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検索対象: ターゲット・シューティング
157件見つかりました。

1. ターゲット・シューティング

10 射撃まえの準備 経験に乏しい射手は , おうおうにして , 気象条件にかんする研究準備も射撃遂行に かんする計画腹案もなしに , 漫然と射座に 立ち , そのまま射撃を開始するが , これは みずから進んで苦境に身をおくものといわ なければならない。 べテランの射手ともなれば , さすがに のような愚を演じることはない。万事にわ たって入念な準備をととのえ , 周密な射撃 遂行の腹案をたずさえて射座に立ち , 満々 たる自信をもって射撃開始の号令を待つ。 つまり , あらかじめ十分に気象その他の諸 条件を調べ , 射撃中の光線状態や風向 , 風 速 , 風の性格等を考慮に入れ , 自分の個人 的特性に合わせて射撃遂行のための技術 的 , 作戦的な計画 ( 射撃テンポ , シリーズ 間の休息時間 , 照度の変化に応ずるサイト の交換 , 照準用保護手段の採用 , 適正な弾 薬の選択等にかんする ) を立案し , 必要な 部品や器具を準備して射座にはいる。 べテランの射手に見られるこのような周 到な事前準備 , 適切な事前の問題解決が , 射撃中における不測事態の発生を防止する のに役立ち , 高度で安定した成績の獲得に 大きく寄与することはいうまでもない。 しかし , 射撃遂行計画の立案が重要であ るとはいっても , けっしてこれだけで立派 な成績があげられるというわけではない。 計画はあくまでも計画であって , 状況の変 化を無視してまでこれを墨守すべきもので ないことは , だれもがよく承知していると 274 気象と環境条件 に対する準備 ころであろう。射撃種目には数時間の長き にわたって行なわれるものが多く , 射撃間 を通じて環境条件に変化のないような場合 はきわめてまれである。しかも , 射手自身 の条件の変化もまちまちであって , そのと きどきの心身の状態いかんによって ,. . に疲労が到来する場合もあれば , そうでな い場合もある。したがって , 射手は , たえ ず周囲の条件の変化に注意し , それを正し く認識して , 適時適切にそれに対処し , 自 己の力と心身の状態をチェックしながら , 射撃遂行のテクニックとタクティックに所 要の修正変更を加えていかなければならな すぐれた成績の達成は , 適正な計画と適 切な実行とがあいまって , はじめて実現さ れるのである。 射手自身にかんする事前の準備もきわめ てたいせつである。満腹の状態で長時間に わたる射撃 ( とくにライフル立射種目やフ ・ヒ。ストル種目 ) に臨むことは禁物で ある。射撃直前や射撃中に多量の水分をと ることも避けなければならない。食物や水 分を多量にとることは , 脈拍を高め , 発汗 を増大させて , 射撃中の生体の機能を低下 させることを , 深く心に銘記すべきであ る。 射撃まえ ( とくにライフル立射やピスト ル射撃のまえ ) および起床後の最初の射撃 のまえには , かならず身体のもみほぐしの ための準備運動を行なって , 血液循環の回 復 , 神経過程に対する均衡性の付与につと 射手の身体の準備

