9 撃発 ( 引金の引き方 ) 引金の張カ 0 2 び 4 2 時間 ( 秒 ) < 図 231 > 円滑漸圧的な引金の引き方 事前に引金を引きはじめることを要求す 合 , たとえば伏射 ( ときとしては膝射 ) な る。つまり , 射手としては , 照準圏照準の どの場合には , 撃発完成の時機が 1 秒くら 段階ですでに引金を引く動作を始め , 精密 い早まろうが遅れようが , 射撃結果にはな 照準の進展と銃の動揺の沈静化の開始とに んら影響するところがない。したがって , 合わせて撃発動作を進めていき , 銃の動揺 このような場合には , 照準圏照準が終わっ が最小に達した瞬間に撃発と照準を完成さ て銃の動揺がおちつきはじめると同時に せることに向かって努力を傾注しなければ 引金をしまりはじめ , 途中で休まずにスム ならないことになる。この努力の現われと ーズに力を加えつづけて , 発射するのであ して , 各種の撃発方法 ( 引金の引き方 ) が る。。円滑漸圧法 " と呼ばれるものがこれ 工夫され , 採用されるにいたっているので である ( 図 23D 。 ある。 この方法はまた , ライフル立射 , ピスト ル射撃の場合 , とくに練度の低い初心者の それの場合にも採用されてよいものであ る。彼らの射撃姿勢はまだ十分に固まって いないので , 銃の動揺が大きく , しかも動 揺が小さくなる時期の長さはきわめて短 このような場合は , 銃の動揺の細部を 無視して , 照準圏照準の終了と同時に引金 引金機構の種類 , 射撃姿勢の種類 ( 射撃 を引きはじめ , 筋疲労による銃の動揺の増 姿勢の安定度 ) , および射手の神経系作用 大が始まるまえに , 撃発を完了してしまう の特性に応じて , 射撃競技ではさまざまの のが得策である。しかし , 同じ立射でも , 撃発方法が採用されている。 練度の高い射手の場合は , これと同一に断 一段引きの引金を使用する場合 ずるわけにはいかないことに注意しなけれ 銃が比較的安定し , 撃発に好適な動揺の ばならない。 練度の高い射手の立射姿勢では , 銃の動 少ない時期が比較的長くつづくような場 引金の引き方 242
ライフル 3 姿勢射撃のテクニ 28-36 秒 み″秒 安定化と 照準圏照準 -2 秒 た秒 精密照準 び -8 秒 深呼吸 2 ~ 3 回 みル秒 精密照準 < 図 253 > 発射をはたせなかったときに , 姿勢をくずさず据銃したままで休息して , 次の発射に移るようにする場合の , 立射における指導的射手の発射完成過程 る。そして , すべての発射における内容の 同一性を確保するためには , ある程度まで 体力 , 視力 , 反応速度等が保持されていな ければならず , 射手は , 動作の同一性を保 持するための前提として , 合理的で経済的 な精力の利用ということを要求されるので ある。 が生まれてくる。 か , 試行は何回ぐらいが適当かという問題 試行との間にどの程度の休息をとるべき 精力保存の見地から , 発射試行と次の発射 射を中止しなければならない。こうして , 増大と視力の低下をきたした場合には , 発 まして , 発射遅瀞におちいって銃の動揺の らずそれが完遂されるものとは限らない。 発射動作にはいったからといって , かな のである。 精力保存を語る場合に忘れてはならないも 長さ , つまり , 射撃のテンボとリズムも , ーズとシリーズとの間に設ける休息時間の をはかるために , 発射と発射との間 , シリ だけに限定されるものではなく , 力の回復 する要素は , 個々の発射のための使用時間 るとされている。しかし , 精力保存に関係 が 17 ~ 20 秒の間に終了するようなものであ 立射の場合 , 据銃から撃発完了までの動作 経験上からして , 最も合理的な発射は , 射撃のテンボとリズム 発射試行と次の発射試行との間に設ける べき休息として , 現に射手の間で採用され ければならない。 は , どうしても第 1 の方法を混用しな れ , それ以上の発射を試みるときに 試行が 2 ~ 3 回にとどまる場合に限ら けを採用することができるのは , 発射 果が少ない。