13 射撃竸技のトレーニング ニング手段であって , とくに射撃姿勢の 完成 , 撃発動作の完成 , 照準と撃発の一 致 , より有利な射撃姿勢の探求を主眼とし たトレーニングには不可欠のものといえ る。 しかし , 射撃予習の価値を過大評価し て , トレーニングとしての実弾射撃を無用 とするのは行きすぎである。射撃予習と実 弾射撃とは , たがいに補足し合いながらト ニング目的を達成する役割をはたすの である。つまり , 車の両輪のようなもので あって , 一方を吸収しそれにとって代わ るというものではけっしてない。これは , 実弾射撃と射撃予習とでは次のような相違 があることを考えれば , 容易にわかるはず である。 ・発射音も反動もない射撃予習の場合に 行なわれる神経過程は , 実弾射撃のと きのそれとはいちじるしく異なってい る。 ・発射の結果に対する責任の感じ方が , 射撃予習では実弾射撃にくらべて少な い。したがって , 撃発動作は射撃予習 の場合いくぶん無責任なものになりや すい。 こうして , 射撃予習では , どうして も , 実弾射撃のときと同じ心理的フ。ロ セスを経験させるわけにはいかない。 トレーニングにあたって 以上のように は , 射撃予習と実弾射撃の両方を適切に組 み合わせて実行することが必要であり , い ずれか 1 つを重視するようなことがあって はならない。この意味で , 年間を通じて射 撃予習をつづけ , シーズンオフでも週に 1 ~ 2 回は実弾射撃の機会をもつようにする ことが望ましい。 発射弾数を多くすれば , それだけトレー ニングの成果があがると考えるのは大きな 034 誤りである。撃発動作の完成に真剣に努力 することなく , 漫然と粗雑な射撃を行なっ ていたのでは , 朝から晩まで射撃をつづけ ても何の進歩も得られない。それはトレー ニングに名を借りた弾薬の浪費にすぎな トレーニングの成否を決定するものは い。 発射弾数ではなく , 発射の質なのである。 したがって , トレーニングでは , 1 発 1 発 の発射動作に全精神を集中して , 必要な運 動スキルの形成と固定化をはからなければ ならない。 ニングのときは , とかく無責任 トレー に , テンポを早めた射撃を行ないながら , さて試合に臨むと , とたんに撃発動作のパ ターンを一変させて綿密きわまる撃発動作 に移るといった傾向が射手の間に見られ る。このような練習態度は , トレー ニング 時と試合の場における平均弾着点の差異を 生み , これが試合に臨んだ射手の心理に動 揺をあたえる原因となることはいうまでも ない。ふだんのトレーニングでも , 試合出 場のとぎと同様に 1 つ 1 つの発射動作を慎 重に行なって , 自分の射撃パターンを完成 し , それをそのまま試合場裡にもちこんで 実行できるように心がけることがとくにた いせつである。 トレーニング・プラン 名射手たちは , 原則として , 綿密なトレ ニング日程表をつくり , 毎日のトレー ングごとに技術向上にかんする具体的な課 題を設けて , トレーニングを実施するよう にしている。たとえば , ア・ポグダノフは 自分のトレーニング法について , 次のよう に述べている。 「私は , 射撃のトレーニングにあたっ て , 各課題ごとに射撃を構成する技術的 要素 ( 腕の位置 , 頭の状態 , 人さし指に
れていても , 試合などのたいせつな場面 で , とつじよとしてもとの悪い癖が顔を出 すことも珍しくはない。したがって , コー チや指導者は , 教育訓練にあたって , 当初 から正しい運動スキルを身につけさせるよ うに , とくに細心の考慮をはらわなければ ならないのである。 トレーニングの一般原則 して依存する射撃竸技に適した方法は , 反 静止した状態で筋の静力学的な働きに主と ニング法が行なわれているが , ほとんど スポーツ竸技界では , 数々の有効なトレ 競技的トレーニング法 反復トレーニング法と でもない。 歩向上を示すべき時期であることはいうま れ , そして技量と生体機能が最も顕著な進 大の負荷をかけたトレーニングが行なわ が , 年間計画の中核をなす時期であり , 最 る。試合直前と試合出場時期を含む試合期 ニング内容をもりこむ方法がとられてい に区分し , それそれに負荷を異にしたトレ ニングを準備期 , 試合期 , 移行期の 3 期 率的でもある。