2. ターゲット・シューティング

く図 82 > 筋の短縮と伸展の状態 が存在する。そして , 収縮状態または弛緩 状態にある筋は , その両付着点の間の距離 ( 筋が結着されている身体可動部位の相互 関係配置 ) に応じて , あるいは短縮された 形態 , あるいは伸展させられた形態 , また はその中間的形態 ( 部分的短縮状態 ) をと ることになる ( 図 82 ) 。運動神経インパル スの作用を受けて筋が収縮するときに発生 する張力の大きさは , その静的な仕事を行 なう瞬間における筋の長さ , つまり , 仕事 の直前にどの程度に伸展させられていたか によって大きく左右される。したがって , 身体の可動部位を関節部で固定する場合に は , 関係主要筋群をつとめて伸展位におく 上腕二頭筋 収縮位 中間的収縮位 伸展位 下肢各部の固定 る。 数が最少のものですむことになるからであ る運動神経細胞とそれにつながる筋線維の の仕事効果をあげるのに , 活動を必要とす ことが肝要なのである。こうすれば , 一定 83 の a 参照 ) は , 人体の中で最も可動性 股関節の固定球状をした股関節 ( 図 人体静力学の知識 に富む部位の 1 つである。そして , 立位姿 勢で股関節を固定するのにきわめて重要な 役割をはたす最強の靱帯は腸骨大腿靱帯で ある。恥骨大腿靱帯はそれほど強力な靱帯 ではないが , これも立位姿勢における受動 的な仕事に参加して股関節の固定に協力す る。股関節では大きな領域にわたって屈曲 運動と伸展運動が行なわれる。もっとも , 屈伸運動の領域が大きいとはいっても , そ れはかたよったものであって , 屈曲運動の 領域は 105 。に達するが , 伸展運動の領域 は , 関節を固定する靱帯の作用があって , わずか 15 。にすぎない。股関節がこのよう な運動的性格をもっているために , 股関節 を固定するには骨盤を前方に押し出す ( い わゆる腰を入れる ) ことが最良の策である ということになる。そして , このように骨 盤を前方に押し出して股関節を固定させる ときには , 主として大腿直筋 , 腸腰筋 , 縫 工筋がその仕事に参加する。 膝関節の固定膝関節 ( 図 83 の b 参 照 ) はその横軸のまわりに大きな運動を行 なうことができる。膝関節における最強の 靱帯は斜膝窩靱帯と前後の各十字靱帯であ る。膝関節における脚の屈曲領域は非常に 大きいが , 伸展領域は , 堅牢な靱帯に妨げ られて , せいぜい 10 。 ~ 12 。の範囲内にとど まっている。したがって , 膝関節を固定す るには , 膝関節で脚をいくらかそらせて , 靱帯を働かせるようにすること ( 身体の重 カ線が膝関節横軸の前方を通過するような 状態におくこと ) が最良となる。そして , このようにして膝関節を固定するときに は , 主として腓腸筋と膝窩筋がその仕事に 参加する。 距腿関節 ( 足首の関節 ) の固定距腿 関節 ( 図 83 の c 参照 ) は , 滑車状の関節 で , かなり大きい可動性をそなえている。 89

3. ターゲット・シューティング

9 撃発 ( 引金の引き方 ) 当三三 - 爿 照準時の右腕を固定させる筋に向けてイ ンパルスを送る興奮状態にある運動中枢 大脳半球皮質運動領 抑制状態にある運動中枢 神経伝導路 引金を圧してはならない ↑運 、いン 眼の受容器 0 一 7 ト ↓汁↓は卩 0 0 人差指の屈曲と直接的関係を持たぬ・筋線維に向けて インバルスを送る興奮させられた運動中枢 大脳半球皮質運動領の興奮させられた部位 ( イラディエイション ) 人さし指を屈曲させる筋線維の収 縮をつかさどる運動中枢の 1 つ 正しい照準線の知覚 - ーー引金 を圧すべき好機を告げる信号 知覚神経 イン / ヾルス く図 239 > 中枢神経内における興奮過程と抑過程との相互作用にかんする原則的 説明図。 (A) 照準のときの正しい照準線が黒点中央下際と一致していない時機に おける興奮 , 抑両過程の伝播状況。 (B) 練度の低い射手に見られる大脳皮質運 動領における拡延現象 250