したがって , この方法だ らないので , 休息という見地からは効 を長く空間に保持しつづけなければな しかにこの方法の長所といえるが , 銃 とのえることができるという点は , た 単な動作で次の発射に必要な条件をと たたび発射動作にはいる。きわめて簡 にしながら深呼吸を数回行なって , ふ フォームを保ち , 目だけ休ませるよう も , 射撃姿勢をくずさずにそのままの ・第 2 の方法ーーー発射を途中で中止して っている。 おさなければならないという短所をも 発射で関係動作を全部最初からやりな れば効果的であるが , その反面 , 次の 方法は , 筋の能力回復という点からす け , 楽な姿勢をとって休息する。この ら , 床尾を肩からはずして地面につ ・第 1 の方法ーー発射を途中で中止した ている方法には次の 2 つがある。 285 2 の方法である ( 図 253 ) 。すぐれた筋力と 指導的射手の多くが採用しているのは第
指導的射手が採用している引金機構と撃発要領 く図 242 > 長時間射撃の途中で行なう銃把の握り方の変更 うになれば , 新たに何物かを注入して失わ 指導的射手の経験が如実に証明するところ れた鋭敏度を回復する必要が生じる。この である。ラピッドファイア射撃の撃発時に ためにとられる手段が , 母指の位置と状態 おける人さし指の運動領域を示す参考図が の変更であり , これによって人さし指によ 図 244 である。 る引金張力の克服と引金抵抗の感知がより フリー・ピストル射撃表 15 に見るよ 良好になるというわけである ( 図 242 ) 。 うに , セット・トリガーっきのフリー ストルを使用する場合には , 多くの指導的 ピストル射撃 射手が鼓動式撃発法を愛用している。しか し , それと同時に , 多くの射手が円滑漸圧 センターファイア射撃精密射撃の場 法を併用 , または単独に採用して成功して 合には , 歩みが短く , 落ち方に少しねばり いることも知らなければならない。たぶん , のあるもの , シルエット標的射撃の場合に 鼓動式の長所は , 照準と撃発の一致をはか は , より歩みが長く , 落ち方によりねばり るための神経過程の正常化を促進する点に の多いものを採用するとよい。シルエット あり , 鼓動式も実質的には円滑漸圧法によ 標的射撃に , より歩みが長く , ねばりのあ って最後をしめくくられるのであるから , るものを採用するのは , これによって右腕 ことさら鼓動式と漸圧法とに区分して現象 挙上時に第一段を引くこと , および引金の を考察する態度には , 事の本質を見あやま 運動によってより良好に発射時機の到来を 察知することができるようになるからであ る危険が多いというべきであろう。したが る。これは , 表 13 のデータからも推察でき って , この場合でも , 指導的射手が採用し るであろう。リポルー射撃のときの撃発 ているのは , 本質的には円滑漸圧的な撃発 時における人さし指と引金との関係状態 方法であり , ただ , 照準と撃発の一致を促 ( 引金への人さし指のあてがい方 ) を図示 進するために人さし指にリズミカルな運動 すれば , 図 243 のようになる。 をあたえるようにしている者が多いとする 見解をもって , より妥当な表の読み方とし ラピッドファイア射撃歩みがやわら なければならないことになるであろう。 かく , 落ち方にねばりのある一段引きの引 セット・トリガー機構の撃発用引金にふ 金の採用を適当とする。このような引金 れるときの人さし指の状態を示したものが は , 据銃のときと標的から標的へ照準を移 図 245 である。 動させるとき引金をしぼるのに好適だから である。これは , 表 1 4 に見られるように , 最近になって , 人さし指の屈筋を弛緩さ 265