そこで実際には , 年間トレ てつづけることは , 不可能であり , また非能 を通じて同じ負荷のトレーニングを一貫し 待することも不可能である。しかし , 年間 維持することも , よりいっそうの進歩を期 ければ , 現在到達している竸技力の水準を じて不断のトレーニングをつづけるのでな いる現在のスポーツ競技界では , 年間を通 竸技成績がきわめて高度の水準に達して ニングの一般原則 復トレーニング法と竸技的 ( 試合方式 ) ト ニング法である。 レー 反復トレーニング法とは , 組織的に練習 を反復するトレーニング方式をいう。特定 の動作を反復練習すれば , そこに新しい条 件反射連絡が形成固定されて , 動作の自動 331 撃竸技に最適のトレーニング法といえるの この両者が緊密適切に結合されてこそ , 射 画とその実施が必要とされるのであって , とが適切に配分処方されたトレーニング計 復トレーニング法と竸技的トレーニング法 れか一方にかたよることは正しくない。反 グ・スケジュールの立案にあたって , いず めのものである。したがって , トレー た実力を試合場裡でいかんなく発揮するた 的トレーニング法は , 日ごろっちかってき 術の向上をねらいとするものであり , 竸技 反復トレーニング法は , 主として射撃技 る , といってよいであろう。 眠としたトレーニングに適した方式であ さまざまな刺激に対する抵抗力の養成を主 を破壊し , 反応動作に悪い影響をあたえる と意志的要素の鍛練と , 撃発動作の協調性 って , このトレー ニング法は , 精神的要素 て射撃を行なっていく方法である。したが を竸いながら , 全能力を発揮するようにし 近い条件のもとで , チーム・メンーと技 竸技的トレーニング法とは . 試合に最も る , ということができる。 的とするトレーニングに適した方式であ 利なテクニックとタクティックの探求を目 素の習得と , 射撃種目遂行のためのより有 復トレーニング法は , 射撃技術の個々の要 最適の条件をつくり出す。したがって , 反 目の部分的な技術と全体的な技術の習得に 個々の結節部をまとめて完成させ , その種 り , 反復トレーニング法は , 運動スキルの 化が進み , 運動スキルが形成される。つま
13 射撃競技のトレーニング トレー ニングを貫く根本原理がないわけではない。細部的に ニング実施のサンフ。ルなどの存在する道理はない。しかし , いつでも , だれにでも適用できるトレーニング計画やトレー の個人的特性に厳密に適応したものでなければならないし る。トレーニング内容は各射手ごとにそれぞれ異なり , 各人 ような万能処方箋をトレーニングに求めることは不可能であ いかなる種目にしろ , どの射手にも適用して特効を奏する 素の練成にかんする項目が組み入れられていなければならな 精神的要素 , 意志的要素の養成 , 試合にそなえての心理的要 らである。したがって , トレーニング内容の中にはかならず 神的動揺をたくみに処理する方法を身につけていなかったか 手が少なくない。これは , 彼が試合のふんいきから生じる精 いざ試合に出場すると , その実力をぜんぜん発揮できない射 ではない。技術的にはすぐれたものを身につけていながら , トレー ニングの目的は射撃技術の向上だけに限られるもの このために必要なものがトレーニングである。 運動スキル ( 技能 ) を形成し , 固定させなければならない。 ためには . 実地にあらゆる射撃技術を遂行練習して , 一定の つねに安定した高度の成績をあげられる優秀な射手になる い思い違いである。 つけることができるであろうなどと考えるのは , とんでもな い。射撃にかんする参考書を読めばすぐさま射撃技量を身に 射撃技術をマスターすることはけっして容易なわざではな
13 射撃竸技のトレーニング 向上と精神的要素の養成に対する意欲に燃 ニングがたんなる射撃動作の機械的反 復とまる暗記に終わるようであれば , どん えて , 組織的にたゆみない努力をつづける なに内容のすぐれたトレーニングも , 完全 ことを射手に要求する。そして , 射手のこ に無力化してしまうということである。ト のような働きをまって , はじめてトレー ニングは射手のスポーツ活動の重要な ングは進歩のための信頼すべき手段となり 一面であって , 創意的な研究態度 , 技術の 勝利への道をひらくことになるのである。 ソ連製ラビッドファイア ・ビストル , エム・ツ ト 1 354