4. ターゲット・シューティング

4 射撃姿勢の基礎知識 ければならない。 ためには , 重力線が支持面の範囲内を通過 以上 3 種の立位姿勢のそれぞれにおける しなければならないのであるから , 銃を保 筋の働きぐあいを比較すると , 身体の平衡 持したためにこの総合体の重力線が支持面 保持に必要な筋の緊張が最小ですむのは楽 の外に出るようであれば , 銃の重さと釣り な立位の姿勢であるとの結論に到達する。 合いをとるのに必要なだけ , 補償的に上体 したがって , 立射姿勢の基礎となるべき立 を転位させなければならない。そして , 位姿勢は , 当然 , 重心線が股関節横軸の後 の補償的な上体転位は , 射手のポーズに変 方 , 次いで膝関節横軸 , 足首関節横軸の各 化をもたらし , それにやや不自然で非対称 前方を通過するようなもの , つまり , 骨盤 的な形態をあたえることになる。この不自 を前に出し , 上体を後ろにひくようにした 然なポーズが , 身体の可動部位の固定にた 姿勢でなければならないことになる。身体 ずさわる筋と靱帯に対して , 大きな負担を の主要関節の固定は , 筋のほかに靱帯がそ かけることになるのは当然であろう。 の仕事に参加することによって , はじめて 据銃における筋と靱帯の作用 可能となるばかりでなく , 靱帯が参加する 前述のように , 筋はたえず不随意的緊張 ことによって身体の可動部位の関節部にお ける固定が良好となり , 筋の努力を最小に ( トーヌス状態 ) をつづけているが , それ はそれとして , 筋の占める状態には , 収縮 とどめながら身体に最大の不動性をあたえ ( 興奮 ) と弛緩 ( 休息 ) の 2 つの基本状態 ることができるからである。 ところで , 実際の射撃姿勢では , 銃とい 上体の傾斜 う余分のものを保持しなければならないの で , 筋は身体を一定状態に保っこと以外に 銃の保持という仕事をも負わされることに なり , きわめて強度の緊張をよぎなくされ る。 しかも , 銃という荷物を余分に持っこと は , たんに重量の増加にともなう筋緊張の 増大を要求するばかりでなく , さらに筋の 重量負荷の様式を根本から一変させること になる。したがって , 銃を保持した射手の 姿勢の平衡については , 別個の観点からこ れを考えなければならない。 据銃姿勢の身体平衡 銃を保持した射手の身体は , 銃とともに 1 個の総合体を形成するので , その総合体 にはそれ自体の重心位置が存在することに なる ( 図 (1) 。 据銃したときの射手の身体が平衡を保っ 正中線 銃の重心 据銃した射手の 身体の重心 射手の体の重心 据銃した射手の 身体の重力線 据銃したときの射手の身体の重 く図 81 > 心位置 88

5. ターゲット・シューティング

日ー《 - をつ 式 場 出 試合は射手にとってすぐれた 1 つの学校である。射手は試 合に出場することによって , 直接に貴重な実地の知識と能力 とを身につけることができる。さらに , 多くの名射手と接す ることによって , 直接間接に彼らのもつ体験を自分のものと して吸収することもできる。 同時にまた , 試合は射手にとって重大な試験の場でもあ る。日ごろ鍛えた技術のすべてを発揮して , その真価を間う 絶好の機会である。しかし , 試合の状況は , そう簡単には射 手の実力を最大限に発揮することを許しはしない。試合の独 特なふんいきが射手の神経に作用して , ふだんと異なった心 理状態に彼をおとしいれ , 実力の発揮をさまたげる。 なんらかのスポーツをやったことのある人は , だれでも試 合まえに特殊な心理状態におそわれることを知っているであ ろう。これが。試合まえの心理 " と呼ばれる現象である。試 合まえの心理は , すべてのスポーツ , すべての選手に共通す る現象であるが , ただ射撃の場合は , 他のスポーツの場合に くらべて , はるかに大きい悪影響を竸技成績の上に及ぼすこ とになる点で , とくに大きな問題をはらんでいる。つまり , 他の竸技種目では , 心の動揺 , 情緒的な興奮を動作の中に織 りこむことによって気分の転換をはかることも可能とされる であろうが , 姿勢の不動性が要求される射撃では , ただ意志 の力に頼ってそれをしずめる以外に克服の方法は皆無とされ ているのである。したがって , 選手選考の基準として , 射手 の精神的動揺の制御能力が , 本人の射撃技術そのものとなら 355