銃身の堅牢性と耐用命数 銃身の弾性限界 5500kg / 2 1000 異物 遊底燃焼中の装薬 く図 5 > 銃身がその弾性限界を越えて拡大せざるをえなくなるようなガス圧の発 生によっておこる銃身膨張 て銃腟の点検を行なう習慣を身につけるこ ブレーキとなって弾丸の運動速度をにぶら とがとくにたいせつである。 せる。弾丸の運動速度が落ちるために , 弾 銃身膨張も , 銃身の後部または中央部に 丸に接して続行していた火薬ガスは弾底に 生じた小さいものであれば , その命中精度 衝突し , 押しのけられてあともどりする波 を形成する。一方 , 火薬ガスの主力は , い に及ぼす影響は大したことはない。しか し , このような銃でも , 弾丸が旋条をはず ぜんとして銃ロの方向に向かって前進をつ れるような場合がありうるので , これを竸 づけている。こうして 2 つの波の激突がお 技会で使用することは危険である。銃ロ近 こり , 銃身の抵抗力を越えるような強大な くに膨張した箇所のある銃は , 射撃竸技用 局部的圧力が発生する ( 図 5 ) 。そして , としてはぜったいに不適である。 この急激で著大な局部的ガス圧の増大が銃 銃身は使用しているうちにしだいに磨損 身を膨張に導き , ときには銃身破裂をまね して老朽化する。銃身の磨損老朽化を促進 くことになるのである。 するものとしては , 次のような物理的 , 熱 膨張をおこした銃身は , 注意深く銃腔を 的 , 化学的な原因があげられる。 見ると , 輪形に暗く見える箇所ができてい ・物理的原因による磨耗 るので , 容易にこれを発見することができ 弾丸が銃腔内を通過するときには強大な る。膨張度が大きくて銃身外部に輪状の隆 磨擦がおこる。このため , たびかさなる射 起が生じているような場合は , 手でさわっ 撃によって腔綫の角が丸くなって ( 図 6 ) , てみればこれはすぐわかる。 銃身内壁は磨減するにいたる。 膨張の発生を防ぐためには , 銃腟の綿密 ・物理的 , 熱的原因により銃腟表面に発 な拭浄と , 射撃まえに細心の注意をはらっ 23
9 撃発 ( 引金の引き方 ) る。そして , 拳銃を把持した右腕の保持 , 照準修正のための両腕の動作 , 立位姿勢の 保持 , 呼吸停止 , 撃発のための人さし指の 操作などの射撃に必要な諸運動は , すべて 中央からの指令を受けた筋の働きによって 実現される ( 図 238 参照 ) 。これらすべての 運動が , 不随意運動と随意運動との 2 つに 大別され , 撃発のための人さし指の運動が 後者に属することについては , すでに記述 しておいたところであるが , 随意運動の実 現過程の本質については , さらに詳細に究 明しなければなるまい。 刺激に対して生体が応答する運動はすべ て。反応 " と呼ばれる。そして , 生体によ っていとなまれる運動のすべてが , 反射作 用の形式をとって展開されることについて は , すでに述べておいたとおりである。ソ 連の偉大なる生理学者イ・パフロフによれ ば , すべての反射作用は無条件反射と条件 反射との 2 つに分類される。 無条件反射これは先天的に生体にそ なわっている一定の外部刺激または内部刺 激に対する反応である。あらゆる生物はす べて , 一定の先天的反応力をもち , それに よって環境との間に一定の相互連絡が保た れるようになっている。したがって , 無条 件反射は特別の訓練をまたずに , 一定の条 件下においてはつねに , そしてその条件下 においてのみ , 発揮されるという性質をそ なえている。つまり , 恒常不変的な性格を その特色とするものである。しかし , 先天 的で恒常不変的な性格をそなえた反射作用 であるとはいいながら , 必要に応じて大脳 皮質がこれに影響をあたえ , その流れに変 更を加えることも , また可能なようになっ ている。 防衛反射 , 各種不随意運動の根底に横た わる運動反射などが無条件反射の代表的事 248 例である。無条件反射の反射弓は大脳皮質 上の中枢神経領にはいり , 介在神経によっ て大脳半球と連絡するようになっている。 条件反射これは生体の個性的体験の 蓄積過程において形成される一時性の反応 である。人は環境との接触の中にあって生 存する。したがって , 人が生きていくため には , 環境の影響に順応し , 反応していか なければならない。