ニングと試合出場 : 第を 00 ( 左より ) 吉川 , グシチン , ウマロフ ( ローマ・オリンビック )
よる引金の引き方 , 撃発のパターン等 ) のうちのどれか 1 つを主要項目として選 び , これらの要素の完成に最大の努力を はらってきた。また同時に , トレーニン グ単位 ( たとえば , 週間トレーニングや 月間トレーニング等 ) として一定のトレ ニング目標を決め , それをすみやかに 達成するように心がけてきた」 べ・アンドレーエフ ( 名誉スポー ツ・マスター ) は , 自分の経験にもとづ き , 厳密なトレーニング・フ。ランの必要性 について次のように指摘している。 「トレーニング目標を決めたら , まず綿 密周到なトレーニング・フ。ランをつくら なければならない。どんなに小さいこと でも , およそ役に立ちそうなものはすべ てトレーニングのために利用することで ある。そして , 自分にとって最も不得意 と思われる技術的要素から , 順々に練磨 し , その完成をはかるのである。 ング・フ。ラン 私は , 1 日のトレー を , かならず前日の晩につくりあげるよ うにしてきた。それは , きたるべきトレ ニングで何をチェックすべきか , どん な点にとくに注意すべきか , どんな成果 を求めるか , の 3 つの部門からなるトレ ニング・フ。ランであった。あるいは , そのような計画立案はトレーニングを複 雑にするだけである , との意見があるか もしれない。しかし , 実際に , これが私 に非常によい結果をもたらしてくれた。 射座でのすべての行動は合理的 , 合目的 的となり , 不明確であった間題が組織的 に順を追って解決されるようになった。 おかげで , 私の射撃技量は向上し , 射撃 にかんする教養は大いに進歩した」 このように教育学的原則に従って綿密周 到に作製されたフ。ランにもとづいて行なわ ニングの一般原則 れるトレーニングが , 射撃技量のすみやか な進歩あるいはトレーニングを中絶したあ とのフォームの回復にきわめて大きな効果 があることは , 理論的にも経験上からも , 疑いの余地のないところである。 1 発 1 発の発射についてみずから分析検 討し , その結果に影響を及ぼす原因を発見 する能力と習慣を身につけることは , 射手 にとってきわめて重要である。自分の射撃 動作に研究のメスを加え , 射撃の結果 ( と くに失敗に終わったときの ) について分析 する労を怠る者は , 一流射手となるための 資格をみずから放棄したことになる。射撃 の結果を的確に整理分析し , 失点の原因を 究明する努力を惜しまず , また , その能力 を身につけてこそ , 一流射手への仲間入り が許されることになるのである。たまたま 成功した場合の標的紙は大事にとっておい て , 人に見せびらかしたりするくせに , 失 敗したときの標的紙はくず箱に投げすて て , 失敗についての研究やその原因の究明 をしない射手がいるが , このような態度は 自分の成長の芽をつみとり , 成功への道を みずから閉ざすものというべきである。創 意工夫をこらしながら , うまずたゆまず努 力をつづけることは , 射手の向上進歩に大 きく寄与する。べ・アンドレーエフの言葉 を借りると , 「不撓不屈の努力なくして , 射撃の名手 となることは不可能である , といわなけ ればならない。私は , 文献について研究 し , 先人の跡をたどり , その中の参考に 値すると思われたものを実地に検討し て , 無益なものを捨て , 有益なものにつ いては根気よくこれを体得するための努 力をつづけてきた。いまから射撃を始め ようとする諸君に対しては , この私の歩 んできた道をたどるようにすすめたい。 335
せる。この意味では , 個々の射撃技術のト ニング内容につとめて多くのラエテ ィをあたえるように心がけることが重要と なる。これによって , 新たな運動の体得の 迅速化 , ひいては射撃成績の向上とその安 定化が促進されることになるからである。 動作の自動化 トレーニングが進むにつれて , 堅固な条 件反射連絡が形成され , これがしだいに イナミック・ステレオタイプへと成熟をと げる。したがって , トレーニング初期のま だ条件反射連絡が固定していない段階で は , 副次的な刺激のために , この条件反射 連絡が破壊される場合もありうるが , トレ ニングが進んで , 条件反射連絡が堅固に 定着するようになれば , 動作は自動化さ れ , 条件反射連絡に対して副次的な刺激が 悪影響を及ぼす場面も消減することにな る。 