6. ターゲット・シューティング

1 爆発性物質 爆発性物質と爆発反応 14 1 0. 12 秒 銃内部における燃焼に要する時間一一 ・無煙火薬を成分とする装薬のライフル ば , 100 秒という短いものである。たとえ 1 1000 るが , 爆発性化学変化に要する時間は一一 性化学変化には遅速の差が生じることにな 爆発が行なわれるときの条件により , 爆発 ある。もちろん , 爆発性物質の化学成分と であるガス状態に移行する経過の迅速性で 体または液体の状態から , 変化の最終形態 1 / 過程の瞬間性爆発性物質が固 は , 次の 3 点にある。 爆発にその性格をあたえる代表的な特徴 爆発反応の特徴 。爆発性化学変化 " と名づける。 爆発のさいにいとなまれる化学反応を つに数えられる。 烈な音響も爆発にともなう顕著な徴候の 1 爆発の代表的な特色をなすものであり , 強 せるガスによってなされる。圧力の急増は よって爆発点の周囲の圧力を急激に増大さ は , みずから拡大しようとっとめ , それに 事に変える現象をいうのである。この仕事 にその潜在エネルギーを急速に物理的な仕 理的または化学的の変化をとげ , そのさい “爆発”とは , 物質がきわめて急速に物 物を。爆発性物質”と名づける。 ような能力をそなえた不安定な化学的結合 等の ) によっても急速にガス状に変移する 微弱な外作用 ( 打撃 , 摩擦 , 刺突 , 加熱 ・イナマイト lkg の爆発性化学変化 の完了までに要する時間一一 0. 00002 2 / ガスの造成爆発の産物として の拡張能力をそなえた大量のガス状化合物 の存在である。爆発性物質の爆発によって 発生するガス状物体の量は , いわゆる標準 状態 ( 0 ℃ , 1 気圧の状態 ) において 994 リットルの ・綿火薬 1 リットルーー→ ガス状物体 ・ニトログリセリン 1 リットルーー + 1121 リットルのガス状物体 の例によっても明らかなように , すこぶる 膨大なものである。 3 / 熱の分離爆発反応にさいして は多量の熱が発生し , これがガス状物体の 圧力をさらに増大させる。たとえば , ログリセリン 1 リットルの爆発では 24 , 000 ライフル銃用実包の装薬で 大カロリー は , 3 大カロリーという大量の熱量が瞬間 的に発生することになる。 爆発反応の種類 爆発性物質の化学成分と爆発が行なわれ るときの条件によって , 爆発反応の速さは 異なり , 速燃 , 爆発 , 爆轟の別が生じる。 1 / 速燃 1 秒間に数 m 以下の速 さで爆発性物質全体に爆発反応がひろがる 過程をいう。この反応過程が大気中でいと なまれるときは , 通常 , 小さな音響すらも ともなわない。たとえば , 毎秒 10 ~ 13mm の速さで進行する黒色火薬の大気中での燃 焼がこれである。しかしこの爆発性物質 が閉鎖された容器内で燃焼するときは , 大 気中で燃焼する場合にくらべてより高速と なり , 鋭い爆発音をともなうようになる。 たとえば , 銃腟内における無煙火薬装薬の 燃焼 ( 毎秒 10m 弱の速さで進行する ) がこ