環境と連絡を保ち , そ の影響に対して順応し反応する生体のいと なみは , 無条件反射によっても部分的には 実現されるが , その大部分は , 条件反射 , つまり , 新たな各種の条件反射を無限に形 成していくことによって実現される。条件 反射の実現には , 大脳皮質の参加がぜった いに必要である。現象的には多種多様をき わめている随意運動 , すなわち , 本人の意 志に従属する運動の生理学的本質は運動的 条件反射である ( ただし , このことは , す べての条件反射が , 例外なく随意運動であ ることを意味するものではない ) 。新しい 随意運動の体得 , および既得随意運動の遂 行の本質は , 大脳皮質の神経中枢間におけ る新連絡の形成とその利用 , およびすでに 形成されている連絡の利用である。したが って , 随意運動実現の確実性と適時性と は , 神経中枢間における神経作用の相互間 の流れの性質によって大きく左右されるこ とになる。 照準動作と撃発動作とが協調的に行なわ れるためには , その射手の神経作用の流れ に高度の可変性が存在していなければなら ない。そうでなければ , 視覚的知覚 ( 信号 に対する応答動作 ) が遅れて発射の時機を なくし , 射撃を不正確に導くことになるか らである。同時にまた , 人さし指で引金を 引く動作そのものが , タイミングよく , 正 確かっ独立的に行なわれなければならな
12 ビストル射撃種目のテクニックとタクティック 304 んだ場合は , その調子を乱さないように 本射にはいった直後の数発が調子よく進 る。 できる能力を身につけることを要求され 正を加える必要に迫られるし , それに対処 調 ) に応じて , 射撃のテンポやリズムに修 手は , その日の外部条件や内部条件 ( 体 とはきわめてまれである。したがって , 射 ような好条件に恵まれた日にめぐり合うこ も合理的といえる。しかし , これができる れたテンボに従って射撃を行なうことが最 均等な時間間隔をとるように厳密に計算さ から見れば , 配当時間をいつばいに使い , 力の温存 , 力の合理的配分という点だけ < 射撃テンポ > らないことは , いまさらいう必要もあるま 試射と本射の間に長い時間をおいてはな うにしているのである。 射にとどめ , 残りを予備として使用するよ ちは , 一般に , 最初の試射は 7 ~ 10 発の発 こともあろう。それにそなえて , 名射手た らなくなったために , 試射の必要が生ずる とずれて長い時間の休息をとらなければな られる場合が起こる。また , 急に疲労がお ョンの変化によって , 試射をする必要に迫 件の変化 , あるいは射手の身体コンディシ 時間 30 分という長い射撃の間には , 気象条 率的に行なうことがとくに重要である。 2 たって射撃する場合は , 試射をむだなく効 フリー・ピストルのように , 長時間にわ ればならない。 にサイト修正の必要があることを知らなけ れが予言と一致していないときは , 明らか である。弾痕が黒点の中心にあっても , そ 射撃では予言と弾痕の一致は絶対の要件 じめてサイトに手をつけるべきである。 する理由がはっきりと確認されてから , は 1 ~ 2 回の据銃動作で撃発にもっていきな がら , 同じテンボで射撃をつづけていくの である。同時にまた , どんなに順調に射撃 が進んでいても , たえず細心の注意を払い つつ , 気のゆるみから生ずる失点の防止に っとめなければならない。 もちろん , どんなに注意をしていても , 長い時間の射撃中にはまずい結果をともな った発射もおこることであろう。問題は , その不良な発射の原因を解明して , その対 策を誤らないようにすることにある。失点 がまったく偶発的な原因による場合は , も ちろん , 従来のテンボで射撃を続行してよ い。しかし , 自分ではすべて順調に進んで いると感じていても , 実際はすでに疲労状 態になっていて , ただ本人がそれを自覚し ていないこともある。こんな場合に発生し た不良な発射は , 偶然そうなったとはみな すわけにはいかない。したがって , この場 合は , 疲労回復のための休息をとる意味 で , よりゆっくりしたテンボに移るような 配慮が必要であろう。 