ いとまをとろう めいえんっ しゅ
274 「片足はいて、片足ぬいで、ニッケイさまも、やつばりだめ。」 たいこうじよ たいこうじよ ニクズク大公女さまのご運は、ほかの人よりうまくいくでしようか。大公女が、王子さまの うつく しかいしゃ まえのいすにかけて、絹のくっしたにつつまれた美しい足をさしだすと、司会者は、とろんと した目で、この人をながめ、 こ。うじようつー、 けだかき公女の美しさ めがみ 女神たちにもたちまさり おみ足はしかと地をばふまるる。 でんれいかん 「だが、くつは、くつは、おみ足にあうだろうか。」と、伝令官は異議をもうしたてました。 れいじよう しいえ、あわないわ、と、令嬢たちは、手をたたきました。ああ、あう めだ、だめたった。 「なんのごほうびも、なんの名誉も、どんな王子も、なんのなんにもニクズクさまには出な いんだわ。」 王子さまは、内心いらいらしながら、それでも、ほっとため息をつきました。あとひとりで さいごです。ショクベニ皇女さまです。まさかこの人が、いちばん小さな足をもっているなど かたあし ないしん かたあし きぬ こうじよ うん めいよ 0 、 しや、だめだ。だ
158 「しかも、こよい、わたしは、えらばなければならない。どうしたらいいのだ、道化 ? あ れいじよう の令嬢がたが、ひとりひとりあらわれるたびごとに、わたしは、のそみをもって、わたしの胸 にきいたのに。」 どうけ 道化は、元気づいたようすで、王子を見あげました。 「けれども、いつもわたしの胸は、『いや、あの人ではない。』というだけだった。 どうけ 道化は、ぐったりと、しおれました。 「『あの人ではない、あれとはちがう。』」 どうけ 道化はたおれて、死んだふりをしました。 王子は、部屋を見まわし、一つの顔からまたべつの顔、一つのすがたから、またつぎの人の すがたへと目をうっしました。 「どの人を見ても、なにかがよけいかなにかがたりないかた。」 どうけ 道化は、ちょっと生きかえって、王子にウインクしました。 どうけ 「おきろ、道化。おまえは、なんのためにここにいるのだ。道化というものは、かしこいは ずではなかったのか。なぜ、わたしをたすけてくれないのだ。 れいじようゆび 道化はすわって、でたらめにひとりの令嬢を指さしました。 「あまりかわいらしい。」王子はいいました。 どうけ むね どうけ どうけ むね
128 エラのうえに、すばらしいことがおこっていました。世界じゅうどこにもないほど、みごと ぬの でりつばな布でつくった服、美しくかがやく宝石が、「ドコニモナイ国」の小さい王女のから ちょうぞう だをつつみ、かざっていたのでした。そして、エラは、雪の彫像のようにじっと立って、「あ きせき あ、ああ、気をうしないそうだわ。」とつぶやきながら、この奇跡がおこるのにまかせていま にじ色の雲の中から、妖精のいましめる声がきこえてきました。 「気をしつかりもつんですよ、エラ。ぜひ、しつかりしていなければいけないんですから そして、雲のむこうのどこかで、大時計が、ふとい声でいうのがきこえました。 「十二時だよ。わすれるな、十二時だ ! 」 そして、いままであんなに明るくうたっていた精たちの声が、きゅうにかなしく、さびしげ になりました。 つめたい火よこおる水よ あわれなむすめ。 草かれる土よふるえる空気よ ようせい おおどけい ほうせき せかい
ゃいられないから。」スーザがいいました。 「だれだって、あたしにダンスをもうしこまずになんかいられないから。」ミンタがいいま した。「あたしは、部屋じゅうで、いちばんきれいなむすめになるんだから。見てるがいいー した』 、、ンタも、頭をゆすって、 「きっとあたしは、おおぜいの人に紹介されるよ。さもなければ、ひとさわぎおこしてくれ るから。」 じようひん いっとうしよう 「もしあたしがお上品たってんで、一等賞くれなかったら、」と、スーザがいいました。「あ いつらのみつともない顔、ひつばたいてくれるから。あたしは、かべの花にはならないよ ! 」 「あたしだってなるもんか ! 」 「見てるがいいわ ! 」 ぎようぎ ういうと、お行儀などは、どこをさがしても見つけられないかっこうな ふたりは、そろってそ いっしよくたにべたんとゆかにこしをつきました。 エラが、おずおずと戸口にあらわれました。 、、ンタは、びよこんとこしをかがめて、おじぎをしてみせました。 「あたしをぬかせばね ! みんなが、あたしを見ていうんだ。『まるで温室ざきのバラみた って。見てるがいいわ。」と、こんどは、スーザがおじぎをしました。 しようかし おんしつ