7. ターゲット・シューティング

像を青銅または石膏でつくった場合 , その 像はポーズを変じることなく , かなり安定 した状態を保つことになるであろう。 しかし , 現実の人間が射撃姿勢をとった ときの身体の平衡維持の問題は , このよう に簡単に解決してしまうわけにはいかな い。人体は多くの可動部位から成る複雑な 組織体であって , 構成要素である個々の可 動部位は , それそれ重力の作用をうけて下 方に転位しようと試みてやまない。したが って , 人体の可動部位の関係位置をそのま まに保ち , その不動性を保証するために は , どうしても一定内力の反作用が必要に なってくる。生体におけるこの内力は , 主 として筋と腱の緊張によって発揮されるカ である。 こうして , 人体では , 外力と内力との相 互作用によって身体の可動部位が固定さ れ , 人体の姿勢の不変性が保たれ , 射撃姿 勢の相対的不動性が保証されることにな る。そこで , しばらくの間 , この外力と内 力との相互作用にかんする問題に目を向け てみよう。 安定平衡と不安定平衡 人体静力学では , 身体の重心の支持面に 対する関系位置によって , 平衡状態を安定 平衡と不安定平衡の 2 つに大別する。 平衡状態外に身体が逸脱しても , 身体が ふたたびもとの状態にもどるようになって いる平衡状態を。安定平衡 " といい , これ は懸垂姿勢をとった場合のように , 身体の 重心が支持面よりも下方に位置していると きに成立することが多い ( 図 73 の a ) 。 これに対し , 平衡状態外にひとたび身体 が逸脱すると , ふたたびもとの状態に復帰 することができないような平衡状態が“不 安定平衡 " で , 身体の重心が支持面の上方 a 安定平衡 人体静力学の知識 支点 体の重心 重力線 ( 重心から下 ろした垂線 ) b 不安定平衡 支持面 / < 図 73 > 人体平衡状態の 2 基本型 に位置している場合に成立する平衡状態で ある ( 図 73 の b ) 。 したがって , 射撃姿勢にある人体の占め る平衡状態はつねに不安定平衡である。立 射 , 膝射 , 伏射の別を問わず , 射撃姿勢に 構えた人体の重心はつねに支持面の上方に あるからである。 安定平衡であろうと不安定平衡であろう と , 人体の平衡を保っための基本条件は , 重力線 ( 重心位置からくだした鉛直線 ) が 支持面内を通過することである。不安定平 衡の場合に , 重力線が支持面外に出るよう になれば , 人体はもとの状態にもどること ができず , 転倒することになる。 不安定平衡では , 身体の平衡が保たれて いるとはいっても , そのときの姿勢によ り , その身体の安定度にはさまざまのもの がある。身体の安定度は , 重心位置の高 さ , 支持面の広さ , および重力線が支持面 を通過する位置によって条件づけられる。 支持面の大きさが同じであれば , 重心位 83