悪い点数を出したときは , その失点をと りかえそうとしてあせることはぜったいに 禁物であって , その場合は沈着冷静に , 己 れを抑制して , その原因を解明し , 慎重に 次の射撃にはいるようにする。 本射にはいったが , 腕が定まらず , 調子 が出ないで撃発がなんとなくむずかしく感 じられる場合 , 射手は , あせらずに , 心を おちつけて , しばらく時間をすごし , それ から射撃予習を行ない , 完全に自信を回復 してから本射を開始する。そしてそのあと は , 失った時間のうめ合わせをするよう に , やや早いテンボで射撃を続行するので ある。 配当されている 2 時間 30 分という時間は けっして短いものではないが , とくに竸技
9 撃発 ( 引金の引き方 ) 次のような場合には , これを利用すること が適当であり , また必要である。 射撃教育訓練課業の前後 実弾射撃における試射の前後 も , なお発射するまでにいたらなかっ この場合は , 弾薬を抽筒し たとき て数回の空撃ち射撃を行ない , ためら 引金機構の整備上の欠陥 いを一掃したあとで , あらためて本射 にはいり , 据銃開始から 12 ~ 15 秒以 必中射撃の実現は引金機構整備の良否に 内 , あるいは精密照準に移ってから 5 よっても大きく左右される。引金機構にお ~ 8 秒以内に撃発を終わるようにす ける整備の不良は , 撃発時におかす射手の る。 ミスをさらに倍加させることになるからで ついでながら , セット・トリガーを装着 ある。引金機構の整備上の欠陥には , 引金 して , 鼓動式撃発法を採用することも , 発 の張力が強すぎること , 引金の歩みが長す 射遅滞の発生を防止するための有効な 1 つ ぎること , 引金の撃発段の作動が不明確な の方法となる。人さし指の鼓動的な運動 こと , 引金の張力が一定していないこと , が , 神経系内における神経過程の流れを正 ガタ落ちの存在などがある。 常化し , 射撃姿勢の不動性を保証すべき筋 工場製の銃は , 竸技規則の定める最低引 群の活動をつかさどる神経中枢と , 人さし 金張カよりもはるかに大きい張力をそなえ 指屈筋の活動をつかさどる神経中枢との同 るようになっているのが通常である。この 時並行的な活動を促進することになるから ことはスタンード・ライフルの場合にと くに顕著である。竸技射撃で過度に大きい である。 張力をもった引金を使用することが不合理 筋の弛緩による銃の不安定 であることはいうまでもない。 最後に指摘すべき欠陥は , 発射の瞬間 , 過度に張力の大きい引金では , いかに良 もしくはその直前における筋群の弛緩によ 好な運動の協調性を身につけた射手でもい る銃の安定性の乱れである。このような欠 やおうなしにある程度の発射遅滞をまねく 陥の発生を防ぐためには , 射手は , つねづ ことになる。そこで射手は , 工場から送ら ね発射を休息の信号とするような条件反射 れてきた銃の引金機構を改修整備して , 通 の形成を防ぐことにつとめなければならな 常の場合 , 50 ~ 200 グラムの予備張カ ( 現 実の引金張力と竸技規則の定める最低引金 い。一部のべテラン射手は , このために “射撃が終わっても , 弾丸が銃腟を通過し 張力との差 ) をそなえる程度に , その張カ を落とすことにしているのである。 終わるまでには時間がかかるのだから , な おしばらく緊張をつづけていなければなら 引金撃発段の作動の不明確なことは , 射 ない " と自己暗示をあたえて , 筋緊張の変 撃の遂行をいちじるしく困難にする。人さ 化を防ぐ方法を採用し成功をおさめてい し指による引金の落ちの受けとり方がまち るようである。 まちとなり , これに原因して射手の心に暴 260 引金機構の整備と正し い撃発動作との関係