このような生理学的な事実の存在は , 必 然的に次のようなトレーニング実施の指針 を導き出す。つまり , トレーニングの初期 の段階では , 最も好適な条件のもとで個々 の射撃技術の完成化をはかり , その条件反 射連絡が固定して , 動作の自動化が行なわ れるようになれば , 諸動作の総合的トレー ニングに移り , ついで , しだいに複雑化さ れた各種の条件のもとでトレーニングを重 ねていくべしとするトレーニング原則がこ れである。このようにして , はじめて堅固 な条件反射連絡の形成 , 運動スキルの定着 化への道が開かれていくのである。 運動スキルの形成の基礎となるものは , 中枢神経系内における新たな条件反射連絡 の形成である。特定種目の遂行にかんする テクニックのトレーニングにあたっては , その種目を構成する個々の動作を順を追っ 運動スキルの形成 て反復練習する。種目の構成部分としての 各動作をたえず反復練習するときは , ダイ ナミック・ステレオタイフ。の形成によっ て , 各動作の間に有機的な相互連絡が形成 され , 全体としての種目の一体的遂行が可 能となる。遅鈍性をもつダイナミック・ス テレオタイフ。は , 種目遂行のテクニックに 比較的不変恒常的な性格をあたえる。した がって , ひとたび運動スキルが強固に定着 すると , そう簡単にはそれを改造できない ことになる。しかし高次神経活動のもつ 可塑性は , いずれにしても , スヤルの改造 を可能にしており , ダイナミック・ステレ オタイフ・は一定条件のもとで改造されるこ とになっている。 このような生理学的基礎の上に立って成 立するものが , スキルの改造 , 個癖の矯正 にかんする諸間題である。 運動種目は , その根底に横たわる条件反 射連絡の構造いかんによって , 主要運動ス キルの上に , フ・ラスにもマイナスにも影響 する。そしてこのことは , トレーニングの ための補助運動種目の選定に対して , とく に細心の配慮を要求することになる。たと えば , ラヒ。ッドファイア・ヒ。ストル種目の トレーニングに , 補助種目としてフリー ピストル精密射撃を採用することは , フ。ラ スの結果をもたらすであろう。フリー ストル射撃の実施は , 据銃した右腕の安定 強化によい影響をあたえるからである。 れに反し , フリー・ピストル射撃のトレー ニングに補助種目としてラビッドファイア ・ヒ・ストル射撃を採用することは , マイナ スの結果を生むことになるであろう。それ は , せつかく築き上げた人さし指の運動に かんする精密射撃のためのスキルが破壊さ れることになるからである。 運動スキルの安定性の根底に横たわるも 329
13 射撃竸技のトレーニング である。 332 る。この疲労は , 一時的に生体の機能を低 行なったあとで , 生理的な疲労があらわれ ングでは , 通常 , 長時間にわたってこれを 適正な処方のもとに構成されたトレー ーのばく大な消費をしいる。 す発射試行は , 射手に対して力とエネルギ ひんばんな呼吸停止 , 何回となくくりかえ 間にわたる注意の集中と神経 , 目の緊張 , 心身の疲労はたいへんなものである。長時 ・ヒ。ストル種目 ) における射手がこうむる 竸技 ( とくにライフル 3 姿勢種目とフリー 1 発 1 発に正確な発射を要求される射撃 疲労とオーバーワーク に低下をまねくことにもなる。 法を誤ると , 射撃成績の向上はおろか , 逆 はらわなければならない。負荷の増加の方 大させていくかについては , 十分な考慮を る。しかし , 具体的にどのように負荷を増 ずその負荷の増大をはかることが必要とな で , 射撃能力を向上させるためには , たえ いう事実をその根拠としている。この意味 度の向上にともなってしだいに軽減すると は , 一定の負荷に対する生体の反応が , 練 トレー ニングにおける漸増的負荷の原則 として明らかに実証するところである。 育学の研究結果が , 疑間の余地のない原則 ければならない。これは , 多年の経験と教 正しい順序を踏み , 規則正しく行なわれな グは , 漸増的負荷の原則に従って , 一定の 論である。しかも , 同時にそのトレーニン ニングの実績にもとづいてひき出された結 とができる。