8. ターゲット・シューティング

4 射撃姿勢の基礎知識 環境内におかれた自己の身体の位置 , 状態 を正しく認知し判定することができるよう な頭部および身体の置き方を発見し , それ を固定化するにいたった。そして , 人体の 平衡を保ち , 正常な身体の態勢を維持する 必要性から , 特定ポーズの維持のために全 骨格筋が円滑にそして協調的に働くことが 要求され , その状態にまで進化してきた。 これが進化論的に見た人体の姿である。 正常なポーズの保持は , 収縮し伸展する という特性をそなえた骨格筋が , つねにあ る程度の予備的な不随意緊張状態にあるこ とによって保証されている。学問的に“筋 のトーヌス ( 不随意緊張 ) " と呼ばれる状態 がそれである。つまり , 筋のトーヌスが , 人 体各部位に一定の関系位置をあたえ , その 状態を維持しているわけである。筋のトー ヌスの本質は , 伸展に対する反射作用であ る。身体を転倒させ , 身体の可動部位を下 方に転位させようとする重力は , 骨格筋に 対してたえず伸展を要求する。これが筋お よび腱の自己受容器に刺激をあたえ , この 刺激に対する応答として , 骨格筋に不撓性 の長時間緊張 ( 筋のトーヌス ) が発生する ことになる。骨格筋のトーススは , 中枢神 経系の多くの部位の活動に関連のある反射 現象である。トーススの変化と調整はイン パルスによって大きく左右される。つまり , 前庭 ( 平衡器官 ) の受容器 , 視覚器の受容 器 , および皮膚から発した諸信号は , 求心 性神経伝導路をへて各中枢神経系に達し , その中枢神経系が大脳皮質の参加を得て , 骨格筋の緊張を規整することになっている のである ( 図 71 , 72 参照 ) 。 人体には , 身体の平衡が破られるのを防 止し , すでに破られた平衡を回復するよう に働く 1 群の反射作用がある。。姿勢反射 運動”と呼ばれるものがこれであり′頭の 80 位置状態が変わった場合に発生するポーズ の反射運動や , 生体の正常なポーズが破壊 された場合に生ずる伸展性反射運動がこれ に属する。そして , 複雑なこれらの反射運 動の本質をなすものは , 不随意的 , 自動的 に行なわれる四肢 , 頚部 , 胴体のトーヌス の再分配である。 しかし , 伸筋と屈筋におけるこのような 緊張のたえまない再分配や , 外力に対する 筋の不断の反作用のために , 必然的に人体 は絶対的な平衡状態 , 完全な不動状態にと どまることができず , たえずある程度の動 揺をこうむることになる。そしてこれは , 射手に対して , この不可避的な身体動揺を 最小におさえるための条件とはいったい何 であるか , という間題を提供することにな るのである。 身体の平衡の保持 ( したがって , 身体動 揺の大きさ ) にきわめて密接な関係をもつ ものに , 前述のとおり , 前庭 ( 平衡器官 ) の作用がある。つまり , 頭部の位置状態に 変化があれば , 前庭の受容器に神経インパ ルスが発生して , ただちに一定の筋群の緊 張を要求する。したがって , 頭や胴体の傾 きに変化があれば , ただちにそれをもとの 正常な状態にもどそうとする一連の反射運 動が生ずることになる。 このことから , われわれは次の重要な結 論を導き出すことができる。 「射撃姿勢をとった場合の頭が , 前後ま たは左右に傾かない正常な状態にあると きに , 身体の傾斜の変異を識別する前庭 の機能は最良となり , 身体が受ける動揺 は最小となるであろう」 射撃姿勢の安定性を確実にするうえで , 前庭のもつ意義はきわめて大きい。平衡器 官が発達すればするほど , そして訓練され ればされるほど , 身体の姿勢を不動状態に

9. ターゲット・シューティング

14 試合出場 それには , まず第 1 に射撃のテンボとリ ズムに注意する必要がある。射手が自信に あふれて調子よく射撃をつづけているとき に , たまたま悪い点数が出たからといっ て , そのテンポを変えさせたり , 射撃の中 止を命じたりしてはならない。しかし , 2 ~ 3 発つづけざまに悪い点数を出して , 射 撃の調子が狂いはじめたときには , 断固と して , 小休止を命じ , 射手が冷静になるの を待って , その射撃姿勢をチェックしたの ち , あらためて射撃を再開させるようにす る。射手が早いテンボで射撃して , 調子よ くいっている場合には , 何も干渉する必要 はないが , 苦境におちいって持ち時間不足 をまねく恐れがあるような場合は , 残り時 間に応じたテンボで射撃を進めるように注 意をあたえ , 大胆に動作するように指導し なければならない。 間歇風のときの射撃では , 時間について 特別の配慮が必要となる。この場合のコー チは , 突風が長びいて射撃を進めることが できずに , 心ならずも持ち時間不足におち いるような事態の発生にそなえて , 時間の 余裕をとるように , いくぶん早いテンボで 射撃させなければならないであろう。 習得した射撃パターンを最大限に維持さ せながら射撃を遂行させるように指導する ことも , コーチにとって重要な着眼点の 1 つである。持ち時間不足におちいったピス トル射手が , 試合で 2 ~ 3 秒間の短い休息 を何回もとりながら射撃している姿をよく 見うける。これはなんら効果のない休息の まねごとのくりかえしにすぎない。右腕の 疲労はいっこうに回復せず , 発射試行も撃 発までもっていくことができず , ますます 時間不足の深みにおちこむものといわなけ ればならない。もとより , このような不合 理な射撃パターンをふだんのトレーニング 364 で練習するわけはないから , これは明らか に自己の射撃パターンの破壊である。この 場合コーチは , 当然 , 休息時間を延長する ように命じ , 完全に身体の機能を回復させ て , 正常な射撃パターンにもどすようにつ とめなければならない。 射撃中の射手の精神的動揺や精神状態の あらわれ方にはきまった法則はなく , 予測 のむずかしものであることを知らなければ ならない。初めに精神の動揺をおこし , そ れからしだいにおちつくような射手もいれ ば , 初めは平静で , あとになって精神的動 揺に見舞われるような射手もいる。また , 同じ射手でも , 条件の変化によってその感 情はいろいろに変動する。したがって , コ ーチは , 射手の性格を熟知し , たえず射手 の精神状態を観察することを要求される。 たとえば , 射手が初めのうち射撃に苦労し たが , それに打ちかって , 自信満々の射撃 をしはじめたような場合は , そのまま射手 の意志にまかせておいてよいであろうが , 射手が明らかに疲労しているのにむりをし て射撃をつづけているような場合には , 暴 発などの不測事態の発生を防止するため に , 射手に小休止をとるように注意すべき である。 発射に失敗した場合には , 射手の精神状 態に急激な変化が生まれ , 失敗するまえの 元気があとかたもなくなってしまう場合も 少なくない。そこで , コーチはそのような 変化を察知して , 本人の性格に応じた処置 をとることが必要となる。しかし , 悪い点 数を出したときの射手の反応のしかたはさ まざまであって , なかにはそれが覚醒剤と なり , その後は注意深く全力を傾けて射撃 をつづけるような性格の射手もいる。この ような射手には , 強い調子で失点を指摘し て , 発奮させるようにしむけるべきであろ