5 ライフル射撃の射撃姿勢 点から見るときは , 事情はまったく一変す る。最近の経験が示すところによれば , 生 身の人間が膝射姿勢をとった場合 , その姿 勢が最も安定するのは , 総合体の重みを各 支点に平等に配分したときではなくて , 右 かかと ( 実際には , 足の甲の下にあてがっ たクッション ) の上にその大部分をかける ようにしたときである。 右かかとの上に体重の大部分をかけるよ うにしても , 重心が支持面の外に出るわけ ではないから , 総合体の平衡を保っために 必要な条件はとにかくも維持 : されている し , これによって , 銃を保持する左腕の比 較的固定した支台として左膝を利用するの に好適な条件がつくり出されるのである。 つまり , 左脚にかかる負荷が比較的小さく なり , 左脚の筋をあまり緊張させなくても く図 111 > 膝射姿勢における支持面を形づ すむわけである。 くる各支点部位の関係位置 体重 ( 総合体の重み ) を右足の上にかけ 関係位置をあたえ , 左脚は半歩以下の大き るときは , 上体を前傾させたり右傾させた さで前方に踏み出して , 下腿が地面に対し りしないで , できるかぎり垂直に保つよう てほぼ垂直になるように膝をまげた状態を にする必要がある。上体が前傾すれば , 体 たもち , 左足には射面に対して 45 。 ~ 60 。の 重が大きく左脚の上にかかって左脚の筋肉 角度をとるような関係位置をとらせるよう をすみやかに疲労させ , ひいては銃の動揺 にした場合に , 膝射姿勢は安定性に富んだ を増大させることになるし , 上体が射面の 好適なものになるとされているのである。 右に傾けば , 射撃姿勢の安定性が低下する 膝射姿勢の安定性を左右する重要な要素 ばかりでなく , さらに頭部が右傾するため の第 2 は , 銃と身体からなる総合体の重心 に照準の条件が悪くなるのである。 を支持面上方のどこにおくべきか , つま くクッション > り , 銃の重量を含めた体重のかけ方をどう このように , 膝射姿勢では , 右下腿と右 すべきかの問題である。 足の上に大きな負荷がかかるので , 競技規 物理学の一般法則からすれば , 射手の身 則は , 長時間の射撃を容易にするために , 体と銃からなる総合体の重心が支持面の中 かんなくず , 麻くず , 綿などをつめたクッ 心点上にあるとき , いいかえれば , 射手が ションを右足首関節の下にあてがい , 右脚 銃の重量をも含めた体重を各支点 ( 左足 , の支台として使用することを許している。 右膝 , 右つま先 ) にほぼ平等に配分すると このクッションは , 右脚に加えられた負荷 きに , その膝射姿勢は最も安定性の高いも を最大に吸収することによって , 右下腿と のになるはずである。しかし静力学的観 右足の筋肉をその仕事から解放する働ぎを 面 122
4 射撃姿勢の基礎知識 が精密に一致するように引金を引くことが 不可欠の要件となるのである。 射撃姿勢の条件 58 るものであること 銃したときの射手の身体の平衡を保て ・筋の緊張をできるだけ少なくして , 据 ること 衡性をあたえることができるものであ ・据銃したときの射手の身体に必要な平 るものでなければならない。 である以上は , 次の条件をつねに満足させ とになろうが , 必中射撃をめざす射撃姿勢 をもつ個々の射撃姿勢が無限に存在するこ である。個人的特性に応じて部分的な差異 時間にわたる射撃の継続が要求されるから わめて数多い弾薬の発射 , したがって , 長 撃競技種目では , しばしば射手に対してき に大きく影響するものであるし , 現在の射 おける銃の不動性は , 直接 , 射撃の命中性 仕事の 1 つでなければならない。発射時に 射撃姿勢の採用も , 射手に課された重大な ーの最も経済的な消費を保証する合理的な いし , また , 体力 , 神経の働き , エネルギ 選定に最大の関心をはらわなければならな 定性と不動性を保証するような射撃姿勢の 射手は , 据銃したときの身体に最大の安 の立射姿勢が採用されている。 方にのばし , その手にヒ。ストルを保持して んらの支持物をも利用せずに片方の腕を前 3 姿勢が用いられ , ピストル射撃では , な り , ライフル射撃では伏射 , 立射 , 膝射の 撃姿勢を一定の種類に限定している。