これは , 最近数年間のトレー たときに , はじめてその効果を期待するこ い強度の身体的 , 心理的負荷を射手にかけ 技におけるトレーニングでは , かなり大き 技術的水準がきわめて高い現在の射撃竸 下させるが , 休息をとれば , 疲労は消え て , 機能はもとどおりに回復するのであっ て , 生体になんらの病的な変化をあたえる ものではない。しかも , 練度が向上するに つれて , 疲労の発現はおそくなっていく。 つまり , 練度が高まるにつれて , 射手はし だいにより長い時間にわたって , 生体の機 能を低下させることなしに , より強度の負 荷に耐えて , 射撃を行なえるようになる。 トレーニングの内容が不適当で , 漸進性 や順次性の原則が守られていない場合は , ニングのあとで , 射手は強度の そのトレー 疲労におそわれる。エヌ・ゲメドウェデフ 氏が 1959 ~ 60 年に行なった疲労回復フ。ロセ スの研究結果によると , フリー ・ライフル 3 姿勢種目 , フリー・ピストル種目を行な った射手は , その身体機能 ( 視覚的分析能 カ , 静力学的持久性 ) が完全に回復するの に 20 ~ 40 時間が必要であるという。この結 論のデータに誤りがないとすれば , 連日に わたってフリー・ライフル 3 姿勢種目を行 ニング・スケジュー なうようなトレー が , 射手を過労におとしいれることは , 火 を見るよりも明らかであろう。過労には , 倦怠感 , 練習放棄の欲求 , 嗜眠 , 脱力感な どの徴候がともなう。負荷の強いトレー ングを行なって神経系にたえず過重のスト レスをかけているときは , 神経中枢におけ る興奮過程と抑制過程の流れの間のラン スがくずれ , ときには興奮過程が優位とな って不眠症をまねくことがある。そして , 慢性の過労は , ついには射手の大敵である オーーワークの状態に彼を追いこんでし 射手がオーーワークにおちいると , ア ・エヌ・クレストフニコフ教授が指摘する ように , まず運動の協調性が破壊される。 そしてその結果 , 射手は射撃の調子をすっ
偏移弾が出た。 く 1958 年 5 月 28 日 > 右手の握りにゆるみが生じ , このため平 均弾着点に変化が生じた。銃把とそれの握 り方をチェックする必要がある。 < 1958 年 6 月 16 日 > 上肢帯の一部筋群が過度に緊張して , 偏 移弾が多く出た。射撃に直接関与しない上 肢帯筋群をリラックスさせることにつとめ なければならない。 く 1959 年 5 月 21 日 > ニング目的は , 両腕の安定をよく トレー しながら , 発射速度の向上をはかること。 照星の関係位置は安定していたにもかかわ らず , 多くの偏移弾が出た。これは撃発テ クニックの不備に原因があるといわなけれ ばならない。射撃の終盤に , 疲労とは無関 係に , なんとなく無気力な状態におちいっ < 1959 年 5 月 23 日 > 偏移弾の発生をまねく原因が判明した。 それは右手首の弛緩であった。右手首はつ ねに緊張した状態に保つことがたいせつで ある。 < 1959 年 5 月 28 日 > トレーニング目的は , 右人さし指の適正 な運動の練磨と右手首の弛緩による拳銃移 動の防止。トレーニング意欲がとみに減退 してきた。どうやら , トレーニングを一時 中止して , 数日間の休息をとる必要が生じ たようである。 規律性 射撃日誌をつけることにより , 射撃中に 起こったことがらを深く考える習慣がっ き , 深く掘り下げた分析を行なって正しい 結論をひき出す能力が養成され , そして , 誤りの発見とその除去がすみやかに行なわ トレーニングの一般原則 れる。これは射撃日誌のもつもう 1 つの利 点である。射手自身ばかりでなく , 銃その もの , 天候気象そのものによっても成績が 大きく左右されるターゲット・シューティ ングでは , 失敗の原因に対する診断の適否 が決定的な役割を演じることになる。診断 さえつけば , 弱点の矯正はそれほどむずか ーの意味で , 診断力ル しいものではない。 テとして射撃日誌のもつ意義はまことに重 大であるといわなければならない。一定の 規律を守ってトレーニングを行なうこと は , それを成功させるための絶対条件の 1 つである。この規律性は , トレーニングの フ。ロセスそのものにも , 日常生活全般にも 関係した問題である。 