10. ターゲット・シューティング

4 射撃姿勢の基礎知識 動器官の筋が緊張し , 靱帯が受動的に抵抗 して , 身体の可動部位の重力に対抗してい ることを前提条件として , はじめて身体の 平衡保持が可能になるという , 一般静力学 とは異なった特色をもつものであるといわ なければならない ( 図 79 ) 。すなわち , 生 体では , 身体の各可動部位に作用する重力 は , その重心位置を下方に転位させようと し , そこに関節の回転軸に対してその可動 部位を回転させようとする力のモーメント が形成され , このモーメントに対して筋の 静力学的な作用と靱帯の抵抗とが反作用を いとなみ , その平衡の上に立ってはじめて 身体の全体としての平衡が保たれることに なる。 く図 78 > 支持面 , 総体的重心位置 , 重力 線の通過位置がそれぞれ同一でも , 身体 筋の緊張は , その本質上 , 絶対的な一定 の状態がまったく異なる場合の 1 例 状態を保つことができないものであり , ま である。しかしシルエット標的に対する 脛に対する足部に対す 大腿に対す ラピッドファイア・ピストル射撃では , 両 大腿の関係る脛の関係 る上体の関 状態 係状態 状態 足を広目に開くことが必須の条件となる。 こうすると , 射面方向における安定角が増 大し , スピーディに据銃する射手の身体の 安定度が大いに増すからである。 人体の場合は , 一般の物体の場合とちが って , 同じ平衡条件のもとでも , まったく 異なった姿勢をとり , まったく異なった安 定度をもっことがありうる ( 図 78 ) 。いい かえれば , 人体では , 平衡維持のために 生体の内力が大きな役割を演じることにな るのである。 人体の諸筋が力を抜いて弛緩してしまっ たとしたら , 身体の各部位はそれそれ重心 位置を下方に移し , 身体の総体的な重心位 置も転位して , その重力線が支持面の範囲 外に偏移し , 身体は平衡をくずして倒れる であろう。こうして , 生体静力学は , 運動 < 図 79 > 立位姿勢における身体者部の平衡 器官の活動を前提条件として , つまり , 運 総体的 重心 I Ⅱ 総体的 重心Ⅱ 重力線 支持面 靱帯及び筋 の抵抗 86