つま 射撃竸技規則は , 標的射撃で使用する射 ・感覚器官 , とくに視覚器と平衡器の機 能発揮に最良の条件を保証するもので あること ・内臓器官が平常に働き , 循環系が正常 な機能をいとなむのに必要な条件を保 証するものであること 射手にはそれそれ体格や体型の特徴 ( 身 長 , 体重 , 体の構造的つりあい , 筋肉の発 達度等の特徴 ) があるのだから , 万人に適 合するような射撃姿勢のひな型 , あるいは 万能処方箋といったもののある道理はな い。したがって , 射手は , その体格や体型 の特徴に照らして , 自分に最も有利な射撃 姿勢を探求し , これを完成しなければなら ない。もっとも , 自分に最も有利な射撃姿 勢を選定するといっても , そこには竸技規 則による制限と要求があることはもちろん であって , 指導や練習にあたっては , 不正 な射撃姿勢を身につけることのないよう , とくに心してかかる必要がある。 “棚からボタモチ " は射撃姿勢の探求に は通用しない。自分に最も適した射撃姿勢 を発見し , 自分のものとするためには , 長 年月にわたる探求と血のにじむような努力 が必要である。こうして , 射手は積極的に 最良姿勢の探求につとめ , コーチや教官は そのように射手を指導しなければならない のであるが , そのさい次の 2 点に留意する ことが必要となる。 1 ) 初心の射手は , たえず , すべてにわ たって注意深く観察し , 優秀射手のテクニ ックを詳細に分析研究して , そこから有益 なことがらのすべてを学びとるようにしな ければならない。 こうすることによって , 無益な探求の道 に迷いこんで効果のない徒労をつづける愚 を避け , 実りの多い能率的な進歩の過程を たどることができる。もっとも , 優秀射手
4 第置を 目の構造と照準時における目の働き 覚のための最良の条件は , 瞳孔に中間的な 大きさをあたえた場合に ( 瞳孔の大きさ が , 球面収差現象と光の回折現象に対して まったく反対に作用するために ) , 生み出 されることを示している。そして , この中 間的な瞳孔の開きは , その直径が約 3mm のときであるとされている。 したがって , 射手は , 瞳孔の大きさに影 響を及ぼす太陽の照度に応じて , 帽子のひ さし , くもりめがね , 遮光器 , 人工瞳孔と しての透視孔等を利用するなど , 手段をつ くして , 目の働きのために最良の条件をつ くり出すように努力しなければならない。 さらに , 照門 , 照星をすすで黒くして , サ イトの反射による眩視作用の防止をはかる 着意も必要である。 最後に , 暗黒の背景をもっ明るい物体を 大きく見せるような , 光滲現象にもとづく 光の収差について一言しておかなければな く図 192 > 目にはいった光束の屈折状況。 らない。図 191 を見ていただきたい。左側 ( a ) 正常眼 , ( b ) 近視眼 , ( c ) 遠視眼 の細い白帯は右側の細い黒帯とまったく同 も , 標的の白色部の被照射度に変化があれ じ幅をもっているのであるが , 見たところ ば , 射手の目には異なった幅をもつものと では , 白帯の幅のほうが広いように感じら して映ることになろう。 れる。この光滲作用による眩視作用は , そ こうして , ポスト型の照星を装着した銃 の物体の被照射度または光輝度が増大する で射撃する場合は , 同一照射度のもとで各 につれて , ますます大きくなる。したがっ 発射を行なうようにすることがとくにたい て , 照準したときの照星と標的黒点との間 におく。白一線 " の太さが同じであって せつなのである。 近視 , 遠視 , 乱視 目に当たった平行光線が , 遠近調節を必 要としないで , びたりと網膜に焦点を結ぶ ような目を。正常眼 " といい ( 図 192 の a ) , 目に当たった平行光線が網膜のてまえで焦 占を結ぶような目を。近視眼 " という ( 図 192 の b)o 眼球の軸の長すぎること , 目の屈折力が 大きすぎること , またはこの両方の欠点を く図 191 > 光滲現象。同じ幅の帯であっ ても , 黒い背景の中の白帯は白い背景の 中の黒帯よりも幅が広いように見える。 209