射手やコーチのなかには , 重要な試合ま ニング時期には特別の条件をつ えのトレー くる ( たとえば , 早く就寝させ , 一定のカ ロリーをあたえる等 ) 必要があるように考 えている者が , いまなお跡を絶たないよう であるが , これは正しい見解とはいえな い。規律性とは , 特別の条件をつくること ニング , 休息 , ではなくて , 睡眠 , トレー 食事等の時間が正しく守られ , 行動が整然 と定期的に行なわれることを意味するので ある。 ニングの時期および試合出場の時 トレー 期における規律性にかんする第 1 原則は , 射手のために健康的でしかも習慣性となる 条件をつくり出し , 日課のなかに一定の周 期性をもたせるようにすることである。射 手が健康で , 精神的にもはつらっとし , 過 労と不節制をつつしみ , 十分のカロリーに 恵まれ , 環境によって心が乱されることが なければ , これによってトレーニングを立 派に行ない , 試合の準備を万全にするため の前提条件が完全にみたされることにな る。トレーニング以外のことで目を酷使し 339
かり狂わせてしまい , 思いもよらぬときに 撃発をしたり , 優柔不断になったり , 引金 を引けなくなったりする。 オーーワークにおちいった射手には , また , 意気沈滞 , 憂うっ性 , 無気力 , 注意 カ散漫といった消極的な心理現象もあらわ れる。人によっては , その逆に , 興奮の昻 進 , 軽薄性というような積極的な心理状態 をともなうこともある。いずれにしても , このような心理状態のあらわれは , トレー ニングに対する嫌悪感 , 発射に対する意欲 の喪失をともない , 成績などどうにでもな れといった捨てばちな気分をつくり出す。 したがって , トレーニングにあたって は , 射手は綿密な自己観察をつづけ , コー チは射手の個人的特性を考慮してその能力 に応じた負荷を課し , 射手の言動や射撃結 果に細心の注意をはらって , 過労やオー ーワークの徴候の早期発見につとめ , ま た , それの予防策を講ずることがたいせつ である。普通のトレーニングにしろハード ・トレーニングにしろ , トレーニングには かならず射手の個性に応じた一定の限界が あるということを忘れてはならない。成績 の低下がつづいたり , 疲労しやすくなった ニング意欲をなくしたり , ある いは , 射撃動作の乱れや苦痛感があるよう なときは , いずれも過労におちいっている ことを示す徴侯であるから , これらを認め たときは , しばらくトレーニングを休んで 十分に休養をとり , 鋭気を養ってからトレ ニングを再開するようにしなければなら ない。 実弾射撃と射撃予習 最近数年間における経験の結果は , 実弾 射撃と射撃予習 ( 空撃ち ) を適切に組み合 わせたトレーニングを行なうと , 両者がた トレーニングの一般原則 がいに補足し合って最高のトレーニング効 果が期待できることを示している。 射撃予習には独自の長所があり , 実弾射 撃では不可能ないろいろなトレーニング目 的をこれで達成することができる。たとえ ば , 撃発動作のテクニック上の誤りを発見 し , 射撃遂行に不可欠な運動スキルの形成 と固定化を促進することなどは , 射撃予習 がもつ独特の効果である。射撃予習はけっ して魅力のあるトレーニングではないにも かかわらず , 指導的射手の大半の者が , 組 織的な射撃予習を実行して , 撃発動作のテ クニックの完成につとめている理由もこ にある。 ア・ポグダノフは 「私は , 射撃予習によってすぐれた持久 性を養成できたし , また , 実弾射撃と射 撃予習を組み合わせたトレーニングを採 用したおかげで , 実弾射撃だけに頼るト レーニングにつきものの悪癖の発生を予 防することができた」 と述べ , また , エム・イッキスは 「私は , 窓ガラスに画鋲大の黒円を描い た紙をはり , 4 ~ 5 m はなれたところか ら , それに対して立射または膝射の予習 を行なった。トレーニングの主体となる ものは射撃予習であって , 実弾射撃はた んに日ごろ練習したテクニックを点検す るための手段にすぎない , というのが私 の見解である」 といっている。 その他の指導的射手もまた , ほとんど例 外なく , 射撃予習のもつ意義を重視してお り , 実弾射撃によるトレーニングは時間や 内容の点で限度があることもあって , 実弾 射撃の前後や余暇を利用して盛んに射撃予 習を行なうようにしている。 射撃予習はたしかに必要で効果的なトレ 333